86話 年越し
はい、年末です。
今日が年末ということは、明日はもう新年なのです。
というより、あと6時間もすればもう来年です。セリアルドール暦1000年ですね。こういうミレニアムな瞬間に立ち会えてちょっと嬉しかったりもします。
思い起こせば、今年は今まで生きてきた中で一番と言っていい程くらい衝撃の1年だったと思います。
その中で一番印象に残っているのは、なんといってもこの世界に来た事。こんな体験初めてでした。まぁ何度もあってたまるかって話ですけどね。
アリアと出会って、ミイ師匠に色々教えて貰って・・・地球にいた頃は高望みし過ぎて就職に失敗したりと散々だったけど、グロスティアに来てからは、毎日が目新しいことの発見だったりで、充実した日々を送っていると思いますね。この1年は総合してこう言えるでしょう。楽しかったと。だから、今まで助けてくれた人や大切な仲間、知人等に感謝しながら新年を迎えようと思います。
さて、そんなわけで年末も年末。12月31日なわけだ。今日の出来事としては、昼間に俺とアリアは明日公演予定のセリアル様劇場の最終リハーサルを行っていた。まだ不安な部分はあるが、今まで一生懸命練習してきたおかげで、結構見れるものになってると思う。
この劇で一番衝撃を受けたのは、セリアル役であるアリアと、旦那従者のユード役である俺のキスシーンが追加されたことだった。元々台本にはなかったんだが、ついこの間追加された。監督やリーリアさんにどういうことかと確認したら、セリアル様と旦那様の深い愛を表現できるし、その方が盛り上がるとのこと。リーリアさんは「あなたとアリアさんなら問題ないと思ったから、私が監督に提案したの。」とイタズラっぽく笑っていた。余分なことを・・・。公衆の面前でキスとか俺のメンタルが持つかどうかわからない。石とか飛んでこなければいいなぁ。リーリアさんは、この前の告白イベントが発生しなくて、俺とアリアが未だなぁなぁの関係のままだったらどうするつもりだったんだろう?まぁ、アリアとはお互いが好きでいる事を確認出来たし、初めてのチューを済ませた今の俺なら今更キスくらいじゃ全然動じないけどな。・・・ヤッベー、またアリアとキスできるよ。ど、どどどどうしよう。嬉しいけど、嬉しいけども!うまくできるかな?歯をしっかり磨いて、ついでにクリーンも掛けて清潔にしておかないといけない。アリアは嫌がってないよな?嫌だと言われたらすげーへこむ自信あるわ。やばい、めちゃくちゃ心配になってきた。
と、動じない俺はクールに構えているのだった。
ごめんなさい、俺ウソつきました。かなり舞い上がってます。
俺達がリハーサルをしている間、タァマちゃんとトリスとマグロはマジカルハウスと借家の大掃除を行ったらしい。隅々まで綺麗になっていたなー。タァマちゃんは虫がほとんどいなくて物足りないと言っていたけど、いない方がいいんだからね?
そして今、俺とアリアは一緒におせちを作っているのだ。何日か前から材料は用意してあるし、手間のかかる物は事前に作ってある。あとは残りの料理を作って箱に詰めるだけだ。地球から持ってきた食材では、日本のおせちを完全再現することは出来なかったが、グロスティアにある似たような食材でカバーしてみた。例えば栗きんとん。俺が地球から持ってきた食材の中に栗はなかったんだけど、この世界に似たようなものはあったんだ。名前は山ウニという生き物だ。名前に関してはつっこまないでおこう。ウニだって海の栗って漢字を書くもんな。この世界では逆なんだろう。漢字で書くとすれば、山海栗か。山なんだか海なんだかわからんウニですな。そんな山ウニの情報を聞いて、生息しているらしい場所に行ってみたんだけど、そこには木もないのに地面に栗・・・もとい山ウニがたくさんいた。こいつらは草や落葉なんかを食べているらしい。海栗が陸上で生活できるように進化しましたって感じの生物なんだろう。しかし味や食感だけでなく、殻を割った中身の見た目まで海栗ではなく、栗そっくりだったのには驚いた。まぁ今回はその方が都合がいいのでツッコまないでおこう。海にいるウニはちゃんと普通のウニだったんだけど、陸に上がっただけで何故こうなった?と思わなくも無いが、地球の常識で考えちゃダメなんだろう。こういうもんだと思う事にする。
とにかく、そんな感じで代用品を見つけて、おせちを完成に近づけているのだ。
「うぇーん、おせちって種類がたくさんあって大変だよぉー。」
俺の隣で伊達巻を切って並べているアリアが、おせちの品数の多さに泣きそうになっている。今回は39品目だからな。きり良く30にしようかと思ったんだが、奇数じゃないといかんと昔婆ちゃんに教えられた事を思い出して9品増やしたのだ。増やした理由は感謝の念も込めてサンキューで39にすることにした。ただの言葉遊びだね。まぁそのおかげで、現在俺とアリアは苦労しているわけだが。
「頑張れアリア!なんとしてでも年内に終わらせよう!」
「うん、絶対皆で一緒に年越しするんだから、絶対に終わらせてみせるよ!」
0時が近付いて終わってなかったら作業を中断すればいいと思ったんだが、折角やる気を出しているのに水を差すのも野暮なので黙っておいた。あ、そうだ。ソバも用意しないといけないな。おのれ・・・また1品増えてしまった。こうなったらブースト使うか!?
