70話 今後の予定
セリアさんの状況をなんとなく察してしまった俺達は、リーリアさんに長時間お邪魔してしまったお礼を伝えて教会を後にすることにした。リーリアさんは笑顔でまたきてくださいねと見送ってくれた。
「もう夕方だねー。ブリードさんとの約束って19時からだっけ?あと1時間ちょっとかな?」
「・・・あぁ、それくらいだね。」
「ヨーヘー大丈夫?魔力使い過ぎだよ。辛かったら休んでていいよ?ブリードさんにはちゃんと説明しておくから。」
「サーチで魔力を展開し過ぎた。あの感じだと今の俺の魔力では2モールが限界だろうなぁ。」
「充分広いって。それだけ広ければ大抵の人は探せるよ。」
「あ、魔力が少なくなっている今の状態ならアレができるかもしれない。アリア、俺ちょっとマジカルハウス行ってくるね。」
アリア達に声を掛けて人目につかないところからマジカルハウスに移動する。
中に入るとマグロが起きていて、冷蔵庫を漁っている場面に出くわした。
「お?ヨーヘーじゃないか。どうしたんだい?」
「ん、ちょっとやってみたい事があってね。新技開発の為の準備ってとこかな。それよりもう起きて大丈夫なのか?」
「あぁ、まだちょっと頭は痛いが大分良くなったよ。」
「そうだ。あと1時間くらいしたらブリードさんと夕飯を一緒に食べる事になってるんだ。来れるようなら来る?」
「おぉ、丁度小腹が空いていたところだよ。ご一緒させてもらおう。」
「あいよ。んじゃ俺は2階に上がるから出かける準備だけしておいてくれ。」
マグロに声を掛けて俺は2階へと上がり、ベッドに腰掛けた。
「さて、やってみるか・・・。『クローン』・・・うへぁ・・・」
魔力がゴッソリ持って行かれた。もうほぼ空だ。この世界の人間ならシナってなるレベルだと思う。
隣を確認するとそこはかとなく気品の漂う紳士がベッドの上に横たわっていた。とても優しそうでアリアが見たら一目惚れしちゃうんじゃないかと思うくらいの紳イケメンが眠っている。ごめんなさい、一部誇張表現が含まれました。
「よし、成功だ。・・・魔力はあまり感じられないな。クローンを使った後の状態で複製されたのかな?」
それにしても体がダルい。魔力がほぼ空になるのは3回目かな?2回目に空になった時より魔力総量は上がってるみたいだけど、やっぱりさっきのサーチで使い過ぎたみたいだ。そりゃそうだよな。俺を中心に1500kmの範囲に俺の魔力を放出したんだからさすがに魔力だって少なくなる。クローンは対象の内臓魔力が多いほど難しくなり、必要魔力も増えるから、出来るだけ魔力が減っている状態に掛けるのが好ましい。まぁ好ましいだけで、魔力を全部注ぎこむ覚悟でやれば大抵複製できるんだろうけどね。無理だと思ったのは今のところ魔力満タンの俺、アリア、ミイ師匠の複製だけだな。
さて、このかっこいい紳士をどうするかな。ここに寝かせておくのも気持ち悪いし、とりあえずブラックボックスにでも仕舞っておくか。
「くっ・・・この紳士重てぇな・・・グラビティの魔法使うと魔力が空になりそうだし、自力で運ぶしかないか・・・。」
俺はダルい体を動かして紳士を背負ってブラックボックスに移動した。
「どこに置いておこうかな・・・。」
ブラックボックスの中を見回すと、一際目立っているのが約10万枚の大金貨の山だ。あれは存在感がありすぎる。その横には金塊とミスリル100%の塊とオリハルコン100%の塊が置いてある。あれらの価値もバカにならないと思う。
「いつ見ても圧巻だなぁ。」
大金貨の山の上に座らせておくか?この前作った海賊の船長コスチュームに着替えさせてみれば結構かっこいいかもしれん。
紳士を着替えさせようとしたところでベッドが視界に入った。
紳士の着替えを中断してベッドの上に視線を移すと、美少女が2人眠っている。1人は普段着のアリア。もう1人はバスタオルワンピースのアリア。そうアリアンとアリアン2号である。
「・・・・・」
俺は紳士を担いで行き、アリアンとアリアン2号の間に寝かせてみた。
「両手に花じゃないか。なんだこのパラダイス。それにしてもアリアンはともかくアリアン2号は際どい格好してるよな。・・・これ風呂場で複製したから下に下着付けてないんだよな。」
ゴクリ・・・
俺は並べた3人の足の方に移動して彼等を凝視する。正確には一番右のアリアン2号の太ももを凝視する。
も、もうちょっとでみえ・・・みえ・・・
「ヨーヘー?」
ギックゥゥゥゥッッッ!!!?
