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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
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75話 シースーとソン爺の憂鬱

イノッチと別れ、キレースの借家まで戻ってきた俺達は、トリスが綺麗にしておいてくれた借家の調理場で、炊き上がった米を木桶に全部移して酢飯を作っていた。

風魔法で酢飯に風を送っておけばあとは放っておいて問題ないだろう。次はネタの準備をしないといけないな。

玉子、マグロ、タイ、はまち、サーモン、いわし、イカ、タコ、えんがわ、あなご、赤貝、つぶ貝、ほたて、アワビ、ツナ、マヨコーン、ネギトロ、納豆、イクラ、ウニ、鉄火巻き、かっぱ巻き。ほぼそれっぽい魚を使っているわけだが、細かいことはいいだろう。あと迷ったけどやっぱり外せないと判断して蒸しエビ、生エビ、カニも用意することにした。


寿司の準備をしていると、マッスルさんが来訪したのでテーブルについて貰い、準備が終わるまでマグロにマッスルさんの相手をお願いした。この時に日本酒を渡しておいたので、お酒パワーで盛り上がっておいてほしい。こっちはもうちょっと掛かるから場繋ぎヨロシクゥ!


出来上がった寿司をテーブルに並べていくと、その寿司を見てマッスルさんは勿論のこと、トリスやマグロも寿司に見入っているようだった。一緒に作っているアリアが色彩が凄く綺麗だと関心していたくらいだからな。俺は寿司職人ではないので、本職から見たらダメ出しされるであろう握り寿司も、並べるとそれっぽく見えるし、色とりどりで皿の上を華やかに彩っているように見えた。


それぞれの前に醤油皿を置いていき、タァマちゃんに醤油を皿に注いでいくという任務を言い渡した。気付かれないように醤油を注ぐという忍ぶ者の能力を遺憾なく発揮しているようだ。

並べていくうちに気付いた事がある。そういやガリ忘れたな。作ってないし・・・まぁ今回はいいか。


「ヨーヘー、今日は夕食をご馳走してもらい感謝する!ところでこの美しい料理は何という料理なんだ?」


聞きたくて聞きたくてウズウズしていますという感じで俺に質問してくるマッスルさん。迫り来る筋肉がちょっと怖い。


「これは寿司という俺の故郷の伝統料理ですよ。これをこの醤油につけて食べるんです。こっちの皿はワサビというちょっと刺激のある植物が、シャリ・・・この白い土台とネタの間に挟んであります。ウチの女性陣はワサビが苦手っぽいので分けて作ってあるので、興味がありましたらどうぞ。」


「昼飯の時にもらったおにぎりの時も気になったんだが、この白い部分はなんだ?」


「それも俺の故郷の主食になっている米という穀物ですね。それに調味料を加えたものが白い部分になります。」


「ほぅほぅ!俺達と全然食文化が違うのだなっ!」


「それに美味しいんですよー。ヨーヘーの故郷の料理ってすっごい色々な味があって面白いんです。作ってて凄く楽しいもの。」


「むっは!それは楽しみだっ!それとヨーヘー。この木の棒はなんなのだ?」


「あ、それは食器です。箸という道具なんですけど、それで料理を挟んで口に運ぶのが俺の故郷での食べ方なんです。使い辛かったら寿司は手掴みでもいいですよ。寿司に限っては手掴みの方が通って感じに思われますからね。まぁあんまりお預けしててもしょうがないんで、食べましょうか。」


「「「いただきます。」」」


皆それぞれが寿司を口に運んで食べた。


「むむぅ!!こ、これはっ!!うーーーまーーーいーーーぞーーーーーーっ!!」


マッスルさんの咆哮が借家を揺らした。

タァマちゃんがビクっとなっているじゃないか。恥ずかしかったのか何事も無かったかのようにすました顔をしているが、尻尾の毛が逆立っている。

他の皆は咆哮はしなかったが、美味しそうに食べてくれてる。俺も食ったがちゃんと寿司だった。やべぇ・・・超うめぇ・・・。

味わうという事を知らないマッスルさんが、凄い勢いでシースーを食べていたが、不意にその手を止めている事に気が付いた。


「ヨ、ヨーヘー!これはもしかして殻虫か?く、食えるのか?」


「殻虫じゃなくてエビって呼んでくださいよ。虫扱いされると俺まで嫌になっちゃうじゃないっすか。一応食べれますけど、無理はしなくていいですからね。」


「むっは!それはすまんな!食えるのか・・・く、食ってみるか?よし・・・むぐむぐ・・・おぉ?意外と美味い?うん、これはイケるな。うんうん。」


味が癖になったのかエビとカニをムシャムシャと食べまくるマッスルさん。


「むっは!これは腹一杯食べたくなるなっ!殻虫はゴミ同然で捨てられているからサイフにも優しい!意外な珍味を発見したぞ!」


その後も怒涛の勢いで食べ進み、30人前はあった寿司は全て片付いてしまった。どんな胃袋してんだよ・・・。内訳としては俺2人前、アリア1。5人前、タァマちゃん2人前、トリス1。5人前、マグロ5人前、マッスルさん18人前・・・。余った分はお土産にと考えていたんだが綺麗に無くなってしまったな。

