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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
62/172

62話 理想の死に方

どうやってキレースまで行こうか悩んでいると、いきなり背中に衝撃を受けた。


「お兄ちゃん!!」


「ぐふぉぉっ!?」


色々考えていたから完全に無防備だった。反応できていない攻撃ってそんなに強打じゃなくてもダメージでかいよな。

後ろからタックルをされたが、倒れこむ程衝撃ではなかったので、なんとか踏ん張って襲撃者を確認すると、そこには白い綺麗な髪からピョンと出た猫耳を持った女の子が俺に抱きついていた。


「タァマちゃん?」


「はい!お兄ちゃん無事でした!良かったです!!」


「あれー?どうしてここに?ブリードさん達は?」


「おじちゃんは街にいます!タァマはお兄ちゃんとお姉ちゃんが心配だったから戻ってきました!」


え?マジで?15kmくらいあるはずなんだけどなぁ?

別れてから5時間くらいしか経っていない。


「タァマちゃん・・・走ってきたの?」


「はい!一生懸命走ってきました!!途中で疲れたから歩いちゃったけど頑張りました!」


さすがにちょっと前まで栄養失調気味だった子供が15kmぶっ通しでは走れないだろう。それでもタァマちゃんと出会ってから10日くらい経つが、見た目は相変わらずガリガリだけど、最初の頃に比べれば肉もちょっと付いてきたし、元気に育ってくれていると思う。そんなタァマちゃんが俺に会う為に態々走ってきてくれるとは、なんて可愛いんでしょう。


「あれ?そういえばトリスは?」


「にゃあ?」


タァマちゃんは振り返り、キレースの方向を向き遠くの方を見つめている。


「あれ?トリスお姉ちゃんがいにゃくにゃってる。」


「え?」


タァマちゃんの分かり辛い説明によると、キレースに着いて完了の旨をブリード氏にしてもらうとタァマちゃんはすぐに引き返してきたらしい。トリスもタァマちゃんの後を追いかけてきていたらしいが、たった今付いてきていないことに気付いたことを考えると、トリスは途中でダウンしている可能性が高い。辺りはもう暗く、トリスはたぶん1人で闇に怯えている事だろう。

リーパーアントが魔物や生物を狩り尽くしている可能性を考えると魔物に襲われる可能性は少ないかもしれないが、盗賊なんかもいるらしいから安心はできない。

俺達はどこかで撒かれたであろうトリスを探しながらキレースに向かって歩き出した。


街道を歩くこと1時間半くらい経った頃、暗闇の中に人影らしきものが見えた。その人影はなんかフラフラ揺らめいていた。


「えーっと、トリス?」


俺が声を掛けると人影はピタっと止まり、すぐにフラフラとこっちに向かって動き出した。


「ヨォォオヘェェェェ!!良かったですぅぅぅ!突然走り出したタァマちゃんを追いかけたのですが、どんどん先に行っちゃいますし、待ってくださいと言っても聞いてくれないですし、辺りは暗くなりますし、私一人ですし、無理なペースで走ったので足はガクガクですし、耳が痛くなりそうなくらい凄く静かですし、怖かったですぅぅぅぅぅ!!」


涙で顔をぐしゃぐしゃにしたトリスがフラフラしながら俺に抱き着こうとしたが、直前で力尽きて腰の辺りにしがみついてきた。そこはヤメて!ズボンが落ちるー!!


