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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
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88話 セリアル劇場

セリアル様へのお祈りを終えて、演劇の為にタァマちゃん達と別れた俺とアリアは、教会の出演者控え室でメイクをしながら台本の最終チェックをしていた。

台詞や振る舞いを頭の中でシミュレーションしながら、ミスが無いように準備をしているのだ。

しばらくすると王様っぽい格好をした司祭様が出演者を激励し、皆で中庭にある舞台袖に移動した。

舞台袖から中庭を見ると、中庭にはぎっしりと人が詰まっていた。マジかよ・・・こんなに観客いるのか。中庭に入りきれない人が教会の窓から覗いていたり、屋根に登ってまで見ようとしているのには驚いた。関係者くらいしか見にこないだろうと思っていたのだが、この世界ではセリアル様の人気は凄いらしい。

そんな中、タァマちゃん達は関係者席という壁際に用意された席にすでに座っているようだ。これだけの客の入りを見るとあの席がプレミアムな感じに見えてくるな。

うぅ・・・胃が、胃が痛い。

ふとアリアに視線を移すと、俺と同じ様に観客の多さにビビっているみたいだ。だって観客席を見て笑顔で固まってるんだもの。アリアを揺すってみると、涙目で口をパクパクさせながら観客席を指差して俺に何かを訴えかけようとしている。その指先は震えているのがよくわかった。そうだよな、最近はそうでもないとはいえ、俺と会うまではボッチだったアリアが、こんなにたくさんの人に目を向けられるとかもう拷問に近いだろう。

俺は震えるアリアの肩を抱いて落ち着かせようと試みた。

いきなり肩を抱かれたアリアはビクっとなったが、すぐに俺の腰に手を回し、その身を寄せてくる。それで少し緊張が解けたのか、ぎこちないながらも笑顔で「ありがとう」と言ってきた。


「アリア、この人数を前に演じるのは俺でも怖い。だから舞台の先は何も無いと思った方がいいよ。この舞台の上は1000年前のルドール王国だ。そしてアリアはセリアル様だよ。もう役になりきっちゃおう。」


「う、うん。そうだね。そうだよね。私はセリアル様。私はセリアル様。私はセリアル様。ヨーヘーがついてる。私はセリアル様。私はセリアル様。ヨーヘーがついてる。ヨーヘーはセリアル様」


なんかスイッチ入ったのかな?最後ちょっと怪しいワードが聞こえた気がしたが、アリアの震えは収まっているように見えるから、良しとしよう。頑張れアリア。


今回の劇は、セリアル聖伝記の一部分を演劇化したものだ。

物語はセリアル役のアリアが傷ついた人々を治療して、評判を上げていく事から始まる。

mob役の人達が、舞台上で配置に着き、監督が劇の開始を告げると、教会の鐘が鳴り響き、舞台の幕が上げられた。


うぅ・・・苦しいぃ・・痛い・・・等と呻くmob役の皆さん。

さぁアリア、出番だよ!

俺はアリアの背中をポンと叩いてアリアを舞台上に送り出してやった。


「皆さん、私が来たからにはもう大丈夫です。すぐに治してあげますからね。」


うん、練習通りだ。ちゃんと役に入れたみたいだな。それにしてもセリアル様の衣装だが、ちょっと派手過ぎやしませんかね?どこの聖女だって思うわ。いや、聖女役なんだろうけどさ、まだこの時点では聖女認定されてない設定なわけですよ。それなのにセリアル教の高位の僧侶が着るような煌びやかな服を着て登場するわけだ。なんかキラキラ光ってるんだよな。まぁ観客の受けはいいみたいだな。アリアが登場したら、何人もの観客が息を呑む声が聞こえてきたもの。

ちなみに聖女認定されてからはアリアの衣装が変わり、更に煌びやかになる。あの服を着て旅とかちょっと無理があると思うんですが。まぁ劇だし、細かい事はいいのかもしれない。

なんてことを考えていたら話が進んでいた。この演劇は4章からなる劇である。今は当然1章。怪我や病気で苦しむ人々をセリアル様が治療して回り、ルドール王国国王役の司祭様から聖女認定されるまでが1章。それが今から丁度千年前の出来事だそうだ。そう考えるとロマンを感じるなぁ。2章は聖女認定されたセリアル様のことを疎ましく思う連中に襲われるところから始まり、それを後の第一従者であるユードという人物と第二従者のヨウフェという人物によって救われる事になる。わかると思うが俺がユード役でウィレルがヨウフェ役だ。

