5話 師匠
「・・・世界一の魔法師っていうと、あの憤怒の魔法師よりも凄いってことですか?」
世界一の魔法師って言葉に反応してアリアがミイラさんに質問している。まさかアリアが世界一の魔法師というフレーズに食いつくとは。
アリアたぶん俺を元気付ける為に勢いで言っちゃった事だからホンキで取らないであげて。
「当たり前だ!憤怒の魔法師なんて一捻りだ!憤怒の魔法師どころか世界一の魔法師だと言われているヴォンヴァンカンより俺の方が凄い魔法師だと思っている!!」
ほら、引っ込みがつかなくなっちゃったよ。「思っている」って言っちゃったし、完璧に自称じゃないか。ミイラさんがどんどん墓穴を掘らない内にここは俺が話題を変えないと!俺は気配りが出来る男だ!
「あの!ミイラさん!俺に魔法を教えてください!!」
「だからミイラじゃな・・・いこともないんだが、ミイラって呼ぶのはやめろ!そうだな・・・俺に師事するならミイ師匠と呼ぶがいい。」
あんまり変わらない気がするんだけどそれでいいのか?
「名前なんてなんでもいいのだ!どうなのだ?俺に師事するのか?」
「はい!ミイ師匠宜しくお願いします!!・・・ところでアリア。憤怒の魔法師って何?」
「え?えっとね。さっき魔王の他にも危険視されている存在がいるって言ったでしょ?その内の1人で一国を滅ぼしちゃった凄い魔法師なの。」
あぁ、身近な盗賊の・・・って、1人で国を滅ぼした!?それもう盗賊じゃねーよ!魔王でいいよ!この世界の盗賊のレベルの高さに戸惑うわ。
「今から2年前のことなんだけどね、コルベール王国って国があったの。古代魔道具の研究や新しい魔道具の開発をしていた国で、魔道具のことならコルベールに聞けって格言があるくらい魔法具開発の進んでる国だったの。そのコルベールの王都に憤怒の魔法師が現れて、王城を1人で落としてしまって、王族や貴族、役人、魔道具の研究者を皆殺しにしてしまったらしいのね。一般の国民は被害を受けなかったみたいだけど、国を運営してた人達がいなくなってしまった国は滅びの道しかなかったの。滅んだコルベール王国の土地を周りの国々が取り合って吸収していったんだけど、旧コルベール王城だけは誰も手が出せなかった。それは憤怒の魔法師が王城に住み着いてしまっていたから。何度も討伐隊が組まれて攻め込んだらしいんだけど、この2年間で城に攻め込んで帰ってきた人はいないって話。」
今のとこ無敵ってことか。なんてヤバそうな人なんだ。ミイ師匠黙っちゃってるよ。さっきその人より凄いとか言っちゃってたもんなー。
「危険人物なんだなぁ。早く倒されるといいね。」
「っ!そんなことない!!お兄ちゃんはすっごく優しい人だった!きっと何か事情があったに決まってる!」
「え・・・?」
「あ・・・ごめんなさい。実は私、憤怒の魔法師って言われてる人と知り合いなの。昔、私が子供の頃に私の家族がセリアル様を否定する狂信者達に皆殺しにされた時に一緒に殺されそうだった私を助けてくれた人が憤怒の魔法師だったの。その頃は憤怒の魔法師なんて呼ばれてなくて凄く優しいお兄ちゃんだった・・・さっきは声を荒げてごめんなさい。でもあの人は皆が言ってる様な酷い人じゃない。私が知ってる最高の魔法師でとても優しい人だった。お兄ちゃんが今もコルベール城にいるって聞いて、どうしてこんなことをしているのか真相を聞きたくて会いに行こうとしたんだけど、王城を見張ってる兵隊さんに危ないからって止められちゃって会えなかったんだ・・・」
「ごめん。事情も知らずに・・・」
「謝らないで。私とお兄ちゃんの関係知らなかったんだし、一般的な反応はそんなもんだよ」
「それでも、アリアの事を傷つけちゃった訳だから謝らせてくれ」
「・・・ありがと」
「憤怒の魔法師かー。襲ってくる人達を2年間全部1人返り討ちにしてるってとんでもないなー。まぁ国を滅ぼせるんだから当然の実力なのかな?ところでなんで憤怒なの?」
「えっと詳しくは知らないけど、王城を攻め落とした時にすっごく怒ってたからって聞くよ。お姉ちゃんに聞けばわかると思うんだけど、お姉ちゃんも行方がわからないし・・・。」
「お姉ちゃん?」
「あ、私が襲われた時にお兄ちゃんと一緒に私を狂信者から守ってくれた人。お兄ちゃんが狂信者達をやっつけて、お姉ちゃんが怪我をして死にかけていた私を治してくれたんだよ。」
「そうだったんだ」
「もういいか?」
ミイ師匠が若干低い声で声をかけてきた。
「あ、ごめんなさい。」
「いや、いい。さて、魔法の修行を始めるか?それとも今日は休んで明日からにするか?」
「今日からお願いします!あ、そうだ。ミイ師匠、ここから外に出れます?」
「ん?外に何かあるのか?来た道から外に出ればいいではないか。」
「えっと、持ち物を全部外に置いてきてしまって。失いたくない物なので取りに行きたいんです。でも来た道もたぶん塞がってるんじゃないかと思うので・・・」
「ふーん?どれ、見に行ってみるか。」
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ヤツはまだそこにいた。
なんかグッタリとしている。
「・・・イノッチ。」
俺の声にピクリと反応し、こちらを見る。
「ブ、ブヒ・・・(キラキラ)」
わかってるよブラザー。随分しおらしくなっちまったじゃねーか。アリアを追い回してた時のハイテンションはどこに行ったんだ。もう俺を食おうとするなよ?
