59話 音魔法
慌てて風呂から出て簡単に身体を拭いてからすぐに着替えてからテントの外に出た。
うわぁ・・・食われたとこが瞬時に回復してるよ。食われているというのにマグロはまったく動かない。どうしたんだ?気を失ったのか?
マグロを食べることに夢中になっている魔物はこちらに気付いていない。
するとアリアが本を持って外に出てきた。乾いていない髪の毛が色っぽい。
「ヨーヘー、あの魔物はパラライズウルフって名前みたい。牙と爪に即効性の高い麻痺毒があるらしいよ。」
なるほど、あれは麻痺で動けないのか。とりあえずパラライズウルフは倒さないと危ないな。マグロは死ななそうだからともかく、ブリード氏達のテントに行ったら大変だ。
「『ファイアーピラー』」
地面から炎の柱が立ち上り、パラライズウルフをマグロもろとも焼いている。
「ヨーヘー!マグロさんも燃やしてるよ!!」
「ごめん、魔法の選択間違った。」
「あれじゃこんがり焼き魚になっちゃう!」
炎が収まり、こんがり焼けたパラライズウルフとちょっと焦げたマグロが横たわっている。その焦げた部分もどんどん元通りに治っていく。
「・・・なんか神聖魔法を否定されている気分なんだけど。」
「うん、死なないってのは間違いじゃないんだな。驚きを通り越してキモいね。」
しばらくすると傷は完全に癒えたようだ。しかしマグロは動かない。
「もしかしたら麻痺は治らないんじゃ?」
「え?そうなのかな?『リフレッシュ』」
アリアが状態異常回復魔法を使うとムクリとマグロが起ちあがる。
「ミー!弱点発見!!まさか麻痺がこんなに恐ろしい物だとは!!しかし、麻痺していても回復するとわかったのは収穫だった!なーっはっはっはっ!」
「ねぇ、なんであんなに接近されてたのに気付かなかったの?」
「ふむ、ミーは魚眼なのでね!陸ではあまりよく見えないのだよ!特に夜になると3ミール先までしか見えないな!なーっはっはっはっ!!」
「あんたよくそれで見張りは任せろとか言えたな!!襲われたのがあんただったから良かったものの、ブリード氏達が狙われてたらどうするつもりだったんだよ!」
「大丈夫!なぜかミーは魔物に好かれていてね!どういうわけかどんなに後ろにいても必ず狙われるのさ!!」
「その割にはガラダ手前でマグロ以外は全滅していたようだけど?」
「あれは数が多かったのでミーに取り付けないグリーベアー達が流れてしまっただけのこと!そしてミーの名前はトロだぞヨーヘー!」
1匹だったからよかったが、複数来てたら危ないってことだろうが。しかも襲われた時に声も出さずにやられてたし、風呂入ってて外を見てたから良かったものの、そうじゃなかったら気付かなかったぞ。
「まぁ脅威は去った!安心して眠りにつくといいよ!」
「安心できるかボケェェェ!!もう俺が見張りするからあんたは寝てくれ!」
無理矢理マグロをテントに押し込み、見張りの準備をする。
「アリアとトリスとタァマちゃんはマジカルハウスに戻って寝てていいからね。」
「私も一緒に見張りするって言ったじゃない。」
「いや、徹夜になるし、皆は寝ておいた方がいいよ。タァマちゃんも眠そうにしてるしさ。」
「ん~、わかった。さぁ2人共戻りましょう?」
「いいのですか?私も交代しますよ?」
「構わないよ。その代り明日の移動中にちょっと寝るからその時はお願いね。」
トリスはわかりましたと頷き、3人はテントの中に戻っていった。
さて、今回の事で問題が出たな。スカウトは敵の発見にはいいけど、使わないとまるで気付かない。これを常時展開して、意識してない時に魔物を感知したら警告音で知らせるようにしたいな。なので、まずは音を出す魔法から作るか。
警告音でいいから魔法名は『アラーム』でいいかな。空気振動で音を出すようにするか。それとも魔力振動で脳内に響くようにするか。うーん両方使い道あるよな。どっちも対応できるようにするか。再生する音は・・・。あ、再生する音を録音する魔法も必要か。これは空気振動を記憶することでいけるだろう。魔法名は『レコード』にしよう。さて詳細を練るか・・・。
何度かの失敗を繰り返して1時間程経った頃、アラームとレコードの魔法作成に成功した。