食後に緑茶を出して一息つく。


「むふー・・・非常に美味であった。ソン爺さんに刺身の話を聞いた時は悔しくて仕方がなかったが、これは一切れだけ貰った刺身以上に美味かった。魚の可能性が広がったのを実感できた。よし、これからも夕食はお邪魔する事にしよう。」


「えっ!?」


「むっは!いいではないか!何、タダでとは言わんよ!毎日魚や貝を持参しようじゃないか!色々な種類が欲しいんだろう?市場で珍しいのがいたら全部土産に持ってきてやるから!なっ!?いいだろう?」


おぉ!それは魅力的な提案じゃないか!


「ウェルカム。ですけど毎日魚料理じゃないですよ?あと俺達がいない時もあると思いますから、この家にいなければ諦めてくださいね。」


「うむっ!それで構わんよ!さぁトロ君っ!さっきの美味い酒をもう一度酌み交わそう!」


意気投合したマッスルさんとマグロは夜遅くまでドンチャン騒ぎしていて、そのまま酒瓶を抱いて寝てしまったのだった。こいつら明日絶対に二日酔いだろうな。



次の日、1階に降りるとマッスルさんはすでにいなくなっていた。マグロはというと案の定ウンウン唸っている。


「おぉ・・ヨーヘーか。ミーは・・・もうダメだ。」


「おい、お前大概にしろよ。キレースに着いてから無事だったのって昨日だけじゃねーか。」


「すまん・・・すま・・うぅ・・」


マグロは仰向けになって口をポークポークしてる。まるで陸に打ち上げられた魚のようだ。

・・・ダメだこいつ。

俺はマグロを放っておいて部屋に戻る事にした。マッスルさんが心配だったが、帰ったみたいだし問題ないだろう。


「ん、ヨーヘー。アンデルセンさんは大丈夫だった?」


部屋に戻ると起きたらしいアリアがベッドの上に腰掛けていた。


「あぁ、なんかいなかったから帰ったんだと思うよ。」


「ふふっ、ヨーヘーの料理大好評だったね。」


「アリアの料理でもあるだろ。修行時代の頃は凄かったのに、今じゃ凄い上手になったもんな。」


「もうっ!その頃の話はしないでよぉー!あれは私の黒歴史なんだよー!」


ベッドの上でアリアが顔を真っ赤にしてぷりぷり怒っている姿がなんか可愛い。


「はははっ、ごめんごめん。でもホントにうまくなったよなぁ。」


「うん、ヨーヘーのおかげだよー。いつも色々教えてくれてありがとね♪」


「アリアもいつも俺を助けてくれてありがとな。」


互いに照れ笑いしてプッと噴き出す。


「さて、朝食の準備をしようか。」


「うん♪」




マグロはダウンしてるので4人で朝食を食べてから借家を後にして、今は冒険者ギルドで依頼板を眺めていた。


「俺達は星4つに上がったわけだから、中級の依頼でも見てみますかね。」


なになに・・・えーっと


[採取]ブラックパール10個、[採取]翡翠珊瑚、[運搬]マギル学園都市、[運搬]ガラダ、[護衛]マギル学園都市、[護衛]王都アルガニト、[護衛]ミッセルン、[護衛]聖都タリアレム、[調査]キレース海岸南洞窟の調査、[討伐]クレイモアフィッシュ、[討伐]アダマンタートル、[討伐]アックスシャーク、[討伐]テンペストシザービートル


なるほど、テンペストシザービートルはまだ残ってるのか。受けないと言った手前こいつをやるわけには行かないな。運搬や護衛は無しだな。この街中心に動きたいし。そうなると採取か討伐か調査になるわけだけど、クレイモアフィッシュとアックスシャークは沖に出ないといけない。船が無いからこれは却下だな。狩るとするならアダマンタートルかな。魔物図鑑で確認するとアダマンタイト並みに硬い3mの亀と書いてある。アダマンタイトってダイヤより硬いっていうあれだろうか?

