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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
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85話 ペッタンペッタン

次の日の朝、俺の目元にはクマが出来ている。

アリアとの3度目のキスの後、彼女は自分のベッドに戻っていったわけだけど、俺はアリアとキスしたわけですよ。寝ようと思っても興奮して眠れるわけないだろう。アリアとのキスを何度も思い出しながら、時にはチーズで撮られたキスシーンを見ながら悶々としていたわけだ。

アリアとチュー。アリアとチュー。アリアとチュー。アリアとチュー。アリアとチュー。

アリアは俺が好き。アリアとチュー。アリアは俺が大好き。アリアとチュー。

あああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!

なんて感じで悶えていたら、いつの間にか朝になっていたのです。


今日は朝から演劇の練習があるのに寝不足だなーと考えていたら、隣のベッドからアリアが身を起こしたことに気付いた。


「おはよう、アリア良く眠れ・・・」


アリアの顔を見ると、俺と同じ様に目元にクマが出来ている。

お互いの顔を見てクスリと笑い合うが、同時に顔が熱くなるのを感じる。


その日の演劇の練習は、やはり寝不足や気恥ずかしさから、俺もアリアもミスを連発してしまうのだった。


ウィレルが俺の首もとのネックレスを見て悔しそうな表情をしていたのに気付いたが、気付かない振りをしておいた。

実はウィレルの事をちょっと尊敬していたりもする。アリアにフラれたというのに、こうして演劇の練習に出てきているからだ。多少ミスはしているが、何も無かったように振舞っていて、アリアに心配させまいとしているのがわかった。俺ならフラれた直後に当事者のいる現場で仕事なんて出来ないだろう。だからこいつのことは凄いなと思っているんだ。

まぁ俺がアリアに対する気持ちを認識できたのもウィレルのおかげとも言えるだろう。こいつがいなければ俺もアリアも今までのようになぁなぁの関係だったと思うしな。言ってみれば、俺達の仲を進展させてくれた存在であるわけだ。俺はウィレルとは仲良くは出来ないだろうけど、彼に対して感謝はしようと思う。

しかしこいつは俺をかなり不安にさせてくれた奴だ、意趣返しにちょっと勝ち誇った顔をしてやった。ちょっと大人気ない気もするが、俺からアリアを奪おうとしたんだからこれくらいしてもいいだろう。アリアは俺のもんだ!

俺の顔を見たウィレルは若干頬を引きつらせたが、すぐに視線を逸らして台本の確認をしている振りをするが、台本を握っているところに皺がよっているのでかなり悔しいのだろう。ふっ、俺の大勝利だ。傍から見たら俺はとてもウザい男だろう。でもさ、ちょっとくらいいいじゃない!今回かなり焦ったんだよっ!


演劇の練習も終わり、一旦まんじゅう屋に戻ったが、なんか凄い疲れていたので、手伝いを断って、シーニュさん達に挨拶だけ済ませてから、俺とアリアはそれぞれベッドに倒れこむのだった。

もう限界だ。1徹くらいならなんとかなるが、今回のは精神的にキツかった。ちょっと眠りたい。アリアも同じだったようで、すぐに寝息を立て始めたので、俺も意識を手放すことにした。


何時間くらい寝ていたんだろう。目を覚ますと外は真っ暗だった。

いつの間にかタァマちゃんが俺に抱きついて眠っていた。あぁやっぱりタァマちゃんは可愛いなぁ。

隣のベッドを見るとアリアはまだ寝ているみたいだ。

皆の夕飯作らなくちゃいけないと思い、時間を確認すると、時計は4時を指していた。

・・・4時!?4時って朝かよっ!?演劇の練習が終わったのが15時で、帰ってからすぐに寝たわけだから、12時間半くらい寝てしまったのか。どんだけ寝たんだよ・・・。未だに眠り続けてるアリアはある意味すげーわ。

