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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
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93話 罠

━━━アリア視点━━━



少し時間は遡る。

コンコンコン


「ヨーヘー?はーい、早かったね今開けるねー。」


部屋のドアを開けるとそこに立っていたのはヨーヘーではなく初老の男性だった。


「えっと・・・?どちら様でしょう?部屋を間違えていませんか?」


「アリアさんですね、お初にお目に掛かります。私バレリアン=フン=カイツァー様にお仕えさせて頂いておりますギュンターと申します。」


「え?バレル君の?」


「はい、バレリアン様よりアリアさんを屋敷までお連れするように申し付けられましたので失礼ながら訪ねさせて頂きました。ご同行願えますでしょうか?」


「あの、仲間が戻ってくるのを待ってるので、皆が帰ってきてからでいいですか?」


「今すぐにお越しして頂きたいのです。お時間は取らせませんよ。話を聞くとすぐにでもマギルを出立されてしまわれるそうではありませんか。バレリアン様もフィアンセであらせましたアリアさんの身を案じて心を痛めておりました。先日アリアさんのお姿をお見つけになられた際に非常に安堵され、喜んでおられたのですよ。出立される前にバレリアン様とお話して差し上げては頂けませんでしょうか?」


「それは構わないのですけど、皆が戻ってきた時に私がいないと心配をかけますし、あと1時間くらいで戻ってくると思いますのでそれからじゃダメですか?」


するとギュンターは残念そうな表情をして告げる。


「困りました。バレリアン様は本日のご予定では1時間後にプレド伯爵のご子息とのお約束があるのです。その後も予定が詰まっておりまして・・・アリアさんもそう何日もこの街に滞在なされるわけではないのでしょう?今を逃すと機会が無くなってしまいそうです。どうしてもダメでしょうか?そちらにいる魚人の方に皆様に伝言を伝えて貰うということでご同行願えませんか?」


「えっと・・・ごめんなさい。やっぱり皆を待ってからにしたいです。」


その答えを聞いたギュンターは深々と頭を下げてきた。


「お願いに御座います。このままアリアさんをお連れ出来ませんと私が叱られてしまいます。どうか、どうか私の為にご同行して頂けませんでしょうか?」


ギュンターの目からこぼれた涙が床を濡らす。ギュンターが泣いていることに気付いたアリアは慌てた。


「あ、あの、ギュンターさん、頭を上げてください。」


「お願い致します。どうか、どうか。」


「わかりましたっ、行きますっ。行きますから頭を上げてくださいっ。」


「よろしいのでしょうか?」


「マグロ、ごめん。すぐに戻るってヨーヘーに伝えておいて。」


「ミーはトロだ。ちゃんと伝えておくよ。」


「それではご案内させて頂きます。どうぞこちらへ。」


先程まで泣いていたとは思えない程のギュンターの切り替えの早さに釈然としない気持ちになったが、同行を了承してしまった手前ギュンターについて行く事にした。それに貴族からの要請を無碍にすると、後々問題になることも多い。バレリアンとは、知らない仲ではないし、いざとなったら魔法で逃げればいいと思えた。




ギュンターの案内によりマギルの街中でも大きな屋敷が立ち並ぶ区画に入る。

この区画にある館は、貴族や成功を収めた商人の子息令嬢が、マギルの学校に通う際の家として所持されている別荘の様なものだ。

アリアも家が取り潰しされる前はこの区画に住んでいた。

その内の1つの屋敷にギュンターはアリアを案内し入っていく。

屋敷内には主の趣味なのか、甲冑や煌びやかな剣等の武器防具が飾られていた。

ギュンターは2階にある1室の前で立ち止まると、その扉を軽くノックした。


「ギュンターに御座います。アリアさんをお連れ致しました。」


「入れ。」


中から主の許可が降り、恭しく扉を開けると中にはバレリアンが待っていた。剣の練習をしていたのか、抜き身の剣を握っていたが、こちらに振り向きながら鞘に剣を収めて、こちらに向き直る。


「ギュンター、お前は下がれ。」


ギュンターは主の命に従い、アリアの入室を待って静かに扉を閉める。



「やぁ、アリア。来てくれて嬉しいよ。呼び立ててしまってすまなかったね。元気そうで何よりだ。そしてやはりお前は美しい。」


「招いてくれてありがとうバレル君。」


バレリアンは両手を広げたポーズをしながら歩み寄ってきた。


「この街に居たくなかったというのも理解できるが、それでも僕達は許婚だったんだ。一言くらい声を掛けてくれても良かったじゃないか。」


「そうだね・・・。でも許婚だっていうのは私が貴族じゃなくなった時に解消されたでしょう?」


「親はそう言っているけどね。僕は今でもアリアの事は許婚だと思っているよ。実際学園を卒業した後は、身寄りも無いアリアを僕が養ってあげるつもりでいたしね。」


「お気持ちありがとう。でも私はバレル君に頼る事はなかったと思うよ。私の状況知ってたでしょう?カイツァー子爵家にも迷惑を掛けてしまうし、何より私はもう貴族に関わりたくなかったの。」


