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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
66/172

天才魔法師 1

洋平視点ではない人物の話です。

つまらない、つまらない、つまらない、つまらない。


屋敷にある書斎で机に突っ伏している少年がいる。

この屋敷は国内でも有名な伯爵家の屋敷である。

代々続く伯爵家は、今に至るまで優秀な魔法師を輩出する家柄であり、事実現在の当主であるクラウ=フィー=ラグノイド伯爵も王宮の筆頭宮廷魔法師としてその名を国内外に轟かせている。

そんな名家の長男として生まれた少年は、伯爵家始まって以来の、いや王国始まって以来の天才と呼ばれていた。

魔法に対する理解力が凄まじく、同じ魔法でも他の者より高威力の魔法が放てる。

魔力も千人の魔法師が持っているよりも大きな魔力を持っている。

多くの精霊から愛されている。

自ら魔法を作り出し、思いのままの魔法を使いこなす。

これを聞いた者は皆笑った。まだ9歳だろう、いくらなんでも脚色し過ぎだと。

少年を知っている者は皆恐れた。全てが真実なのだから。


少年がいる書斎にある本は全てが魔道書だ。代々優秀な魔法師を輩出してきた伯爵家の書斎は、魔道書に関して言えば王立図書館よりも充実している。

ここで退屈そうにしている少年は書斎にある本を全て読み、そして理解してしまったのである。

少年にとってここはもうすでに用の無い場所。しかし少年はここにいる。

ここは少年が一人になれる数少ない場所の1つだったからだ。

家族からは家柄自慢の道具として扱われ、同じ貴族達からは畏怖の目で見られていた。

平民に関しては凄い貴族様がいらっしゃる程度にしか思われていないが、そもそも平民からすればボンクラだろうが天才だろうが貴族は貴族。何も変わらないのである。

少年も平民に対しては家畜と同程度にしか思っていない。貴族とはそういうものなのだ。


「つまらない。」


また少年の口から愚痴がこぼれる。

ふと書斎の窓から外に視線を向けた。

目に入ってくるのは伯爵家が統治する町だった。

・・・そういえばこの間行ったパーティーで俺と同年代だという豚みたいな少年が暇潰しについて語っていたな。

やる事がない時は町に行って平民狩りをするのが楽しいとか言っていたか。

母子の子供の方、恋人・新婚の男の方を斬り殺すと女がいい反応を見せて面白いとか言っていたか。

ふむ・・・暇だし、ちょっと行ってみるか。


家の者に見つからないように屋敷内を移動し、敷地の外に出る。認識の阻害魔法を使っていた為、誰にも見つかる事はなかった。


屋敷から10ムール程離れた場所にある街に向かった。この街は我が伯爵家のお膝元の街でキーレスという。街は海に面しており、漁業が盛んな港町だ。

そんなキレースの街に足を踏み入れたところで豚君が言っていたような人物を探すべく物色を開始した。


さて、どれにするか。男女連れ立って歩いている2人組みは何組もいるが、恋人なのかどうかがわからない。親子の方がわかりやすいから親子を狙った方が確実か。

しかし、辺りを見回しても親子連れがいない。時間帯が悪かったか?

親子連れを探しながらウロウロしていたら、あろうことか道に迷ってしまった。

ふむ・・・ここはどこだ?


少年はあまり屋敷から出ない為、自分の家が統治する街ではあるが土地勘が無い。

しばらく歩いていると見覚えのある建物が見えてきた。

ここはたしかセリアル教会か、父に連れられて何度か来た事がある。

ぼんやり教会の建物を見ていると、教会の中から金髪の少女が出てきた。俺と同じくらいの歳だろうか?

