90話 シーサーペント
船員の騒ぎを聞きつけたのかアリアとタァマちゃんが甲板に飛び出してきた。
「ヨーヘー!シーサーペントが出たって!」
「あぁ!あっちだ!あと1分もしたらこの船と接触する!俺が障壁を張るからアリアとトリスは遠距離攻撃を!タァマちゃんはもしシーサーペントが障壁を抜けて接近してきたら隙を見て斬りつけて!でも無理はしないでね!マグロの奴はどこに行ったんだ!?」
皆に指示を出していると、こちらに向かって一直線に向かってきていたはずのシーサーペントが突如進路を変えた。
やり過ごせるかと考えたが、シーサーペントは再度進路を変えてこちらに向かってくる。
なんだ?あの辺りに何かあるのか?こちらを襲うにしては今の動きは明らかに無駄な動きだった。
そんなことを考えている内にシーサーペントが接近してきて、俺が張った障壁に接触する。
ブィィィン
俺の張った障壁がシーサーペントの進攻を妨げることに成功する。
「ギュァァァァァァアア!!!」
シーサーペントは行く手を阻まれたことに怒っている様子だ。
俺もシーサーペントの体当たりくらいならばバリアで防げると確信できた。しかし、このバリアだとこちらからの攻撃も弾いてしまうだろうから、障壁にシーサーペントが通れないくらいの穴をあけて、バリアの形を網目状にする。これでこちらからの攻撃はシーサーペントに当るだろう。
その変化を待っていたアリアとトリスが攻撃を開始した。
「『レーザー』」
アリアの放ったレーザーはシーサーペントに当ったが、その皮膚を少し焦がす程度の効果しかないようだった。
「うわっ、皮膚硬ーいっ!これはレーザープリズンも破られちゃうね。」
トリスはミスリル魔矢を放ったが、矢は刺さってはいるが、深い傷はつけられていない。あの体皮はやっかいだな。
「アリア!皮膚表面への攻撃はかなり威力が削がれそうだ!雷系みたいな内部に届く魔法に切り替えた方がいい!トリス!この矢を使ってくれ!魔力を込めると雷を纏うようになるから!」
「わかったよ!」
「またこんな矢を・・・わかりました!遠慮なく使っちゃいますよ!」
さて、これで雷耐性とか持ってたらどうしよう。イレイズで消してみるか。
「『サンダーランス』!!」
アリアの放ったサンダーランスがシーサーペントに直撃する。
一瞬シーサーペントが仰け反ったのが見えた。これは効いているみたいだな。
その証拠にもう1つ内部に雷が通っている事を確信する音も聞こえてきたしな。
サンダーランスが直撃した時、シーサーペントは口を大きく開けていたのだが、その口からアバババババという声が聞こえてきたのだ。
一瞬シーサーペントの声かとも思ったんだが、それはとても聞き覚えのある声だった。
推測だがシーサーペントがこちらに向かっている時に、一旦進路変更をしたのは餌っぽい隙だらけの魚類でも見つけたんだろう。そんでそいつを捕食した後に次の餌であるこちらに向かってきた、といったところじゃないだろうか。ただあいつは食われたくらいじゃ死なないわけで、今もシーサーペントの腹の中でもがいているわけだ。さっきのアババババはアリアのサンダーランスをついでに喰らった腹の中の住人が感電した為に出した声なんだろうな。つーかマグロ・・・お前いないと思ったら何やってんだよ。
「ヨーヘー、今トロさんの声が聞こえたような気がしたのですが・・・。」
「それは気のせいだ!攻撃を続けるんだ!」
「・・・トロさんごめんなさい。」
アリアの魔法とトリスの雷属性の矢は、確実にシーサーペントにダメージを与えている。
その証拠にアババババという声が絶えない。内部まで効果が及んでいる証拠だ。しかし、サンダーランスだと威力が足りないのか決定打にはなっていないようだな。
一方的に攻撃されるシーサーペントは激怒したのか海中に潜ってしまう。いかん、海中の深い所には障壁は張っていない。船の真下まで移動した奴は、船底から突き上げるように体当たりしてきた。
「うおっ!?バリア壊れた!!っていうより船が飛んだーーー!!?」
「きゃあぁぁっ!!」
シーサーペントの強烈な突き上げが、船底の下に展開してあった障壁にぶつかり、その障壁を破壊。次に念のためにともう一枚船底に沿って張っておいた障壁にぶつかり、そのバリアに押されるように船が突き上げられ、海面から20mは浮いてしまっている。
あっぶねーっ!船底にバリア張ってなかったら船が粉砕してただろこれ!!1層目のバリアで威力殺せたんだな・・・2層目のバリアも大分消耗してしまってるぞ。
さて、今は船が飛んでいるわけだが、すぐに落下を始めて海面に衝突するだろう。バリアを張りなおしたとしてもその衝撃にバリアが耐えられるだろうか?