ユードはもうセリアル様にゾッコンLOVE。何よりもセリアル様を最優先に考えるような人物で、その事に惹かれたセリアル様と相思相愛になっていく。ヨウフェは・・・なんというかおまけ感が拭いきれない。恋物語だとしたら、ヨウフェは愛し合う2人に付きまとうお邪魔虫にしか見えない。空気読めよと言いたい。劇中では3章の話になるが追っ手から逃げる際にヨウフェ1人で追っ手を引き受ける見せ場もあるわけだが、この死亡フラグっぽいイベントも普通に生き残って戻ってくるしな。ここで退場していれば美談になるだろうに。

第3章はそんな3人で色々な地域を旅しながら困っている人を助けるのが主な内容でぶっちゃけ盛り上がりに欠けるんだが、この話が多くの人の支持を受ける重要な話になっている。この章がないとセリアル教はここまで広まらなかっただろうと。

そして第4章はセリアル様とユードのラブストーリーだ。もう2章からラブストーリーっぽいのでお腹一杯なんだが、更にラブラブっぷりをアピールしてくる。正直胸焼けしそうなんだが・・・。

てか街の往来でこんなイチャツキを聖女ともあろうお方がするのだろうか。冷静に見ればただのバカップルにしか見えないんだがな。


「セリアル様、俺はどんな敵が来ようとも、どんな困難が待ち受けようとも、例え俺の命が散ろうとも、貴方を守り、愛し続けてみせます。」


「ユード、私もあなた無しでは生きられない。どんな時も例え千年万年経とうとしても、永遠にユードを愛し続けるわ。」


ここでユードとセリアル様、もとい俺とアリアの熱いキスシーンだ。ここホントにキスしちゃっている。アリアから熱い息が漏れてちょっとみなぎりかけたが、公衆の面前ということもあり、欲望と理性の勝負は、理性に軍配が上がった。

キスシーンでは観客席から感嘆の声が聞こえてくる。おぉ~という声や、はぁ~というウットリした声、中には爆発しろという不穏な声まで聞こえてきた。

そしてキスをしたままの状態で幕が下り、セリアル聖伝記の劇は無事に終了した。幕で遮られた観客席からは割れんばかりの拍手と歓声が聞こえてくる。うまく行ったようでよかった。

唇を離してアリアの顔を見ると、感極まったのか涙を流している。


「ご、ごめんね。なんだか胸が一杯になっちゃって。」


「俺も達成感で満たされてるよ。うまくいって良かったよね。」


「うん・・・うんっ!」


鳴り止まない拍手に包まれながら、俺とアリアは劇の成功を喜んぶのだった。




「皆さん劇は大成功です!聞いてください!この歓声を!これもセリアル様の思し召しですね!」


興奮した様子の司祭様が、役者や裏方の皆を集めて褒めまくっている。この劇は毎年やっているらしいが、ここまで好評を得た事はなかったそうだ。

教会関係者の人達は皆ニコニコしていて機嫌が良さそうだ。

司祭様の劇に対する感想や、セリアル様への感謝の話が1時間程続き、最後に皆でセリアル様に祈りを捧げて解散となった。司祭様・・・話長すぎるよ。話が長いおかげでカーテンコールをするタイミングを逸してしまったのは誰も触れてはいけない事なのだろう。


打ち上げはないらしいので、衣装を着替えてタァマちゃん達と合流したのだが、教会から出たところで50人くらいの人に囲まれてしまった。

何事かと思い警戒したところで、3人組の女性が俺の前に飛び出してきた。


「はぁ・・・ユード様ぁ、演劇素敵でした。私ユード様のファンになってしまいました!あの握手してもらえませんか?」


「わ、私も握手してください!」


「・・・抱いて。」


な、なにぃぃぃっ!?この俺にファンだとぉぉぉっ!?それと最後の子の目が怖いっ!

