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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
56/172

56話 カナの想い

「カナさん?」


カナさんの声が聞こえたのか荷馬車が止まってくれたので、カナさんが俺達のところまでやってきた。


「はぁはぁはぁ・・・」


「カナさん?大丈夫ですか?」


俺は息が乱れているカナさんに水を手渡しす。

カナさんは冒険者ギルドの制服のままだが、仕事はどうしたのだろうか。ここまでずっと走ってきたんだろう。顔は汗に濡れて髪型も少し乱れていて、なんというか少し色っぽいな。

それにしても何か緊急事態でも発生したのだろうか?まさかコメルさんがまたいなくなったとかじゃないだろうな?

俺の渡した水を飲み、呼吸を整えたカナさんは顔を上げて俺視線が重なった。


「どうしました?何かありまし・・・」


すると突然カナさんが俺に抱き着いてきて俺の頬にキスをした。


「「あぁーーーーーーー!!!!」」


アリアとトリスの声が聞こえたような気がしたがそれどころではない。

・・・え?

なに?え?え?

頭が真っ白になっている。


「え?あ、えぇ?カナ・・・さん?」


「突然ごめんなさい。でも、ヨーヘー様が遠くに行ってしまうと思うといても立ってもいられなくなりまして・・・」


「えっと、これは・・?」


「さ、さっきのは私の気持ちです。勝手に押し付けてしまってごめんなさい。驚かれましたよね?」


驚いたっつーか、なんでだという気持ちが強い。なんでカナさんのような美人で柔らかくて良い匂いのする女性が、そのしっとりとした魅惑の唇を俺の頬に口付けしてくれたのかがわからない。どこかでフラグ立てたっけ?妹救出か?まぁそれだろうな。それ以外に思い当たらない。などと混乱した頭で考えていたらアリアが俺とカナさんの間に割り込んできた。


「はいはい!お二人共ちょっと距離が違いですよ!離れて!もうちょっと離れて!」


「アリア様申し訳ありません。ヨーヘー様にはアリア様という女性がいらっしゃいますのに自分の気持ちを抑え切れませんでした。」


「べ、別に!?ヨーヘーと私は付き合ってるわけじゃないし?気にしてなんていないけど!」


「そうだったのですか?でしたらヨーヘー様は今はフリーということですか?」


「そ、それでも!!私の大切な仲間に手を出さないでくださいます!?」


「それは申し訳ありません。でも私はヨーヘー様を好きになってしまったのです。アリア様とお付き合いされているのではないのでしたら、私にチャンスを与えては貰えませんか?」


「ダ、ダメよ!ヨーヘーは私と一緒にやらなくちゃいけないことがあるんだから!」


「そちらの用事が終わってからでもいいんです。いつまでも待てますから。ヨーヘー様。私とお付き合いしてもらえませんか?」


「えーっと・・・あの」


なんだ?カナさんにキスされたと思ったらカオスな状況になっている気がする。


「ヨーヘー!ダメだからね!!うぅ・・・ダメだからね!!」


アリアが涙目になって俺に訴えかけている。


「あ~・・・、カナさん。カナさんの気持ち凄く嬉しいです。どうして俺なんかがなんて思ったりもしてますが。でもごめんなさい。今はアリアとやらなくちゃいけないことがありまして、それが最優先事項なんです。旅を止める事は出来ませんし、そうなるとカナさんには長い間会えないですし、辛い思いをさせてしまいます。仮に付き合うとしても何ヶ月、もしかしたら何年も貴方の事を放置するなんて無責任過ぎますし、不誠実です。ですから非常に残念ですが、カナさんの気持ちに応えることは出来ないです。」


「そう・・・ですか・・・。やはりアリア様の存在は大きいみたいですね。わかりました。」


ホッ・・・解かって貰えた・・・にしても勿体無さすぎる!!カナさんすっげー美人なのにさー。こんなチャンス滅多にないだろうに・・・いや、アリアのことは放っておけないしな。結局は無理か。カナさんの言う通りアリアの存在が大きいのかもしれないな。


