65話 ブラザー
しばらくするとアリア達が追いついてきた。
俺とタァマちゃんは同じ場所でぶっ倒れている。
「ねぇ?ヨーヘー。海までの距離考えた?全力疾走していい距離じゃないよね?」
「ゼェッ・・・ゼェッ・・・ゼェッ・・・テ、テンションに・・・逆らえなくて・・・。」
「タァマちゃんも、お兄ちゃんの真似ばっかりしてるとお馬鹿まで移っちゃうよ?」
「にゃぁぁぁ・・・でも・・・おっかけっこ・・・楽しか・・・たですっ!」
「アリア・・・ゼェッ・・・ゼェッ・・・」
「わかってるよ。キレースは目の前だけど休憩にしましょ。2人は休んでおくようにね。特にヨーヘーは寝てないんだから。ほら頭上げて。」
アリアに言われるまま頭を上げるとアリアが膝枕をしてくれた。汗をビッショリ掻いた俺の顔をハンカチで拭いてくれる。それを横目で見ていたタァマちゃんが、疲れた体に鞭を打って俺のところまでほふく前進で寄って来て、俺の胸の上に乗っかった。
「にゃぁぁ♪」
やり遂げたといった声を出すタァマちゃんだが、にゃぁぁ♪じゃねーよ。胸の上に乗るなっての。息苦しいっての。しかしタァマちゃんは幸せそうな顔をして俺の胸に頬擦りしている。くっ、息苦しいことには変わりないが、タァマちゃんが幸せそうだから概ね良し!
「むぅ。アリアばっかりズルいです!私にも代わってください!」
「ダァメだよ~。これだけは譲ってあげないよー。」
「むぅぅぅぅぅ!」
平和だねぇ・・・。おっといかん。この台詞はフラグになってしまう。
周辺を索敵してみるが、魔物の気配はない。ふぅ、杞憂だったか。
「それにしても順調ですね。ここまで何も起こらないのが怖いくらいです。最後に何かあるかもと警戒していましたけど、もうキレースはそこですし、何も起こりそうにありませんね。」
『魔物がいるよー』
またかよトリスゥゥゥゥゥゥ!!どうしてそんなにフラグ立てるのが上手なの!?ある意味見習いたいわ!!
ドドドドドドッ!!という突進音が聞こえてくる。もう索敵するまでもない。スピードはかなり速い。いち早く反応したマグロが魔物に向かって行き、魔物と接触した次の瞬間。
「ぬゎぁぁぁああああぁぁぁぁぁ・・・・」
マグロが木の葉の様に舞いながら遠くの方に飛んでいった。キラーンって感じだ。その様子を見た俺は慌てて立ち上がる。
「ちょっ!ヨーヘー!」
「さ、最悪です・・・。こんな上級の魔物がこんなところにるだなんて・・・。この魔物はまだ子供のようですが、本来上級冒険者が束になっても倒せない魔物です。キレースまで20ムール位です。全滅をさけるのなら散開して逃げて各個街に逃げ込むしかないと思います。」
「な、なんだって・・・そんなにこいつはそんなにヤバイ奴なのか?」
「この魔物は魔法耐性がとても高く、体毛に覆われた皮膚は鋼よりも硬いと聞きます。私達のパーティの強みである強力な魔法の効果が半減してしまう可能性があり、討伐するのはまず無理かと思いますよ。」
「えっ!?えっ!?何?何が起こってるの!?何も見えないよ!?」
「大丈夫だアリア!俺も見えない!くそぅ・・・恐ろしい魔物ということはわかったが姿まで見えないとなるといよいよもって厄介な魔物だぜっ!」
「え?何?あっ!茶色いのが見えた!あれなの!?」
「何!?茶色?俺には白に近い肌色しか見えないぞ!?」
「ヨーヘーはまずアリアを降ろしましょう。あなたが見ているのはアリアの足です。」
「それは出来ない!折角アリアの太ももを堪能してたんだ!魔物ごときが邪魔していいはずがない!」
今の俺達の状況。俺は上級の魔物に向かい合っているのだが、アリアの膝を抱きかかえてアリアの太ももに顔を埋めているので魔物なんて見えない。アリアの視界は開けているが魔物に対して後ろ向きになっているので、魔物の姿が良く見えない。
「そんなにふざけていてどうして今まで生きてこられたのかが不思議に思えてきましたよ!?とにかく死にたくなかったら真面目にしてくださいっ!」
くっ!どうしたらいいんだ!?そうだ!アリアに足を開いてもらえば魔物を確認することが出来るじゃないか。これ以外無いというくらいの妙案だった。早速足を開いてもらおうとアリアの膝を掴むとスパコーンっとスリッパで殴られた。
「もうっ!膝枕ならまたしてあげるから早く降ろして!あっあっ!待って!まだ降ろさないで!スカートの裾がヨーヘーの頭にっ!!」
なぁんだってぇぇぇ!?それは早く!いち早く降ろさないといけない!!だって魔物が目の前にいるんだもの!!すぐに降ろさないと危ないよね!!