アリアはアリアで老人や男共に囲まれている。ただ触れてはいけないものの様に誰1人として1m以内には入ってきていない。


「ありがたやありがたや」


「おぉ・・・セリアル様よ・・・我らを導きたまえ。」


その騒ぎを聞きつけてどんどん人が集まってきている。

いかん、いかんよ!?これ凄い目立つ!さっきは役だからと割り切っていたが、今の俺はユードではなく洋平だ。一般市民だった俺にとって多数の人の目というのは慣れてない事もあり恐怖だぞ。アリアは元貴族だから、こういうのは社交の場で鍛えられてそうなもんだが、社交界デビューの前にハブられたらしいので当然慣れてない。結果、人々に拝まれてアワアワしている。

てかなんなんだ!?俺はユードじゃないぞ!?どうやって切り抜ければいいんだ!?魔物に囲まれた時よりやり辛いな!


「あぁんユード様と目があったぁ♪」


「違うわ!ユード様は私を見たのよ!」


「・・・ジュル」


最後の子ぉぉぉぉっ!?

これ以上ここにいると大切なものを無くしてしまう気がする。こうなったら・・・


「あぁーーー!?あれはなんだーーーー!?」


俺は遠くの空を指差して大声をあげた。



・・・誰も見ていない。心が折れそうになった。

涙が溢れるのを堪えつつ、魔法の袋からシーツを取り出して、アリアを引き寄せて2人でシーツを被り皆から見えないようにする。

ナイフでシーツにちょっと穴を開けて、そこから覗く建物の屋根を確認した。よし、いくか。


「ナーーーーウッ!!」


掛け声と同時にテレポートを発動。シーツの穴から確認した地点にアリアと2人で跳躍した。河童場の人、ネタ借りましたごめんなさい。

フワリと地面に落ちるシーツだったが、そこに俺とアリアはいない。そこに残されたのはタァマちゃんとトリスとマグロ。そして歓声を上げる人々だった。


「おぉーー!セリアル様の奇跡だっ!!」


「ありがたやありがたや」


「あぁ・・・ユード様ぁ」


「ユード様・・・かっこいい」


「・・・このシーツ、ユード様の残り香が」




「ゼェッゼェッゼェッ」


「ヨ、ヨーヘー、大丈夫?あの、ありがとね。」


テレポートによる副作用でごっそり体力を持っていかれてしまった。苦しくて立っていられないので、跳躍した屋根の上で大の字になって倒れこんでしまう。


「ハァハァ・・やっぱ・・・テレポートは・・・疲れる!・・ハァハァ」


インビジブルからフライで逃げればよかったと思ったが、一刻も早くあの場から逃げ出したかったんだ。 

5分くらい休憩をすれば息は整えられるだろう。この状態で見つかるとさすがに逃げ切れない気がするから念の為にインビジブルは掛けておこう。

体力が回復する魔法薬とかって無いのかなー?毎回こんな感じになるならテレポートはあまり使えない。緊急回避用としても絶対に安全な場所を見つけない限り使い辛いだろう。

しばらくすると息が整ってきたので、先程俺達がイリュージョンした場所を見てみると、数は減ったが何人かはまだ残っているようだ。トリス達の姿は見つからなかったから恐らく先に帰ったんだろう。

さて、それなら俺達も帰るか。なんだかんだで朝から何も食べてないわけで、腹も減ったし、帰っておせちとお雑煮を食べよう。


店に戻ってから、アリアとお雑煮を作っていると、タァマちゃん達の声が聞こえてきたので皆が帰ってきた事を悟る。

顔を出してみるとソン爺や毒セリアさん、マッスルさんとブリード氏もいるようだ。


「にゃぁ!お兄ちゃん!タァマのお腹がグーって言ってます!ご飯が食べたいです!カレーが食べたいです!」


「よーしよし、今日はお正月だからカレーじゃなくておせちとお雑煮だよー。もうちょっとで出来るからタァマちゃん手伝ってくれるかなー?」


「はいっ!手伝いますっ!お皿出せばいいですか?」


「うん、そうだね。お願いしていい?」


「にゃあっ!」


いつもの様に元気良く万歳してお返事したタァマちゃんは、テーブルにお皿を並べ始じめてくれる。うんうん、いい子に育っているね。


「ヨーヘー、先程の劇は面白かったぞぃ。今日は打ち上げも兼ねてパーっとやろうではないか!」


いつでもパーっとやってる気がするのは気のせいだろうか?気のせいではないはずだ。

おせちをテーブルに出してアリアが出来上がったお雑煮を全員に配った所で新年会兼演劇打ち上げパーティーが始まるのだった。

内容は昨日とさほど変わらない。

酔い潰れた人からアリアがリフレッシュを掛けていたから、いつもの朝の光景は見れないだろうと予想する。


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