アリアは学生時代を思い出して少し苦笑いをした。


「あれは目を付けられた相手が悪かったね。キミも馬鹿なことをしたよ。ヴァンレン公爵令嬢、アドレイナ=ヴァイ=ヴァンレンお嬢様は自分が一番でないと気の済まないお方だ。例え王族の方でさえ自分より目立つと疎ましく思われるらしいからね。あの方に目を付けられたら終わりだよ。アリアの父上のイグニス伯爵も相当苦労していたようだよ。」


「っ!?」


それはアリアの知らない情報だった。自分の置かれている状況を家族に話したことは無かったし、家族はアリアにいつもと変わりなく接してくれていた。ヴァンレン公爵令嬢の牙が家族にまで向いているとは思わなかった。


「・・・お父様。」


「まぁ当時7歳だったアリアにそれを解かれって言うのは酷な話だと思うけどね。でもね、僕は君の事をちゃんと心配していたんだよ。」


「嘘、私がバレル君に話しかけようとしたら、あなたは目を逸らして去っていったじゃない。私が苦しんでいる状況を知りながら目を逸らしたでしょう?」


「仕方なかったんだよ。カイツァー子爵家まで目を付けられる訳にはいかなかったんだよ。唯でさえキミの許婚として目を付けられそうだったんだ。うちの家族まで殺されてカイツァー子爵家まで潰れてしまったら、誰がキミの保護をするんだい?僕はキミの居場所を守る為に仕方なくあぁいった態度を取ったんだよ。許してくれるよね?」


「え・・・?」


今バレリアンはなんと言ったのだろう?『うちの家族まで殺されて』?私の家族を殺したのはセリアル様を否定する狂信者だったはず・・・。え・・・?あれはイグニス家を、いえ私を疎ましく思っていたアドレイナ様から送られた刺客だった?私があの方にとって邪魔な存在だったからお父様もお母様も・・・セリーネも殺された?

そんな・・・そんなことって・・・私・・・私のせいで・・・。


「嘘・・・嘘よ・・・。」


「だから僕はキミの為を思って敢えて冷たい態度を取らざるを得なかったんだよ。」


「っ!それでもっ!・・・でも・・・そうよね。なんでもないわ。」


「わかってくれたかい?今ならあのお方もご卒業なされたし、監視の目も緩くなっているからね。だから昨日街でアリアを見かけた時は嬉しかったよ。あぁやはり僕とアリアは運命の糸に結ばれていたとね。」


「無理よ。その話からすると仮にあなたと結ばれたとしても、今度はカイツァー家が目を付けられるじゃない。」


「あぁ、それなら心配には及ばないよ。キミは屋敷から1歩も出なければいい。見つからなければいいだけの話だからね。キミは僕の相手をしているだけで僕の庇護の元に生きていけるんだ。」


「それは死んでいるのも同然よ。そんな籠の鳥にはなりたくないわ。私ね、昨日も言ったけど今冒険者をやってて、凄く楽しいの。信頼できる仲間もいるのよ。ちょっとエッチだけど頼りになる人や可愛い妹でしょ、あとはライバルになりそうな人とかいて毎日飽きない生活ができてるんだよ。」


「あぁ、あの時一緒にいた下民や薄汚い獣か。」


「!バレル君、私の大切な仲間を悪く言わないでっ!」


「ふんっ、まぁいいさ。折角出来た念願のお友達なんだろう?もう会えなくなってしまうのは残念だけどね。」


「・・・どういうこと?」


アリアはバレリアンの雰囲気が少し変わった事に気付いた。


「いや、簡単な事さ。キミはこれからカイツァー家に来るんだ。後はさっきキミが言っていた籠の鳥というものになるだけだからね。大丈夫、心配しなくていいよ。そいつ等の事なんてすぐに忘れられるくらい可愛がってあげるから。すぐに僕無しでは生きられないようになるよ。」


「!!?わ、私帰るわっ!」


「そうかい?残念だよ。僕はもっと話をしていたかったんだけどね。ほら出口はそこだ。好きにするがいいさ。」


「もう会う事はないと思うけど、元気でね。さよなら。」


これから攫うような事を仄めかしていたバレリアンが、あっさりと帰ることを了承する事に訝しみつつも、出口に向かいドアノブに手を掛けてガチャガチャと捻るが、鍵が掛かっているようでドアを開けられない。