俺達がヒーヒー言ってると、途中から救世主トリスが手伝ってくれたので、おせちは21時頃になんとか完成した。ちなみにタァマちゃんはつまみ食い担当だ。
マジカルハウスを出て自室に戻ると階下から賑やかな声が聞こえてきた。夕方からずっと宴会をしているらしい。俺とアリアはおせちを作っていたから、彼等に出す料理はシーニュさんが用意してくれたみたいだ。
1階まで降りると、タァマちゃんが俺達の存在にいち早く気が付く。
「にゃぁ!お兄ちゃん、お姉ちゃん、ご飯作りはもう終わったですか?」
「うん、終わったよ。こっちは随分賑やかだね。」
「はいっ!にゃんだか皆いつもより楽しそうですっ!」
「おーヨーヘー!やっと降りてきたか!ほれ、お主もこっちに来て飲め飲めっ!今日は逃がさぬからの!」
「さぁヨーヘーしゃん。私の隣に来てくらはい。いつも介抱しれ貰っれますから、お礼も兼ねて私がお酌してあげますよぉ。先程までアリアさんと上でしけこんでいたんれしょぅ?様子を見に行っらロリスさんも交えて・・・不潔っ!不潔です!だからぁ・・・今度はぁ、私を抱いてくらしゃーい。」
嫌だ。あそこには行きたくない。毒セリアさん絶好調であるな。待てトリス、毒セリアさんは酔っ払って呂律がまわっていないだけだから!胸がロリって言った訳じゃないから!だから自分の胸に手を当ててブツブツ言うのはやめなさい!
それにしても毒セリアさんはもうベロンベロンじゃないか。思考がちょっとお下品になっていらっしゃいますよ?そんな状態だと狼さんに食べられてしまいますよ?
「ヨーヘー狼さんなら大歓迎れすよぉー。」
やめて、トロンとした目で俺を見ないで。し、舌なめずりしなで!どっちが狼かわからないよ!?
「あはは、ヨーヘーはなんていうかあれだよね?ギルド受付嬢にモテる才能とか持ってるのかな?」
アリアさん。笑ってるつもりなんでしょうけど、台詞以外が全然笑ってないです。ムッとした表情で「あはは」とか言ってもねー。そして俺の腕を掴むのはいいんだけど爪が食い込んでいるんですけど?
「ヨーヘーさぁぁぁん、はやくぅぅ。お姉さん体が熱いのぉぉ。」
いや、もう黙って。お願いだから。
俺は毒セリアさんから少し離れた所に座った。というより座らされた。
俺の両脇にはアリアとトリスがガッチリとガードしていて、後方はタァマちゃんが背中にブラーンと下がってるので防御面は完璧だ。
ソン爺の薦めで並べられている料理や酒を飲み、年末を楽しんだ。シーニュさんの用意した料理は塩加減が絶妙で、美味しく頂く事が出来た。後でこれらの料理も作ってみよう。
両隣に座っているアリアとトリスも、ソン爺に薦められて酒を飲んでいるみたいだ。君達未成年だよね?
