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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
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94話 形勢逆転

少し時間は戻って洋平視点に戻ります。

俺はアリアを探す為にすぐに宿を飛び出した。


「『サーチ。捜索対象:アリア。探知対象:アリアの魔力。探知サンプル:アリアの髪の毛。』」


サーチの魔法によってアリアのいる方角が示される。


「あっちか。」


俺はすぐにサーチは指し示す方向に向かって人目も気にせずフライで飛翔した。

眼下の景色は流れるように過ぎ去って行き、やがて建築物の雰囲気が変わり、立派な建物が並ぶ地区上空を飛んでいる時に、サーチがその中の1つの建物を指していたので、すぐにその建物に接近する。

接近した建物は大きな館だった。貴族ってのはこんな建物をいくつも持っているものなのかと関心するが、今はそんなことよりもアリアが心配だ。

その建物の2階の1室からアリアの反応があるとサーチは告げているので、俺は宙に浮いたまま中の様子を確認することにした。


「ここだな。『ビッグイアー』」


中の音がよく聞こえるように魔法を掛けると


『うぅ・・ヨーヘー・・・ヨーヘー・・・助けて・・・』


『っこのっ!まだ言うかっ!黙れっ!こいつっ!こいつっ!!』


『バシィ!バシィ!』


『うぅ・・・ヨ・・・へ・・・』


っ!?もしかしてアリアが暴行を受けているのか!?待ってろ、すぐに助けてやるからなっ!!

俺はアリアがいる部屋の壁に照準を合わせて魔法を解き放った。中の様子はわからないので、アリアが怪我をしないように、壁を壊すだけにコントロールしないといけない。焦っていたので大雑把なコントロールになってしまったが、誤差の範囲ということで。


「『ロックショット』!!」


ボーリング玉サイズの岩の塊を複数個壁に向かって撃ちつけてやった。

ドゴォッ!という音を立てて崩れ去る壁面。

中の確認をする時間を惜しんだ俺は、砂煙が舞い、視界が悪い室内に飛び込んだ。


「アリア!!」


室内を見回すが、砂埃でよく見えない。煩わしく思ったので風魔法で砂埃を室外に吹き飛ばした。


「何者だっ!?」


声のする方を見るとベッドに仰向けになって寝かされているアリアと、アリアの足元に膝立ちしている下半身裸の男、バレリアンが目に入る。


「アリアッ!!くっ!お前アリアに何してんだっ!!アリアから離れろやぁぁぁっ!!」


俺は全体重を乗せた拳をバレリアンの顔面に叩き込む。

殴られた勢いでベッドから転がり落ちるバレリアン。


「アリア!大丈夫か!?・・・お、俺間に合ったか?」


アリアの頬は腫れていてうまくしゃべれないようだったが、涙を流しながら必死に首を縦に振って無事を知らせてくれた。

てかアリアの綺麗な顔をこんなにしやがって、こいつ絶対に許さねぇ。


「アリア、痛いよな?ちょっと我慢しててよ?『リバース』」


10倍速でアリアの時間を巻き戻した。

すぐに頬の腫れが引いたのでリバースを解除しようとしたら、アリアに止められた。

え?まだ時間戻すの?はっ!?もももも、もしかしてやっぱり間に合わなかったってのか?

そんな俺の狼狽えた様子に気付いたのか、アリアは慌ててリバース解除を止めた理由を教えてくれる。


「ううん、違うの。ヨーヘーが来てくれたからて、貞操は大丈夫。でも胸・・・いっぱい揉まれちゃったから・・・その前まで戻したくて。」


よ、よかったぁ・・・ん?胸いっぱい揉まれた・・・だと?全然よくなかった。あのクソ貴族っ!こここここ殺殺殺、殺しちゃってもいいかなっ!?いいよなっ!!


「貴っ様っ!!下等な平民の分際で貴族である僕に手を上げたなっ!殺すっ!殺してやるっ!」


ベッドから転がり落ちたバレリアンが物凄い形相でこちらを睨んでいた。その手にはどこから取り出したのか剣が握られていた。

上等だこの野郎。俺もお前を殺してやろうと思ってたところだよっ!


「ヨーヘー気をつけて!彼は凄腕の剣士だって聞いたことあるわ!それとこの部屋は魔法が使えないように細工されてるのっ!」


な、なんだって?魔法が使えない?

それはヤバい。俺は剣の腕なんてからっきしのダメダメだ。学校の授業でやったのも剣道ではなく柔道だったから、子供の時にやったチャンバラごっこが俺の剣の経験ということになる。死んだ抵抗の無い肉を包丁で掻っ捌くのは得意だが、それとは勝手が違うだろう。

そんな俺と剣の達人のバレリアンが戦ったら・・・まず勝てないのは目に見えている。これって結構不利なんじゃね?