「バレル君!?ここから出して!」


「クククッ、出たいなら出ればいいじゃないか。扉の開け方も知らないのかい?あぁ、ホントは帰りたくないのかい?素直じゃないなぁ。」


「っ!、・・・いいわ申し訳ないけど壊すからね!『ファイアーボール』!」


扉を破壊するべく魔法を使ったアリアだが、魔法が発動しない。


「え!?ど、どうして!?『ファイアーボール』!『ファーアーボール』!『フレイムランス』!『ウォーターボール』!「アイスランス』!『サンダーランス』!『ロックアッパー』!『レ、レーザー』・・・なんで魔法が出ないの・・?」


魔法が出ない事に愕然としたアリアにバレリアンは声を掛けてきた。


「あははっ、この部屋では魔法は使えないよアリア。僕は貴族だからね。魔法なんて危ない物を使われて怪我でもしたら大変じゃないか。この部屋の隅を見てごらん。ほら魔道具が置いてあるだろう?ここにアリア呼ぶ為に慌てて用意させたんだよ。この魔道具で囲ってある空間では魔法の発動を阻害する場が組まれるのさ。アリアはロレイ女学園で魔法を習っていたからね、この魔道具があれば何も出来ないだろうって思ったのさ。この魔道具は囲われた場所しか効果はないんだ。さぁアリア、魔道具を1つでも壊せば一部で魔法が使えるようになるよ。一気に形勢逆転だ。ほら、やってみたらどうだい?」


「なっ!くっ!こんなもの!!」


アリアは設置されている魔道具の1つに近寄り魔道具を壊そうとするが、魔道具は頑丈な檻の中に入っており、アリアの腕では届かない。


「ククッ、どうしたんだい?早く壊さないとこの部屋から出られないよ?」


「バ、バレルッ!こ、ここから出して!!」


「ふぅ・・、しょうがない子だね。自分の立場がわかってないのかな?」


頭を振って困ったような仕草をしながらスタスタとアリアに歩み寄るバレリアンが、腰にぶら下げていた別の魔道具を手にしてアリアにそれを押し当てた。


「あぁっ!?」


バリリッとアリアの体に衝撃が走り、その場に崩れ落ちてしまうアリア。


「今僕の事を呼び捨てにしたね?君付けはなんとか我慢できたけど、呼び捨てはダメだ。言っておくが僕は貴族だよ?以前はキミの家の方が家格は上だったが、イグニス伯爵家は取り潰されてキミは今平民となったんだ。平民であるキミが子爵家の跡取りであるこの僕を呼び捨てにするのはどうなんだい?。身の程を弁えろよ?バレリアン様と呼びたまえ!!」


言い終わると手にした魔道具をもう一度アリアに押し当てて効果を発動させる。


「あぁぁぁっ!!」


身体を仰け反らせたアリアはあちこちが痙攣して動けなくなってしまった。


「あまり手間を掛けさせないでくれ。まぁこんな魔道具を使わなくても騎士学校に通って体を鍛えている僕が、魔法の使えないアリアを取り押さえるのは造作も無いことだけどね。まぁ躾だと思って我慢して欲しい。」


言いながらバレリアンはアリアを抱き上げる。

敵意を抱いた男に体を触れられて嫌悪感を感じる。

そんなアリアの感情に気付かない・・・いや、気付かない振りをしてアリアを抱えたままベッドに向かい、ベッドにその体を横たえた。


「な、何をするつもりなの?」


「決まってるじゃないか。解消されたとはいえキミは僕の許婚だよ?愛し合う者同士がすることなんて1つじゃないか。まぁ平民になってしまったから正妻には出来ないし表に出す事もできないが、その美しい体を放っておくのは惜しいからね。僕の肉奴隷にしてあげるよ。嬉しいだろう?貴族から没落して家族も失い、路頭に迷っていたキミを保護してくれる貴族がいたんだ。ははっ、安心したまえ。キミが美しいうちはちゃんと面倒を見てあげるからさ。」


「や、やめて・・・来ないで・・・!」


身を捩るが先程の魔道具の効果で体が痺れてうまく動けない。


「ふふっ、どうしたんだい?意識はハッキリしてるのに体が動かないとか?ははっ、そんなことあるわけないか。逃げないということは僕の事を受け入れてくれるということだよね。」