「ヒヒヒヒヒヒャ、ヒャイッ!!」
後ろから声を掛けられた。この声は間違えるはずも無い。アリアだ。
「遅いから様子を見に来たんだけど何やってるの?わっ!さっきより顔色悪いじゃない!本当に何やったの!?それに凄い汗・・・」
「ちちち、ちょ、ちょぉーーっとあ、あああ新しい技の準備をっっっね!やややってたでありますですよ?」
「そうなの?どんな技なの?・・・あ。」
アリアの視線がベッドに移る。そこにはアリアのクローン2体に挟まれて寝ている俺のクローンがいる。
あ、俺死んだ。
「ヨーヘー。まだここに用事ある?」
「無いであります。」
「じゃあ出よっか。」
「アイマム」
ブラックボックスから出てマジカルハウスに戻ると、アリアからベッドに寝るようにと促されたので言われるままに従う。俺は今のアリアに逆らう程バカじゃない。少しでもアリアの怒りを抑えて苦痛を軽減させることが出来るかを考えないといけない。
ATOにビクビクする俺をする俺にアリアは布団を掛けてきた。
「時間になったら起こしてあげるから、今は休んでおいて。疲れてるでしょう?」
あれ?
「あの・・・アリアさん?さっきの事怒ってないの?」
「さっきの事って?ヨーヘーが無茶して魔力使ったこと?」
「いや、アリアン達のこと・・・です。」
「ん~、あ、あれくらいなら別に怒らないよ。あれは私であって私じゃないんだし。でもエッチなことしようとしたら怒るからね。」
た、助かった!?またどこから出すのか不明なスリッパでスパコーンとやられなかったから、2号の秘境を覗こうとしたことはバレてないのかもしれない。
「私達はマジカルハウスを持って宿に戻っておくから、ちゃんと寝ておいてね。おやすみヨーヘー。」
アリアが出て行ったので俺もお言葉に甘えて休む事にしよう。ふぅ・・・肝っ玉が冷えたぜ・・・。
「・・・ーヘー、ヨーヘー、起きて。そろそろブリードさんとの約束の時間だよ。」
体を揺すられる感覚と共に俺を起こす声が聞こえてきた。
「う、う~ん・・・あ、アリア・・・あはよう。全然寝た気がしないんだけど・・・。」
「そりゃ1時間くらいしか寝てないもん。どう?少しは楽になった?」
魔力枯渇による倦怠感はないな。魔力も1~2割は回復してるっぽい。こんだけあれば今日はブリード氏と食事するくらいだし、なんとかなるだろう。
「ありがとうアリア。おかげで結構回復できたよ。でも、万が一戦闘になるようなことがあったらお任せするね。」
「ふふっ、わかったよ。さぁ顔を洗ってきて。すぐに出掛けるよー。」
身体を起こした俺は、脱衣所で顔を洗ってからマジカルハウスの外に出た。
ここは宿屋の部屋だな。俺が寝てる間にアリアがマジカルハウスを運んでくれたようだ。
部屋の中にはアリアとトリスとタァマちゃんがいた。タァマちゃんは俺を見つけるなり抱き付いてきたので、そのまま抱き上げてあげる。
「マグロは?」
「マグロなら先にロビーに降りてるって言ってたよ。」
それならとっとと合流して商人ギルドに行くか。
ロビーでマグロをピックアップした俺達は、ゾロゾロと歩いて商人ギルドまでやってきた。
「ヨーヘー君、こっちだよ。」
「どうもブリードさん。待たせちゃいました?」
「いやいや、俺もさっきまでここで仕事してたから先にいただけだよ。トロ殿、もうお体は宜しいので?」
「うむ!まだ微妙に頭は痛いが無視できるレベルだよ。」
「それは良かった。ヨーヘー君ちょっと待っててくれ。今妻を呼んでくるから。」
そう言い残してブリード氏は商人ギルドの中に入っていった。
その後ブリード夫妻と一緒にブリード氏オススメのレストランに案内して貰ったのだが・・・そのレストランは昨日来たレストランだった。
ブリード氏曰く、味はそこそこだが雰囲気がいいとのこと。うん、知ってる。
ブリード夫妻は元々キレースに店を構えているらしく、ガラダには仕入れで訪れていたそうだ。これから千年祭の準備をしなくてはいけないから大変だと言っていた。しかし、重要な稼ぎ時だから頑張りどころだと意気込んでいてやる気は満々のようだ。その後も雑談を交わして楽しい時間を過ごさせて貰った。
