92話 旅人に不便な街
マギルという街は、街の規模に比べると宿が少ない。
本来は学生ばかりの街なのであまり宿を必要としない為だ。学生は学生寮を利用するのが基本だし、教師や学者、学校職員も長期滞在することから主に家持ちだったりする。
商人が利用するだろうと思うかもしれないが、この街で商売をするには学校連の承認を受けた商人・・・シャレじゃないよ?つまり、学校連から許された者しか商売出来ないので、行商等はここでは商売できないのだ。なので、この街の商人も家持ちであり、宿を利用する事が無い。
冒険者にしても、マギルの冒険者はほとんどが学生がやっていたりする。学生なのに冒険者っておかしくね?って思うが、この街の冒険者ギルドはちょっと特殊で、インターンの意味合いが強いみたいだ。依頼板にはこの街から遠く離れる依頼は存在せず、ごっこ遊びみたいな依頼が多いようだ。
魔物の討伐も行われるが、手に負えないような魔物は王国から派遣された兵士が行うので問題もないらしい。
学園施設には関係者しか入れないし、特に見るものもないので観光客が少ない。
コルベール王国が滅亡する前は、この街を経由して人の行き来があった為、それなりに賑わっていたらしいが、今では元コルベールに行く者も元王都ザクレンにいる駐屯兵に物資を届ける人くらいしかいない為、3年前にコルベール王国が滅亡してから宿の利用客がどんどん減り、今では3軒くらいしか宿が残っていないらしい。
おかげで宿を探すのが非常に大変だった。
アリアがこの街に住んでいたこともあり、宿の場所を知ってはいたが、やはり利用しないことからタイムリーな情報は知らなかったので、潰れていたり長期休業していたりしていて、泊まれる宿を見つけたのが7軒目だった。
「やっと泊まれる宿を見つけたよー。」
「この宿もあんまり宿泊客いなそうだったよな。あそこまで熱烈に歓迎されたの初めてだよ。なんか必死さが伝わってきたよな。料金はちょっと割高だったけど。」
「それだけお客が少ないのでしょうね。この宿の主に聞きましたけど、この宿も食堂をやっているから残っているようなものだと仰っておりましたから、宿しかやってなかったところはどんどん辞めていったらしいですね。」
「ま、まぁ今はこんなゴーストタウンみたいな感じだけど、あと2~3日もすれば学生が戻ってきて賑わいを見せるはずだから。」
あれか、夜の学校みたいな静寂さというやつか。まぁチラホラ人はいるし、あそこまでじゃないけどな。まぁ宿屋からしたら、学生が戻ってにぎやかになろうが、彼等は客ではないので関係ないのだろうが・・・。宿屋の一番の書き入れ時は、学生の入学式や卒業式のある時期だそうだ。やってくる親御さん達が主なターゲットらしい。ちなみにこの街にある学校の入学式や卒業式は日本と同じで4月頃らしい。理由は知らない。花が咲く春が相応しいからというわけではないだろう。だってこの国は季節あんまりないもの。
つーかアリアは4月に卒業したとして、俺に会う6月まで何をやっていたんだろう?働いていたわけではないだろうし、家も無くなっていたのによく資金が尽きなかったな。
アリアに軽く聞いてみると、ザクレンに行った後は、セリアル様について勉強したりしていたらしい。お金は生前親が用意しておいてくれたものを細々と使っていたみたいだ。
「まぁ、あんまりこの街に長居しててもしょうがないから、今日は休んで明日ザクレンに向かって出発しようか。」
「ヨーヘー。ザクレンには徒歩で行くの?他国だけあって結構遠いよ?私が前に行った時は、運良く国軍の輸送隊に乗せてって貰えたんだけど、都合良く通るものじゃないし、あまり期待しない方がいいと思うんだ。」
「だなぁ。一応キレースにいた時に暇を見つけて馬車を作っておいたんだけど、肝心の馬がいないんだよな。この街に馬屋ってあるのかな?」
「どうだろう?コルベールがあった頃ならともかく、今は需要もないだろうからなくなっちゃってる可能性もあるよね。学生が馬買うとは思えないし。あったとしても軍用か貴族用だけかもしれない。」
「そうなったら歩くしかないよね。イノッチがいれば解決するんだけど、どこにいるのやら・・・。ちなみにザクレンまでってどれくらいあるの?」