・・・び、微妙。
「『フライ』!」
俺は船にフライの魔法を掛けてみた。
さすがに重かったので船は浮かびはしなかったが、落下速度を落としてゆっくりと落下を始める。この速度ならこのまま着水してもそれほど衝撃はないだろう。しかし・・・
「ぐぉぉおおおおお!!!超重てぇぇぇ!!」
「ヨーヘー!頑張ってください!海面までもう少しです!」
「荒ぶる天空の王者よ、偉大な空の猛威よ」
トリスは踏ん張る俺を応援し、アリアは風の上級魔法を唱え始めている。アリアの詠唱の影響で上空に雷雲が発生し始めた。
「にゃあ!お兄ちゃん!さっきのやつがもう一回来ますっ!」
海面を覗き込んでいたタァマちゃんが警告を発する。
さっきのやつ?さっきのやつって水中から突き上げてきたやつか!?ヤバイ!ただでさえ船持ち上げるのに大変だってのに!
どう対策するかを考えていたが、敵は待ってはくれなかった。
「来ます!!」
ダメだ!2層張る時間が足りない!1層だと抜かれる可能性があるし、完全に後手に回っちまった!!くそっ、一か八かだ!
「『バリア』!!」
時間的に出せるバリアは1つだ。しかしシーサーペントに対し、斜めに張った。防ぐのではなく反らす事を期待して。
瞬間、シーサーペントが水上に飛び出してきて、張りたてのバリアに接触する。バリアは嫌な音を立てているがなんとか壊れずにいてくれた。奴の進路をうまく曲げることに成功したが、完全に曲げきることが出来ずに、船の側面を一部破壊しながら上空に舞い上がっていくシーサーペントの姿には肝を冷やした。
「にゃぁぁあぁ!!」
安心したのも束の間、運悪くシーサーペントが通り過ぎたのがタァマちゃんの近くだった。破壊された船の破片がタァマちゃんを襲う。
「タァマちゃん!!くそっ!!」
船の高さは海面から3mくらいだ。これくらいなら落ちても大丈夫だろう。俺は船のフライを解除してシーサーペントに対してフライを掛けた。絶対に水中になんて戻すかよ。
「アリア!呪文を切り替えてくれ!海にコキュートスだっ!」
今の一連の流れの中で、上級魔法の詠唱を中断することなく続けていたアリアは、俺の意図をすぐに理解してくれて、今の魔法詠唱を中断してコキュートスの詠唱に切り替えた。同時に俺は水魔法のウォータージェットを使い、船を押し出すように少しでもシーサーペントから遠ざける。
「深淵に流れる嘆きの川よ、閉ざされた世界から此の地に流れろ、全てを凍て尽かせ『コキュートス』!」
今回アリアが凍らせたのは海だ。直径50m程の海面が凍りつく。俺はその上にシーサーペントを叩きつけた。
奴は氷の冷たさにか、叩き落された衝撃にかにもがいて暴れている。
タァマちゃんはトリスがすでに抱きかかえて介抱している。頭を打ったのか、頭から顔に血の筋が走っているのが見える。気を失っているみたいだが、生きてはいるようで内心安堵する。
「アリア!タァマちゃんにヒールを掛けてください!」
「わかった!ヨーヘー!あいつぶっ飛ばしちゃって!!」
わかってる・・・あんにゃろう・・・俺の可愛い妹に怪我させやがって・・・ぶっ殺してやる!