俺の焦りに気付いたのか、バレリアンはニヤァッと下卑た笑みを浮かべている。


「クハハハッ!馬鹿な奴だ。格好つけて飛び込んできたはいいが、よく見たら貴様丸腰ではないか。もうちょっと後先考えて行動するんだな。お前も魔法師か?だとしたら魔法でなんとかしようとしていたんだろうが残念だったな、アリアの言った通りこの部屋で魔法は使えん。さぁどうする?まぁなんにせよ僕の高貴な顔を殴ったんだ。貴様は楽には殺してやらんぞ。・・・そうだ、名前から察するに、貴様が僕のアリアを惑わす下民なのだろう?よし決めたぞ、貴様の四肢を切り落として動けなくしてから、貴様の目の前でアリアを犯してやる。泣き叫ぶアリアの声を聞きながら、自分の無力さを呪ながら死ぬがいい!はーっはっはっはっ!!」


この野郎・・・俺を殺す云々はともかくアリアを犯すだと?そんなことさせるわけねーだろっ!

てかこいつ自分が優位に立ったと思ったのか随分余裕の態度でいやがるな・・・。それにさりげなくドアの方に移動して出口を塞いでやがる。フルチ○の癖にどうしてあんなにでかい態度が取れるんだ。普通隠すだろう。せめてズボン履けよ。

しかし困ったことになった。このままじゃあいつの言う通り俺は殺される可能性が高い。俺の敗北はアリアの貞操の危機も懸かっている訳で・・・。絶対に負けられねー。それにもし仮にここで俺が死んでしまうと、さっきアリアに掛けたリバースが止められずにアリアも2年弱でこの世から消えてしまうだろう。俺が死んだ場合、俺が掛けた魔法がどうなるのかわからないが、試す気にはなれない。頃合を見てリバースを解除しないといけないが、この部屋じゃ魔法は使えないらしいから早くこの部屋を出てリバースを解除してあげなければならないな。どうしたものか・・・。



「・・・・・・あれ?」


俺はある事に気が付いた。違和感に気付いてしまったのだ。


「どうした?死の恐怖に怯えて気でもふれたか?ええ?」


バレリアンが俺の様子が変わった事に気が付いたのか挑発してくるが、そんなことより確かめないといけないことがある。


「『ファイアーボール』」


ボゥッ


火の玉が俺の手のひらの上で浮遊する。


「「「・・・・・・」」」」


魔法使えるじゃん。ということは・・・


ニヤッ


魔法が使えるならこっちのもんだ。ははっ、バレリアンの奴顔色が変わったな。若干焦りが見えるぞ。さっきまでの余裕の態度はどこに行ったのかなぁ?


「あ、壊れてる。」


アリアの視線の先にあるのは俺が破壊した壁付近にあった魔道具の残骸っぽいものだ。部屋の隅を見ると同じ様な魔道具が設置されている。配置から見て囲った空間での魔法の使用制限とかの効果なんだろう。

この場所はあの魔道具が壊れたから魔法が使えるようになったとかそういう感じかな?

となれば。

俺は発動させたファイアーボールを残りの魔道具に向けて撃ち出した。障壁内に入ったら魔法が消えてしまうかもとも考えたが、火の玉は威力が削がれる事も無く魔道具に吸い込まれ、それらを破壊していく。

どうやら魔法の発動を抑える効果の魔道具だったみたいだな。1つだけ回収して研究するか。

俺は魔法発動阻害の魔道具を1つだけ残して、残りの魔道具に次々と魔法を撃ちこみ破壊していった。

魔道具を破壊し終わったタイミングで入口の扉がバタンと開け放たれる。


「坊ちゃま!大きな音が聞こえまし・・・ッ!」


この場に乱入してきた初老の男性は、状況を瞬時に把握して戦闘態勢に入った。


「遅いぞギュンターッ!」


「申し訳ありません。そこの賊は排除してしまってもよろしいですな?」


「あぁかまわん。おい貴様、これで貴様の脱出は困難になったぞ。このギュンターは暗部の仕事もこなすし、かなりの実力者だぞ。今まで何人もの邪魔者を暗殺してきている。」


バレリアンの紹介を受けてギュンターは俺から視線は外さずに、恐れ入りますと恭しく礼をし、姿勢を戻した時にはどこから取り出したのか黒い刃のショートソードをこちらに向けて構えていた。


