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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
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78話 魔族とデスゲーム

奴が言い終わると同時にヴァンパイアの姿が消えた。いきなり見失っちまった!


「『バリア』!」


「うぉ!?なんだ?お前は魔法使いか?それにしてもこの障壁・・・クカカ、少しは楽しめそうか?」


声は俺の背後から聞こえてきた。死角からの攻撃を狙ってきやがったか。障壁に行く手を阻まれたヴァンパイアだったが、拳に力を込めて振りかぶったのを見て、まさかと思ったがそのまま奴は障壁を殴りつける。同時にパーンという破砕音と共に障壁が粉砕されてしまう。


「くそっ!『ブースト』!『スロウ』!」


自分にブーストを掛けて、俺の時間を速く動かす。そしてヴァンパイアにスロウを掛けて動きを鈍らせようかと思ったのだが、魔法耐性が高いのかうまく抵抗されたのか効果が発動しなかったようだ。


「ほぅ?動きが良くなったな。吾輩にも何か術を掛けようとしたか?それは無駄な事だと教えておいてやろう。」


俺の動きは10倍速になっているがそれでも着いていくのがやっとだ。なんてスピードだよ・・・。


「クッカッカッ、僥倖僥倖。思わぬ玩具を拾った気分だ。最近退屈してたのだが、小僧、お前は思いのほか吾輩を楽しませてくれそうだな。では、この速さに付いてこれるかな?」


ヴァンパイアの速度のギアが1段上がり、10倍にブーストしている俺でも捉え切れなくなってきた。ギリギリで躱しているが、やはり何発かはかすってしまう。奴の攻撃によって、徐々に俺の身体に傷がつき始める。必死に避けているつもりなのだが1cmくらいの傷がどんどん刻まれていく。こうなったら・・・


「『ブースト』!!」


「にゃあっ!」


「ぬっ!?小娘、この速度に着いてくるか。クカカカ♪面白い、面白いぞ!」


俺では付いていけないと悟ったので、俺達の中で一番素早く反応神経の能力が高いタァマちゃんにブーストを掛けてみた。狙いは当たったようでタァマちゃんはしっかりヴァンパイアのスピードに付いていき、忍者刀モドキで攻撃までしている。手刀によって弾かれもするが、何回かはヴァンパイアの体に傷をつけていた。しかし、その傷が瞬時に回復する。


「吾輩に届く輩なぞ久しく会っていなかったぞ!クカカ、少し真面目にやるとするか。」


ヴァンパイアの速度が更に上がる。それによりタァマちゃんは防戦一方になるが、なんとか攻撃を避け続けている。


『後ろだっ』


突然洞窟内に俺に似た声が響き渡った。その声に反応してタァマちゃんが後ろを振り向く。その隙を狙いヴァンパイアの蹴りがタァマちゃんの胴体にヒットする。吹き飛ばされたタァマちゃんだが、蹴り飛ばされた方向がよかったのか、壁にぶつかる前にトリスがタァマちゃんを受け止める事に成功し、壁への激突によるダメージは免れたようで安心する。

ヴァンパイアが俺の声を真似して、タァマちゃんの注意を逸らしたようだ。ただでさえ強いのにこんな小細工までしてくるのかよ。


「ふみぃ・・・」


タァマちゃんの体から力が抜ける。生きてはいるが重傷だろう。アリアがすぐに回復魔法を使っているからなんとかなるだろう。

ヴァンパイアは再び俺を狙うが、タァマちゃんが作ってくれた時間で俺は魔法の準備を終えることが出来ている。


「『レーザープリズン』」


光の檻がヴァンパイアを囲い、こちらに突っ込んできたヴァンパイアはその檻に接触して体がバラバラになる。


「よしっ、やったか!?」


しかし、心臓のある部分を残してバラバラになった体が灰になり、瞬時に再生される。

・・・マジかよ。


「クカカ、良い魔法だ。しかし吾輩には効かないようだぞ?さぁ次はどうする?」


「くっ、『インビジブル』!」


「ほう、姿を消すのか。しかしっ!」


「がっはっ!」


姿を消して見えないはずの俺の胴体に正確に攻撃を叩き込んできやがった。痛ぇ、なんつーパンチだよ、あまりの痛みに集中が切れてインビジブルが解けちまった。防具の上からでもこれか・・・防具着けてなかったと思うとゾッとするぞ。


