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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
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82話 誕生日

まんじゅう屋をオープンして、あれから2週間が経過した。

なんと今では、まんじゅう屋の前には行列が出来る程の人気っぷりなのだ。開店当初の閑古鳥がウソのようである。口コミやチラシ、紙袋の効果もあり、日に日に来店するお客の数が増えていった。さすがにシーニュさん達3人では手が足りなくなってきたので、本店からのヘルプを呼んだり、俺達も演劇の練習以外の時間は手伝うようにしている。

演劇の練習の無いタァマちゃんとトリスは、1日中手伝っているみたいだ。タァマちゃんなんて常連さんに可愛がられるようになり、すっかり看板娘として活躍している。何日か前に、タァマちゃんに対して獣臭い食い物なんて食えるか、というクレームをつけてきた奴がいたので、風魔法で目の前の海に放り込んでやった。買いたくないなら態々文句言いに来ないで最初から来るなと言いたい。本音を言うと、可愛いタァマちゃんを汚い物を見る目で蔑んできたのがムカついたのでやりました。海に落とした後、浮かんでくる前に、氷魔法で海面を直径20mの範囲で凍らせてやった。クレーマーは水中ですっげー慌ててたな。何とか岸までたどり着き、こちらを睨もうと顔を上げた所で、逆にウチのお客さん達全員から睨まれて、あっちにぶつかったりこっちにぶつかったりしながら逃げていったのは傑作だった。タァマちゃんもお客さん皆から慰められていて、心のダメージは無いようだった。


演劇の方もセリアル様が題材の為、アリアが手を抜いてくれない関係でかなり真剣に取り組んだというか、組まされたというか・・・。そのおかげで、神父様からも褒められるようなレベルになってきているので、9日後の大晦日に上演する劇はいい物になるんじゃないかと思っている。一生懸命取り組んできたから、練習もかなり楽しく思えてきた。

ただ、もう一人の従者役のウィレルという男が、この2週間アリアに色々アプローチを掛けていてなんかムカムカする。プレゼントを渡したり、食事に誘ったりしていて、アリアも楽しそうに話をしているので、この点に関してはなんか面白くない。


さて、今日は12月22日である。

俺は今1人で海を眺めていた。誰が見ても背中に哀愁を漂わせているように見えるだろう。実際落ち込んでいるのですよ。

実はさっき、アリアの機嫌を損ねてしまったのだ。原因は伝達の不備なんだけど、たしかに言わなかったのは悪いと思うが、自分から言うようなことでもないので反省しようがないのだ。

ただ、結果アリアの機嫌を損ねてしまう事になり、微妙にショックを受けているので、少し落ち込んだ心を落ち着かせようと海の波を数えながら心を慰めていたのだ。

本来ならタァマちゃんで心のケアをするのだが、今回はアリアに連れて行かれてしまったので自力で立ち直るしかない。

事の発端は今朝の出来事だった。


アリアと一緒に朝食を作っている時に雑談していたんだ。


「今日もいい天気で良かったねー。」


「あぁ、そうだね。劇の当日も今日みたいに晴れるといいね。」


「千年祭までもうあと10日だよ。すっごい楽しみだよね。皆と一緒に色んな所を回ろりたいなー。」


「あー、今日は年明けまであと10日ということは、今日は22日かぁ。俺も23歳になったんだなぁ。」


「・・・は?」


「いや、俺の誕生日って12月22日だからさ。今日で1歳増えて23歳になったというわけ。」


「・・・ちょっと待って。今日がヨーヘーの誕生日なの?」


「うん、そうだけど。」


「なんで今まで教えてくれなかったの?」


「え?今まで聞かれなかったし、自分から言うような事じゃないしさ。」


「それでもっ!私は教えて欲しかったよ!!当日に言われたんじゃ何も準備できないじゃない!!」


「えー・・・」


「もうっ!そういうのはちゃんとお祝いしないとダメだと思う!」


「いやいや、別に皆と一緒にいられたら嬉しいし、祝ってもらえなくても構わないよ。」


「それじゃ私の気持ちが収まらないのっ!もうっ!私朝ご飯いらないから後はお願いね!!」


と、こんな感じで機嫌を損ねたアリアは、タァマちゃんとトリスを連れてどこかに行ってしまったのだ。

そんなわけで俺は一人で海を眺めているのであった。

俺は皆で一緒に過ごせれば良かったんだけどなぁ・・・。

お昼まで海を眺めていたがアリア達は帰ってこない。もしかして愛想を尽かされてしまったのだろうか?いや、誕生日を言わなかっただけで愛想を尽かされるような間柄じゃないはずだ。そう信じたい。

