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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
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81話 まんじゅう屋オープン

翌朝、まんじゅう屋の準備をする為に、いつもより少し早めに起きてアリアと一緒に1階の調理場に向かうと、シーニュさんとコシアさんとツブンさんの3人がすでに準備を始めていた。


「おはようございます。早いですね。」


「あ、先生。おはようございます。今日がオープンだと思うとワクワクしちゃって、ツブンを連れて早く来ちゃいました。そういう先生とアリアさんもお早いじゃないですか。」


「うん、俺達も準備をしようと思ってね。でももうほとんど終わっちゃってるみたいだ。」


コシアさんは俺の事を先生と呼ぶ。まんじゅう作りを教えていたら、いつの間にかそう呼ばれるようになってしまった。更にシーニュさんとツブンさんまで俺の事を先生って呼ぶもんだから参ってしまう。


「まんじゅう売れるといいね。」


「あれだけ美味しいんですもの。絶対大丈夫ですよー。」


「そうだといいね。」


調理場は3人に任せて、俺はいつものルーチンワークをすることにする。

まずは居間で大の字になって大イビキをかいているマグロを、養殖場にジャイアントスイングで放り込んでやる。もうコイツは死ねばいいと思う。なんでウチのパーティに入ったんだろう?今のところなんの役にも立ってない。二日酔いでぶっ倒れているだけだ。穀潰しとはこういう奴の事を言うんだろうな。禁酒にしてやろうか。

次はトイレで便座を抱いて寝ている毒セリアさんだ。こちらは着ている服が大変な事になっているので、アリアにお願いして、体を洗って貰っているうちに洗濯してしまう。新しい着替えを洗い場の入口に用意して、アリアに声を掛けておく。ところでなぜウチに毒セリアさんの着替えの替えが置いてあるのだろうか?よく考えると、この人はウチから冒険者ギルドに出勤し、夕飯はウチで食べてそのまま潰れてる。もう10日は自分の家に帰ってないんじゃないのか?一人暮らしらしいから誰にも心配はされないらしいが、俺はローゲーまみれの貴方を見て非常に将来が心配なのです。

毒セリアさんを片付けると、次はソン爺を介抱だ。まずは脈を計らないといけない。この爺さんはピクリとも動かないから、他界の心配があるのでいつもドキドキだ。

脈があることを確認してペシペシと頬を叩いていると、ソン爺は目をクワッと開けるなり、半身を起こして俺の顔を覗き込んできた。

死体が急に動き出したみたいでめちゃくちゃビックリした。心臓がバクバクいっている。


「お・・・」


「お?」


「おぅぇぇぇぇぇ・・・」


ビチャビチャビチャビチャ

このクソジジイ・・・。クソジジイがマーライオンになったおかけで、俺の服が汚染されてしまった。

このジジイ海に捨ててやろうか・・・。

神聖魔法のリフレッシュが状態異常回復だったよな。これで酒に酔った状態から回復できないだろうか?いや、治せるってわかるとこいつら際限なく飲み続けるだろうから、やっぱりやめておこう。

このクソジジイの頭をバケツの中に突っ込んでおいて、アリアに一声掛けて風呂に行く事にした。


風呂からあがり、ソン爺と毒セリアさんをいつものように冒険者ギルドまで配達し、借家まで戻ってくると、すでにまんじゅう屋は開店していた。

しかし客がいない。ポツンと突っ立っている3人とブリード氏が痛ましい・・・。


「あっ、ヨーヘー君!お客が来ないんだよ・・・。よく考えたらこの場所は人通りがまばらになるから、前の店も失敗したんだということに今気が付いたよ・・・どうしよう。」


勢いだけで今まで進んできてたのか・・・。自信満々だったから勝算があるのかと思ってたよ。


「くそぅ。せめて食べてさえもらえれば・・・!」


そうなのだ。まんじゅうは美味しく出来ている。これを食べた人達からは好評だったわけだから、この街の人達の口に合わないということはないはずだ。皆がその味を知らないから買ってもらえないのだと思う。


「シーニュさん。作ったまんじゅうを30個程貰えますか?」


「え?まぁ構いませんけど、そんなに食べるんですか?」


「いえいえ、あっちの人通りが多いところに持っていって試食してもらうんですよ。ちょっとした宣伝です。」


俺の言葉にその手があったかとパァッと表情を明るくしたまんじゅうスタッフ達。特にブリード氏のテンションがV字回復するのが目に見えてわかる。


「あぁっ!なるほど!味さえ知って貰えばきっと購入したいって人も出てきますよね!!」


「ヨーヘー君!それは名案だよ!そーかそーか!その手があったか!ウハハハハッ」


「そういうことです。美味しく出来ている事は確実なので、それを知って貰えればきっと売れると思うんですよね。それで試食用のまんじゅうなんですが、4等分に切っておいてくださいね。」