「小僧が消えても地面の石を見れば位置の特定は容易だ。ついでに言うと空気の流れまで隠さんとわかる者には見つかるだろうな。クカカカカ、まだまだ甘い甘い。」


そんな方法で俺の位置を特定してたのか。地面の石なんかについてはフライを使えば解決するだろうが、空気の流れまで気を使わないといけないのかよ・・・。


「これでも喰らえ!『サンダーランス』!」


少しでも距離を取る為に至近距離からヴァンパイアに向かって魔法を放つ、高速で飛来した雷がヴァンパイアを貫いたがやはりすぐに再生してしまう。しかし今はこれでいい。奴が再生している間に少し距離が取れたからな。


「クカカ、サンダーランスでこの威力か。なかなかの魔法の威力だ。ヴォンヴァンカンといい勝負をするんじゃな・・」


ヴァンパイアがしゃべっている最中にもう1本の雷の槍がヴァンパイアの頭部を撃ち抜いた。放ったのは俺ではなくアリアだ。

それでも瞬時に頭が再生され、ヴァンパイアは嬉しそうな表情を浮かべている。


「クカカカカ♪娘も小僧と同じ威力の魔法を使うか。面白いパーティだな!吾輩を楽しませる者等滅多に会えんというのに小僧共は実に愉快だ。これほどまでに吾輩を楽しませてくれるとはっ♪」


「これならどう!?『ターンアンデッド』!」


ヴァンパイアが盛り上がっている最中も、アリアは集中を切らすこともなくヴァンパイアに神聖魔法でアンデッドに効果のある魔法を叩き込む。


「むぅ!?ウ・・グググ・・・」


ヴァンパイアは飛来する魔法を咄嗟に避けようとしたが、完全には避けきれずに奴の左腕に魔法が直撃した。

ヴァンパイアの左腕は水分を失ったように干からびていったが、それでもジワジワと再生しているようだ。神聖魔法によるダメージは瞬時に回復しないみたいだな。


「アリア!その魔法なら効果があるみたいだ!どんどん使っていって!」


「うんっ!『ターンアンデッド』!」


「ぬぅ!もう当たらんっ!カッ!!」


「きゃあっ!」


ヴァンパイアが咆哮すると、魔力が乗った衝撃波がアリアを襲い、彼女は壁に叩きつけられてしまった。壁に激突した衝撃で、アリアの付けていた装備の止め具部分が壊れてしまい、上半身の防具が外れてしまっていた。


「アリアっ!!」


「うっく・・わ、私は大丈夫。敵に集中・・して!」


防具のおかげかアリアはなんとか意識は保っていた。視線をヴァンパイアに戻すと奴は自分の左腕を切り落とし、腕を再生させているところだった。奴は今立ち止まっているので、詠唱する時間が取れそうだ。


「深淵に流れる嘆きの川よ、閉ざされた世界から此の地に流れろ、全てを凍て尽かせ『コキュートス』」


左腕の再生が終わってしまい、あまり魔力を練れなかったが、それでもヴァンパイアを含む広間の半分が氷漬けになった。

これで時間稼ぎできるだろう。

俺はアリアの所に駆け寄り、彼女の怪我の確認していると、背後からピシリという音が響いた。

嫌な予感がしたので、音の発生源を見てみると、俺が作った氷壁に2m位の穴が開いていた。氷壁に閉じ込めたはずのヴァンパイアの姿はない。

突如俺の左側に気配を感じ、視線を移すとヴァンパイアが眼前に迫っていた。


「し、しまっ!『・・・・』!」


ヴァンパイアがの俺の脇を通り抜けた。

一拍時間をおいてゴッという硬い物が地面に落ちる音が響く。


「・・・え?」


その光景をアリアは茫然としながら眺めていた。


「クッカッカッ♪油断したな。もう少し楽しみたかったが、あまりにも隙だらけだったのでな。思わず小僧の首を撥ねてしまった。これで勝負は吾輩の勝ちだな。案外楽しませてもらったぞ。」


「え・・・?ヨーヘー・・・?嘘?嘘だよね?ヨーヘー!ヨーヘーッ!!『ヒール』!治って!戻ってきてヨーヘー!!『ヒール』!『ヒール』!『ヒール』!嘘っ!?嘘よっ!!」