「でも、私も諦めきれません。いつまでも待てますし、2番目でも構いません。ですからヨーヘー様をお慕い続けたいです。ダメ・・・でしょうか?」


「カナさんの気持ちまで俺は否定できる立場ではないですが、いいんですか?カナさんみたいな美人さんなら付き合いたい男はたくさんいると思うんですけど。」


「いいんです。ヨーヘー様達に夕飯をご馳走した時に妹に焚き付けられてからヨーヘー様の事を意識するようになってしまいました。美味しそうに私の料理を食べてくださるヨーヘー様を見ている内にどんどん感情が抑えられなくなってしまって大変だったんですよ?」


確かに今思うと食事中ずっと見られてた気がする。カナさんの方を向くと視線が合って赤面して顔を背けていたな。

それにしても熱しやすいな!それならちょっと時間を置けば冷めるのも早いかもしれない。カナさんを連れて行くわけにもいかないし、なにより俺にとってアリア達の方が大切だ。


「カナさんの気持ちとても嬉しいです。でも、そろそろ行かないと依頼人に迷惑が掛かってしまいます。」


するとカナさんは俺の手を握り、もう一度キスをしようとしたところをアリアに止められた。


「ダメだって言ってるでしょーーー!もう!油断も隙もあったもんじゃないよ!」


「ヨーヘー様、きっと、きっと戻ってきてくださいね!私、待ってますから!」


「御者さん!早く荷馬車を出してください!」


なんかドタバタしたままの出発になってしまった。


門を抜ける際に門兵から舌打ちをされ、知らない男から石を投げられたが気にしない。

カナさんはずっと俺達に手を振り続けている。丘を越えて姿か見えなくなるまで手を振っているようだった。

アリアは俺の隣にピッタリとついてちょっと不機嫌そうだ。

それを後ろの荷馬車にいるブリード夫妻がニヤニヤしながら見ているようだった。


「あの・・・アリア?さっきは迫るカナさんを止めてくれてありがとね?」


カナさんという言葉にピクッと反応したアリアはスッとこっちを向いた。


「ヨーヘー。モテモテだったね。」


「う、うんビックリしたよ。地球にいた頃は全然モテなかったんだけどなぁ。」


「そうなんだ?まぁそれは今はいいの。キスされそうになった時、嫌ならちゃんと断らないとダメだよ。いくら不意打ちだったとしても気を付けないとね。」


嫌ではありませんでしたと言ったら怒られるんだろうな。カナさんの唇の感触を思い出す・・・柔らかかった。


「いてっ」


アリアにツネられた。


「鼻の下伸びてるよ!」


どうやら思考が顔に出てしまっていたらしい。確かに緩んだ表情をしていた自覚はある。

すると今度は心配そうな表情をしながら聞いてくる。


「ヨーヘー。どうして断ったの?カナさん凄く美人だし、料理も上手だったでしょ?女の私から見ても魅力的な人だったと思うよ?」


「いきなりだったしね。確かに勿体ないことしたなーとは思ったよ。でもアリアとの旅もあるし、ガラダに残るって選択肢は論外だったしね。」


「私の・・・せい?」


「アリアの影響が無かったとは言わないよ。でも、やっぱり俺の気持ちはアリアとの旅を優先させたかった。それだけかな。」


「そっか・・・うん、ヨーヘーありがとね!私もヨーヘーとの旅を何よりも優先するからね!」


もう機嫌も直ったみたいだな。よかった、アリアが機嫌悪いと俺も落ち着かないからな。


「あの、アリアさんの機嫌も良くなったことですし、別の話を致しますね。先程タァマちゃんが何かを発見したみたいです。」


「え?」


「お兄ちゃん!にゃんかいると思います!あっちの方です!」


タァマちゃんに指摘されスカウトで周辺の探知をする。100m先に3つの反応、500m先に2つの反応があった。近い方はこちらに近づいてきている。


「10時の方向1ムールの距離に3つ反応がある!こいつらはこっちに接近中だ!同じ方向5ムールの距離に反応2つ、こいつらは今のところ動いていない!御者さん!荷馬車を止めてくれ!!アリア、後ろの荷馬車に合図をして!」


俺が声を上げると今まで御者席で鼻歌を歌っていたマグロが俺に振り返って聞いてきた。


「ヨーヘー、どうしたんだい?何かいたのかい?」


「1ムールの距離に魔物がいる!もう目視できるだろう。あんた見張りしてて見つけられなかったのか!?」


「な、なーっはっはっはっ!と、当然見つけられているさ!」


なんで目が泳いでるんだよ?