「ほらほら、泣かないの。美人さんが台無しだよ。」


涙で濡れたトリスの顔をハンカチで拭いてあげた。

これはトリスが落ち着くまで何も出来ないな。でも合流出来たわけだし、これで急ぐ必要もなくなったな。


「ふみぃ、トリスお姉ちゃんごめんにゃさい・・・」


「うぅ・・・だいじょぶですよ。タァマちゃんの気持ちはわかりますし。でも、今度は私の声も聞いてくださいね。私だって皆の事心配してるんですから。」


「にゃぁ・・・」


「ところで、アリアはどうしたんですか?」


「えっとね、実はこれ特殊魔法なんだ。効果は2つの存在が1つに合体できる魔法で・・・というのは嘘です。ちょっと怖いことがあったから、こうやって塞ぎこんでるんだ。」


あれからずっとアリアは俺に肩車したままだ。なぜなら俺の頭を抱え込んで離さないから降ろすに降ろせない。俺も嬉しいから離れるように促したりはしてないけどな。


「にゃぁ・・・タァマ登れにゃいです。」


「アリア?何があったのですか?降りた方がいいと思いますよ?」


「嫌・・・ヨーヘーから離れるのは怖いもん・・・。それにヨーヘーに顔見られるの恥ずかしいもん・・・。ヨーヘー絶対笑ってるもん・・・。」


「俺は笑ってないぞー?」


「嘘っ!絶対笑うに決まってるよ!この歳になって私・・・私・・・うぇぇーん」


「なんだ!?何か俺に笑われるようなことあったっけか!?まぁアリアの台詞のキーワードから推測するとアレなんだろうが、あれは俺の冷や汗だよ!だから大丈夫!!アリアはお漏らむごっ!?んむーっ!んむーっ!っっっっっっっ!!?」


アリアが俺の口を太ももで塞いできて台詞を中断させられてしまう。更に耳を引っ張られた。結構痛いです。っていうか、口を塞ぐなら足じゃなくて手で塞ぎなさいよ。しかし・・・これは!!・・・息が出来ないですね。く、苦しい・・・。アリアそろそろ離して、とアリアの太ももをパンパンとタップする。しかし外してくれない。・・・あ、これヤバい。


「むぅぅぅぅっ!!んむぅぅぅぅうっ!!」


パンパンパンパンッ!


うおぉぉお!?死ぬぅ!これは死ぬぅぅ!!こんな・・・こんな死に方って・・・・・・あれ?理想的じゃね?

俺は可愛い女の子の膝枕で生涯を終えるというのが理想だと思っている。今の状況を見るとアリアの太ももに挟まれている状態で、膝枕ではないが、むしろそれ以上のシチュエーションじゃなかろうか。しかも生足だ。あぁ、苦しいのを無視するとアリアの柔らかい太ももが俺を包み込んでいる。俺の口にアリアの太ももが吸付き、まるで一体化しているかのようだ。アリア、あぁアリア・・・俺はもうこのまま死んでもいい。というか死にたい。意識が遠くなってきた。このまま眠ったら気持ちいいだろうなぁ・・・。



「・・・ヘー!ヨーヘー!」


誰だろう?俺を呼ぶ声が聞こえる。でも俺は起きたくないんだ。最高の気分で眠った気がするから。


「ヨーヘー!起きてよ!ねぇヨーヘー!しっかりして!」


うぅ・・・やめてくれ・・・でもこの声は無視しちゃいけない気がする。


「ヨーヘー!うぅ・・・よぉへぇぇぇ・・・」


はっ!?声の主は悲しんでいる?誰だ!!この子を泣かす奴は!!

ふんわりした感覚が消えていき、次第に意識がハッキリとしてきた。

目蓋を開けると瞳に涙を溜めたアリアのどアップが視界を埋めていた。

俺の鼻はアリアの指で塞がれて、アリアの唇と俺の唇が後数ミリで触れ合いそうなそんな状況。アリアは目を見開いて固まっている。


「ヨーヘー?」


「や、やぁアリア。俺どうしたの?」


「っ!ヨーヘー!ヨーヘー!ヨーヘーーー!!」


アリアががばっと抱きついてきた。

おぅ!?どうしたんだアリア?抱きつかれて凄く嬉しいけどわけがわからないよ!?


「ヨーヘー!ヨーヘー!!ごめんなさい!私ヨーヘーを殺しちゃったんじゃないかと思ったっ!!」


えーっと?何があったんだっけ?・・・あー、思い出してきた。俺の肩から降りないアリアの状況をトリスに説明していたらいきなり天国を見つけてしまったんだったな。


「急に倒れて動かなくなったのでビックリしたんですよ?呼吸もしてないですし、呼びかけても反応無いですし・・・ただ表情だけは幸せそうな顔してましたからどうたものかと・・・。異変に気付いたアリアが必死に回復魔法等を掛け続けていたのですが、目に見えた効果は無く、今しがた人工呼吸をしようとしたところでヨーヘーが目を覚ましたんです。」


 なにぃぃぃぃ!?ということはあと1秒・・・いや、0.2秒起きなければアリアとキス出来ていたのかぁぁぁ!!?なんで起きたんだ俺ぇぇぇ!!くっそぉぉぉおぉ!!!や、やり直し効くだろうか?