「よし、あとはスカウトとリンクして反応があったらアラームで知らせるように設定。スカウトはバックグラウンドモードで常時展開できるようにするか。最大射程の500mはバックグラウンドモードになると300mに範囲が狭まったけど、いきなり不意打ちされることはなくなるだろう。あとは再生する音だな。
どんな音を録音しようかと思っていたら、テントがガサリと動いたのに気が付いた。スカウトには反応なかったし、魔結晶を持たない獣か、誰かが起きたかだな。後者なら問題ないが、前者だと肉食の獣だった場合は危険だな。魔素感知魔法も作るべきか?音がしたテントは俺達のテントだから3人がマジカルハウスに入っているので危険はない。
俺が警戒していると、テントから人影が出てきた。
「・・・アリア?」
「うん、見張りお疲れ様ー。」
「寝ないの?」
「うん、一緒に見張りしようと思って。さっきタァマちゃんを寝かせて眠りが深くなったみたいだから抜けてきたの。隣いい?」
俺が横に避けるとアリアが横に座ってきた。
「魔法作ってたの?」
「よくわかったね。新しい魔法を作ってたんだ。」
「どんな魔法か当ててみようかな。スカウトを常時展開する方法と反応があった時に知らせてくれる魔法でしょ。」
「ビンゴ!大当たりだよ。よくわかったね。」
「ヨーヘーの考えてる事なんてお見通しだよー。」
なんだって・・・俺ってそんなにわかりやすいのか・・・。
えへへーと笑うアリアを見て妙案を思いついた。
「アリア、ちょっと声出してくれる?」
「え?いいけど?なんの声?」
「とりあえず、『あー』って言ってもらえる?『レコード』」
「あー」
「『アラーム』」
『あー』というアリアの声が俺の脳内に響いた。うん、成功だな。ただもうちょっと緊迫感が欲しいな。
「次は緊迫感を持って『あっ!』って言って。『レコード』」
「あっ!」
いまいちか?
「次はちょっと嫌な感じで「いやっ!」って言って。『レコード』」
「いやっ!」
同じように色々な声を出してもらって録音していく。
「ねぇ、これ何やってるの?」
「これで最後だ!『ヨーヘー愛してるお嫁さんにして』って言って『レコード』!」
「ヨーヘー、あなたを愛してます。私をお嫁さんにしてください。・・・ってなんでよ!」
叩かれた。しかし言質はとったどーーー!
俺はアリアにも聞こえるようにアラームで先程まで録音したアリアの声を再生した。
『あっ、いやっ!やめて!あぁっ!魔物がっ!ダメッ!そこはっ!いやぁぁぁ!!』
ふむ、なんというかいけない気分になってしまいそうになる。
「なななななな!!?私そんなこと言ってないよ!?私は今ヨーヘーの中でどうなってるの!?やだ!私の声で遊ばないでよ!!」
顔を真っ赤にしたアリアにスパコーンスパコーンとスリッパで頭を叩かれる。毎回思うんだけど、そのスリッパどこから出してるの?
「ごめんなさい。悪乗りしました。」
「さっきから言っているレコードっていうのが私の声を保存してる魔法なの?」
「うん、そうだよ。それでアラームって魔法で音を出してるんだ。」
「それで色々言わされたんだね。何かと思ったよ。」
「魔物の発見時に使う音が欲しかったからね。」
「えっ!?私の声使うの!?恥ずかしいから嫌だよぉ。」
「俺のおすすめはこれかな?『アラーム』」
『ヨーヘー、あなたを愛してます。私をお嫁さんにしてください。』
「!!!!?け、消して!それは消して!!」
「嫌だ!絶対消さないから!これは毎日寝る前に聞いてから寝るって決めたんだ!」
「やめてぇぇぇーーー!」
暗闇の中にアリアの叫び声が響き渡った。
ちなみに魔物発見時の音は『魔物がいるよー』というなんとも気の抜ける声になった。
見張りを始めて3時間は経っただろうか。時間は深夜の2時だ。少し冷えてきたのでアリアと一緒に毛布にくるまる。
「魔物来ないねー。」
「本来求めちゃダメなんだろうけど、魔法の実験になるから今回ばかりは出てきてほしいな。」
そんな期待をあざ笑うかのように魔物は現れず時は過ぎていく。隣ではアリアが寝ている。30分くらい前からウトウトしていたからな。
俺に寄りかかって寝ているアリアからいい匂いが俺の嗅覚をくすぐる。
5時頃になるとアリアが起きた。照れくさそうに寝ちゃってごめんね。と謝ってきたので全然問題ないよと伝えておいた。
