79話 特級の危険度
静かになった洞窟内にて、俺達はなんとか全員生き残る事が出来た。
「ヨーヘー?生きてるんだよね?本物なんだよね?」
「え?あぁうん。本物だよ。生きてるよ。」
「ヨーヘー!ヨーヘー!!」
目に涙を浮かべたアリアが俺に抱き着いてきた。血まみれの俺の頭を抱えたまま・・・。
「アリア!頭!俺の頭がっ!」
アリアは一瞬きょとんとした顔をしたが、自分の抱いている物に気付いてきゃぁという可愛い悲鳴を上げて俺の頭を放り投げる。
ゴツッっという音と共に地面に落ちる俺の頭。なぜだろう。あれは俺だが俺じゃないのに俺の顔が地面に激突するのを見て、なんか頭が痛い気がする。
「あぁっ!?ご、ごめんなさい!ヨーヘーが!ヨーヘーの頭が!!」
それを慌てて拾いに行き、再び抱き上げるアリア。
生首を大事そうに抱く美少女。絵的によろしくないので、頭とグッバイしてしまった俺の胴体1と、ひき肉になってしまった俺の身体2をイレイズで消去する。そしてアリアが大事そうに抱えていた俺の頭も受け取って同様に消去した。
「ねぇ、ヨーヘー?さっきのはヨーヘーじゃないの?あ、もしかしてクローンで作ったヨーヘーなの?」
「正解。さっきの俺はクローンで作ったものだね。それを攻撃される直前にスイッチの魔法で俺本体の身体と、クローン体の身体の位置を入れ替えたんだよ。だから実際に攻撃を受けたのはクローン体だし、俺本体はマジカルハウスの中に退避してました。」
「スイッチかぁ・・・人体で影響ないか実験中だったやつだよね?いつの間に実験してたの?」
「リーパーアントに遭遇するちょっと前にアナウサギ君で実験したんだけど、その時は問題なかったから、人体でもいけると思ったんだよね。失敗してたら死んでただろうし、うまくいって良かったよ。」
「そうだったんだ・・・。うまく行って良かったぁ・・・。ねぇヨーヘー、これってテレポートになるんじゃない?体力がすっごい減るってデメリットはないんでしょう?」
「ないけど、これの効果範囲って10ミールってところだぜ?あんまり実用性はないと思うけど。」
「そっか、でもねヨーヘー。もうさっきみたいな使い方はやめてね?心臓が止まるかと思ったんだからっ!」
「ご、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ。ホントだよ?」
「もう・・・でもヨーヘーが生きててくれて・・・本当に良かった・・・。」
そっとアリアが俺に抱き付いてきた。俺もアリアの背中に手を回し、軽く抱きしめてあげた。
いい雰囲気に終わったよな?もうこのまま帰ってもいいよね?そう、このままスルーして帰りたいんだ。なるべく見ないようにしている存在に触れずにフェードアウトしていきたい。
ウラドが消えたことで不快な空気は無くなったが、代わりにドス黒い居心地の悪い空気が生み出されている。
その存在は顔を真っ赤に紅潮させて肩をプルプル震わせている。今にも噴火しそうな感じだ。
あのヴァンパイア・・・とんでもない爆弾を置いていきやがった。
「(ねぇアリア、俺怖くてトリスを見れないんだけど、どんな様子?)」
「(えっとね・・・うわっ、い、今のトリスには触れちゃいけない気がする!なんか雰囲気が怖いよ!?)」
「(やっぱあのヴァンパイアが去り際に言った禁句が原因だよな?怒りの琴線に触れたよな?あんな事言うくらいならそのままスルーして帰ってほしかったんだけど!)」