食事が終わりブリード夫妻と別れて、今は宿屋への帰路を歩いているわけなのだが・・・
「なぁ、お前はバカなのか?学習しないのか?なんで昨日よりもハイペースで飲んだんだおい!?」
「うぃ~・・・迷惑を掛けるなぁ~・・ヨーヘー、もう一軒行こう!ミーはまだまだ行け・・オェェェッ!」
「ちょっ、ばっ、お前死ねぇぇぇぇ!!!」
マグロは俺に背負われているわけだが、俺の肩口からマーライオンしやがった。くそっ、飛び跳ねたのが俺の靴とズボンに・・・
アリア達はいつの間にか離れてるし・・・勘弁してくれよ・・・
その後、3回程マーライオン見学ツアーをこなしながらなんとか宿に到着。部屋に戻ってマジカルハウスのマグロ養殖場に、昨日と同じ様にマグロを放り込んだところであることに気付いた。気付いてしまった。
「態々宿屋に連れてこなくても、養殖場に放り込むならどこで放り込んでも良かったじゃん・・・」
俺、汚れ損。
無駄な体力と神経を削った事実に溜息を吐いて、気を取り直すために風呂場に直行するのだった。
風呂から出た後、今後の予定について皆と話し合うことになった。
「セリアさんの行方は結局わからなかったわけだけど、これからどうしようか。」
「うん・・・。お姉ちゃんはたぶんもう・・・いないんだと思う。ヨーヘーも頑張ってくれて見つからなかったんだもんね・・・。こうなったらもうお兄ちゃんに直接会いに行くしかないかな。」
「でもアリア、コルベール城は厳重な警備がされていると聞きます。旧王都ザクレンには、この国ロイト王国の兵隊とグレイグ王国の兵隊が混成軍を組織してコルベール城を囲んでいるのでしょう?しかし憤怒の魔法師は出てこないので定期的に攻撃を仕掛けては犠牲を出していると聞きますね。今では名を上げようと憤怒の魔法師に挑む者を止めるのが主な仕事と聞きますので、彼等の許可がないと入れないと思いますよ。」
「私がお兄ちゃんの知り合いだって言えば通してくれないかな?」
「それは悪手です。作戦の盾として使われるか、関係者ということで掴まる可能性もあります。」
「前回行った時に知り合いだって言わなくて良かった・・・。」
「行った事あったんですね。ならば現状どうなっているかアリアが一番わかってると思います。」
「うん、ヨーヘーには前も説明したけど、コルベール城にはお兄ちゃんが掛けた障壁に覆われているの。かなり強力な障壁みたいで、魔法師が30人くらい集まってやっと人が通れるくらいの大きさを中和できるって話だよ。討伐隊を組織する時はその中和した穴から城内に入り込むんだって。」
「それならば道は2つですね。討伐隊に組み込んで貰うか、自力で中に入るか。討伐隊に組み込んで貰うには私達は実績が低すぎます。冒険者ならば最低でも上級になってないとダメでしょう。そうなると残された道は自力で入る事ですが・・・。ヨーヘー、貴方の特殊魔法で中に入ることはできませんか?」
「うーん・・・中が見えていれば入る方法が無いことも無いんだけど、障壁を抜けられるかが問題なんだよなぁ。障壁の中和って言うのはどうやるんだろうね?」
「たぶん何かの自然魔法を使った障壁だと思うから反属性魔法を当てて中和してるんだと思うよ。ヨーヘー、あの魔法はダメかな?ほらタァマちゃんに使ったやつ。」
「?・・・あぁ、あれならいけるかもしれないな。」
「あれってなんですか?」
「ごめんねトリス。この魔法はまだちょっと話せないんだ。」
「そうですか、それでは詮索しないようにしますね。」
タァマちゃんに使った魔法、それはディスペルだ。魔法効果を打ち消す効果があるこの魔法なら魔法障壁も消す事ができると思う。
「ザクレンに着くまでに色々中に入る方法を考えましょ。後はお兄ちゃんの説得か・・・うん、頑張って説得してみせるよ!」
「では、この後はザクレンに向かうのですね。キレースからですと、船でマギル学園都市まで行って、その後陸路でザクレンに向かう経路になりますね。」
「あの・・・ちょっと我侭言っていいかな?」
「ん?どうしたの?アリア。」