とりあえずアリア達には謝らないといけないな。ただ謝るだけじゃダメだと思う。ちゃんと悪かった所を理解した上で、反省して謝らないといけないよな。こういう時は相手の立場に立って考えた方がいいだろう。

例えば、いきなりアリアから「今日私の誕生日のーウフ♪」と言われたとする。うん、俺は焦るだろうな。アリアのお祝い事だから全力で祝ってあげたいと考えるだろう。しかしいきなり言われたわけだから、勿論なんの準備もしていない。・・・確かになんでもっと前に教えてくれなかったのかと思うだろうな。当然準備期間が少ないのでアリアに満足の行くようなお祝いをしてあげられないかもしれない。それはちょっと不甲斐無いな。

アリアがどう感じたのかはわからないけど、俺なら満足に祝って上げられないことを悔やむだろう。・・・そういえば俺もアリアの誕生日どころか、他の皆の誕生日すら知らねぇや。いつなんだろう?この失敗を繰り返さないようにちゃんと聞いておかないとな。

とりあえず、正解かわからないけど謝る理由は見つかった。


その後はイノッチにご飯をあげに行くついでにイノッチに慰めてもらったり、店を手伝いながらアリア達が帰ってくるのを待っていた。するとトリスとタァマちゃんが昼過ぎに2人で帰ってきた。アリアの姿は見当たらない。

トリスにアリア所在を聞くと、さっきまで一緒に買い物をしていたが、アリアは求めている物が見つからなかったらしく、もう少し探してから戻ると言っていたそうだ。

その時にアリアの知り合いっぽい男に話しかけられて、アリアがその男性に探している物が見つからないと伝えると、その男はそういう物が売っている店をいくつか知っていると言って、アリアと一緒に商店街の方に向かったと言っていた。

アリアからは先に戻っててくれていいと言われたそうで、アリアも男性と話してて楽しそうにしていたし、その男性も演劇を一緒にしている人物だとわかったこともあり、トリス達はそこでアリアと別れて帰ってきたんだとか。

十中八九ウィレルだろうな。なんだろう?この胸がもやもやする感じは。


アリアが帰ってきたのは日が暮れるちょっと前だった。

微妙に表情が優れないのは、まだ機嫌が悪いのだろうか?

ウィレルとの事が気になるけど、まずは機嫌を損ねているであろうアリアに謝る事にしよう。


「その、アリアさっきはごめん。あのさ・・・」


「えっ?あ、ヨーヘー、う、ううん、いいの。その・・・私こそごめんなさい。」


俺が一生懸命考えた謝り文句をアリアは途中で遮って逆に誤ってきた。


「突然だったからビックリしちゃったの。ヨーヘーの誕生日は精一杯祝ってあげたいのに、準備期間が少なすぎて焦っちゃって・・・。本当は祝福してあげないといけないのに、私ヨーヘーにあたっちゃって・・・嫌な思いさせてしまってごめんなさい。」


アリアは深々と頭を下げて謝ってきてくれた。アリアの機嫌が直ってよかった。マジで。


「いや、俺こそごめん。頭を上げて?俺もアリアの誕生日祝えなかったら不甲斐ないって思っちゃうし、俺も悪かったと思うしさ。」


「ふふっ、私の誕生日祝ってくれるの?」


「もちろんだよっ!全身全霊込めて祝っちゃうよっ!だからアリアの誕生日教えてね?」


「わぁい♪楽しみだなぁ♪誕生日祝って貰うことなんてしばらく無かったから楽しみだよー♪」


アリアの機嫌が直った事に胸を灘下ろして、気になっていたウィレルとのことを聞くと、トリスに聞いたの?と返されたので肯定する。

アリアの話によると探し物を探すのを手伝ってくれたらしく、おかげで目的の物が見つかったと喜んでいたが、ウィレルの名前を出した時に微妙に困ったような表情をしたのはなんだろう?