とりあえずこいつを狩ってみるか。中級の中位の魔物らしいけど、硬いという以外はそんなに強敵には感じられないんだよな。動きの遅い敵は俺達にとってはカモだ。依頼用紙を剥がしたところで上級にある調査依頼が目に入ってくる。それは非常に気になる内容だった。[調査]キレース周辺の生体調査という依頼なんだが、内容がベヒモスを見かけたという証言があったというもので、調査して来いという物だった。これ絶対イノッチの事だよな・・・。こんな依頼が出ているということはイノッチが襲われる可能性が出てくる危険がある。トリスは態々自分からベヒモスにちょっかい掛けるような馬鹿はいないと言っていたが、どの世界にも馬鹿はいるもんだ。これはちょっと俺達の仲間だという事を説明しておいた方がいいかもしれない。後でソン爺のところに寄っておこう。


「ギルド長ですか?ギルド長なら自室に引き籠ってますよ。なんか妙に元気がないんですよね。今日は珍しくギルドにいますし。」


毒セリアさんに依頼受付をして貰ったついでに、ソン爺の居場所を聞いてみたところ、まだ昨日の釣果を気にしているらしく落ち込んでいるようだ。ちょっと様子を見に行くか。


毒セリアさんに断ってギルド長室をノックすると、力ない返事が返ってきたので中に入ってみると、椅子に座って窓の外を見ながら黄昏ているソン爺を発見した。


「ソン爺?大丈夫っすか?たまには昨日みたいな日だってありますって。気にしない方がいいですよ?」


ギギギとソン爺が俺の方に向き直り朗らかな笑顔を向けてきた。


「おぉ、ヨーヘーか。昨日はすまなんだ。ちょっとショックが大きくてのぅ。じゃがそれについてはもう立ち直ったから大丈夫じゃよ。」


「そうですか。ならいいんですけど・・・。」


とても立ち直ったようには見えないんだが・・・立ち直ったならどうしてそんなに元気がないんだ?他に落ち込むようなことがあったのか?


「立ち直った割には元気がないなと思ってそうな顔じゃのう。そうか、やはりわかってしまうか・・・。」


ソン爺は浮かない顔をしている。もしかして災害級と言われているベヒモスの目撃証言があったからか?それならば危険はないと言って安心させてあげないといけない。


「もしかしてベヒモスの件ですか?」


「ベヒモス?あぁそうか。それもあったのぅ・・・。」


イノッチのことじゃないのか?そうなるともうなんだかわからないな。ソン爺が語ってくれるのを期待するとしよう。


「ベヒモス。ベヒモスのう・・・。そんな災害級をこの街近辺で見つけたという話が本当なら、もうこの街は壊滅しておるじゃろうよ。そんなゴシップネタはどうでもいいんじゃ。・・・実はのぅ、今朝方ここにアンデルセンの奴が来たんじゃ。・・・そこでっ!そこでのっ!!あやつときたら昨日ヨーヘーの所で夕飯を馳走になり、スシとやらを堪能し、非常にうまかったと自慢しおったっ!!それがどんなものか、どんな味かを事細かに説明しよるのじゃっ!!ヨーヘー!お主にその時のワシの気持ちがわかるかっ!?妙にテンションの高い筋肉野郎から伝えられるスシの情報!その味を知らぬワシからしたら苦痛でしかないのじゃぞ!?味の想像ばかりが先行して悔しさしか沸いてこぬっ!!それをあやつときたらペラペラペラペラと1時間も語りおってっ!!むぁぁぁぁぁああっ!!!ぬもぉぉぉおぉぉ!!!」


ソン爺ご乱心!!ソン爺ご乱心!!

俺は暴れようとするソン爺を必死に抑えつける。


「離せっ!離すのじゃ!!このワシの行き場を失った獄熱のソウルを解き放つんじゃぁぁぁぁ!!」


「そのソウルは解き放っちゃダメだっ!!そもそもあんたがマッスルさんに刺身を自慢したのが始まりだろうがっ!!馬鹿な争いしてんじゃねーよっ!!」


「そもそもヨーヘーが悪いんじゃっ!ヨーヘーがあやつにスシを馳走するからいけないんじゃぁ!なぜワシを呼ばないのじゃぁぁlっ!!」


「知るかボケェェェl!あんたが帰った後にそんな話になっただけだよっ!」


「呼ぶくらいしてくれてもいいじゃろ?ワシだけ仲間外れにしたんじゃ!オォーイオイオイオイ」


め、めんどくせぇ・・・。


「そんなら今夜もマッスルさんは夕飯食いに来るらしいから一緒にくればいい。但し、今日は寿司じゃないからな。」


「その一言を待っておったーーーっ!!」


このクソジジイ・・・。

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