その事を聞いてみると、この世界では学校を卒業する歳になったら飲酒はOKらしいから、法的にはまぁいいのだろうが、法が良くても体がOKとは限らない。
案の定2人はいつもよりテンションが高くなっている。あまり飲み過ぎないように見張っておくとしよう。
宴は楽しく進み、皆も結構お酒がまわっているようだ。アリアやトリスも紅潮しているし、かくいう俺も体が熱くなってきている。
皆を見回していると、隣に座らなかったことで不満そうにしていた毒セリアさんが、料理を挟んだ俺の前にいつの間にか移動してきており、体育座りをしているのに気が付いた。
あの、毒セリアさんや、俺の正面でそんな座り方をしてるとパンツ見えちゃい・・・いや、見えてますよ?毒セリアさんは黒か紫だと思っていたんだが、意外な事に可愛いピンク色だった。
「くふふ、えいっ!」
俺の視線に含み笑いをした毒セリアさんが・・・飛んだ。
「ぐふぉっ!?」
そして胡坐をしている俺の上に尻から着地。超痛いんですけど・・・。
「うふぅー。ヨーヘーさぁん。私のパンツ見ましたねぇ?いけないですねぇ?責任とってくらさぁい♪」
責任取れとが言いつつ、俺の下半身に自分の下半身を擦り付けてくる毒セリアさん。
「うふふぅ、ヨーヘーさぁん。・・・あっ、なにか固いものが」
「な、ななななな何やってるんですかっ!!離れてっ!離れてくださいっ!!離れろーーー!!」
「そうですっ!セリアさんそこをどいてください!そこは私の場所ですっ!」
「トリスの場所でもないからね!?ヨーヘーは私が好きなんだからっ!」
「いつもアリアばっかりずるいですっ!」
「ずるいってなんのこと!?」
「いつもヨーヘーの傍にアリアがいて私が入り込めないです!アリアに遠慮してあまりアプローチを掛けていませんけど、今日は言わせて貰います!私もヨーヘーが好きなんです!私にもヨーヘーを分けてくださいっ!」
「ダ、ダメよ!ヨーヘーの事は私が一番好きなんだから!」
「私だってヨーヘーに御魂を捧げた身です!エルフでその行為をするということは、ヨーヘーの傍にずっといるという意味なんです!重みが違いますよ!それに対してアリアはただのパーティメンバーでしょう?ほら、私の方が関係的には重いです!」
「それはエルフの風習でしょ!ヨーヘーはエルフじゃないもん!関係の重さで言うなら、こ、この前のヨーヘーの誕生日の時に、さ、3回もキスしちゃったもん!それもほっぺじゃないわ。唇を重ねたの!これはもうただのパーティメンバーじゃないわ!」
「く、口同士でっ!?ヨーヘー!?」
反射的に顔を背けたが、トリスにガシッっと頭を掴まれ、そのままグイッっとトリスと向き合うように首を回される。そして何を思ったのかトリスは俺の口にキスをしてきた。
「あーーーーーーーーーっ!!?」
「これで対等ですよね?私もヨーヘーとキスしちゃいました!」
「わ、私のはヨーヘーからキスしてくれたんだからっ!」
「むぅぅぅぅっ!ヨ、ヨーヘー!私にキスしてくださいっ!」
「それに前ヨーヘーから結婚してほしいって言われたもーん。」
「なっ!?け、結婚!?2人の仲はそこまで・・!?ヨーヘー!私も、私とも結婚してください!」
「にゃあ!タァマもお兄ちゃんと結婚したいですっ!」
「うふふーヨーヘーさぁん、ヨーヘーさぁん♪お姉さんと良い事しましょ♪チュー」
「「とりあえずセリアさんは離れなさいっ!」」
なんなのこれ・・?
ダメだ。ついて行けない・・・酔っ払い怖い・・・。
トリスも暴走してるっぽいし、アリアもメチャクチャだ。毒セリアさんに至っては油断すると食われる気がする。
「ほっほっほっ、熱いのぅ。そして前途多難じゃのぅ。ヨーヘー、アリア嬢とトリス嬢はともかく、セリアはお主がこの街を出ることになると離れ離れになってしまうじゃろう?どうじゃ?セリアを抱いてやっては。良い娘じゃよ、ほっほっほっ。」
うるせぇよクソジジイ。油注いでんじゃねぇよ。
「ヨーヘーさぁん。らいてくれるんですかぁ?いいれすよぉ。私はころも10人ほしいんれすぅ。さっそく1人目いっちゃいまそー。」
恐ろしい事を言いながら、毒セリアさんはパンツを脱ぎ始めてしまう。
「ちょっ!?脱がなくていいから!?あっ!?どこ触って!?アリア!トリス!俺が大変っ!!喧嘩してないで助けてーーーっ!!ヘルプーーー!!きゃーーーーーっ!!」
「「コラーーーッ!!」」
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そんなドタバタした年越しでした。
千年目というメモリアルな年越しの筈なのに台無しである。これでいいのか?
今年はお付き合い頂きましてありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
良いお年を!