魔道具の効果をわかっていて白々しい台詞を吐くバレリアンが、アリアに跨って馬乗りになってきた。


「やめて!私から離れて!!」


「嫌なら抵抗すればいいじゃないか。僕は抵抗する女性を無理矢理抱く事はしないよ?僕は紳士だからね。ただ女性は嘘つきだからね。本心とは違う言葉を発する性質があるだろう?だからアリアが口で何を言っても本心じゃないと思ってしまうんだ。行動で証明してくれないと嫌がっている振りだと思ってしまうね。さぁ、本当に嫌なら僕を突き飛ばしてみたまえ。」


アリアに馬乗りになったまま両手を挙げたバレリアンが余裕の笑みを浮かべて見下ろしてくる。


「っ!白々しい!うぅっ!動いて!動いてよ!!」


「ふふふ、ほらやっぱり嫌がってる振りなんだね。まぁ貴族に抱かれるんだ。嫌なわけないか。」


アリアが動けない事を確認したバレリアンは両手をアリアの胸に置いた。


「っ!!嫌ぁ!!離して!!離してよ!!」


「あぁ、なんて柔らかいんだ。今まで色んな胸を触ってきたが、こんなに素晴らしい感触の胸は初めてだよ。」


バレリアンの手がイヤらしく動き、アリアの胸が形を変える。


「やだぁっ!やめて!!やめてよっ!!」


嫌なのに抵抗出来ない。悔しさで涙が流れるがアリアに出来るのは虚しい抗議だけだった。

嫌だっ嫌だっ嫌だっ!涙を流しながらも抵抗出来ない自分が悔しい。アリアの表情に絶望の色が浮かぶ。

アリアの気持ちとは裏腹に、好き勝手に胸の感触を楽しむバレリアンであったたが、ふいその手がアリアの胸から外される。やめてくらたのかと期待するが、その考えはすぐに裏切られる事になった。バレリアンの手がアリアの太ももに置かれたのだ。


「っ!?ダメッ!!そっちはダメッ!」


「ふはは、何がダメなんだい?ダメと言っている割には足を閉じないじゃないか。」


バレリアンはアリアが動けない事を承知で挑発し、悔しそうな表情を浮かべる様を楽しんでいる。太ももに置かれた手がジワジワと下腹部へと移動していくのがわかる。その先は誰にも触れられたくない場所がある。そこだけは何があっても守らないといけない。


「嫌ぁぁぁっ!!私に触らないでっ!!お願いっやめてっ!やめてください!助けてっ!ヨーヘー!!ヨーヘー!!」


バシィッ!

アリアの頬がバレリアンによって叩かれた。


「僕と愛し合っている最中に他の男の名前を呼ぶのはなんなんだっ!?僕を侮辱するのかっ!?」


急に激昂したバレリアンはアリアの頬を叩く。


「うぅ・・ヨーヘー・・・ヨーヘー・・・助けて・・・」


叩かれたアリアは口を切ったのか血を流しつつ、悔しさから顔を涙で濡らしながら想い人の名前を連呼する。彼の名前を発する度にアリアの頬を叩くバレリアン。


「っこのっ!まだ言うかっ!黙れっ!こいつっ!こいつっ!!」


バシィ!バシィ!と部屋に乾いた音が鳴り響く。


「うぅ・・・ヨ・・・へ・・・」


何度も叩かれた為、アリアの両頬は赤く腫れ上がっている。アリアは言葉を発することも難しくなっていき、次第に静かになっていった。


「フゥッ!フゥッ!気に食わない女だっ!!そんなだからあの方にも目を付けられるんだバカ女がっ!!・・・まぁいい。キミの体はもう僕の物だ。他の男がいようがアリアは渡さない。そうだ、なんなら僕の女になる所を見せてあげるのも良かったかもね。しかしもう僕も我慢出来そうにないよ。さぁアリア、僕と一つになろうじゃないか。」


馬乗りになっていたアリアから離れて下半身の方に移動したバレリアンはズボンと下着を脱ぎ放ち、アリア向かって再び手を伸ばしてきた。

その様子を朦朧とした意識の中で見つめるアリア。


・・・・・・嫌だよ。こんな形で好きでもない男に初めてを奪われるの?そんなの嫌だよ・・・嫌だよ・・・助けてよ、お願いだから助けてよ。・・・ヨーヘー・・・。


ドゴォッ!


何かが壊れた大きな音が聞こえた。音の発生源に視線を向けると壁に大穴が空いている。

粉塵が舞っているが人影が室内に入ってくるのがわかった。


「アリア!!」


あぁ・・・この声は・・・私はこの声が聞きたかった・・・安心できる声、大好きな人の声だ・・・。


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