15.モモコの肉弾戦
現れたのは、あの時の若い女。黒髪、面長、サイドテールは、目に焼き付いているものと同じ。
青いドレスの裾を翻しながら近づいてくる女の手には、鏡のように光るロングソード。
満面に浮かべる笑みは不気味で、モモコを剣で仕留めたときと変わらない。
「アンベール、セーブしろ!」
「わかった!」
アンベールは、素速く画面を表示させて、セーブする。これで、もう一度訓練からやり直すことはなくなった。
モモコは、「あんときは、よくもやってくれたな」という言葉が口から出かけたが、慌ててそれを飲み込む。
時間が過去に戻ったので、スタートから今の時点まで、女と会っているはずがないからだ。
獲物を狙う獣のような目をした女は、10メートルほど手前で歩みを止めた。
まだニヤニヤしていたが、突然、ピエロのごとく器用に口角をつり上げた。
「さあ、そのスキルをちょうだいな」
その低い声。イントネーションまで全く同じだ。
「お前、『その』って言っているけど、俺たちのスキルを知っているのか?」
「生意気なことを言う桃色髪の小娘ね。しかも、しゃべり方が男っぽい」
「私もそう思っておった」
アルバンは、涼しい顔で口を挟む。
「おい! アルバン! てめー、どっちの味方だ!?」
「今はどちらでもない。勝負が終われば……」
「終われば!?」
「仲間に――なることも、なくはない」
「また二重否定……」
アンベールが肩をすくめる。
モモコは、両手の拳を固く握りしめ、ガッツポーズを取る
「よっしゃー! 俄然、やる気が出てきたぜ!」
青いドレスの女は、頭を左右に振る。
「躾が成っていない田舎娘ね。
でも、さっきから訓練の様子を見ていたけれど、ある程度は出来そうに見えたから、それなりのスキルの持ち主とみたわ。
それに――」
女はアンベールへ視線を向ける。
「その男、武器と防具をいろいろ持っていそうだし。素敵だわ。
だ・か・ら、それを全部――」
ロングソードが女の頭の右で、地面と水平方向になる。
「いただくわ!」
女が取った構えは、剣術の『雄牛の構え』。剣を牛の角に見立てたものだ。
その女が、大股で突進を開始した。
「させっかよ!」
モモコは敏捷のスキルを使い、腰を低くして女の腹めがけて飛び込んだ。
そして、左腕を短く振りかぶり、渾身の力を込めて拳をみぞおちに叩き込む。
「ぐふっ!」
女の顔が歪んだ。
モモコは、LV2の女より低いLV1だが、敏捷はもちろん、攻撃も99。魔法使いには要らないほどの高いスキルだ。
なので、拳は、肉同士がぶつかる鈍い音を立て、女の体をくの字に折り曲げる。
「食らえ!」
モモコは、さらに腹に4発、胸の谷間に4発、ワンツーでジャブを繰り出し、最後は、アッパーカットで女に天を仰がせた。
ロングソードは、女の手から滑り落ち、モモコに蹴られて遠くへ転がっていく。
腹を抱えてうずくまった女を見下ろしながら、モモコが息を整える。
と、突然、女が顔を上げて左手でモモコのスカートをつかんだ。
強い力で引っ張られたので、スカートがずり落ち、赤いリボンがついた白いパンツがすべて露出する。
「てめえっ! 何しやがる!」
怒鳴りつけるモモコに、女は隠し持っていた短剣を右手で突き出した。
すんでの所で短剣の突きをかわしたモモコは、女の左側頭部に蹴りを入れた。
そして、その場を足がもつれながらも逃げて、両手を女に向けて突き出す。
一方、女は、ヨロヨロしながらも立ち上がった。まともに入った蹴りで、まだめまいがするらしい女は、蹌踉めきながらも、短剣を振りかぶる。
モモコは、ここぞとばかり、例のお手軽魔法を詠唱する。
「出でよ! この場にふさわしい物!」
すると、女の頭上4メートルのところに、直径1メートルの金だらいが出現した。
音もなく落下した金だらいは、グワオォンと派手な音を立てて女の頭の上で跳ね、地面の上で余韻の音を発しながら回転する。
女は白目をむいて、崩れ落ちるがごとく、草原のマットに沈んだ。