「えぇ、すぐに用意しますから待っててくださいね!」


早速シーニュさんはコシアさんを連れて奥に引っ込んで行った。


「アリアー!タァマちゃーん!トリスー!お店の宣伝に行くから手伝ってー!」


借家の2階に向かって声を掛けると「はーい」という返事があり、すぐに3人が店先に出てきた。一番はタァマちゃんであり、その手には紙が握られている。


「ん?その紙は何?」


「お絵かきしました!」


「タァマちゃん頑張ったよねー。これはねさっきからお店に全然お客さんこないでしょ?だからお客を呼び込む為に3人でチラシを作っていたの。だからヨーヘー、これを複製して増やしてくれない?」


「おーっ!グッジョブ!グッジョブだよ皆!今シーニュさんに試食用のまんじゅうを用意してもらってるから、それと一緒にチラシも配ろう!」


「うんっ!折角作ったんだし、一杯売りたいもんね!」


「はいっ!タァマも頑張ってお客さん呼びますっ!でもおまんじゅうが余ったら食べたいので全部売れちゃったら困るです。にゃぁ・・・」


タァマちゃんはすっかり食いしん坊キャラになってしまったな。そんなタァマちゃんを微笑ましく思いながら見ていると、後ろから声を掛けられた。


「ヨーヘーさん、アリアさん、おはようございます。」


振り向くとそこにいたのはキレース教会のリーリアさんだった。


「今日は2人に劇の台本を届けに来たの。それで出来れば明日から練習を始めたいのだけど、ご都合は大丈夫?」


今の台詞からわかるように。千年祭の前にセリアル教会で行われる、セリアル様の劇に参加することにしたのだ。リーリアさんはその時に使う台本を届けに来てくれたというわけだ。


「態々すいません。ありがとうございます。明日の何時頃から始める予定ですか?」


「そうねぇ。午前中は礼拝があるから、お昼過ぎからでどうかしら?他の出演者も教会の者ですから、その方が都合がいいの。」


「はい、わかりました。それじゃお昼過ぎにヨーヘーと教会まで行きますね。」


「えぇ、お願い。今から凄い楽しみだわ。」


リーリアさんと雑談していると、まんじゅうの用意が終わったシーニュさんがトレーにまんじゅう30個分。計120個の試食用まんじゅうを持ってきてくれた。


「シーニュさんありがとう。じゃあさっそく行ってきますかね。」


「ヨーヘーさん?それは一体なんですか?」


興味津々という感じでリーリアさんが俺に尋ねてきたので、これはまんじゅうという食べのだということを説明すると、とても興味を惹かれたようなので、試食用のまんじゅうを1つリーリアさんに渡して食べて貰った。すると、他の皆と同じ様にまんじゅうを絶賛してくれたのだった。


「こんなに美味しいものは食べたことがないわっ」


「喜んでもらえて何よりです。これはセリアルまんじゅうって名前なんですよ。まんじゅうにセリアル様の焼印を押してあるんですよ。」


「まぁっ!素敵!これもセリアル様が私をまんじゅうに出会わせてくれたのですね。」


「あ、そうだ。コシアさん、まんじゅう50個俺が買うから包んで貰っていい?」


コシアさんにまんじゅうを注文して出して貰ったセリアルまんじゅうを、リーリアさんに手渡した。


「ヨーヘーさんこれは?」


「子供達へのお土産として持って行ってあげてください。」


「まぁありがとう!あの子達も喜ぶわ。」


リーリアさんは柔和な笑顔を向けてまんじゅうを受け取り、このお店にセリアル様のご加護がありますようにと祈ってくれた。

右手をグーにして口元に持っていき、その右手を左手で包むのがセリアル教の祈りのポーズのようだ。そういえばたまにアリアがやってるのを見た事があるな。あれはセリアル様に祈っていたのか。

返礼としてアリアもリーリアさんに対して同じポーズで応えている。俺もやっておくかな。礼には礼で返すのが礼儀というものだ。そんな俺を見たアリアがクスッと笑って、俺の耳元で意外と様になってるよと耳打ちしてきた。