丁度いい、あいつにするか。


「おいお前。」


「私?なーに?」


「お前の母親はどこにいる?」


「え?私のお母さん?私お母さんいないよ?孤児だもん。」


何?それは困る。母親がいないとあの豚君が言っていた状況にならないじゃないか。

俺が考え込んでいると、何を勘違いしたのか金髪の少女が近寄ってきて俺の手を握った。


「あなた迷子なの?じゃあ私がおうちまで連れてってあげる!」


「お、おい!待て!俺は迷子なんかじゃ・・・」


「こっちだよーーー!」


俺の手を引っ張って少女は凄い勢いで走っていく。


「ちょ、まっ、離・・・やめっ・・・」




少女に引っ張りまわされ、気が付くと街が一望できる高台にいた。街の全容、港、そして俺の家が見える。今の俺はそれどころではないのだが。


ゼェッゼェッゼェッゼェッ・・・オェェ・・・


少年は体力が無かった。今まで屋敷に篭って魔法の修行ばかりやってきたのだから当然とも言えたが。


「あなたって体力無いのね。ちゃんと食べてる?ほら、これ食べていいよ。私が作ったの!」


「ゼェッゼェッゼ!?ガハッ・・ウォェ!ゲホッゴホッ!!」


待て!?何を食わせようとしている?なんだその黒い物体は!?止めろ!それを俺に近づけるな!!ごめんなさ・・・やめろぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!と言いたかったのだが、呼吸が乱れてうまくしゃべれない。

少女は俺の口に無理矢理その物体を詰め込んできた。


「グェッ、ゴポ、フググェ」


クッ・・・石を詰められている気分だ!これが食べ物だなんて断じて俺は認め・・・な・・・い。




「はっ!?俺は・・・」


「あ、気が付いた?食べたと思ったら急に寝ちゃうんだもん。食べてすぐに寝るとファローになっちゃうよ!」


ファロー・・・体長2m程の主に食肉になる家畜だったか。草を食っては寝ているだらしない獣だ。


「誰がファローだ。とんでもない物を食わせやがって、なんのつもりだ?」


「あ、おいしかった!?結構自信作だったのー。」


なん・・・だと?

あれが自信作?こいつは何を言っているんだ?自信作じゃないやつはどんなのなんだ?くっ、体が震える・・・この俺が恐れているだと・・・?


「ねぇ?ここからならあなたのお家見えるよね?わかる?」


わかるよ。街の外れにある大きな屋敷が俺の家だ。迷子じゃないって言ってるのに、コイツは人の話を聞かない。


「見つかった?もうお家わかったよね?じゃあ遊びましょ?私とっても暇なの!」


「はぁぁぁあっ!?お前なんなの?俺を誰だと思ってんだ?愚民の分際でこの俺に無礼を働いてただで済むと思うなよ?ブスめが!」


バシィ!!


頬が痛い。

何が起こった?目の前のコイツを見てみると右腕を振り切っているように見える。

俺はもしかして殴られたのか?コイツは俺を殴ったのか??この俺を・・・?コイツ!!父上にも殴られた事ないのに!!

決めた。コイツは殺してしまおう。親がいないというから面白くないと思って見逃してやろうとしたが、気が変わった。


「今なんて言った?」


「あ?」


「今なんて言ったかと聞いてるの。そんな事も答えられないの?バカ?」


コイツ!!この天才である俺に向かってバカだと!?


「くっくっくっ・・・バカ・・ね。生まれて初めて言われたよ。」


「そんなことはどうでもいいの。今私の事をブスって言ったわよね?言ったわよね!?」


俺の初めてのバカをどうでもいいだと!?いや・・待て。何だ、このプレッシャーは。こ…これは…この不愉快さは何だ!?


「私ね?自分で言うのもなんだけど、美少女だと思うの。その美少女に向かってブスって言った?ねぇ?言ったよね?」


なんなんだ?この女から放たれるドス黒いプレッシャーは・・・魔王なのか?ヤバイ・・・殺られる!

本能的に自分は狩られる者と察した少年は目の前の少女に言いようのない畏怖を感じ、接近されないように距離を置こうと試みた。


「ま、待て、く、来るな!謝るっ!謝るから!!ごめんなぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」



「ふぅ、今日はいい天気だねー。」


「はい、仰るとおりでございます。美しい女神様。」


「あはは、嫌だなぁ美しい女神だなんて。うふ、女神だなんて♪」


自分でそう呼べと言ったんだろうが!