「あっ!あっ!駄目だって言ってるのに!あっ、きゃぁっ!」
視界に広がる肌色が下にスライドして行き、目の前に広がるのは白い世界だ。鼻先に触れる肌触りのいい質感「クンクン」「ひぁ!?」に俺は満ち足りた気分になる。そのままアリアを下まで降ろすと、真っ赤な顔をして怒りの表情を浮かばせるアリアの顔がそこにあった。
スパコーンッ!スパコーンッ!スパコーンッ!スパコーンッ!スパコーンッ!
アリアが俺を押し倒して馬乗りになって俺の両頬をスリッパで往復ビンタする。
「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」
「このっ!ヨーヘーのっ!どスケベっ!馬鹿っ!変態っ!エッチっ!私の・・・ゴニョゴニョ・・で一回止まって匂い嗅いだでしょ!!わかってるんだからね!?」
「え?どこだって?よく聞こえなかっぎゃぁぁぁぁぁああ!!」
「アリアッ!後にしてくださいっ!今は本当に危険な魔物がいるんですっ!」
「むぅ・・・後でヒドイんだからね!わかった!?」
「ふぁい・・・。」
もうひどい目に遭っているが、それを言うと更にひどい目に遭うので黙っておく。
さて、上級の魔物か。どんな奴なんだろうな。マーシュサーペントで中級だろう?しかも上級冒険者が束になっても狩れないとか、もう上級とかそういうレベルじゃないんじゃないだろうか?もしかしてドラゴンか?
俺は俺達の前に立ち塞がるそいつを睨みつける。
体長は2m弱か。上級と言われるくらいだからもっと大型の魔物を想像したんだけど、思ったより小さいな。奴は茶色い体毛に覆われていて角が生えており、口には鋭い牙が生えている。シルエットは猪に近いな。凶悪そうなデカイ猪ってところか?奴はその顔にある4つの目で俺を見据えている。大したプレッシャーだ。でもなんか懐かしいプレッシャーでもあるな。
「ヨーヘー、戦おうなんて思わないでくださいね。この魔物の名前はベヒモスといいまして別名グランドカイゼルと呼ばれる地上の王です。他にもジ・エンド、殺戮の暴君、荒々しい死神と言う別名も多々持っている魔物です。どうしてこんなところにいるのかわからないのですが・・・。」
あれ・・?そのフレーズどっかで聞いたことあるな。隣のアリアを見るとアリアも何か引っ掛かってるような表情をしている。
「それにしても何で襲ってこないんでしょうか?ヨーヘーを見ている?」
ま、まさか・・・まさかっ!!