「えっと、約30メールくらいかなぁ?」
「結構遠いなおい。」
30メールっていうと300kmくらいか?嫌だ、歩きたくない。300kmって直線距離で東京から琵琶湖くらいまで行ける距離だろ?毎日一生懸命歩いても10日掛かる計算だぞ。そんな距離・・・いや、でもミイ師匠の岩場からキレースまで200kmくらいだったよな。そう考えれば行けなくもな・・・いやいやいや、とにかく馬だ。馬が欲しい。ブランダ━キレース間で、ブリード氏の馬車に乗って移動をした快適さを思い出すと、用意出来るなら馬車で移動したい。まぁ無理なら歩くけどさ・・・。
「とりあえず明日馬を売ってくれるとこを探すことにしようか。もし見つからなかったら・・・頑張ろうか。」
「頑張って見つけてきてね!」
次の日
「じゃあ、馬屋を探してくるけど、アリアは留守番でいいの?」
「うん、学生がいないって言ってもまったくいない訳じゃないし、マギルを出るまではあまり外を出歩きたくないの。」
アリアの引き篭もり宣言。この街での生活に若干トラウマを持っているアリアは、あまり外に出たがらない。嫌がるアリアを連れ出すのも悪いので、宿で留守番していて貰うことにする。
「オッケー、じゃあ宿で待っててね。一応マグロを置いていくよ。見つからなくても2時間くらいで戻ってくるから、そしたらザクレンに向けて出発しよう。」
「はーい、大人しく待ってまーす。いってらっしゃい。頑張ってね!」
「おう!任せとけ!!マグロ、何があってもちゃんとアリアを守るんだぞ、頼んだからな。もし何かあったらこの矢を空に向かって撃ち出してくれ。ほい、弓はこれな。よし、じゃあ行こうかトリス、タァマちゃん。」
俺はマグロに以前トリスに渡した物と同じ光を放つ矢を手渡し、トリスとタァマちゃんと一緒に馬屋を探す為に街に出掛けた。
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「見つからねぇ・・・馬はいるのに売り物じゃないとか・・・どうしよう。このままだと300km歩く事に・・・」
「ヨーヘー、そろそろ2時間経ちますし、覚悟を決めましょう。」
俺達が宿を出て約2時間。街の各所にある馬を扱っている所を回ってはいるのだが、売り物になっている馬はまだ見つかっていない。
ほとんどが今休暇で実家に戻っている貴族の馬を管理していたり、軍管理や冒険者ギルドの学生用の馬を飼育しているといったものばかりだった。
普通の一般人はどうするんだよ?と思ったがマギルは樹海と海に囲まれている。唯一陸路が開けているのはザクレン方面だけだ。そのザクレンに行く人がいないわけだから馬を欲する人もいないというわけである。
「ふみぃ、お馬さん飼えにゃいですか?」
「タァマちゃんごめんね。疲れると思うけど頑張ってくれる?」
「にゃあ!タァマは大丈夫ですよ!お馬さん飼えないのは残念ですけど、歩くのも好きです!」
俺の妹はいい子に育っています。
タァマちゃんをいい子いい子と撫でてあげると、嬉しそうに擦り寄ってくる。その仕草も可愛いんだよなぁ。
「しょうがない。馬は諦めて宿に戻るかぁ。」
気落ちしつつも宿に戻り、馬が見つからなかったと報告をしようとしたが、アリアの姿は見えず、マグロしかいなかった。
「あり?なぁマグロ、アリアはどこに行った?」
「ミーはトロだ。アリアなら1時間程前に出掛けたよ。」
なんだって?
「どういう事?知り合いに会いたくないから出掛けないって言ってたはずなんだけど?」
「いや、人が訪ねてきたんだよ。昨日の貴族の使いの者が来てね。アリアに用事があったらしく、アリアを連れて出て行ったよ。すぐ戻ると言っていたが。」
昨日の貴族・・・あいつか!そういえばあいつは昨日アリアを家に誘っていたな。
アリアの体を見て下衆い顔をしてやがったのをよく覚えている。
なんだろう凄く嫌な予感がする。
「この馬鹿魚っ!なんで知らせなかったっ!!」
「いや、だってアリアが大丈夫だって・・・。」
こいつは何の為に宿に残されたのかわかっていない。そんなマグロに苛立ちを覚えつつも、俺はすぐに宿を飛び出した。