皆は夕飯は大丈夫だったのかな?あ、イノッチのご飯あげてないっ!ヤバイ、絶対拗ねてる。


「にゃぁ・・・」


「あ、タァマちゃんごめん、起こしちゃった?」


「ふみゅ・・・お兄ちゃおはよござす・・・。」


「まだ暗いから寝てていいよ。」


「だいじょぶですぅ。」


ふわぁ~っと欠伸をして目をこすり、グイーっと体を伸ばすタァマちゃん。しかしまだ眠そうだ。


「ふみゅ・・お兄ちゃ、昨日は疲ーてたみたーったからぁ、トリシュ姉ちゃが寝かてあげよて言ったですぅ。」


寝惚けてるのか変な口調になっているが、言いたい事はわかった。


「アリアもあの調子だとずっと寝てたんでしょ?夕飯とか大丈夫だった?」


アリアの服装は寝巻きじゃなかったので、俺と同様にあのまま寝続けていたはずだ。


「えと、ごはんは爺ちゃが外に食べに行こて言ったからぁ、食べ物屋さんに行ったですぅ。イノちゃんにもお肉持って行ったですぅ。」


「そうだったんだ。イノッチにご飯あげてくれたんだね。ありがとうタァマちゃん。」


「ふみぃ・・・タァマ頑張りまし・・・」


タァマちゃんは台詞の途中で意識が飛んだらしい。ぽてんと布団に倒れこんでスヤスヤと寝息を立て始めている。

寝てしまったタァマちゃんに布団を掛けてあげて、俺は何をするか考えた。バッチリ目が覚めてしまったから二度寝という選択肢はないな。

うーん、今日は12月24日か。地球ではクリスマスイヴなんだよな。この世界にはジーザスの人はいないから祝う事はないだろうし、そんな風習もないだろう。俺もクリスチャンではないので、そういう文化のない世界でまでクリスマスを楽しむ必要はないだろう。

どうしようかな・・・あと1週間で年明けなんだよな。・・・あ、餅食いたいな。


「よし、つくか。」


魔法の袋から固めの木材を出して、クリエイトで臼と杵を作成した。形はうろ覚えだったが、こんなもんだったと思う。もち米が潰せればいいんだから、たぶん大丈夫だろう。

明るくなったら皆を誘って餅をつこう。今の内にもち米を水さらしにしておいた方がいいかな。

そうだ、ソン爺も食うだろうしチューブも作っておかないといけないよな。

等と、色々準備をしていたら太陽が昇ったのか、外が明るくなってきた。そろそろ皆起きだす時間だろう。


しばらくすると部屋のドアがノックされたので、ドアを開けるとトリスが立っていた。


「あ、ヨーヘーおはようございます。昨日はお疲れだったみたいですね。」


「おはようトリス。昨日は寝ちゃってごめんね。」


「いえいえ、アリアはまだ寝てるんですか?・・・今更ですけど、この部屋にはアリアやタァマちゃんも一緒にいるので、なんだか私だけ仲間はずれにされている気がしますね。アリアにも事情があって、ヨーヘーと一緒の空間でないと眠れないのはわかってはいますけど、ちょっと羨ましいですね。私も引越してきたいですけど、さすがに狭いですからね。」


「あはは・・、そ、そうだ。トリス、今日餅つきをしようと思うんだけど、準備手伝ってくれない?」


「餅つき?それはなんですか?」


「えっと、俺の故郷の文化でね。年末に餅という食べ物を作って、年明けに食べてたんだ。だからこれから餅を作ろうと思って準備してるんだよ。」


「まぁ!そうなんですか!勿論手伝わさせてもらいますよ。」


作った臼をトリスと一緒に表に持ち出して、まんじゅう屋の邪魔にならないところに設置した。この通りは今でこそまんじゅうを買いに来る客で人通りがあるが、それ以前はこの辺の住民しか通らないような人通りの少ない道だったので、まんじゅう客の邪魔にさえならない場所なら、空いているスペースはいくらでもあるから、ここで餅をついても問題ないだろう。

トリスと餅つきの準備していると、まだ開店前だというのにまんじゅうを求めて開店を待っている常連さんに声を掛けられた。


「よっ!まんじゅう屋の若旦那!今日はタァマちゃんは一緒じゃねぇのかい?」


「どもー、タァマちゃんはまだ寝てますね。まだ開店まで2時間くらいありますけど、今から待ってるんですか?」


「おうよっ!出来立てを食うには開店と同時に買うのがいいかんなっ!ところで若旦那、そいつぁ何だい?」


「こいつぁ餅っつー料理の調理道具でさぁ。・・・これは調理道具です。俺の故郷の料理を作ろうと思って準備してるんですよ。」


いかん、なんか口調がうつってしまった。この常連さんはゲンさんと言って、初日にまんじゅうを食べて以来、すっかりまんじゅうのファンになってしまったお客さんだ。小粋のいい口調が特徴の気のいいおじさんである。