「イノッチ?」
「ブヒヒッ」
「おぉぉおっ!イノッチィィィィ!!マイブラザァァァァ!!」
「ブヒーーーーッ!」
2m弱の猪と抱き合う俺。ぐっ、イノッチ重い・・・。
「元気にしてたか!?イノッチ!!4ヶ月ぶりくらいだよな!?実はあの後心配してたんだよぉぉ!ちょっと大きくなったなぁ!足長くなった?角もちょっと伸びたんじゃね?!当ったら痛そうだなぁこれぇ!」
イノッチも嬉しいのか俺をベロベロと舌で舐めてくる。
「あははっ、よせって、あはっは!?い、痛い!痛いよ!?イノッチ!イノッチの舌超痛い!!」
心が通ったからかイノッチが何を伝えようとしているか何となくだけどわかった。
「ブヒッヒッ(兄ちゃん、俺腹減った。食いもん欲しい。)」
「んん~?腹減ったって?ちょっと待ってな。・・・はい!ここに牛肉が200gあります!しかしこんなもんじゃイノッチは足りないでしょう。わかります。はい!そんな時に便利な魔法!それがこれ!『クローン』×6!」
イノッチの前に約13kgの牛肉が積み上げられた。
「ブヒヒーッ(ご飯ー)」
その肉の山に顔を突っ込んでムシャムシャ食べ始めるイノッチ。ペロリと13kgもある牛肉を食べてしまった。お腹いっぱいになって満足したのか、イノッチは俺と向かい合い、なんか後ろ足で地面を蹴っていた。嫌な予感。
「ブヒヒーッ(追いかけっこー)」
「え?マジかよ?俺さっきスッゲーダッシュして疲れてるんだけど?ちょっ!待っ!うぉぉぉぉおおおお!!やっぱこれやるのかよぉぉぉ!!」
「ねぇアリア。あれってあのベヒモスですよね?なんでヨーヘーはジャレてるんでしょう?」
「よくわかんないんだけどね。このグロスティアに来て最初に出会ったのがあのベヒモスだったらしいよ?私もあのベヒモスに追い掛け回されて、ヨーヘーと一緒に逃げようとしたんだけど、私達が偶然落ちた穴にあのベヒモスがハマっちゃって抜け出せなくなっちゃったの。その後に私達の師匠がベヒモスを助けてあげたって流れだったんだけど、まぁ正確には穴を塞いでて外に出れないからどかしただけなんだけど。ベヒモスからしたら助けられたと思ってて懐いちゃったのかもしれないね。あ、ヨーヘーが木の葉のように舞ってる。私ちょっとヒールしてくるね。」
「ぐ、ぐふっ・・・イノッチ、ちょっとは加減して・・・」
「ブヒュル・・・」
すぐに駆けつけてきてくれたアリアに治療してもらい、落ち葉になっているマグロも回収しておいた。
嬉しい再会もあったが、そろそろキレースに行かないと目の前に見えているのにもう1泊することになりかねないからな。
「それじゃあイノッチ。元気そうで安心したよ。これからも元気に生きろよ。」
「ブヒュル!ブヒュル!」
「え?何?付いて来るの?んん?兄ちゃんと一緒にいたい?・・・っ!イノッチ!」
再び俺はイノッチと抱き合った。
「アリア、イノッチ連れて行ってもいいかな?ほら、イノッチもお願いして!」
「ブヒュルルル」
「あ、イノッチはこう言ってます。綺麗なお姉ちゃん。おいらも一緒に付いて行きたい。」
「うーん、ちゃんといい子でいられる?」
イノッチは首をブンブン縦に振った。
「えーっと、兄ちゃんと姉ちゃんとミイラの人はおいらを助けてくれたから3人の言う事はなんでも聞くぞーって言ってる。」
「ねぇヨーヘー。なんでこの子の言ってる事がわかるの?」
「え?うーん、なんとなく?ニュアンスで・・・。」
「私もわかるようになるかなぁ?」
「こっちの言葉は理解してるみたいだから意思の疎通は出来るんじゃないかな?うーん、後で一緒に魔道具作りに挑戦してみる?イノッチの言葉がわかるようになる魔道具。名付けてブヒリンガルを!」