「さて、我々を抜いてこの部屋から出れるかな?」


わざわざ説明ありがとさん。増援が来た為か若干余裕を取り戻したバレリアンだったが、別に抜ける必要がないということがわかっていないのだろうか?もしかしたら馬鹿なのかもしれない。


「(ねぇ、ヨーヘーが空けた穴から出ればいいと思うんだけど。ルール違反なのかな?)」


「(そんなルールが存在してたら度肝ぬかれるよ。あいつもしかして気付いてないのか?頭の中お花畑なんかね?爺さんの方はあの穴の方をチラっと見たから気付いてるっぽいけど。)」


「(それじゃ、対策される前に逃げちゃおう?)」


「(いや、俺あいつ許せそうにないわ。アリアに酷い事しようとしたんだろ?後悔させてやる。)」


「(・・・それなら私にこそその権利はあるよね。私にもやらせてよ。貴族に手を上げると罪人になっちゃうけど・・・かまわないわ。)」


「(掴まるつもりもないし、追われることになったらどこまでも一緒に逃げようぜ。)」


「(うんっ!」


「何をコソコソしゃべってるんだ?命乞いの相談か?そうだな・・・アリア。キミが僕に絶対服従を誓うのならば、その男の命は助けてやってもいいぞ。もっとも僕の顔を殴った忌々しい腕は切り落とさせて貰うがな。どうだい?僕は優しいだろう?」


バレリアンがアリアに話し掛けてきたので、俺達の注意がそちらに向きそうになったところで、ギュンターが素早く俺に向かって距離を詰めてきた。

この爺さん速いなっ!でもっ!!


「『ポーズ』」


「ぐぁっ!!?」


胸を押さえて崩れ落ちるギュンター。

うん、心臓の時間を止めてみたんだ。

ポーズは魔法防御が高ければ抵抗出来る筈なんだけど、この爺さんは出来なかったみたいだな。白目を剥いて痙攣している。

おっと、本当に殺してしまうところだった。解除っと。


「ギュ、ギュンター!!?き、きっさまぁぁぁ!!何をしたっ!?」


激昂したバレリアンが斬りかかって来る。


「うるっせぇなぁ、ほら『バインド』」


魔力の縄がバレリアンを拘束する。


「なっ!?なんだ!?体が動かっ!?」


「さって、お前はアリアに乱暴したんだよな?犯すだのなんだの言ってたよな?」


「僕の所有物をどうしようと僕の勝手だろう?」


「いつアリアがお前の所有物になったんだ?」


「アリアは僕の婚約者だっ!それはもう僕の物といっても間違いないだろうっ?」


「大有りだ馬鹿野郎。お前頭沸いてんじゃねーの?」


「貴様っ!貴族に向かってその口の利き方はなんだ!?もう許さんぞっ!殺すっ!殺してやるからなぁっ!!」


「おーおー怖い怖い。頭の悪い貴族様は沸点が低くて嫌だねぇ。まぁいいさ。ほら殺してみろよ。やれるもんならな。」


俺は両手を広げて無抵抗をアピールしてやる。

俺の行動に顔を真っ赤にしたバレリアンはなんとか動こうと体に力を入れているが、そんなんじゃ俺のバインドは解けねぇよ。


「解け!この妙な呪術を今すぐ解け!切り刻んでやる!!」


こいつやっぱバカだなぁ。斬りかかれるのがわかってて解くわけないじゃん。


「ほら、どうした?殺すんじゃなかったのか?体が動かないなら魔法で攻撃してこいよ。」


悔しそうに奥歯を噛み締めることしか出来ないバレリアン。


「は?もしかしてお前魔法使えないの?そっか、才能なかったんだな。」


「さ、才能がないだとっ!?ふざけた事を抜かすなっ!僕はエリートだっ!そもそも魔法なんぞ軟弱者が使うような胡散臭い技だろうが!くそっ体さえ動けば貴様如き2秒で息の根を止められるんだっ!」


「だったらその胡散臭い技を振り切ってそれをやってみろっつーの。折角何もしないで待ってやってるんだぞ?こんだけチャンスを与えてやってるのにお前ホント無能だな。」


「おのれぇぇぇ!」


おー、怒ってる怒ってる。あ、ネットで見た事があるあの台詞言ってみようかな?滅多に言える機会なんてないだろうし。


「プークスクス、ねぇ、今どんな気持ち?格下だと思ってた奴に手も足も出ないってどんな気持ち?ねぇねぇ?」


「ぐ、ぐぬぬ・・・」


こうかはばつぐんだ。

さすがは煽り慣れた方達が使う言葉なだけはある。バレリアンは顔を真っ赤にして怒ってるよ。そんなに怒ると血管切れちゃうよ?

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