何を探していたのかは教えて貰えなかったが、俺に言ってくれれば一緒に探すなり作るなりしたのにな・・・。


その夜、アリア達が俺の誕生会を開いてくれた。

この日だけは俺はキッチンに立つことを許されず、ソファに座らされている。背後からタァマちゃんがずっと俺の肩を揉んでくれていて嬉しいのだが、タァマちゃんが口ずさんでいる歌はいったい何なのだろうか?


「にゃにゃにゃにゃにゃん♪ななななーうにゃー♪にゃぁ~ん♪にゃぁ~ん♪みーにゃにゃふみぃー♪なーぅ!」


斬新な歌だ。まるで頭が洗脳されそうなそんな歌声だ。最後のなーぅはNow!なんだろうか?昔Nowという掛け声でイリュージョンするマジシャンがいたような気がする。現に俺の頭はタァマちゃんによってイリュージョンされそうだ。Now侮りがたし。

この歌は寝る時に頭でリピート再生されそうなくらい耳に残る。気が付くと俺もメロディに合わせて鼻歌を歌っていた。

トリスはアリアと一緒にキッチンに立っている。あぁ、料理を作っている女性の後ろ姿ってなんかいいよなー。

二日酔いから復活したマグロは、今日が俺の誕生日と知ると、マッスルさんと一緒に海で大物を取ってくるさ!なーっはっはっはっ!とか言いながら暗い海に消えて行ってしまった。

彼らは2時間くらいで戻ってくるが、その表情はやってやったぜ!ドヤァ!!というような自信に満ち溢れた顔をしていて、2mくらいの魚(なんの魚かは知らない。)をプレゼントだと言って俺に渡してくれた。マッスルさん曰く、こいつは最高にうまい魚だそうで、運良く捕まえられて良かったとのこと。普段マグロには言いたい事があるが、コイツは結構仲間想いなんだよな。お前が獲ってきてくれたこの魚、スッゲー嬉しいぜ。

魚だが、今日使うのは無理だから、後で頂く事にしよう。美味いのなら複製しておかないとな。

他にもソン爺からは珍しい魔物の素材(恐らく冒険者ギルドからパクってきた)。毒セリアさんからは、受付でコツコツ溜めていた依頼品の一部から珍しい物(横領品)を俺にプレゼントしてくれた。・・・これ共犯ってことにならないよね?

ブリード氏は何かの宝石の原石をくれて、シーニュさん達は、俺の為に服を買ってきてくれた。3着程貰ったのだが、どれもセンスが良い物だった。

俺の誕生日を聞きつけてやってきてくれたリーリアさんからは、セリアル教のメダリオンを頂いた。ついでにセリアル教式の祝福を掛けてくれる。

皆突然の事だっただろうにお祝いをしてくれて凄く嬉しい。

・・・俺この街に永住したいわ。こんなに皆から思われているなんて嬉しいことこの上ないよ。

料理を作っていたアリアとトリスから、準備が終わったと声を掛けられたので、料理の置かれたテーブルに行ってみると、地球料理やグロスティア料理が所狭しと並べてある光景に言葉を失ってしまう。なんだこれ、すげーご馳走じゃないか。

俺は2人の用意してくれた料理達に舌鼓を打ちながら、皆と楽しく談笑しつつ食べ続けた。絶対に残したりしないぞ。

ブリード氏が地球料理を食べながらこれはなんだ?これならばレストランとして大儲け出来るなどと言っていたが、俺達以外は食材も調味料も同じ物を用意出来ないだろうから、代用品を探すのに骨が折れるんだろうなと考えるに留めておく。

女性陣が一際喜んだのは、最後に出てきたイチゴのホールケーキだ。ふわふわの食感に甘いクリーム。イチゴの酸味が絶妙にマッチして凄く美味しかったからな。

シーニュさんがこれもお店で出せればとか言っていたが、これも代わりになる食材がわからないのでどうなんだろう?豆粉でも出来るのだろうか?

因みに今日は酒類は無し。多少のブーイングはあったが、アリアとトリスが俺の誕生日を酔っ払いにぶち壊されたくないからと断固として禁止にした。

それでもノンアルコールのカクテルとかを提供していたので、酒飲み達もそれ程不満に思っていないだろう。

俺の誕生会は日付が変わる1時間くらい前まで行われ、そこでお開きとなり、今日集まってくれた皆に改めてお礼を伝えて、それぞれの帰宅を見送りした。

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