経路の話をしているとアリアが言い難そうに小さく挙手をして俺達の顔を伺っている。
「あのね、キレースを出る日なんだけど、12月の下旬か年明けすぐに出たいかなーって・・・」
「ん?別にいいけど、その頃にキレースでなんかあるの?」
「ううん、キレースじゃなくてね、気にしてるのはマギルの方なんだ。今行くとまだ学生が多いんだけど、12月下旬になれば長期休みで学生がいなくなるから・・・。私事で申し訳ないんだけど・・・」
なるほど、そういえばアリアはマギルの学園にいたんだったな。そこで酷い扱いを受けていたわけで、まだアリアの事を知る学生もたくさんいるんだろう。
「アリア、マギルに学生がいると何かあるのですか?」
「えっとね、実は今年の5月までマギルの学校に通ってたの。それでね、ちょっと問題起こしちゃって、なるべく学生には会いたくないの。ごめんね、本当に私事で・・・。」
「そういうことでしたら年明けまでキレースにいませんか?折角の千年祭ですし、アリアが居辛いマギルや殺伐としているザクレンで年明けをするより、この街で楽しんでから出発するのがいいかと思います。」
「あぁそうだね。その間にパーティの連携を高めたり、ちょっとした骨休めをしたりするのもいいね。」
「ごめんね。2人共・・・。タァマちゃんも私の我侭聞いてくれる?」
「はいっ!タァマはお兄ちゃん、お姉ちゃんと一緒にいられればにゃんでもいいですっ!」
アリアは嬉しかったのか、ありがとうと言いながらタァマちゃんをギューっと抱きしめた。
さて、年明けまでキレースにいるとなると1ヶ月と1週間滞在するわけか。宿に泊まっても良いけど、どこかに1ヶ月借りれる貸家ないかな?明日ブリード氏に今日のお礼がてら聞いてみるかな。良い不動産屋さんを紹介してくれるかもしれない。
明日は結構忙しくなりそうだな。
・・・はて?それにしてもなんか忘れている気がする・・・。なんだろう?このまま寝てしまうと不味いようなそんな気が・・・なんだっけ?
「アリア、俺なんか忘れてないかな?」
「え?今後の予定について?」
「いや、それは大丈夫なんだ。うーん・・・」
「マグロのこと?」
「あいつの事ならここまで気にならないよ。」
「じゃあギルド長?」
「それは明日行くことになってるよね。そうじゃなくて今日なんかやり忘れている気がしてならないんだ。」
「あの・・・ベヒモス、イノッチさんのご飯はまだでしたよね?」
「「あっ!!」」
まさか初日から忘れるとは!!
俺とアリアは慌てて宿を飛び出して、街の外に出た後にイノッチを呼んだんだが、目をウルウルさせて登場したイノッチに心を痛めたのであった。
イノッチがムシャムシャと俺の用意した肉を頬張っているのを見ていると、急にアリアが俺の胸にくっついてきた。
「アリア?」
声を掛けるとアリアの肩が震えていることに気が付いた。アリア・・・泣いてる?
「ご、ごめんね。皆の前ではなんとか我慢してたんだけど・・・なんとなくだけどちょっと覚悟はしてたんだ。」
な、何がだ・・・?
「あれだけ仲が良かったお兄ちゃんとお姉ちゃんが一緒にいないわけがないって・・・。もしかしたらお姉ちゃんはもういないのかもしれないって薄々は考えてたの・・・。」
あぁセリアさんのことか・・・そうだよな。慕ってた人が死んでしまったかもしれないというのは堪えるよな・・・。
「それが今日マザー・リーリアにお話を聞いて、ヨーヘーに探して貰って・・・生きてる可能性が凄く低いってことがわかるとね・・・覚悟はしていてもやっぱり辛いよ・・・。」
俺はこんな時なんて言葉を掛けてあげればいいのだろう?所詮俺の魔法の探知だからというべきか?サーチの魔法をやり過ごす方法で探知の網から抜けた可能性を指摘するか?そんなことはアリアも考えているだろう。気休めにしかならない・・・。俺は泣いている女の子に対して何をしてあげられる?
「ヨーヘーは・・・どこにも行かないでね・・・」
その言葉を聞いた時、俺はアリアを抱きしめていた。強く、強く、決して離れないように。
ムシャムシャムシャムシャ
「ブヒー!(おかわり!)」
イノッチ・・・台無しだよ。




