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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
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91話 学園都市

シーサーペントを収納して船に戻ると、船長から感謝の言葉を掛けられた。


「よぉ、あんたらスゲーな!あんなとんでもねぇ魔法初めて見たぜっ!」


「いやーそれ程でもー。それより船の一部壊れちゃってるけど大丈夫ですかね?」


「あぁ?あぁ、あれくれぇなら航行するにゃまったく問題ねぇな。どっちかってーと船がとんでもなく揺れたから、船体に体打ち付けて怪我した乗員・乗客が多数出たくれぇだな!かく言う俺も左腕がまったく動かねぇんだこれが!まぁ船動かすには問題ねぇがな!だーはっはっはっ!」


船長の左腕はプラーンと下に向いていた。あれ確実に折れてるよね。だって手のひらの向いてる向きがおかしいもの。


「でだ!あんたら魔法使いだろ?頼みがあるんだが聞いてくれるか?」


なんだろう?マギルの着くまでの護衛とかか?そもそもこの船に乗っている限りは魔物に襲われた時はさっきみたいに戦わないといけないから、態々今になって依頼することじゃないよな。


「あのよぉ、神聖魔法使えねぇかな?実は痛くて痛くて気絶しそうなんだわ。使えたらヒールしてくれたら嬉しいかなぁって。」


「ご、ごめんなさい!今治すから!」


船長は左腕が折れてるくらい問題ないとか言ってたわりには、それはやせ我慢だったらしい。よく見たら脂汗すげーな。慌ててアリアが船長にヒールを掛けている。


「姉ちゃんすまねぇな。ついでに厚かましいお願いなんだが、船内にいる怪我人も見てもらっちゃくれねぇかい?」


船長の左腕の治療を終えて船内に移動すると、乗員・乗客のうめき声が聞こえてくる。そこは結構酷い光景が広がっていた。人数は10名くらいだが、怪我をしていない人はいないんじゃないかというくらいの怪我人率だ。ただの打撲とみられる軽い症状から、横たえられてピクリとも動かない人、腹に銛が刺さっている船員もいる。銛の人は何があった?

俺達がその光景にフリーズする中、アリアの動きは早かった。

すぐに重症と思われる人の傍に行って治療を開始している。その様子をボーッと見てると、焦った表情のアリアに呼ばれたのでハッと我に返り、慌ててアリアの所まで移動した。

アリアが治療している人は、横たえられてピクリとも動かない中年の男性だ。死んでない・・・よな?


「ヨーヘー、この人はヒールじゃ治せないよ。(生きてはいるからヨーヘーのリバースで戻せないかな?)」


後半は俺にだけ聞こええるように声を潜めて伝えてくる。

ヒールで治らないということは、傷が治っても身体機能が停止しているとかか。


「(わかったやってみるよ。『リバース』)」


10倍速で男性の時間を戻してあげると、効果は1分程で表れた。虫の息だった呼吸は規則的な物に変わり、顔色も良くなっている。ふぅ、これなら大丈夫か。

俺は男性にかけていたリバースを解除して様子を見る。うん、気を失ってはいるけど大丈夫そうだ。リバースマジチート。

俺が助けられた事に安心していると、アリアは次の怪我人の治療を行っていた。随分手際良く治療をしていっているな。

10分もすると残る怪我人も1人となっている。俺の出番は最初の重体患者だけだ。


「んで?なんであんたは腹に銛が刺さっているんだ?」


俺が話しかけたのは、シーサーペントを見つけた時に慌てて船長を呼びに行った船員だ。


「いやー、船長にシーサーペントが出たことを伝えに行ったら、船を守る為に船長が銛で撃退しようとしたんスよ。そしたら船体は浮き上がるわ、凄い勢いで横滑りするわで船内が揺れる揺れる。それでバランスを崩した船長にブッスリとやられたわけですわー。あはっはー。」


なんでこの船員は怪我してるのに笑ってるんだろう?笑える怪我じゃないはずなんだが。


「そんでね、船長からこれ抜くと血が吹き出て死ぬから抜くなって言われてるんス。俺っちはこれからずっと銛を刺したまま生きていくんスかね?名前はモリオに変えたほうがいいッスかね?」


軽いノリだから深刻さは伝わってこなかったが、微妙に自虐的なことを言っているから若干動揺しているのだろう。

俺はモリオに刺さっている銛を掴み、一気に引き抜いた。


「うぎゃぁぁぁぁぁああっっ!!!死ぬぅぅぅぅぅっ!!!」


おぉうこの銛、返しが付いてたのか・・・。ご、ごめんね?