「あ!あれか!!よし!ミーに任せたまえ!!」


マグロは言うなり御者席を飛び出し魔物の方に走っていく。そして魔物と接触した。


「ギョギョーーー!?こ、こいつらはグリーベアー!?ヨーヘー!早く!早く倒してくれ!!」


そういえばこの人攻撃力ないんだったな。にしてもギョギョって・・・どこの魚類学者でギョざいますか。


「グ、グリーベアーッ!?あぁ・・・アタシ達はなんて運が悪いんだ・・・ここからじゃ街に引き返しても追いつかれてしまう・・・ここで死ぬのはイヤだよアンタ・・・」


後ろの荷馬車から奥さんの声が聞こえ、やや青ざめた顔をしたブリード氏が奥さんを抱きしめている。


「ヨ、ヨーヘー!は、早く!あ、ギャァァァ!ミーの、ミーの腕が!!あぁ・・今度は足が・・!!や、やめっ・・・ああああ!」


マグロは立派に壁役をこなしていた。食われているけどな。

グリーベアー達は目先の獲物に集中しているようで一心不乱にマグロを咀嚼している。こっちを襲う様子は見られない。マグロにはなんか襲わずにはいられない何かがあるんだろうか?

そんなチャンスを見逃すわけにはいかない。


「マグロをオトリにして逃げるか。」


「ダメだよっ!?一応護衛仲間なんだから助けようよ!」


アリアに注意されてしまった。グリーベアからしたら食べた先から再生する夢のような食材に巡り合えただろうに、それを奪うのは忍びないんだが・・・。仕方ない、やるか。


「タァマちゃんGO!」


「にゃあ!!」


タァマちゃんがグリーベアーに到達するまで魔法で援護、あわよくば倒してしまおう。


「ヨーヘー、ここは私にやらせて。ちょっとモヤっとした気分を晴らしたいから!」


「え?うんいいけど、タァマちゃんには当てないようにね。」


「わかってるよー!せーのっ『アイスランス』!」


アリアの放った氷の槍がマグロに群がっていたグリーベアーの1匹に迫っていき、その左目を貫通した。痛みに悶えていたグリーベアだったが、やがて動かなくなった。続いてアリアのアイスランスの第2射、第3射が放たれる。1本は2匹目の眉間に刺さり、もう1本は3匹目の胴体に突き刺さった。2匹目のグリーベアはすぐに絶命したが、3匹目のグリーベアは死には至っていないようだ。立ち上がりこちらを威嚇している3匹目だが、その3匹目の死角から白い影が近寄り、跳躍してグリーベアの背中を斬りつける。

痛みを堪えながらその腕を振るうが、白い影はすでに姿を消している。

姿を消しては斬りつけ、また姿を消しては斬りつけといった攻撃が繰り返される。10回程斬りつけたところでグリーベアが倒れ伏した。すげぇなタァマちゃん・・・姿消されると全然追えないんですけど・・・。

白い影、タァマちゃんは倒れ伏したグリーベアの後頭部から忍者刀モドキを突き刺してトドメをさした。

グリーベアの死体の上でピョンピョン跳ねて喜んでいるようだ。

500m先にいた2匹だが、こいつらは猿の魔物のようだ。ハイドモンキーより少し大きめのようだが1mはないな。距離は300mくらいまで近づいてきている。


「あれが5ムール先にいた魔物ですね?距離は3ムール程でしょうか。あの距離なら届きます。」


声の方を向くとトリスが弓に矢を番えて弦を引いていた。

え?300mくらいあるけど?あれ届くの!?弓ってそんなに射程距離長いんだっけ!?

するとトリスの持つ鉄製の矢に魔力が集まるのを感じた。

そして矢が放たれる。光を放ちながら猿の魔物に迫る矢はそのまま1匹の胴体を撃ち抜いた。矢を射られた猿は絶命しておらず、もう1匹の猿と反転して逃げて行ってしまった。

す、すげぇ・・・矢ってあんなに飛ぶんだ?しかも当てちゃったし・・・。

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