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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
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89話 旅立ちとフラグメイカー

次の日。

店の前には人だかりが出来ていた。

何事かと思っていると、俺に気付いたシーニュさんが小走りで走り寄ってきた。


「ヨーヘー先生。あなた達凄い人気よ!セリアル様とユード様はいないのか?って問い合わせがさっきから凄いの。」


あの人だかりは昨日のセリアル様の劇を見た人達かよ。うへぇ、セリアル様の人気って凄いねぇ。ここで見つかると面倒そうだなぁ。


「シーニュさん、僕らはいないと言っておいてくれませんか?」


「別にそれは構わないのだけど、なんだか大変みたいね。」


チラリと店の外を見ながらシーニュさんがつぶやいた。


シーニュさんに対応をお願いして、俺は2階に上がり、皆に外の人だかりについて説明する。

皆で話し合った結果、俺とアリアは店に出ない方がいいだろうという結論になった。

年越しも済ませたことだし、俺達もそろそろユグドさんがいるコルベールに出発しないといけないな。


その日の夕方。


「第3回『フリーター』パーティ会議ー」


パチパチパチパチ


「はい、今日の議題ですが、いつ頃旅を再開するかについて話し合いたいと思います。懸念であった次の街でのアリアの知り合いに会わないようにするという問題ですが、アリアの話によると、1月10日くらいには学生達がマギルに戻ってくるらしいので、それまでにはマギルは抜けておきたいという話でした。ここキレースからはマギルまでの道のりは海路を使うことになります。マギルまで船で移動するとして、大体2日は掛かるらしいので、遅くても1月6日にはキレースを出た方がでしょう。それで今日は1月2日な訳ですが、いつ出発しようかということを決めようと思います。」


今回の議題を挙げて、今後の予定について皆で話し合う為に、意見を募ることにする。


「じゃあまずは俺から意見を言うね。俺は明日にでもキレースを出たい。」


「ず、随分と急ですね。」


「演劇に出ておいてなんだけど、こういう風に目立つのって結構辛いんだよね。まさかこんなに注目を集めるとは思ってなかったからさ。正直今日のような状態が続くとしたらかなり疲れる。店にも迷惑掛けちゃうし、何より気軽に外出できないのが辛い。」


俺は芸能人やプロスポーツ選手には向かないタイプなのだ。キャーキャー言われて嬉しいというのもあるが、行動が制限されてしまうのは嬉しくない。


「私もヨーヘーに賛成。でも、この街で知り合った人達にはちゃんと挨拶したいから、夕方くらいに出るのがいいなー。」


「むぅ・・・アンデル殿やクライソン殿とお別れなのか・・・少し寂しいな。」


マグロが名残惜しそうな事を言っていたが、彼も冒険者なので別れは付き物だと割り切っているようだ。

タァマちゃんは俺とアリアの意見には基本的に賛成してくれるので、特に反対する気はないようだ。まんじゅう屋のお客さんと仲良くなっていたからちょっとは嫌がるかなと思ったんだが、意外とドライなのかね。いや、優先順位の問題かな。


「トリスはどう?」


「私は明日出発というのは急過ぎると思います。旅の準備や、借りていた2階の掃除等もしないといけませんし。」


「あ・・、そうだったね。それも一理あるな。じゃあ明日は旅の準備や部屋の掃除、それとお世話になった人達への挨拶周りにして、1月4日にキレースを出るというのでどう?」


