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玄関口の前座

 五ノ井が〈西の長〉との戦闘を開始したと同時、神子守の屋敷を訪れる者達がいた。

 堂々と正面から、防備を突破して、対処に当たろうとした忍者……御側衆を蹴散らした。御側衆の体を砲弾として、神子守の屋敷に叩き込んで、中に悠々と到着した。



「ようやく骨のありそうな敵だナ? ニンジャが弱かったのはジャパニメーション的にがっかりだったんだナ。そうは思わないかナ?」

「キャスパー、彼らは別に敵ではない。勢力としては同胞に当たる」

「どうだっていいさ。俺らは先生のクソッタレな指示通りにやるだけだ」



 玄関から直接広がる一ノ間……そこに二人の東洋退魔師が待ち受けて、西の3名と睨み合った。一触即発を感じさせるが、始まる気配はない。



「まさか、ナインズが来るとはな。そんなに暇が有り余っていたのか?」



 東側の1人、スーツ姿で対応している女性は八卦衆が1人……〈坎(かん)〉、六倉(むつくら)。

 もう一人は符木津博光(ふこつ・ひろみつ)だったが、いつもの軽薄さは鳴りを潜め、陰陽師服で立ちふさがっている。博光の目は常の気楽さを捨てて、剣呑な光を宿していた。



「知っている顔ばかりでもあるまい。自己紹介から行こう。八卦衆の一人、六倉だ」

「……退魔百家が一つ、符木津」



 名乗ったものの、敵意は隠せていない。八卦衆としては神子守の家を蹴破る者など、八つ裂きにしても飽き足りない思いだ。博光は純粋に友人を害そうとする連中が気に食わない。


 ライダースーツを着た女性的なスタイルの猫人が伸びをするように、言葉を返す。



「ナインズ、キャスパーだナ。ハッケシュウじゃない方は殺してもいいのかナ? 細かい手加減はどうにも肩が凝って、仕方が無いんだナ」

「戦力の要であるハッケシュウは殺すな。ということしか聞いていない」



 素っ気ない声で淡々と語るのは、広がった黒髪の美女だった。黒のゴシックドレス姿と、冷淡な口調が合わさって、どこか浮世離れした魅力がある。事態に対してもどこか他人事のようだ。

 その落ち着いたやり取りに耐えかねたように、金髪のオールバック男が吠えた。その手から霧のように、冗談じみたサイズのグレートソードが出現し、肩にかけた。



「さっさと、始めんぞ! こんな茶番はイライラするんだ! 要は敵のボスをビビらせて、なんとか言う女を連れて行くだけだ。それをダラダラと……!」

「ではそうしよう。私は上に行く」

「てめっ……!」



 黒の女が浮き上がり、上の階を目指してすり抜けていく。それを容認するように東の退魔師は動かない。まるで通しても構わないような態度を流し見ながら、女は少し顔を硬くした。こういった手合が動かないときは、大体面倒なことになるものだ。しかし、残していく二人も、己もナインズ。面倒事は自分で処理しなければならない。



「くそっあの女……。まぁいい、そこの男。潰す前に教えてやらァ……ナインズのランツだ。ハッケでもないのにしゃしゃり出てくるってことは少しは楽しめるんだろうな? こちとらこんな島国にまでわざわざ来たんだ。相手が雑魚ばかりじゃこっちが間抜けみてぇになっちまう」

「知るか」



 博光の知人が聞いたら驚くほど静かで怖い声だった。符木津博光は軽薄を装い生きている。しかし、それは実家への反発心から来ることで……



「さっさと死ね」



 その根底には退魔師らしい酷薄さが眠っている。彼の大事な友人達を例外に、他はどうなろうと知ったことではない。

 結ばれる印と共に紙が舞い、中空で百の剣となって降り注ぐ。



「はっはあ。なんだ、テイッシュで俺を殺せるとでも? 面白いジョークだ、笑ってやるよ」



 その全てを無骨な大剣で叩き落として、今度はランツが前に出る。塵となった紙剣を撒き散らしながら、突貫してくる。振り上げられるグレートソードはまさに暴力の象徴だった。身体強化、さらに元々重い大剣を重化させて押しつぶす。

 ランツの分かりやすい戦法を前に博光は動じない。



「ナマクラだな」

「……やるじゃねぇか。いいぜ、褒めてやる」



 博光はその大剣を、腕を盾にして受け止めていた。重さに潰されず、切断もされていない。狩衣に何か仕掛けがあるにせよ、ランツは自分と同等の剛力を博光から感じ取っていた。ランツとしては雑魚散らし用の技だが、並の術士なら染みにするだけの重量を大剣へ付与しているのだ。

 最初に見せた戦法からして、この東洋退魔師は術士らしい術士だ。それでいて肉体を過小評価しない。恐らくは肉弾戦も、魔術戦もこなすオールラウンダー。器用貧乏ではなく、全てが突き抜けて高いタイプ。張り合いがあると、ランツは楽しそうに笑う。

 軽い紙剣と重い鉄剣が弾き合う、奇妙な剣戟が始まった。


/


 キャスパーは横で繰り広げられ初めた戦いに、金の瞳を輝かせて見入っている。猫らしく移り気な性質の彼女は、戦闘を控えていても興味が次々に移り変わる。



「……あっちのも雑魚じゃなかったんだナ。今からでも対戦相手交代したいナァ……」

「おや、ツレないことを。私は猫好きなんだが」

「猫としては別に人間が好きって訳でもないんだナ。んーそうだナ、決めた! 君を倒してから、あっちの方も倒せば良いんだナ! そうすればご主人も喜んで、我輩も楽しい。イッキョリョウトクってやつだナ」



 伸びをしたキャスパーが、戦闘態勢に入る。その戦闘姿勢も猫が狩りをする姿そのままだった。

 対する六倉は……ポケットから手榴弾を取り出して、投げた。



「ナナ!? それは退魔師としてはどうなのかナ!?」

「勝てば官軍、とこの国では言う」



 続く爆裂音。ビジネススーツのポケットからあり得ない量の、武器が湧いて出てくる。拳銃はともかく、サブマシンガンやガトリングガン、果てはパンツァーファウストまでが手のひら大のポケットから取り出される。



「ま、炎や弾丸なんて我輩の爪で切れば良いだけなんだけどナ」



 煙を切り裂いて、キャスパーが飛びかかってくる。

 一階に残った二人は分かりやすい近接型か。ならばもう一人が絡め手役。六倉はそう判断して、このまま戦闘を継続することにした。ここは神子守の屋敷。そう簡単に落ちるようにはなっていないし、二階にも一人配置してある。

 

 ただ……向こうは八卦衆を殺さないよう指示されているようだが、こちらはナインズを殺すなとも言われていない。さて、主の意向にどう応えたものか。

 指示が明快な西の勢力を羨みつつ、六倉は拳銃を両手に構えた。

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