「うぅ・・・く、苦しいぃぃぃ!こ、これは人工呼吸して貰わないとダメだぁぁぁ・・・パタ」


チラッ


「・・・・・・」


「むむっ、ヨーヘー大丈夫かいっ!?よしっミーが人工呼吸をしてあげよう!!」


「『ファイアーピラー』」


「ギョギョーーーーッ!!ミーがこんがり焼き魚にぃぃぃ!!」


よし、死んだ振り死んだ振り。

迫真の演技で死んだ振りをしていると何かが俺の唇に触れた。期待を込めて薄目を開けると当てられていたのはアリアの人差し指だった。


「ふふ、ダメだよヨーヘー。ほーら、起きて?」


どうやらバレバレだったようだ。俺の死んだ振りを見抜くとはアリアの洞察力はたいしたもんだ。アリアに腕を引っ張られたので観念して立ち上がるが、立ちくらみしてしまい、ちょっとよろけてしまった。よろけた俺をアリアとタァマちゃんが支えてくれる。タァマちゃんは小さいので支えられてる感じはしなかったが、その優しさに目頭が熱くなってしまうな。


「ヨーヘー、本当にごめんね。大丈夫?痛いところとか苦しいところとかない?」


「体に異常はないよ。あとアリア、謝らなくていいよ。俺も上空でアリアを怖がらせちゃったし、お相子って事で。むしろこっちが謝らないといけないよね。ごめんね。そしてありがとう。」


「ありがとう?」


「いや、なんでもない。ありがとう。」


「?変なの。でも、うんわかった。お相子だね。」


「さて、話もまとまったことですし、この後どうしますか?キレースの街まで行くとなるとここから3時間は掛かると思います。到着が夜中になってしまいますので、今日はこの辺りで野営するのがいいかと思うのですが。」


「あぁ、うんそうしよう。タァマちゃんとトリスが無事かどうか心配だったからキレースに今日中に着きたかったんだけど、こうして戻ってきてくれたし、慌ててキレースに行く理由も無くなっちゃったしね。トリスも疲れてるだろうし、無理せずにゆっくり休んでキレースに向かおうか。」


「ありがとうございます。夕食の時でも構いませんから、私達と別れた後に何があったか教えてくださいね。キレースの街からも黒煙が見えましたよ?」


マジか!まぁ結構な火事・・・というか火災だったもんなぁ。もしかしたら調査隊が組まれてしまうかもしれない。軽く地形変えちゃったけど大丈夫だろうか。・・・まぁ俺達がやったなんてバレやしないだろうからいいか。


「ふむ、そういうことならば夜の見張りはミーに任せたまえ!なーっはっはっはっ!!」


「あんた夜は目が見えないんじゃなかったか!?っていうか見張りはいらないよ。障壁張るから朝まで寝ててもいい。」


「ふむ、そうか。あの炎からミーを守ってくれた障壁だね。あれなら安心だ!なーっはっはっはっ!・・・それでだね。布があったら1枚貸してほしいのだが無いだろうか?身一つで馬車から飛び降りてしまったのでミーの荷物はブリード氏の馬車に積んであるんだよ。」