「お二人は抱き合って何をコソコソ話しているんです?あの吸血鬼と同様にあなた達まで私をスルーするおつもりですか?」
トリスが笑顔でこちらに問いかけてきた。しかし背後にゴゴゴゴゴという文字が見える気がする。
「ち、違うんだトリス!そうじゃないんだ!!アリアの抱き心地があまりにも良くてさ!夢中になってただけなんだ!」
「へぇ、抱き心地がいい・・・ですか。それは柔らかいという意味ですか?アリアのおっぱいは柔らかいから嬉しいという意味ですか?私を抱きしめてくれないのは私が絶ぺ・・柔らかくないからですかっ!?」
「ち、違うよ!?トリスにはトリスの良さがあると思うよ!?トリスは凄い美人だし、とても魅力的だと思うよ!?む、胸だってお淑やかな感じがしていいじゃないかっ!トリスの胸超可愛い!」
「(ヨーヘー!一言多い!)」
「おしとやか・・・おしとやかですか・・・そして胸が可愛い・・・ね。ふっ」
トリスはスタスタとアリアに近付いて行く。その雰囲気はまるで修羅である。俺とアリアは身体の震えが止まらない。
「ト、トリス?ど、どうしたの?様子が変だよ?ねぇ?トリス?トリス!?」
「アリアはいいですよね。素敵なおっぱいを持っています。大き過ぎず、小さ過ぎない。形も綺麗ですし、絶妙なバランスですよね。・・・それにっ!」
「あぁっ!?」
トリスがアリアの胸を鷲掴みにする。指の間からアリアのお肉がはみ出るのがわかる。
「こんなに・・・こんなに柔らかく・・・っっっ!!」
「ト、トリス!?い、痛いよ!トリス!い、痛い!ヨーヘー助けてっ!」
「これが・・これが私にもあれば・・・っ、これがぁぁぁぁ!!!」
「いやぁぁぁっもげちゃうぅぅぅ!!離してぇぇ!!」
いかん、アリアのおっぱいがパージされる!それは非常にいかん!
「『スイッチ』」
アリアと俺の位置をチェンジした。それによりアリアの胸を掴んでいたトリスは俺の防具の胸の部分を掴む事になった。
感触からアリアの胸じゃないと気付いたトリスはすぐに我に返り、俺の防具から手を放す。
・・・って、えぇぇぇっ!?俺の防具の胸の部分がトリスの握力で変形している!?指の形に曲がってるんですけどぉぉぉ!?この防具はオリハルコン糸を編み上げた下地にマーシュサーペントの皮を貼り付けたそれなりに硬い防具なんだけどぉ!?どんな握力でアリアのおっぱい掴んでたの!?ホンキでもぎ取る気だったのかっ!?
「うぇぇぇん、ヨーヘー!あ゛り゛がどーー!怖がっだ!怖がっだよぉぉぉ!」
「おーよしよし、怖かったねー。俺も今恐怖したところだよー。ほら、まだ危ないからタァマちゃんと一緒にマジカルハウスに避難しておきなさい。」
アリアがタァマちゃんを連れてマジカルハウスに避難するのを見届けてから、視線をトリスに戻すと、目に涙を浮かべて悔しそうな表情をしている美人エルフさんが視界に入った。
「胸なんて飾りです!エロい人にはそれが判らないのです!あんまりじゃないですか!!ちょっと、ほんのちょっとだけ大きさが足りないだけじゃないですかっ!ほんのちょっと足りない代わりに私感度は良いんですよっ!?それじゃダメですかっ!?オーク達も私の胸には見向きもしませんでした!!触られたくありませんでしたが、見向きもされないのはそれはそれでショックでもあるんですっ!!あと私は絶壁なんかじゃありません!少し!少しは膨らみがあるんです!本当です!見ますか!?確かめてみますかっ!?皆して私を馬鹿にしてっ・・・うぅっ・・・ヨーヘーのバカーーー!!」
俺が何をしたっ!?俺が悪いのぉぉぉ!?