すかさずアリアがヒールをかけて傷を治してくれた。


「ひ、ひでぇッス・・・メチャクチャ痛かったッス・・・」


「そうだよヨーヘー。せめてペインレスの魔法を掛けて、痛みを減らしてあげないと可哀想だよ。」


そういえばそんな魔法あったな・・・すっかり忘れてたよ。

全員の治療も終えたので、船は再度マギルに向かって動き出した。


それからは魔物の襲撃もほとんど無く航海は順調に進み、キレースを出て2日後の午前中にマギルに到着した。


「おぅ!あんたらには世話になったなっ!治療してもらったり、魔物撃退してもらったりと助かったぜっ!またどっかで会えるといいなっ!」


「こちらこそお世話になりました。ではまたどこかで!」



船を下りて港からマギルの街を見てみると、建物はこれまで巡ってきた街と同じ石造りの建物であり、道は大きな街と同じ石畳である。しかし大きな建物が多いな。大きな建物には決まって鐘楼がある。これが一斉に鳴ったら凄そうだなぁ。

アリアによると大きな建物は全て学校らしい。マギルには全部で23の学校施設があるらしい。この街の学校に通う事は、この国の国民にとってはステータスになるらしく、国中の子供達がここで勉強する事を目指しているんだとか。貴族はもちろんのこと、裕福な家庭や、優秀な子供は皆マギルに集まってくるという話だ。


「人があんまりいないな。」


「そりゃね。マギルの人口の7割は学生だから、長期休みにはほとんどの生徒が実家に帰るのよ。中には残って研究する生徒もいるけどね。」


「それはまた随分若そうな街だこと。治安とか大丈夫なの?」


「基本的に学生の問題は、それぞれの学校が対処するっていうことになっているから、余程重大な事じゃない限りは内輪で解決しちゃうかな。」


「ふーん、とりあえず宿を取っちゃおうか。学生達が戻ってくるのが10日くらいって話だったよね。今日は7日だから、少し買い物をして、明日か明後日にはザクレンに向けて出発しよう。」