「あ、そういえばあなた。名前はなんていうの?」


「・・・ユグドだ。ユグド=フィー=ラグノイド。」


「ふーん。フィー?フィーって事は伯爵家の人?っていうかラグノイドって事は領主様?」


「あぁ、父上がここの領主だ。」


「そうなんだぁ。偉い人だったんだね。でもここの領主の癖に迷子になってたの?バカだねー、あはははー。」


俺の正体を知っても全然態度を変えないなこいつ。ていうか迷子じゃねーよ。


「迷子だって勝手に早とちりしたのはお前だろう。俺は迷子じゃない。」


「だったら、なんであんなところをウロウロしてたのよ。今日はお祈りの日じゃないでしょう?」


「・・・暇潰しだ。」


なんとなくだけど、平民狩りをしようとしていたと言ったら酷い目に遭う気がしたから本当の目的は言わない事にした。


「ふーん、領主の息子って暇なのね。だったら私が一緒に遊んであげるわ!」


「はぁぁ?何言ってんの?」


「私も教会の掃除するのが嫌でサボって逃げてきたの。だから暇なのよ。暇人同士一緒に遊びましょ。」


「俺、お前の名前すら知らないんだけど?」


「あ、言ってなかったっけ?ごめんね。私の名前はセリアよ。セリア=ローレンス。」


「ははっ、セリアか。その辺にいる名前だな!俺の周りにも知ってるだけでも30人はいるぞ。」


「うるさいわね!気にしてるんだから言わないでよ!教会に住んではいるけど、私ってそこまで熱心なセリアル教徒じゃないのよ。育ててくれてる教会には感謝してるけどね。」


言いながらセリアと名乗った女は俺の胸を殴ってきた。くっ、なんて乱暴な女なんだ。


「さて、ユグド。何して遊ぶ?木登り?屋根登り?それとも教会の大屋根に登っちゃう?あ、灯台登るのもいいかもね。」


なんで登るの限定なんだ?


「・・・狩り。」


「狩り?狩りかぁ。うん、それもいいかもね!何を狩る?アナウサギ?それとも海に出ちゃう?」


「ア、アナウサギでいいんじゃないか?街の外の草原に行けばいるだろうし。」


「うん!そうだね!じゃあ早速行こーーー!」


セリアに腕を掴まれ先程と同じように凄い勢いで走らされた。草原に着いた頃、体力を使い果たしてぶっ倒れたのは言うまでもない。セリアにだらしないと言われたがお前の体力が異常なんだよ。引き篭もっててあんまり外に出ねぇんだよ。くそがっ。


「ねぇ、もう息落ち着いた?落ち着いたよね?じゃあ早速アナウサギ探そうよ。」


セリアは5分しか休憩を許してくれなかった。もうちょっと休みたいと言ってもきっと聞き入れてくれないだろう。ジッとしてるのが苦手なのかもしれない。落ち着きの無さといい、高い所が好きな事といい、この女はたぶん頭が悪いんだろうな。

重い体を起こしてセリアと一緒に周辺を索敵したが、体力の消耗から視界の5割がホワイトアウトしてやがる。こんなんで見つけられる訳が無い。


「あっ!あそこ動いたよ!何かいるみたい!」


セリアの指差した方向を見てみるが、全然わからん。それはなぜか。今俺達がいる場所は草原に分類されるんだが、ここに群生している植物の丈が1.5ミールくらいあるからだ。俺とセリアの身長は同じくらい。ちょっとセリアの方が高いのだが、その差は微々たる物であり、2人共1.3ミール強の身長だ。当然周りなんて見えやしない、何故セリアが草むらが動いたのを見つけられたかと言うと、俺は肩車をさせられていた。ここまで走らされた挙句、ちょっとだが俺よりでかい奴を肩車。ははっ、膝がガクガクしてやがるぜ。だが倒れでもしたらきっとぶたれるだろう。ぶたれるのは痛いから嫌だ。必死に耐えているとセリアが肩から降りてくれた。


「ん、ありがと。あっちに何かいるみたいだよ。行ってみよ。」


セリアが指差した方向に向かってみるが、これ見つかるわけないだろう。どこの世界に狩られるとわかってて出てくるアナウサギがいるんだ。ていうかなんでこんな草の丈が高いところを狩場にチョイスしたんだ?もうわけがわからないよ。


「むぅ・・・いないねぇ。見失っちゃったね。」


そもそも見つけてすらいないからな?草が動いたのを見ただけだからな?

俺としては探している間に体力がある程度回復できたからよかったわけだが。


その後、夕方までアナウサギを探したが見つけられなかった。そろそろ街に戻るかという流れになって背の高い草むら地帯から出た時のことだった。先に出た俺の右足に痛みが走る。


「ぐぁ!?な、なんだ?」


「ユグド?どうしたの?あっ!その足どうしたの!?痛そう、痛いよね!?待って!すぐに治してあげるから!!」


「あぁ、凄く痛い!泣いてもいいかな?泣き喚いてもいいかな?今まで生きてきた中で一番痛いんだけど!」


「男の子が簡単に泣くんじゃありません!っ!?何かいる!?」


セリアが急に辺りを見回した。そんなことはいいから俺の足に付いた傷をどうにかしてくれ。血が出てるんだよ?