「布だけと言わずにテントも貸してやるよ。他にいるものは?」


俺は毛布と昨日複製したテントを出してマグロに手渡した。マジカルハウスの存在はパーティメンバーじゃないマグロには教えなくてもいいだろう。


「おぉっ感謝するよ!しかしこれはどこから出したんだい?」


「あぁ構わないよ。俺達の分もあるから。明日出発する時になったら呼びに行くからそれまでゆっくりしててくれていいから。」


「待つんだ。ヨーヘーは一緒のテントじゃないのか?もしかして男性であるユーが女性達が眠るこの狭いテントに一緒に入るなんてことは・・・ないよね?」


「入りますよ?俺達同じパーティだし。今までもそうだったし。」


「い、いくら同じパーティでもそれはどうかと思うのだが!?タァマ様は問題ないにしてもアリア嬢やトリス嬢は気にしないのかい!?」


「私は別に・・・」、「私もヨーヘーならば気になりませんよ。」


「な、なんと・・・間違いがあったらどうするつもりなんだい?」


「私はヨーヘーの事を信頼していますし、間違いが起きたとしてもヨーヘーなら別に・・・」


トリスさん、信頼してくれるのは嬉しいのですが、そういう発言は勘違いしちゃうよ!?冗談なんだろうけど、好意的に見られているから出る冗談だろうし、悪い気はしないな。


「私はヨーヘーが同じ空間にいないと安眠出来ないから一緒じゃないと困るかなーって」


「タァマもお兄ちゃんと一緒じゃにゃいと嫌です!!」


「ふむ・・・ではキレースに着いたら大きめのテントを買うのはどうだろう?ミーだけ別のテントというのは少々寂しいからね。」


「え?なんで?」


「いや、同じパーティなのだから仲間はずれっぽくならないかと懸念してね。」


「「「「え?」」」」


「え?」


マグロは何を言っているんだろう?誰かわかる人がいたら教えて欲しい。つまりなんだ?マグロはもう『フリーター』に入っているつもりなのか?いや、まさかな。でもそう考えるとマグロの言っている事が辻褄が合う。でも入れた覚えないしな・・・。こういうのはちゃんと確認しておかないといけないな。


「えっと、どういう意味?」


「いや、だから、同じパーティなのに1人だけ別の場所で休むというのは疎外感を感じるんじゃないかと。」


「誰が?」


「いや、ミーが。」


「待って欲しい。マグロが誰と同じパーティだって?」


「ミーがヨーヘー達と同じパーティになったではないか。それとミーの名前はマグロではない。トロ=オーマだ。」


「何かの間違いじゃないかな?マグロは俺達のパーティメンバーには入っていないぞ?」


「なっ!?一緒に護衛依頼をしたじゃないか!それはもう立派なパーティじゃないか!!これからも一緒に行動していこうということじゃないのかい?」


そうなのか?冒険者についてまだよくわからないけど、そういうルールなんだろうか?俺よりも冒険者歴の長いトリスに確認するように視線を向けると、ふるふると首を横に振って否定していた。


「えーっと、面倒事の匂いしかしないので結構です!」


「なっ!?そ、そう言わずに!ほら!ミーは星5つの冒険者だ!ヨーヘーは星3つだろう?色々教えてあげられるから!」


「平気平気!トリスも星5つだし、そういうのはトリスに教えて貰うから!」


「ミ、ミーは役に立つと思うぞ!?」


「あんた今回の護衛で足引っ張ってばっかだったじゃねーか!グリーベアー戦は大目に見るにしても野営の時の見張りでは魔物の接近に気付かないで食われるし、朝は寝坊するし、狩らなくてもいいグランドワームに突っ込んでいって荷馬車の進行を遅らせるし、敵の確認もせずに突っ込んでいって仲間を危険に晒すし地雷の臭いしかしないんだよっ!」


「そ、そんなことはないぞ!?いや、今回はたまたまそうだったんだ!いつもは違うんだ!」


「ほう?」


「だからお願いします!ミーをヨーヘー様のパーティに入れてください!タンクとしては優秀だと思うんです!魔物と一緒に焼いて貰っても構いません!どのパーティにも入れてもらえなくて、もうこのパーティしかないんです!食費だけ頂ければ報酬もいりません!変えろというなら名前もマグロに改名します!!ミーをパーティに入れては頂けませんでしょうか!?」


う・・・なんか可哀想になってきたなぁ。少なくとも必死さは伝わってきた。


「ちょ、ちょっと皆と相談するから今日はそのテントで1人で寝てくれる?」


「なにとぞ!なにとぞお願い申し上げまする!!」


ひたすら下手に出てくるマグロをいなしつつ、自分達用のテントとマグロのテントを張ってバリアで周りを覆い、マグロに明日結論を出すと伝えて、俺達はテントに入った。さらにそこにマジカルハウスを出して中に入る。


今日の夕飯は大根の葉っぱの漬物の混ぜご飯が余っていたので、米はそれを食べるとして、おかずとして野菜の天ぷらを揚げた。

食後は4人でお風呂に入ったのだが、ふと見えたアリアの内ももが赤くうっ血している事に気がついた。俺はあの場所で窒息したんだな。キスマークっぽくなってしまっている。気になってチラチラ見ていたらアリアがお湯を顔面に掛けてきた。解せぬ。


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