「へぇ~、どんなものなんだい?」


「えっと、白くて伸びるもの?俺の故郷では年明けに食べるものなでんすよ。」


「なんでぇそりゃぁ?食って大丈夫なものなんかい?」


「あ~・・・うまいことはうまいんですけど、俺の国では最も危険な食べ物でもありますね。これを食べて毎年人が死んでますから。」


「し、試練かなんかか?恐ろしい食いもん食ってんだな・・・。そんなに体張ってまで食うもんなんか?」


「いや、そういうわけじゃないですけど、なんか食べないといけないようなそんな気分にさせられるというか・・・。文化ってそういうもんじゃないですか?」


「ん~、よくわかんねぇな!」


「ゲンさんも一緒にやります?男手があったほうがいいですよ。たぶん楽しいですよ。」


「おっ?いいんかい?そんじゃいっちょ手伝ってやるかっ!」


「ありがとうございます。お昼前に始めますから、そのくらいになったら来てください。」


俺の誘いに対して、おうよっ!と威勢のいい返事をしてくれたゲンさんと別れて部屋に戻ると、丁度アリアが起きたところだった。


「ヨーヘー、トリスおはよ。もう朝だったんだね。ビックリしたよ。」


俺も15時間寝ていたアリアにビックリだよ。


「アリア、今日は餅を作るから手伝ってね。」


「え?お餅?もち米から作るやつだよね?うん、わかった。ちょっと顔洗って・・・お風呂入ってくるね。」


「あ、そういえば昨日風呂入ってなかったな。俺も入るかなー。」


「そう?じゃあ一緒にいこ。トリスも行かない?」


「はい、ご一緒しますね。」


俺は寝呆けているタァマちゃんを抱えて、アリアとトリスの後について風呂場に向かったのだった。

一昨日お互いの気持ちを伝え合った仲だ。もしかしたらバスタオルワンピースを脱いでくれるかもしれない。

そんな邪まな期待は見事に裏切られたが、アリアとの距離はなんとなく近くなった気がする。


風呂から出て、朝食を作る前ににマグロに朝食は必要かを確認しに養殖場に聞きに行ったが、マグロの姿が見えなかった。


「ねぇトリス、マグロがいないんだけど、どこにいるか知ってる?」


「トロさんでしたら、先日夕食を食べに行った時に、お酒をアンデルセンさん達と飲み交わしまして、いつものように潰れてしまったんです。連れてこれる人がいなかったので、お店の店長さんのご好意もあって、酔い潰れた4人はお店に置いてきてしまいました。」


よし、俺達以外にも迷惑を掛け始めやがったな。あいつは酒に弱いというわけじゃないんだが、1杯飲むと調子が上がって潰れるまで際限なく飲むのがいただけない。更にソン爺やマッスルさん、毒セリアさんといった飲み仲間がいることでブレーキがかなり緩くなっているからいけないわけだ。これ以上被害が拡大しない内に、二日酔いを回復させる魔法を見つけないといけないな。以前二日酔いを治すと調子に乗って飲むだろうと考えていたが、辛い記憶など最初から無かったかのように毎日懲りもせずに飲みやがるからどうしようかと思っていたが、人様に迷惑を掛けるようなら手を打たないといけない。とりあえずアリアにリフレッシュや他の神聖魔法を試して貰うことにしよう。それでダメなら新しく魔法を作るか、確か二日酔いってのはアセトアルなんとかってやつが原因なんだっけか?要はこれを消せればいいんだろ。実験体の確保には苦労しないのでアリアの魔法がダメなら研究することにしよう。


マグロがいないのでそのまま4人で朝食を食べて、少し休憩。お昼前まで読書をしたり、台本の予習をしたり、店の手伝いをしたりして過ごしていると、いつの間にかお昼になっていたらしく、ゲンさんがやってきたので、シーニュさん達に店先で遊んでますと伝えて外に出た。

よし、臼とか盗まれていないな。まぁ盗難防止にグラビティを掛けてかなり重くしてるから、盗むとしてもかなりの労力が必要になるだろう。そんな苦労をしてまで盗むのであれば盗られてもいいかなとも思える。どうせすぐに作れるし。

もち米はあと20分もすれば蒸しあがるだろうから、臼と杵をお湯で温めておこうか。

待ってる間に皆に餅のつき方をレクチャーして、最初は俺が杵で餅をついて、アリアが餅を折ることになった。

さて、もち米も蒸しあがった事だし、餅つきを始めますかー!