「あ、それ面白そうだね。空いてる時間見つけてやってみたいね。」
「あの、アリア?このベヒモスを連れて行くのですか?」
「なんか見てたら可愛く見えてきちゃって・・・駄目かな?」
「し、正気ですか!?ベヒモスですよ!?危険過ぎます!」
「でも言う事聞いてくれるって言うし、私もヨーヘーみたいにこの子と仲良くしたいなーって。」
「あぁもう、どうしてお二人はそんなに普通からかけ離れた思考をお持ちなんですか!?」
「し、失礼な!ヨーヘーはともかく私はまともな考え方が出来るよ!」
「アリア、気付いてないみたいですから教えてあげますけど、あなたの思考はヨーヘーに通じるものがあります。ヨーヘーと一緒にいた事でヨーヘーの行動に慣れてしまった為に、同じ様な考え方を持つようになってしまったか、あなた方のお師匠様が変な教育をしたかのどちらかだと推察しますよ。」
「おい、黙って聞いていれば俺がイカレてるみたいな事言いやがって。どういう事か聞こうじゃないか。」
「ヨーヘーは普段はまともそうに見えますけど、突然突飛もない事をしますから、その変化に付いて行くのが大変だって言ってるんですよ。」
「あぁ、わかるぅ~。たまに凄い心労が溜まる時あるよ。金とか体の複製とか。」
「??、でも、それに慣れてしまってるわけでしょう?」
「うっ、でも私よりもタァマちゃんの方が受け入れてるよ!」
「なんでしょう?タァマちゃんの将来が凄く心配になってきました。」
トリスからそんな風に見られてるんだなという事はわかった。俺は・・・泣かない!
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「結局連れて行くんですね・・・。パーティにベヒモスがいる冒険者なんて世界広しと言えども私達だけでしょうね・・・。あぁ、でもドラゴンを使役している上級パーティがいましたっけ?そう考えると・・・いえ、ベヒモスを手懐けたのは史上初ですよね・・・。やっぱり非常識です。でもこのパーティのリーダーはヨーヘーとアリアですし、2人が決定したことなら受け入れないといけないですよね。」
トリスがなんかブツブツ言っている。アリアの了承も得られた事で、イノッチを連れて行けることになった。イノッチも喜んで前足と後ろ足を交互に上げて喜びを表しているようだ。なんかスキップっぽいな。
「問題はこのベヒモ・・・イノッチが街に入って騒がれないかですね。」
「あー、そうだなぁ・・・。イノッチ、俺達が街にいる間どうする?外で遊んでるか?うん?そうするって?でもこの辺に何故かご飯がいなくて見つけるのが大変だからご飯だけは欲しい?あぁ、リーパーアントが獲物を狩り尽くしたか、その気配を感じた生物が逃げ出したかしたからだな。オーケー、いいよ。ご飯は俺が用意してやるよ。と、いうわけでトリス。街に入るわけじゃないから大丈夫でしょ。」
「そういうことでしたら騒ぎにはならないかもしれないですね。でもイノッチさん?キレースには冒険者や領主様の兵隊だっていますから気を付けてくださいね。」
ブヒヒッと得意げな顔で任せとけー的な雰囲気を出して応えていた。
ベヒモス
体長60ミールの巨大な魔物。誰もが認める大地の王。筋肉質な体に鋭利な牙と爪、そして巨大な角を持つ。その突進は要塞の城壁ですら突き破るだろう。体皮、体毛は非常に硬く、体毛は魔力に対する耐性が非常に高い。咆哮は大地を揺るがし生物を萎縮させる。個体数が1体しか確認されていないが、複数いるのではという説がある。遭遇したらまず勝てないので、見つかりませんように、見逃してくれますようにと祈る事だ。(魔物図鑑より)