「はい、それでしたら私は賛成します。」


「皆もそれでいいかな?」


全員が賛成の意志を返してくれたので、旅の再開日程が決まった。


夜になり、いつものようにソン爺達が夕飯を食べに来た時に、1月4日にキレースを出る事を皆に伝えると


「なん・・・じゃと?明後日にはこの街を出て行くじゃと?ワ、ワシの夕飯はどうなるんじゃ・・?」


「1ヶ月前の生活を思い出してくださいな。」


「あんまりじゃぁぁぁ!せめてあと10・・・いや7年は残ってくれんか!?」


「長ぇよっ!!なんで年単位なんだよ!?普通日単位だろ!?」


「もうあの豆生活には戻れんのじゃぁぁぁ!折角楽しい毎日になっておったのに!家族と思えるお主等と出会えたのにーー!」


「わかったよソン爺。俺ソン爺からそこまで想われているとは思わなかった。」


「ヨーヘーわかってくれたか・・・お主という男は・・・ナイスガイじゃ。」


「出発は変更出来ないから、俺達の写真とソン爺の好きな海鮮丼の写真を置いて行くな。これを俺達だと思って欲しい。」


「・・・・・・」


写真を受け取ったソン爺が遠い目をしている間に他の人にも挨拶をしておくことにする。

マッスルさんには海産物なんかを貰ったりしていて、大変お世話になっていたので、本人のお気に入りだった醤油を20ℓ分、こっちの単位で言うと2グル分を進呈しておいた。マッスルさんは喜びのあまり、感極まってあの逞しい筋肉で抱擁してきた。いつもなら避ける所だが、今回でお別れなのだ。甘んじて受けようじゃないか。こうして忘れたい思いトラウマができるのだった。

毒セリアさんへの挨拶は、まだ年末の時のように絡まれるかと思って警戒したんだけど、まだアルコールが入っていなかったからか、普通に挨拶するに留まった。まぁ明日はお別れ会と称して盛大に宴会を開くということにはなったけど・・・。


次の日、午前中に部屋の掃除をし、午後に旅の準備をしつつお世話になった人達に挨拶をして周った。一緒に劇をやった人達との別れは、ちょっと仲間意識が芽生えていたので少しウルっときてしまったよ。


そして夜は大宴会だ。これ、年末以上に盛り上がった。

この街に来てからお世話になった人達が集まってくれて、別れを惜しみながら再会を約束したりなんかした。

たくさんの人に想われているんだなと感じ、目頭が熱くなってしまった。

アリアやトリスは涙を流していたけど、俺は頑張って我慢したよ。だって男の子だもん。


翌朝、先日の感動も吹き飛ぶくらいの死屍累々の光景を目の当たりにしたが、アリアに頑張って貰って、二日酔いの人達の回復に努めてもらった。

後片付け等を行い、お昼過ぎに次の目的地であるマギルに向かう為に港に向うと、見送りに来てくれた人達に最後の挨拶をする。


「寂しいのぅ。また近い内に来るんじゃぞ?絶対じゃぞ?」


「道中気をつけてくださいね。」


「トリスとはもっと釣りを楽しみたかった!次に会うまで俺も腕を磨いておくぞ!むははは!」


「皆様の旅路にセリアル様のご加護がありますように。」


「アリアさん、体に気をつけてください。・・・友人としてあなたの幸せを祈っています。」


等々、この街で知り合った人達が暖かい言葉を掛けてくれて凄く嬉しかった。

1ヶ月ちょっとの付き合いだったが、何にも代えがたい人間関係を築けたと思っている。


「皆ありがとうっ!きっとまた来るから皆も元気でっ!」


別れを惜しみながら見送られ、俺達はマギルまでの定期便が出ている船着場まで移動した。


「すいません、マギルまで行きたいんですがいいですか?」


「あ?今日の便はもう出ちまったよ。」


「・・・・・・」


「あと5日もすれば通常運転になるから日に3便は出るんだけどな。今は職員も休みを楽しんでるから1日1便なんだよ。」


「(ねぇ!これどうすんの!?皆泣きながら手を振ってるんですけど!すっごい戻りづらいんですけど!!)」


「(ど、どうする!?・・・ねぇ、もう泳いじゃおっか?この状況を脱せるなら泳ぐのも厭わないよ!)」


「(それよりもヨーヘーのフライでマギルまで飛べませんか?)」


「なーっはっはっはっ!この際陸路でリンゼル樹海を突っ切って行ってしまうというのはどうだい?」


「(馬鹿!マグロ!声がでかい!)」


「(そうです!それにリンゼル樹海を超えるには危険性が跳ね上がりますし、太陽の光が届かない場所も存在するらしいので、迷ってしまう可能性も高いです。ですから陸路は賛成できません!)」