あそーれ、よっ!ペッタン。はっ!ペッタン。ほっ!ペッタン。サッ、とぉ!ペッタン。おりゃ!ペッタン。よいさ!ペッタン。ササッ、どっせぃ!ペッタン。チェスト!ペッタン。ホヮタァ!ペッ・・・


わかると思うが、サの部分がアリアだ。いいリズムで餅をつく事が出来ている。とりあえず30回程ついて、打ち手をゲンさんに交代し、俺が餅を折る役に代わる。


「若旦那っ!ハッ!こいつぁ!ホッ!意外と、ヨッ!面白ぇな!!」


「そうでしょー。結構いい運動にもなりますしねー。」


何かがゲンさんの琴線に触れたらしく、上機嫌で杵を振り下ろしていた。リズム良く餅をついていると、まんじゅうを買いに来ていたお客の目にも留まり、俺達の周りには餅つきを見学するギャラリーの人並みが出来ていた。そんな中、酔っ払いーズが戻ってきたようだ。毒セリアさんは仕事に行ったのか、姿が見えないようだが、マグロ、ソン爺、マッスルさんが俺達の前までやってきた。


「ヨーヘー、これは何をやっているんじゃ?」


初めて見るであろう光景に疑問の声を投げてくるソン爺や、周りのギャラリーに餅つきの説明をすると、マグロが自分もやると名乗りあげてきた。


「なーっはっはっはっ!面白そうじゃないかっ!ヨーヘー、ミーにもやらせてくれないか?」


餅の折り方等を軽く説明してマグロと交代してやった。

すると打ち手の方も選手交代のようだ。


「にゃぁ!力の限り打つのですっ!打ち抜くのですっ!」


杵を両手で抱えるように持つ姿はとても愛らしい。うまくつけなかったとしても、怪我をするのはマグロだから問題ないだろう。


「ギョギョッ!?タ、タァマ様!?な、なぜその木槌をミーに向けているのですか・・・?」


マグロ、若干腰が引けてるぞ。

タァマちゃんが杵を振りかぶり、振り下ろすタイミングで何を血迷ったのか、動揺したマグロが餅を折る。


グシャァァァ!!


「ぎょぁぁぁぁああ!!手が!ミーの手がぁぁぁ!!こ、こんなになってしまったぁぁぁ!!」


なんだろう?ドリフでこんなコント見た事あるぞ。


その後も周りにいたギャラリーも含めて皆で餅つきを楽しんだ。


さて、出来た餅だけど、俺もつく、私もつくという状態だったので、かなり大量に作ってしまったので、年明け用の分を確保して、残りはそこにいる人達で食べてしまう事にした。

きな粉餅、からみ餅、あんこ餅の3種類を作成。試食してみたが、思いのほか上手に出来ており、皆にも好評のようだ。皆自分の家でもやりたいと言ってくれたが、この世界はもち米あるんかな?さすがに豆じゃできないよなぁ。

ブリード氏がもち米を見て商売になると思ったのか目を光らせていたけど、もち米の入手方法が俺の持ってるやつだけだからなぁ。この世界のどこかで生産しててくれれば道はあるだろうけどなぁ。クローンで複製して提供してもいいが、俺達は年が明けたらキレースを出て行くことになっている。そこで供給が止まると商売としてはダメだろう。

もち米をリバースで籾の状態まで戻してから頑張って生産して貰うのも考えたが、俺達がキレースにいる期間では籾まで戻らないんじゃないかと思っている。このもち米を買ったのが6月だし、もち米の収穫時期ってたしか9月とか10月だよな?何時精米したのか知らないけど、10月だとしたら9ヶ月前だ。10倍速で戻しても1ヶ月は掛かるんじゃないか?うん無理だな、諦めて貰おう。

ちょっとしたアクシデントも発生したが、餅つきイベントは楽しく終了したのであった。

アクシデントというのは、食い意地の張ったソン爺が餅を喉に詰まらせて、天に召されそうになるという定番のアレだ。さすが餅だぜ、日本で一番人を殺している食物だけのことはある。なんとなくソン爺がやらかしそうな気がしてたから、事前に用意しておいたチューブを、口の中に刺し入れて風魔法で餅を吸引して取り除いてやり、ソン爺を黄泉の国から連れ戻したわけだ。

こうして1人の犠牲者も出すこと無く終了したのだった。

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