80話 黒豆の使い道
ソン爺はまだ仕事があるようだったので、俺達はギルド長室を退出した。
受付で毒セリアさんに今回の報酬を貰って、良さそうな依頼がないか依頼板で確認する。
「うーん、中級が受ける依頼はほとんどなくなっちゃったなぁ。まだ陸地にはリーパーアントの影響で魔物が戻らないのかね?討伐系が全然ないや。あとは護衛とか運搬だから受けるものがないね。」
「私達が中級の討伐依頼を結構こなしちゃいましたからね。さすがにここに残っている討伐系を受けてしまうと、他の冒険者から反感を買いそうですね。」
キレースは大きい街だから、雑務系は結構あるけど星1~3つ、つまり初級ばっかりだ。中級冒険者が初級依頼を受けると、初級の成長を妨げるという理由でいい目で見られないらしい。つか、俺は現在中級に上がってはいるけど、冒険者になって1ヶ月くらいなんだから、別に初心者と言ってもいいんじゃないだろうか?冒険者としての知識だってまだまだで、トリスに色々教えて貰ってるような状態だし、世間の常識なんかもまだ疎い。そう考えるとトリスが仲間になってくれて、かなり助けて貰ってるよなー。
まぁ依頼は受けるものがないし、2~3日休みにしますかね。
借家に戻ると、ブリード氏とシーニュさんが入口にいることに気が付いたので、彼等に声を掛ける。
「おぉ、ヨーヘー君!留守かと思ったよ。依頼を受けてきたのかい?」
「こんにちはブリードさん、シーニュさん。ちょっとしんどい依頼でしたけど、無事終わらせる事が出来ましたよ。今日は何か御用ですか?」
「そうかそうか。実はねヨーヘー君達に貸したこの家に黒い豆があっただろう?このまま腐らせておくのも勿体無いから千年祭に向けて何か仕えないかと思って、シーニュとアイディアを出し合っていたんだよ。」
黒い豆?あぁ、あの大量にあった不良在庫か。まぁそういっても豆は豆だし、色が黒いだけだから工夫すれば売れるだろうと思うけどね。
「それでしたらここで話すのもなんですから、中に入ってくださいよ。」
「あぁすまない。お邪魔させて貰うよ。」
「ふむ・・・形もそうだが、色が悪いなぁ・・・。この色じゃ千年祭を彩るのにも向いてないしなぁ・・・。やはり売れないかもしれないなぁ。」
ブリード氏は借家1階の隅に避けて置いたあった豆の袋を開けて、中身を確認しながらブツブツ言っていた。
「兄さん、この前作ったムーカは味が良かったじゃない?それを見えないようにナップで挟んじゃえば売れるんじゃない?」
「うーん、それも一案か。・・・ヨーヘー君、何かいい方方思いつかないかい?」
豆を前にあーじゃないこーじゃないと議論していた兄妹だったが、あまりパッとした解決法を見出せなかったらしく、お茶を用意していた俺に話しを振ってきた。
「え?売り物にする為にですか?うーん・・・あっそうだ。」
「何かいい方法があるのかい!?」
俺にはあまり期待していなかったのか、俺が何か思いついた素振りを見せると、凄い期待した目で見られてしまった。や、やりづらい・・・。
「えっと、うまく行くかわからないんで、ちょっと明日まで時間貰えますか?」
「そうか・・・わかった!まぁ俺とシーニュでも何か考えてみるよ。また明日お邪魔するから、その時に意見を出し合おうじゃないか。」
ブリード兄妹はお茶を飲んで一息ついてから、この案はどうだ?それは無理があるとか意見を言い合いながら帰っていった。
俺はそんな2人を見送り、豆袋から1kg分黒い豆を取り出してマジカルハウスに戻ると、料理のお勉強をしていたアリアが俺に気付く。そういえばまだここに避難してたんだったな。
「あ、ヨーヘー。もうギルドへの報告は終わったの?」
「うん、ちゃんと済ませたよ。あのヴァンパイアなんだけど、魔国ストロフって国の六魔公って呼ばれてるらしいよ?」
「えっ!?そんな大物だったの!?・・・確かに凄く強かったもんね。六魔公かぁ、私達よく生き残ってたなぁ。」
「もう会いたくないけど、もしまた会うことになったら、アリアの神聖魔法が頼りになると思うからよろしくね。」
「うぇー、六魔公となんて戦いたくないなぁ。でもなんか気に入られちゃってたもんね・・・。また対峙することになるのかなぁ。・・・うんその時は頑張るよ。」
引き攣ったようななんとも微妙な表情でアリアが頑張りまーすというポーズをとったが、俺の持っている物に気付いたようで、そちらに視線を向けてくる。
「ヨーヘー、それってあの黒い豆だよね?もしかしてそれ食べるの?」
「あぁ、さっきブリードさんが来たんだよ。無駄に眠らせているこの豆を、千年祭でうまく処分できないかと考えてるみたいなんだ。それで俺に何かアイディアはないかって相談されたから、ちょっと試してみようかと思ってね。よかったら一緒にやる?」
「うん♪面白そうだし、もちろんやるよー。」
開いていたレシピ本を閉じて、トタトタと歩み寄ってくるアリアに表情を緩め、黒い豆の調理方法を模索することになった。