リーリアさんが帰ってから、チラシと試食用まんじゅうを持って、少し離れた港沿いのメインストリートに足を運び、そこでさっそく宣伝を開始した。

試食は大当たりだ。タダで貰えるならと皆こぞって口にしてくれる。多くの人には好評だった。試食の効果は抜群だった。甘いものが苦手な人も少数いたが、ご家族や友人へのお土産にどうぞと案内した甲斐もあり、アリア達が作ったチラシもどんどん数を減らしている。途中、アリアやトリスをナンパする馬鹿野郎も何人かいたが、アリアはすぐに俺の方に逃げてくるし、トリスは受け答えしつつもやんわりと躱している。

試食用のまんじゅうも全て無くなり、チラシも配り終わってしまったので、店の方に戻ると、何人かのお客さんがまんじゅうを求めているのが目に入る。そうだ、お客さんにも宣伝をしてもらうとしよう。

俺は店の奥に行き、紙を素材にしてクリエイトで紙袋を作成し、そこにペーストでセホウテ商店の名前とセリアルまんじゅうの絵、簡単な店までの地図を転写した。その出来上がった紙袋をクローンで複製して量産する。

この紙袋をシーニュさんに渡して、箱買いや手で持てない数を買ってくれるお客様に使ってもらうように言付けた。シーニュさんは良いアイディアだと嬉しそうに袋の束を持って行き、さっそく使い始めたようだ。

これでお土産として貰った人も、どこで買えるのかが解かって、興味がある人は来てくれるはずだし、道行く人の目にも留まるだろう。


オープン1日目は事前の宣伝を怠っていたので、お客の数は70人程。まんじゅうの数にして250個だ。10個入りの箱で買ってくれた人も10人くらいいたが、新しい物だし、1個10レンスという値段のこともあり、お試しで買ってみたという人が多かったようだ。・・・まぁ店出すって決めたのが3日前だからそれは仕方ないか。作った数が500個で、宣伝用に30個、俺が孤児院用に買ったのが50個だったから、170個のまんじゅうが余ってしまった。一応日持ちはするが、今日余った分は試食用に回そう。試食用は前日の余りからということでいいだろう。


次の日は、いつものルーチンワークを行って、お昼まで試食用まんじゅうを持って店の宣伝をした後に、リーリアさんとの約束の為にセリアル教会に赴いた。


「いらっしゃい皆さん。昨日は美味しいお菓子をどうもありがとう。司祭様もお食べになられて、とても絶賛しておりましたよ。セリアル様の焼印も素晴らしいと仰っていたわ。」


「そうでしたか。喜んでいただけて何よりです。」


「ふふ、とても美味しかったもの。今度は買いに行くわね。とはいっても、さっそく司祭様が使いの者に買いに行くように指示していたみたいですけど。」


リーリアさんは何かを思い出したのか、クスクスと笑っている。面白い事があったようである。


その後、リーリアさんに連れられて教会の中庭にあるスペースに移動すると、演劇用の舞台が設置されていた。

中庭の広さはテニスコートくらいだ。ここに観客を入れて劇をするのか。

その日は他の演者や裏方の人達と顔合わせをして、台詞合わせや身の振り方等の大まかな動きを日が暮れるまで練習した。

台本については、以前アリアにしてもらったセリアル様講座のおかげで、どんな流れなのかは容易に想像ができ、それ程難しいものでもなかったが、俺もアリアも演劇に慣れていなくて、恥ずかしさからミスを連発。舞台監督から役になりきるようにと何度か注意されてしまった。

劇の練習は毎日行われる事になり、どんどん本格的にやっていくらしい。

練習中にもう1人の従者役の男が怪我をするアクシデントがあったが、アリアが治療したことで事なきを得た。得たのだが・・・その男のアリアを見る目が少し変わった気がする。妙に馴れ馴れしくアリアに話し掛けているのが目に付く。何を話しているのか気になるけど、俺も役を覚える為に舞台監督の指導を受けていて、そちらに気を回せないが、やはりアリアの方が気になってしまい、舞台監督から言われたことの半分も頭に入らなかった。


練習を終えてアリアにそれとなく聞いてみたが、どこの店の料理が美味しいとか、キレースのスポット等の世間話をしていたらしい。


店に戻るとシーニュさんから今日は結構売れたとの報告を受けた。口コミで広がったのか、200人くらいのお客がまんじゅうを購入していったらしい。合計で1000個くらい売れたらしく、慌てて追加のまんじゅうを用意したと笑い話のように語ってくれた。1万レンスの売り上げだ。

この調子でどんどんお客が増えるといいな。


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