この時間にはタァマちゃんも起きてきた。ちょっとグズっているようだ。目が覚めた時に俺とアリアがいなくて不安になったらしい。
アリアが夜明けまで自分が見張りするから眠ていいよと言ってくれたので、お言葉に甘えて寝ることにする。テントに戻ってもよかったんだが、アリアが膝枕してくれたのでその場で寝かせてもらった。頭を撫でてくれるアリアの手の感触が心地いい。
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「ヨーヘー、そろそろ起きてー。太陽が昇ったよー。」
「う、うーん・・・んぁ・・おはよアリア。」
「うんおはよー。なんだかヨーヘーを起こすの久しぶりだね。」
「はは、アリアはお寝坊さんだからね。」
「むぅ、そんなことないよ!・・・起きないの?」
「この太ももから離れたくない。柔らかさ、高さ共に俺が今まで使ってきた枕の中で最高なのだ。」
「もう、いつでもしてあげるから今は起きるよー。」
渋々と上体を起こすと、タァマちゃんが俺に抱きついて寝ている事に気が付いた。
「タァマちゃん。朝だよ。起きようかー。」
「ふみぃ・・・」
「ほら、顔洗いに行こう。」
「にゃぁ・・・」
寝ぼけてるタァマちゃんを連れてテント内に入り、マジカルハウスの脱衣所に顔を洗いに行った。
それにしても2時間くらいしか寝てないからちょっとダルい・・・。
顔洗ってもあんまりサッパリしたいな。
顔を洗った後にタァマちゃんにトリスを起こしてきてとお願いして、俺は軽い食事を作っておく。朝食が出るかわからないからな。簡単に食べられるようにオニギリにしよう。具は寝不足だしサッパリしたやつがいいな。
作っておいた大根の葉の漬物を米と混ぜてオニギリにした。いつでも食べられるように準備してマジカルハウスの外に出る。
するとブリード夫妻や御者の2人も起きていて、テントを片付け始めていた。
「おはようございます。今日も晴れて良かったですね。」
「あぁおはようヨーヘー君。昨晩は見張りをありがとうね。何も問題は無かったかい?」
「パラライズウルフが襲ってきましたけど、撃退しておきましたよ。」
「なるほど、あそこの草が焦げているから何かあったのかと思ってね。」
「1匹でしたし、あまり危険ではなさそうだったので、皆さんは起こさないでおきました。」
「はっはっ、お気遣いありがとう。君達がいてくれるから安心できるよ。」
ブリード氏と挨拶を交わしてアリア達のところに戻り、俺達もテントを片付けた。
片付けたんだが・・・。
マグロのいるテントの中に入ると
「んぐごぉぉおぉ・・・んごぉぉぉお・・・」
はて・・・?なぜマグロはまだ寝ているんだろうか?
あいつ一応護衛だよな?ブリード氏達はもう起きているんだけど,護衛としてこれでいいのか?護衛依頼とか初めてだから護衛のスタイルがよくわかんないな。
とりあえず起こすか。放っておくわけにもいかないしな。
俺はつま先でマグロの頭を軽く蹴る。
「んあ?・・・おぉ!ヨーヘーか!どうかしたかい?あ、見張りの交代かな?」
「いや、朝だよ。ブリード氏達ももう起きて出発の準備をしている。」
「そ、そうか!うむ!起こしてくれて感謝するよ!・・・ヨーヘー、ミーは起きていたということにしておいてくれないかい?」
えらい冷汗かいているな。やっぱり護衛対象を守らずに寝ているのはダメなんだろう。まぁ今回は俺達も護衛として付いているから護衛仲間同士でローテーションして寝ていたってことでいいんだろうが。こいつ一番寝てるんだよな・・?
「黙っておいてやるから早く仕度してくれ。テントも片付けるぞ。」
「話がわかるじゃないか!すまないな!」
テントを片付けて複製した分は魔法の袋に収納し、その他の3つのテントは荷馬車に積み込んだ。
「では荷物、馬車ののチェックをして出発しようか。順調に進めば今日のお昼過ぎにはキレースに着くだろう。この干し肉は朝食として食べてくれ。」
ブリード氏から干し肉の入った袋を受け取り昨日と同じように先頭の馬車に乗り込んだ。奥さんと御者の2人が馬に餌を与えて荷台と荷物のチェックをしている。
チェックが終わったようで御者が御者席に乗り込んできた。
「よし!問題ないな!?出発だー!」
ブリード氏の号令で荷馬車が動き出しキレースに向かって進みだした。