次の日
お昼過ぎにブリード兄妹が訪ねてきた。
「ヨーヘー君、あれから俺達も色々考えてきたんだ。お互いに意見を出し合おうじゃないか。まず1つ目、黒い豆を豆粉にしてしまうという案だ。これで見た目の悪さは解決するだろう。次に色がめでたくないということなら、白や黄色の豆粉に混ぜて目立たなくさせてしまうと言う案だ。だたこれは豆粉を練る時に別の種類の豆粉が含まれてしまうから、うまくまとまらないかもしれないという欠点があるね。3つ目は着色してしまおうかという強引な案なんだけど、味が落ちてしまうから、売れるのは最初だけだろうということ。それにウチの商品は味が悪いと評判になってしまうと困るから、この案は出来れば避けたい。最後に畜産農家や、貧困街に低価格で提供するという案だね。手間が掛かったり、利益が見込めなかったりで、これといっていい案は浮かばなかったよ・・・。」
ブリード氏の案を聞いたが、ブリード氏の反応からして満足の行く結論には至らなかったようだ。次は俺の番だな。
俺は皿の上に置いた物を、ブリード氏とシーニュさんの前に出した。これが昨日からアリアと一緒に作ったものだ。何回か失敗したけど、やっと納得の行くものが出来上がった。試しにタァマちゃんに食べさせてみたら、美味しい美味しいと言いながら、あっという間に5個食べてしまったくらいだから、結構味には自信はある。
「うん?お茶菓子かい?これはナップ?いや、ポックかな?」
ナップが豆粉を焼いた料理ならば、ポックとは豆粉を蒸した料理だ。
俺の用意した物を手にとって、そのまま口に運ぶブリード氏。そして一口食べると
「んん!?こ、これは甘くて美味い!!ヨーヘー君!これはなんだい!?初めて食べるんだけど!この中に入っている黒い部分が甘いのか。黒い・・・はっ!?ヨーヘー君!これはまさかあの豆かい!?」
「はい、それが俺の思いついたものです。俺の故郷のお菓子で、まんじゅうっていうお菓子なんですよ。その黒い部分は餡子といって、本来は小豆という紫色っぽい豆を使うんですが、あの黒い豆で代用してみました。餡子の色は黒に近いのでいけるかなーと思って作ってみたんですけど、うまくいったみたいで良かったです。」
そう、俺とアリアが、あの後作成に励んだのは餡子だった。小豆より色が黒かったけど、食感とか味がなんか似てたし、俺の地球から持ってきた餡子に比べて、若干黒が強い感じがしたが、味は大分似せられたし、まぁ大丈夫だろう。
「ほぉっ!!これはいい!これは皆欲しがるよ!」
ブリード氏はまんじゅうを絶賛しながら、2個3個と口にまんじゅうを運んでいく。
「ちょっと兄さんっ!そんなに食べないでよ!私の分が無くなるじゃない!そこまで美味しいの?」
「あぁ、お前も早く食べてみろよ。甘いものが好きなお前好みの味だぞ!」
シーニュさんもまんじゅうを口に運び、口の中で租借すると、クワッと目を見開いて、ブリード氏と同様に次々と口に運んでいく。
「あぁっ!?俺の分まで!?あっ、あぁー!止めてっ!食べないでっ!!返してっ!俺の分を返してーーーっ!!」
兄の分まで手を伸ばしたシーニュさんだったが、ブリード氏の制止を振り切ってまんじゅうを食べ続けた。自分の分を奪われたブリード氏の悲痛な叫びが、借家の中に響き渡るのだった。
数分後、全てのまんじゅうを食べ尽くして満足しているシーニュさんと、シーニュさんに薦めてから、1個も食べられずに落ち込んでいるブリード氏という対照的な2人が緑茶を啜っていた。
「・・・シーニュ、酷いじゃないか・・・俺はまだ3個しか食べてなかったんだよ?お前が甘いのが好きだというのは知っているけど、何も全部食べなくてもいいじゃないか。」
「兄さん、この世界は非情なの。そんな甘い事を言っていたら足元をすくわれるわ。チャンスは見逃さずにモノにしないと大損することになるわよ。仮にも商人なんだからわかっているでしょう?」
なんだこれ?シーニュさんがどんな言い訳をするのかと思っていたら、まさかの開き直りだった。
「ヨーヘーさん。あの、私提案があるんですけど。このまんじゅうのお店出しません?この前言ったと思いますが、ここって昔お店やってたんですよ。ここを再オープンしてまんじゅうを売ってみませんか?」
「おぉ!それはいい!そうすればまたまんじゅうが食べれるということだね!シーニュ冴えてるじゃないかっ!」
「え?そんな簡単にお店の事を決めちゃっていいんですか?でも、俺達も冒険者ですから、毎日拘束されるのはちょっと避けたいんですけど。」
「それならば私が毎日売り子をやりますから!もし良かったら作り方を教えて貰えれば作る工程からやりますよ!お願いしますっ!どうかお願いしますっ!」
怖いくらいの形相で俺に詰め寄ってくるシーニューさんに気圧されてついつい了承してしまった。というか、本店の手伝いとかはいいのだろうか?ブリード氏が大賛成しているみたいだから問題ないのかな?