えんえんと泣き出してしまったトリスを宥めるために、トリスを抱きしめてあげたが、トリスの言う慎ましい膨らみの感触はまったく感じられなかった。その心情が伝わってしまったのか、一層大声を出して泣き喚くトリスの声が洞窟内に響き渡るのだった。
珍しく感情を表に出したトリスはなかなか俺から離れなかった。ムキになって胸を押し付けてくるのだが、感じるのは・・・いややめておこう。トリスの名誉に関わるしな。胸は無いが彼女はとても美人だ。美人に抱きつかれて普段なら嬉しいはずなんだが、出来れば早くこの洞窟から出たいなぁと思っている。だって、ヴァンパイアはいなくなったといっても、10体くらい積み重なっているミイラさんは健在だ。ミイ師匠でミイラは見慣れたと思っていたが、本物のミイラとなると見ていて気分の良いものじゃない。よくアリアが取り乱さなかったものだ。
トリスを宥める為に一生懸命言葉を選ぶ。胸なんて関係ないよ。俺は胸よりも太ももが好きなんだ。トリスの太ももは凄く綺麗だよ。その足に挟まれたい。その耳さわらせて。トリス可愛いよトリス。等々。軽く俺の性癖まで暴露してしまいつつ、トリスが落ち着くまで優しい声を掛け続ける事に尽力する。
しばらく経って、なんとか宥める事に成功した俺は、やっとのことで洞窟の外に出て日の光を浴びていた。依頼も一応完了ということで大丈夫だろう。なんだろう?ヴァンパイヤ戦よりトリス戦の方が疲れた気がするのは。
キレースに戻ったらこれの報告書を作らないといけないわけか。まぁあったことを正直に書きますかね。その為の調査だし、伏せておかなければいけないようなことじゃないしな。
報告書:トリスに胸の話題は厳禁だゾ。
今はキレースに戻る途中で、トリスと2人で海岸線を歩いていた。アリアは胸を毟られる危険を感じて、マジカルハウスに避難して出てこない。可哀想に相当怖かったんだろう。タァマちゃんも疲れたみたいだから、アリアと一緒に休んでいる。トリスは俺の手を握ってテクテクと歩いていた。本当はアリアのように腕を組みたいらしいが理由は言えないけど腕を組むのはNGらしい。俺もそれ以上は触れないようにしているんだ。
さっきからトリスは「ヨーヘーは足が好きなんですねー。変態さんですねー。」とか言いながらもニコニコして嬉しそうにしている。機嫌が直って本当に良かった。
「あー、はいはい、俺は変態さんですよー。それよりトリス、後でちゃんとアリアに謝っておけよ?めちゃくちゃ怯えてたからな?」
「わ、わかってますよぉ。アリアには申し訳ないことをしました・・・。」
その後はゆっくりとキレースに戻り、その足で冒険者ギルドに行って、トリスと一緒にロビーのテーブルで報告書を作成して受付に提出した。それに目を通した職員、二日酔いから復活した毒セリアさんが「なめてんのか?」と俺の作成した報告書にケチをつけてきたので、再度報告書を書き直させられてしまった。くそぅ、これだから現場を知らない奴は・・・。この依頼で一番の脅威だったのはトリスだというのに!
渋々書き直した報告書を、再度毒セリアさんに提出し、それを確認した彼女は報告書にサインをして俺に返してきた。
「これをギルド長に受け渡してください。ギルド長室にいますから。」
毒セリアさんから報告書を受け取った俺は、そのままギルド長室まで出向いていった。
快く部屋の中に招待してくれたので、室内にあったソファに座り、ソン爺にはさっき没になった報告書を渡してみた。多くの人に危険性をわかって欲しかったからだ。
報告書に目を通しているソン爺の表情が険しくなってくる。
「なん・・・じゃと?トリス嬢の胸ゴフゥ!?」
わぁい♪トリスったら超反応ー!ソン爺の体が綺麗なくの字になる素晴らしいボディブローだ。
「ま、待つのじゃ!慎ましいのもいいグフォッ!」
ガスガスガスッ!
「や、やめっ・・・ワシは小さい方ガフォッ!!」
ゲシゲシゲシッ!