上空にはさっきアリアが生成していた雷雲が残っている。あそこまで育っていればシーサーペントが氷の上から海に逃げるまでに発動できるな。
「荒ぶる天空の王者よ、偉大な空の猛威よ、轟く雄叫びを響かせよ、全てを巻き込み彼の者を貫け『スーパーセル』」
突如、雷雲から標的であるシーサーペントに向かってダウンバーストが発生した。氷上にぶつかった猛烈な下降気流は、シーサーペントを氷上に縫い付けるかように押さえ込み、氷に行き場を塞がれた下降気流は、逃げ場を求めてその周囲に強烈な突風を吹き起こす。当然船も吹っ飛ばされそうになったので、ヤバイと思って咄嗟にバリアを展開した。おかげで風によってバラバラになることはなかったが、大分流されてしまった。しかし、シーサーペントから距離を取れたのは今思うと良かったのかもしれない。つーか自分の使った魔法で自爆するとか笑えないな。
すぐに皆の無事を確認するが、全員無事のようだ。
タァマちゃんは意識は戻っていないが、アリアがこちらを見てOKサインを出したので心配いらないレベルに回復しているのだろう。
改めてシーサーペントがいるであろう場所に視線を戻すと、エラい事になっている。拳大の大粒の雹が叩きつけられており、その砕かれた雹を巻き込みながら竜巻が吹き荒れ、高電圧の雷がシーサーペントのいる辺りを中心に発生しているようだ。
雷雲の規模からすれば結構な威力である。タァマちゃんを抱いたトリスがあんぐりと口を開けてその光景から目を離せないでいるみたいだ。
そういえばトリスの前で上級魔法使ったのって初めてか?いや、あのヴァンパイア、ウラド=エリペマフだっけ?あいつと戦った時にコキュートス使ったよな。まぁ洞窟内という閉鎖的な狭い空間だったし、薄暗かったからな。それに速さを求めてあまり魔力を込めなかったから、そこまでの規模には見えなかったのかもしれない。
しばらくすると嵐は収まっていき、発生した雷雲も散っていく。
そこに残ったのは黒焦げになって、体を無数に切り刻まれたシーサーペントの死骸だった。土台の氷は壊れていないみたいだな。あれなら乗っても大丈夫だろう。
タァマちゃんをアリアに任せて、俺とトリスは氷上に降り立ち、シーサーペントの死骸に近付いた。
「なんて馬鹿げた魔法なんですか・・・これが上級魔法ですか・・・ちょっと笑えませんよ?」
あ、あれぇ?トリスが若干引いてしまっているみたいだ。まぁ確かにスーパーセルは結構広範囲高威力な部類の魔法だし、見た目も派手だからなー。
シーサーペントは体中からプスプスと煙を上げており、所々炭化している。俺はなんとなくアリアのデモンズ料理を思い出してしまい、なんか胃が痛くなってきた。
「見事に黒焦げですね。」
「あぁ、黒焦げだね。」
「・・・あの、凄く言い難いのですけど・・・たしかシーサーペントの中には・・・」
「あ・・・」
しばらく無言でトリスと一緒にシーサーペントの死骸を見ていると、シーサーペントの腹の部分が若干動いていることに気が付いた。
その部分を切り裂いてみると、中からだらしない泣き顔になっていたマグロが出てきた。こいつスゲェな・・・。
「ヨ、ヨーヘー・・!怖かったっ!ミーはもうダメかと思った!でかい蛇に食われたかと思ったらビリビリするし、なんか熱いやら痛いやらで死ぬかと思ったのだー。」
「あの猛威の中で傷一つ無く、泣くだけで済んでるお前も大概出鱈目だよなー。」
「なんでしょう。このパーティは・・・ハチャメチャ過ぎて頭痛がしてきます。」
シーサーペントはリバースで綺麗な体に戻してから剥ぎ取りしようかと思ったんだが、どの部位が価値があるのかわからんな。とりあえず魔法の袋に詰め込んでおくか。しかしこいつの体長は20mくらいある。魔法の袋の内部は10mの正方形だから折りたためば入るだろうけど、魔力は消費され続けてしまうが、ミニマムの魔法で10分の1くらいに小さくしたまま収納しておくことにする。今度容量が大きめの魔法の袋作りに挑戦してみるかな?ミイ師匠から仕組みは聞いているから、どうすればいいのかはわかるけど、何せ魔道具初心者だからうまく作れるかわからないな。色々と練習してみよう。