アリアは血に汚れるのも構わずに回復魔法を唱え続けるが効果はないようで生気は感じられなかった。


「いやぁっ!いやぁっ!!ヨーヘーーーッ!!」


「クッカッカッ!娘、安心するがいい。お前もすぐにその男の元に送ってやろう。いや、それとも吾輩の眷属になるか?その美貌を殺すのは些か惜しいからな。」


「ヨーヘー!ヨーヘー!ヨーヘー!!」


「ふむ、吾輩を無視するか。まぁいい、ではお前から血を吸ってや・・ガッ!?」


アリアに背後から近付き、首筋に噛みつこうとしたヴァンパイアだったが、横合いから攻撃をくらって吹っ飛んでいった。

体勢を立て直したヴァンパイアは、自分を攻撃した存在を確認すると目を見開いて驚いた。


「むっ!?こ、小僧っ!?なぜだ!?今しがた確かに殺したはずだぞっ!?」


「いやー、それが生きてるんだなぁ。」


先程ヴァンパイアを吹っ飛ばした攻撃をした存在、勿体ぶってるが俺だ。洋平君だ。


「ヨ、ヨーヘー・・・?」


「うん、アリア。洋平君ですよー。俺は無事だからね。だから人の生首を大切そうに抱くのはやめなさい。血で汚れちゃうよ。」


「馬鹿な・・・だったらその娘が抱いている首は何なのだっ!?」


「あぁ、それはあれだ、残像だ。」


「こんな生々しい残像があってたまるかっ!!くそっ、それならばもう一度殺してくれるっ!」


動揺した様子のヴァンパイアが突っ込んでくる。


「『スイッチ』」


再び俺の首が胴体から切り離され、その頭を掴んだヴァンパイアはグシャグシャと頭や胴体をミンチ状にしていく。


「ヒッ!」


どんどん肉塊になっていく俺を見たアリアが、顔面蒼白になってその光景を見つめている。


「クカカカカッ!!どうだっ!これで死んだだろうっ!!」


「ふっ、残像だ。」


「・・・・・・」


新しい俺ががアリアの横に出現していた。


「さぁヴァンパイアさん。そろそろ5分経ったと思うんだけど、俺の勝ちってことでいいかな?」


「クカカカカ、馬鹿を言うな、今吾輩は最高に楽しんでいるのだっ!お前とはとことんやり合いたくなったぞっ!」


「おいおい約束が違うじゃないか。」


なんだよこいつ!変なスイッチ入れちまったか?

ヴァンパイアの態度に身構えていると、新たな存在がこの空間にいきなり現れた。


「エリペマフ卿、戯れもそこそこになさってください。姫の足取りが掴めました。この国の王都にて目撃されたとの情報がありましたので、逃げられる前に向かいますよ。」


巻き角を持つ顔色の悪い執事っぽい格好の人物が、ヴァンパイアの隣にいつの間にか立っている。どこから来た?全然わからなかったぞ。まさか転移魔法か?


「メェグリルか・・・折角興が乗ってきたというのに邪魔をする。どちらかというと吾輩は、姫なんぞよりこの男との戦いの方に興味があるのだが・・・。」


「閣下。」


「むぅ・・・わかったわかった。致し方なしだ。陛下に小言を言われるのもつまらんからな。あぁ・・興醒めだ。仕方ない、このゲームは小僧の勝ちでいい。いや、吾輩に勝った者に対して小僧呼ばわりは失礼であるな。そんな態度では吾輩の格も落ちてしまうというものだ。まずは名乗らせてもらおう。吾輩の名前はウラド。ウラド=エリペマフという。お前の名前は何という?」


「あ、これはご丁寧にどうも。俺は洋平=石川といいます。どうぞよろしく。」


「イシカワか。覚えておこう。娘、お前は?」


「・・・アリア=イグナス。」


「そちらの小娘は?」


「ふみぃ・・タァマはタァマです。」


「クカカカカッ!お前達とはまたいずれ殺し合いたいものだ。だがまだ吾輩の力には及ばぬ。もっと力を付けろ!そしてもっと吾輩を楽しませるのだっ!!クカカカカッ!!」


俺達の名前を聞いてウラド=エリペマフと名乗ったヴァンパイアはテンションが上がっている。俺達はまぁいいが・・・トリス・・・。

1人蚊帳の外といった感じのトリスの存在がいたたまれない。


「ん?どうかしたか?・・・あぁ、すまんすまん、印象が薄かったものでな。そこの絶壁エルフもいいフォローをしていたと思うぞ。」


プチッ


何かが切れる音がした。音の発生源は見ないようにしよう。


「クカカカカッ♪では吾輩はこれで失礼するとしよう。家出した御転婆娘を見つけないといけないのでな。本音を言えば何故吾輩がそんな事をせねばならぬのかと「閣下」・・・ふぅ、メェグリルそんな目で吾輩を見るな。吾輩が乗り気でない事は知っていよう。はぁ、まったく面倒な事だ。ではイシカワよ、また殺し合おうぞ。さらばだっ!クカカカカカ。」


ウラドは言葉と共に体を霧に変えて洞窟から消え去った。いつの間にかメェグリルと呼ばれた執事風の顔色の悪い男もいなくなっている。しばらくすると洞窟内に満たされていた不快な感覚が綺麗になくなっていた。

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