「うん!なんかごめんね。私の都合に付き合わせちゃって。」


「気にすんなって。あとでアリアにも俺達の都合に巻き込む事もあるだろうから、こういうのは持ちつ持たれつだよ。仲間ってそういうもんだろ。」


「うん、わかった。皆もありがとう。」



宿を探して街中を歩いていると、この街に残った学生だろうか?若い男性が声を掛けてきた。


「アリア?アリア=イグニスじゃないか?」


「・・・バレル君?」


アリアに話し掛けてきたのは身長190cmくらいあるだろうか。がっしりした体格の癖のある茶髪に碧眼のイケメン君だった。着ている服はかなり上等の物に見える。


「おぉ!やっぱりアリアかっ!良かった!探したんだぞ?ロレイ女学園の卒業式が終わったと思ったらいなくなってしまうんだものな。」


「ごめんね?少しでも早くこの街を出たかったの。」


「まぁアドレイナ様に目を付けられたんだからわからんでもないがね。」


バレルと呼ばれた男性の言葉にアリアは俯いてしまう。


「なに、もうアドレイナ様もご卒業なされてこの街にはいないのだ。そんなに怯える事もあるまい。」


「そう、ね・・・」


「アリアは今何をやっているんだい?家が取り潰されて大変だと思うのだが。」


「えっとね、ちょっと目的があって、今私は冒険者をやっているの。」


「冒険者・・・?元とはいえ貴族だったキミがそんな下らん事をやっているのか?冒険者は不作法で低劣なクズ達だ。そんな中にキミがいるのは感心しないね。」


「そういう人もいるけれど、いい人だっているのよ。今私がパーティを組んでいる仲間は皆良い人ばかりよ。」


「ふん。仲間・・・ね。」


男はチラリと俺達を一瞥すると興味無さそうに視線をアリアに戻す。


「み、皆、この人はねバレリアン=フン=カイツァー君。私より1つ年下なんだけど私の家と付き合いがあった人なの。」


空気が悪くなると察したアリアが男の紹介を始めた。


「そうか、俺はヨウヘイ=イシカワだ。」


「タァマですっ!」


「トリス=フェラーラと申します。」


「トロ=オーマという。よろしくバレリアン殿。」


バレリアンは少し嫌そうな顔をして自己紹介をする。


「ふん、バレリアン=フン=カイツァーだ。名前からわかると思うがカイツァー子爵家の長男である。そしてアリアのフィアンセだ。宜しく・・はしないでもいいか。」


「元でしょバレル君。イグニス家が取り潰しになった時に婚約の話は無くなったはずよ。」


「そうだったか?あぁ、そうだアリア。久しぶりに2人で話がしたいんだが、この後どうだい?僕の家に招待するよ。」


バレリアンはアリアの訂正を流してアリアを家に誘い始めた。さっきからこいつの視線がアリアの体を品定めするかのように見ていて気に食わない。アリアの視線が俺達に向く度にアリアの足を見てニヤけている。

こいつとアリアを2人にするのは危険だな。


「ごめんなさい。私達これから宿を取らないといけないの。」


「宿なんて取らなくても我が屋敷に泊まればいいじゃないか。」


「え?そう?皆どうかな?バレル君が家に泊めてくれるっていうのだけれど。」


「待て待て待てアリア。泊めるのは君だけだ。なんで我が高貴な屋敷に薄汚い平民なんぞを泊めてやらなくてはいけないのだ。」


その台詞を聞いて、さすがのアリアもバレリアンを見る目が少し冷たいものになる。


「・・・バレル君。私も今はその平民なの。だから皆と一緒じゃないのなら私も遠慮させて貰うわ。」


「(チッ)、ではアリア、何時までこのマギルにいる予定なんだい?」


「明日か遅くても明後日にはマギルを発つ予定よ。」


「そんなに早く!?もう少しゆっくりしていけばいいじゃないか。」


「私がこの街でどんな扱いされてたか知ってるでしょう?あと3日もすれば学生達がこの街に戻ってくるわ。余計なトラブルにならない内に出て行きたいの。そもそもこの街に寄ったのだって通過地点だったからに過ぎないんだもの。行きましょう皆。バレル君、久しぶりに会えて良かったわ。さようなら。」


バレリアンをその場に残し、俺達は宿を探す為にその場を立ち去った。

そこには奥歯を噛み締めて悔しそうな顔をするバレリアンが立ち尽くすのだった。


「ギュンター。アリアの泊まる宿を突き止めろ。俺は用意しないといけないものがあるからちゃんと調べておけ。」


「はっ、かしこまりました。」


どこからともなく現れた執事服を見に纏った初老の男性が、主人の言葉に恭しく頭を下げるのだった。




「皆ごめんね。バレル君はちょっと頭が硬くてね。私も今知ったんだけど、平民を見下すタイプの貴族みたい。」


バレリアンと別れてしばらく歩いていると、アリアが立ち止まって申し訳無さそうに皆に謝ってきた。


「いえ、お気になさらないでください。私は貴族とはあぁいった方達なのだと理解しておりますから。それにアリアが謝ることじゃありませんよ。」


「貴族皆があんな感じじゃないのよ?か、数は少ないけど貴族は平民という守るべき存在がいるから存在できるのだって言ってる人もいるの。ただ権力を持っちゃうと傲慢になっちゃうって人が多いから・・・。それでバレル君は私の知り合いだから、その知り合いが皆を不快にさせてしまったのだから、私が皆に謝える責任はあると思って・・・。」