チラ

後ろを振り返るとまだ皆が手を振っている。早く帰ってくれないかなぁ・・・。


「ねえオジサン、あの船はなんなの?」


港にはもう1艇定期船みたいな船が浮かんでいて、乗客も乗り込んでいるのに気が付いた。


「あぁ、あれはゴレイダ行きだ。マギルとは逆方向になるな。」


「(とりあえずあれに乗って、沖まで出たら陸地にテレポートするってのはどう?そんでまた明日静かに再出発すると。)」


「(うん、それでいいよ。ヨーヘー疲れると思うけど頑張って!)」


俺達はおじさんにゴレイダまでの運賃を払い、ゴレイダ行きの船に乗り込んだ。無駄な出費だったがプライドを守る為だ。微妙な空気になるのを防ぐ為の投資だと思えば安いもんだ。

ちゃんとマギル行きの船が明日の何時に出るのかも聞いておいたが、これからゴレイダに向かう船に乗るのになんでそんなことを聞くのかと怪訝な顔をされたが気にしない。

船の甲板に出て未だに手を振り続けている皆に手を振り返す。なんというかやるせないな・・・。


翌日、俺達はマギル行きの船の上にいる。


「なんとかごまかせたね。」


「なんでこんなに後ろめたい旅立ちになってるんだろう・・・。」


もっとちゃんと調べておけば良かったと今更ながら後悔している。

まぁなんにせよ次はマギルだ。明日の朝にはマギルに着いている予定だから今日は船旅を楽しもう。

とはいうものの出航から2時間が経過したが、すでに飽きてきている。

安全な航路ということで海の魔物が出ることもほとんど無いし、船内は客室として30人くらいが雑魚寝出来るスペースがあるのみだ。

ちなみにイノッチだが陸路でマギルまで走って行くとのことだった。

マギルの場所知ってるのかと思ったが、トリスがマギルの方角を大雑把に指差したので、その方角に向かって走るんだってさ。

さて・・・どうしようかな。

本でも読むか、それとも魔道具の開発でもしてみるか・・・

以前皆の為にイノッチの言葉がわかるようにする為の魔道具を作ろうとしたんだけど、イノッチと長く過ごしている内に、アリアとタァマちゃんは俺と同レベルくらいにイノッチの言おうとしていることが理解出来る様になってしまったので結局作ってない。

馬車も作っちゃったし、何かを作るとしたら時間が足りなくなったりするだろうなぁ。そうなると暇つぶしでやる事に困るなぁ。

アリアは料理の本を読んで勉強しているし、タァマちゃんはお昼寝中。マグロはさっき海に飛び込んで行った。

トリスが暇そうにしているからトリスを誘って何かするか。


「トリスー、俺にはわかるよ。トリスは今暇してるね。」


「私にもわかりますよ。ヨーヘーも暇してますね。」


「な、なぜそれを!?・・・まぁそういう訳だから一緒に暇つぶししようよ。」


「天井の染みの数を数えている人を見て暇じゃないと思うことは無いでしょう?私もヨーヘーの言うとおり時間を持て余していますね。装備の点検も終わってしまいましたし、天井の染みも数え終わってしまいました。それで何をされるんですか?」


「マジで!?天井の染みの数いくつだった!?別に知らなくてもいいんだけど、答えがあるなら聞いておきたい!」


さて、トリスと暇つぶしをしようとしてわかったことがある。それはやる事の無い者同士が集まっても結局やる事が無いのだ。

何か無いかと2人でウンウン悩んでいると、外から「うわっ魔物だ」という声が聞こえてきた。

魔物?なんでスカウトの自動探知に引っ掛からなかったんだ?