まぁ、やると決まってしまったからにはしっかりやるか。
その後、店について色々決めておいた。従業員をシーニュさんを含めた3人用意して、製法のレクチャーとまんじゅう屋としての設備を整えることにする。決まった事は以下の通り。
俺達の参加は時間の空いている時でいい。
利益の3割を俺達に分配。
材料はブリード氏が調達。
千年祭が近いということで、まんじゅうにセリアル様の焼印を押して、セリアルまんじゅうとして売り出す等々。
1階をまんじゅう製作用に改造するので、俺達の住む場所が2階だけになってしまったが、格安で借りている身なので素直に提供することを了承する。結果キッチンがまんじゅう屋に取られてしまった為、シーニュさんがその事を気にして、食事代は出してくれると言ってくれたが、なんか悪いので断っておいた。マジカルハウスのキッチンがあるから全然問題ないしな。
まんじゅう屋をやると決まってからのブリード氏の動きは早かった。次の日には、商品になるとわかった見た目の悪い黒豆を大量に仕入れてくるし、まんじゅうを作る為の蒸し器を持ち込んで、調理場に設置したりしていた。これだけあれば一回で200個は作れるだろう。
店の方もすぐに業者を呼んで、改装工事を急ピッチで進ませて、3日で終わらせてしまう。
商人っていうのはこんなにも行動力があるものなのか、と驚かされてしまった。
工事をしている間は、シーニュさんとヘルプで呼ばれてきた、コシアさんとツブンさんに餡子の作り方と、まんじゅうの作り方を教えることにした。名付けて『洋平とアリアのまんじゅう教室』だ。
3人とも凄いやる気を持っていて、すぐに作り方を覚えていた。料理することに慣れているのか、俺達の教えた通りに作ってくれて、味も統一されているから商品として売り出すのには問題ないだろう。下手に自分なりのアレンジとかされると、昨日の味と違うじゃないかとクレームの対象になるからな。
価格設定だが、1個10レンスに決まった。温泉まんじゅうっぽいのに1個100円とか、ちょっと高いんじゃないかと思ったが、この世界は砂糖が意外と高かったから仕方がないらしい。豆粉も結構安いし、黒い豆なんてタダ同然だ。砂糖さえなんとかできれば、1個1レンスで売っても利益が出る計算なんだが。
自信があるのかブリード氏は強気だった。最初は50レンスで売るとか言っていたが、最初からあまり高いと客がつかない等の理由でなんとか説得して、10レンスに落ち着いたわけだ。
さて、値段の話をしている時に新しい発見があった。
それはタァマちゃんに関する事だ。
タァマちゃん、実は計算が苦手みたいだ。
計算が出来ないと生きていく上で不都合もあるだろう。
読み書きも微妙に怪しいところがあったので、俺とアリアとトリスで毎日タァマちゃんのお勉強会を行う事になった。
いつから商売を始めるかという話だが、気の早いことに明日、セホウテ商店まんじゅう店がオープンすることになっている。セホウテ商店とはブリード氏が代表をしている店の名前だ。
オープンを明日に控えて、俺はまんじゅうが売れるかどうか心配でドキドキしていた。
失敗したとしても、俺の懐は痛まないのだが、それでもこの店に関わったものとして、是非とも成功してもらいたい。
俺がこんなに緊張しているのに、ブリード氏とシーニュさんは成功を確信しているのか楽観的だ。
おかしい、実際に出資しているのはセホウテ商店なんだから、俺より緊張していなくてはいけないのは2人のはずなんだけどな・・・。
俺も緊張を抑えるために、タァマちゃんのネコミミでも堪能するか。
とりあえず店の準備も終わったので、あとは明日の朝からまんじゅうを作って売り出すだけになった。
今日はこの後決起会が行われる。決起会とは名ばかりで、ただ飲んで、食べて、騒ぎたいだけの集まりなわけだが・・・。
今の所、毎日ソン爺やマッスルさん、毒セリアさんが夕飯を食べに来ていたのだが、3日前からシーニュさん、ミコアさん、ツブンさんも加わっていた。ブリード氏は奥さんに怒られるらしく、1回しか参加していない。
まぁ皆楽しんでいるみたいだから別にいいんだけどね。