「それよりもアリア。俺としては彼がアリアのフィアンセだという事の方が気になったんだけど。」


「え?ち、違うよ!フィアンセじゃないよ!?そ、そりゃ昔はそうだったけど、私が貴族じゃなくなってからはその関係は解消されたもの!カイツァー家の当主様から正式に文書で伝えられた事だから間違いないわ。それにヨーヘー、元フィアンセと言っても何も無かったんだからね?お互い顔を知る程度の関係だったし、バレル君に会った回数だって10回もなかったのよ?私がマギルにいた時は避けられてたみたいだし・・・。だ、だから!今は全然何もないの!!本当よ!?」


「わ、わかったよ。」


アリアは俺の胸倉を両手で掴み凄い勢いで捲くし立てた。顔、顔近いからっ!


「アリアは貴族だったのかい?全然そんな風には見えなかったよ。」


「え?えぇ、マグロは知らなかったんだっけ?」


「トロだ。そういえばアリアもそうだが、他の皆の過去なんかもミーは全然知らないな!なーはっはっはっ!!」


そうだっけ?パーティ組んで1ヶ月以上経つが、アリアの過去話はともかく、その手の話しなかったんだっけ?

うーん、言われてみれば俺もマグロとトリスの過去とか知らないな。


「私はね。今は没落しちゃったんだけど、貴族の頃はアリア=フィー=イグニスっていう名前だったの。」


「ほう。伯爵家に連なる者だったのか。」


「ん?マグロ。なんで伯爵家だってわかるんだ?」


「トロだ。ヨーヘーは知らないのかい?常識だと思ったんだが。アリアの名前にもあったように貴族には特別なミドルネームをつける事が許されているんだよ。王族はアイン、公爵はヴァイ、侯爵はライ、伯爵はフィー、子爵はフン、男爵はゼク、士爵はズィーベとね。アリアはアリア=フィー=イグニスだから伯爵ということさ。」


「ふーん、そううなんだ。」


「これは子供でも知ってることだと思うんだが、何で知らないんだい?」


「まぁ俺は異世界から来たしな。この世界の常識なんてそんなにわからないんだよ。」


「ふむ・・・そうなのか。・・・は?異世界?」


「おう!俺は異世界人だ。こことは違う世界から転移でやってきた。」


「ほ、ほう。道理で全然違う文化や食事をしているはずだな・・・。そうか異世界か。」


「ヨーヘーの知識は新鮮なものがたまにありますもんね。利に聡い人なら放っておかないかもしれません。実際セリアルまんじゅうもかなりの利益が出たみたいですしね。」

「異世界文化だから、この世界の文化に合うかどうかはわかんないし、博打だと思うよ。」


「それでもですよ。実際、お風呂とか地球料理とかは私にとってもう無くては満足出来ないようになってますもの。この1ヶ月、地球料理を食べ続けて、ヨーヘーと別れなくてはいけなくなってしまったキレースの人達は今頃嘆いているのではないでしょうか?」


「あっはっは、さすがにそれはないだろう。」



~~~~~ キレースの冒険者ギルド、ギルドマスター室 ~~~~~


「のぅ、アンデルセンよ。ヨーヘー達が旅立ってもう3日じゃが、あの料理が食べれなくなって辛い件について話さんか?」


「むぅ、俺にはヨーヘーから貰った醤油がたくさんあるから、刺身くらいなら食えるわけで、まだそこまで恋しいわけじゃないがな。」


アンデルセンは、そう言いながら醤油の入った容器をこれ見よがしにクライソンに見せ付ける。


「むぉぉぉおおおお!!!死ぬがいいっアンデルセーーーンッ!!そしてその醤油はワシが奪ってくれるわぁぁぁ!!!」


「させるかぁぁぁっ!!これだけは誰にも渡さんっっっ!!」


「セリアッ!手伝うのじゃっ!あの筋肉ダルマから醤油を奪うのじゃっ!」


「うふふ、ごめんなさいアンデルセンさん。私もあの味が恋しいんです。私の幸せの為に死んでくださいませ。」


「むわぁぁぁっ!?2対1とは卑怯なっ!こうなったら俺の真の姿を見せ・・・」


ギャーギャーギャー


連日騒がしいキレース冒険者ギルドのマスター室なのであった。


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