あ、ここ最近街の外にはイノッチの餌やりでしか出てなかったから切ってたんだっけか。

それよりも魔物が出たということはすぐに対処しなくちゃな。


「トリス!!行くぞっ!!」


「はいっ!!」


俺とトリスは勢い良く甲板に飛び出して魔物を探したが見つからない。姿を消せるタイプなのかと考え、声を出したであろう甲板にいた船員に魔物の位置を確認することにする。


「あぁ、魔物?ユックリンチャクのことかな?あいつなら船首にいるッスよ。まぁあんな・・「トリスっ!船首だっ!」」


船員の言葉を最後まで聞かずに船首に向かうと奴はいた。

無数の触手を持ち、ウネウネと動いている姿はおぞましい。こちらが近付いても全然反応を見せない大胆さ。紫色の体皮の毒々しさに俺とトリスは息を呑む。

あのウネウネした触手にトリスが掴まってしまったら・・・お約束的な展開になってしまうのだろう。想像しただけでドキドキしてしまうぜっ!


ユックリンチャク

体長20マールのサンゴ型の魔物。触手に麻痺性の毒を持っているが極めて微弱。戦闘経験のない子供でも怪我をせずに倒せるレベル。



お約束展開

※但しもっと大きかったら。


「くそぉぉぉっ!!小さすぎるわっ!!あれじゃお約束が期待できないっ!!」


「あの、ヨーヘー?お約束ってなんでしょうか?」


若干トリスの目が冷たくなった気がしたが気にしない。


「なぁあんたら、あれは放っておけばその内にいなくなるし、魔物っつっても全然危険はないッスよ?」


「危ない!出てきちゃダメだっ!こう見えても俺達は冒険者なんだ!あいつの処理は俺達に任せてくれっ!」


「いやいや、だからねあいつは全然危なくねぇんスよ。ははーん、魔物だから怖いんスね。わかった!ちょっと俺っちが追っ払ってやるッスよ!」


「やめてぇぇぇぇ!!追い払わないでぇぇぇ!!暇なの!すっごく暇で暇でしょうがないのっ!だからあいつと戦わせてぇぇぇ!!」


ペイッと船員がユックリンチャクを海に落としてしまった。


「「あああああああっ!!」」


「な、なんだ!?ダメだったッスか?もしかしてあれで遊びたかったんスか?兄ちゃん達変な趣味してるッスねぇ。」


折角発生した触手イベントが終わってしまった。くそ・・・どうしてくれよう。

チラリとトリスを見るとトリスもつまらなそうな表情をしている。

そういえばトリスってフラグを立てる才能があったよな。ちょっと実験してみるか。


「ねぇトリス。暇だけど、この船旅が無事に現地に到着出来るに越した事はないよね。」


「え?まぁ何も起きないのは良い事ですからね。このまま何事も無くマギルに着けば御の字です。」


・・・どうだ?

海面を見渡すが特に変化は見られない。

トリスの力を持ってしてもダメなのか。はぁ・・・もう寝ちゃおうかなぁ。

イベント発生を諦めて船内に戻ろうとしたところ、先程の船員が遠くの海を見つめて呟いた。


「・・・なんだありゃ?」

来たか!?と思い、俺もその視線を追ってみると、何かがこの船に向かってくるのが見えた。

だんだん近付いてくる物を凝視している船員の顔色がだんだん青くあんっていくのがわかった。


「あ・・・あ、あれは・・・シ、シーサーペントだぁぁぁっっ!!せ、船長ぉ!船長ぉぉぉ!!」


シーサーペント

体長20ミールの蛇型の魔物。硬い体皮を持ち、魔法に強い耐性を持っている。鋭い牙と強靭な顎を持ち、噛みつかれでもしたらその部位を確実に欠損してしまうだろう。全身の筋肉を使った締め付けは船も枯れ木のように折ってしまう。討伐は上級の冒険者推奨。


すっげーよトリスさん!!もうこれはフラグメイカーの称号を送らざるを得ないよ!でもね、これはやり過ぎぃぃ!!アックスシャークとかでよかったんだけどなーっ!!

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