「ヨ、た、助けっ!」
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「うぐ・・・、き、危険性は理解した。上級、いや特級ランクの脅威だと。ギルド規約にも危険性を記さなけれ「そんな事書いたら酷い目にあわせますよ?」・・・ごめんなさい。」
ソン爺にも酷い目にあってもらえて満足したので、改めて了承された報告書をソン爺に手渡した。
「お主、なぜこれを渡さなんだ?」
ジト目で非難するように俺を見つめる視線が痛くて、俺は思わず視線を逸らしてしまう。
そんな俺にため息をついて、報告書に目を通したソン爺が、フムと考える仕草をして俺に視線を向ける。
「この洞窟にいた者の中で生存者はいなかったんじゃな?」
「えぇ、全員干からびた死体になっていました。恐らくヴァンパイアに血を吸われたんだと思います。」
「魔族か・・・魔族には好戦的な輩が多いからのぅ・・・。いい奴もいる事は確かなんじゃが・・・。」
「メチャクチャ強い奴でした。遊び好きのヴァンパイアじゃなければ、たぶん俺達もやられてた可能性だってあると思います。」
「それはよかった。ヨーヘーが死んでしまったら、ワシの食事の楽しみがなくなってしまうでの。この前タァマの言っておった『かれーらいす』とやらも、まだ食べておらんのじゃ。勝手に死んではいかんぞ。死ぬならワシにヨーヘーの知っている料理を全部食べさせてからじゃ。」
この爺さん、どこまで本気で言ってるのかわからん。相当な割合で本音が混ざっている気がしてならない。
「それにしてもこの魔族はなんであんな洞窟にいたんじゃ?」
「あぁ、なんでも家出した姫さんを探しているって言ってたっけなぁ?」
「なんじゃ?迷子の捜索か?ということはこの報告書の通りもういなくなったと見ていいんじゃな?」
「まだその辺にいるかもしれませんよ?」
「ヴァンパイアというだけでは探しようがないわ。他に特徴はないのかの?」
「黒髪で身長1.9ミールくらい。不健康そうな青白い肌に真紅の瞳と尖った耳かな?名前はウラド=エリペマフって言ってた。一人称が吾輩かな。あとあの野郎去り際にトリスに禁句を言ってから消えるもんだから、宥めるのが大変だったんですよ。」
「待て、今何と言った?聞き違いじゃと思うんじゃが・・・」
「え?どの部分?えーっと黒髪で身長1.9ミール。青白い肌に赤い目と尖った耳。吾輩はウラド=エリペマフだ、クカカカカッ♪という感じ?」
「ウラド=エリペマフ・・・じゃと?エリペマフ卿がこのキレースに・・?」
「ん?ソン爺の知り合い?」
「あっ!」
隣にいたトリスが声をあげたので、トリスを見ると、彼女は何かを思い出したかのような顔をしていた。
「ヨーヘー、私もあのデリカシーの無い蝙蝠野郎の名前をどこかで聞いたことあるなと思っていたのですが、思い出しました。魔国ストロフで魔王に仕える六魔公の1人にそんな名前の人物がいたと思います。」
「うむ、夜の王、祖なる者、ヴァンパイアロードとも言われとるな。そんな魔族の大物がこの近くにいたじゃと・・・?被害者が10人で済んで良かったと見るべきなんじゃろうか?よくお主らは無事だったのぅ。」
そんなにヤバイ奴だったのか。確かにちょっとでも気を抜くと殺される、という緊張感はあったもんな。もう遭遇したくない奴だったけど、なんか気に入られたみたいだし、もしまた会ってしまった時に、何も対策していないでいると命の危険があることは間違いないだろう。ちゃんとヴァンパイア対策をしておかないといけないな。あの再生能力は厄介だ。マグロもあぁいう戦い方すればいいのにな。折角生きた教材を見るチャンスだったのに二日酔いとか・・・。しかし、アリアの神聖魔法を受けた時は、傷の治りが遅かった。奴と戦う事が今後あるとしたら、勝利の鍵を握るのはアリアなのかもしれない。