「あれは猪?」


セリアが発した言葉に俺も反応し、その視線の先を追うと体長1ミール程の猪がいた。


「ワイルドボアか。あまり大きな固体じゃないな。あの牙で俺の足を裂いたのか。くそっふざけた事してくれやがる。」


ワイルドボアは俺達を見据えて突進しようとしている。そんなワイルドボアの様子を見たセリアが俺とワイルドボアの間に入り込んできた。


「何をやっている?」


「あなたは私が守ってあげる。だから早く逃げなさい。」


足が痛くて逃げられないんですけど。


「私があいつを引きつけておくから・・・早く!」


いや、だからね。足が痛いんだよ。状況見ろよ。


「セリア、あいつ倒せるの?」


「この木の槍じゃ倒せないだろうなぁ。大丈夫!いざって時は私が食べられてあげるから!ユグドはその間に逃げてね。」


意外な台詞にワイルドボアから視線を外してセリアを見てみると足が震えている事に気が付いた。

俺の視線が外れた事をチャンスと思ったのかワイルドボアが突進してきた。

セリアは木を削った槍を構えてワイルドボアを迎え撃とうとする。

まったく・・・なんて日だよ。暇潰しにはなったけどな。

ワイルドボアとの距離が3ミール程になったところで俺は魔法を使った。


「『ロックウォール』」


俺達とワイルドボアの間に岩の壁が形成され、岩壁がワイルドボアの行く手を阻む。

ガンッという衝突音が聞こえたが、岩壁は崩れる事はなかった。まぁこの天才魔法師の作った岩壁がワイルドボア如きに破られるわけ無いからな。

セリアは突然現れた岩壁に驚いているようだ。

続けざまに壁の向こう側に『ロックランス』を叩き込むとワイルドボアの悲鳴が聞こえてきた。岩壁を消すと岩で出来た無数の槍に突き刺されて絶命しているワイルドボアが横たわっていた。豚の癖にこの俺に歯向かうからだ。

危険が去ったことを悟ったセリアは俺の方に振り向き、そして・・・


バチンッ!


ぶたれた。くそぅ!なんでだ!?


「魔法使えるなら使えるって言いなさいよ!無駄に怖い思いしちゃったじゃない!」


理不尽だ。


「もうっ!ほら!早く傷も治しちゃいなさいよ。」


「無理だよ。俺神聖魔法使えないから。」


「え?そうなの?じゃあ私が治してあげる。『ヒール』」


セリアが治療魔法を唱えると俺の足の傷がどんどん治っていく。もう全然痛くない。


「大した腕だな。もう完治した。」


「そうでしょ?私、神聖魔法にはちょっと自信があるの。教会のシスターからは天才って言われてるんだよ。裏のリアル爺さんの腰を治したのも私なんだよ。」


誰だその爺は。そんな奴知ってるわけ無いだろう。


「それにしてもこのワイルドボアだっけ?このお肉があれば掃除サボった事も見逃して貰えるかも!ねぇ、これ貰ってもいいでしょ?」


「あぁ別に構わない。」


「やったぁ♪あの子達も喜ぶだろうなぁ♪」


「あの子達って?」


「うん?教会にいる子供達。私と同じで親がいないの。お肉なんて久しぶりだから皆喜ぶわ。」


セリアはワイルドボアを見つめながらとても嬉しそうにしているな。


「今日は色々あったけど、楽しかったね!」


あぁ、こいつに振り回されたけどいい暇潰しになった。こいつは俺を恐れずに普通に接してくるし、めちゃくちゃ疲れたけど、なんか・・・楽しかったな。


「あぁ、楽しかったよ。」


「また明日も遊びましょ!朝8時にあの高台に集合だからね!」


これからも退屈せずに済みそうだ。俺はセリアの言葉に頷いた。


「じゃあ、このワイルドボアを教会まで運んで頂戴!」


「えっ!?これ俺が持つのか!?俺より重そうなこいつを!?」


「いいじゃない。私の力でも持てないし、魔法でちょちょいっと運んでよ。」


結局俺が魔法で運ぶ事になる。理不尽だ。




それからセリアとは毎日のように遊び、数年が経過する。

俺達は必然的に惹かれあって一緒にいない日は無いくらい仲が良くなり、日々楽しく過ごすのだった。


ちょっと忙しくなってきたので、更新ペースが落ちると思います。2~3日に1回の更新になりそうです。

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