「あー、ミイ師匠。あれ助けられます?」
「ん?あれは・・・ベヒモスの子か、珍しいな。どれ・・・」
ミイ師匠が手を振るとイノッチが穴から押し戻されていく。
魔法ってすげーな!
イノッチが穴から押し戻されると空が見えた。
俺の体も浮かしてもらい、穴の外に出る。
イノッチは解放された喜びからか走り回っているみたいだ。こっちを襲ってくる気配はないな。
岩の上に上がると置きっぱなしにしていたスーパー袋8つを回収する。盗られなくてよかった。
しかし大丈夫だろうか?気温はそれほど高くないが、腐り始めてないだろうか?特に豆腐。
まぁ大丈夫だろう。ダメだった時はお腹壊すだけだ!
ミイ師匠にお願いして、体を浮かせてもらい今度は落ちずに穴の中に戻ってきた。
「それは地球の物か?」
「はい。地球で売られている食料ですね。」
「ふむ。研究してみたいな。ちょっと貸してくれ。」
「もう手に入らないかもしれないんですから、そんなに使わないでくださいよ?」
「わかっている。どれ・・・『クローン』」
「・・・は?」
スーパー袋が16個になっていた。
「ミイ師匠・・・今のは?」
「特殊魔法でな、同じものを作り出す魔法クローンという魔法だ。俺が作った、凄いだろう。もっともその物質の持つ魔力によって消費魔力が変わるから神器級のアイテム等にかけるとシナってなるかもしれんがな。」
なにその素敵な魔法!それあればこの食材達はなくならない!?
「ふむ今のお前の減っている魔力量ならばこんなこともできる・・・『クローン』」
・・・何が?スーパー袋は16個のままだ。何か複製された物はないかと見回すと、隣に俺がいた。
「ええぇぇぇえええ!!!?」
「はっはっはっ、さっき魔力のほとんどを出し切っていたからな。俺はこれ以上シナってなることもないだろうからダメ元でやってみたが、うまくいったなー。」
何してくれてんのこの人ーーーー!
「大丈夫。魂までは複製できん。生きてはいるがこんなもんただの器だよ。」
そう言ってスーパー袋8つと俺の複製された体を持って奥に行ってしまうミイ師匠。
「出来るとしても倫理的にアウトだと思うんですよ・・・」
そんな抗議の声は洞窟内に消えていった。
ミイ師匠に会った場所に戻ってくるとミイ師匠が俺を待っていた。
「きたか、さて魔法の修行をするにしても、2、3日で終わる程簡単な物ではない。しばらくここに住み込みで生活してもらうからな。」
「師匠。生き残る術を教えて貰えるのは嬉しいのですが、せめて布団なんか用意させてもらえませんでしょうか?あと冷蔵庫も。」
「生活に必要な物は魔法で出すから気にするな。ところで冷蔵庫とはなんだ?」
マジかよ・・・魔法ってなんでもありか?
冷蔵庫を知らないとは、この世界は食品を冷やして保管とかしないのかな?
「冷蔵庫っていうのは食料を腐りにくくする為に低温で保存する箱のような物です。」
「ふむ?つまり、腐らないように時間が止まればいいのか?ならこれを使えばいい。」
そう言って師匠が俺に向かって黒い皮袋を投げてよこす。
「これは?」
「俺が作った魔法の袋だ。その袋の中は空間が圧縮されていて袋の中は縦10ミール×横10ミール×高さ10ミールくらいの広さを持っている。重さもその袋の重さくらいしか感じないぞ。そしてその中に入っている物は袋の口を閉じると時間が止まるのだ。凄いだろう?」
「ふむふむ、ねぇアリア。10ミールってどれくらい?」
「えっと、1ミールが・・・」
どうやら1ミール=1メートルくらいっぽい。
長さの単位は100毎に単位が変わるようだ。
1マール=1センチ
1ミール=1メートル
1ムール=100メートル
1メール=10キロ
1モール=1,000キロ
ちょっと混乱するかもしれない。
つまり縦10m、横10m、高さ10mってことか、結構広いということがわかった。つまりゲームとかでよく見るアイテム袋ってやつだよな。
なるほどなるほど。
「スッゲー便利じゃないですか!!」
とても凄い袋だった。この袋があればスーパーの帰りにあんなに苦労しないで済んだのに!!
「ただ、これには念じたアイテムが取り出せるとかいった機能はないぞ。取り出す時は中に入って探す必要がある。整理整頓を心掛けろよ。中に入った状態で口が閉められると封印されてしまうから気をつけないといけない。それとドラゴンの一撃にも耐えられるくらいかなり頑丈に作ってはあるが、万一袋が破れると中にあった物がその場に撒き散らかされるから大事に使えよ。」
整理整頓か・・・ん?待てよ?
「これって生きてても入れるんですか?」
こういうのって普通は生物は入れられないとかいう設定のはずだ。
「当たり前だろう。倒した獲物を入れるにしても、その獲物に寄生している微生物等もいるんだぞ?それらも全て殺さないと収納出来ないとか不便でしょうがないだろう。まぁ術式を組み込めばそういう仕様に出来なくも無いが、めんどくさい。」
言われてみればその通りだ。ではよく小説等で読む生物は入れられないアイテム袋とはその辺どうなっているんだろう?まぁ細かい事はいいか。魔法の力でなんとかなっているんだろう。
「これブンブン回しても中がグチャグチャになったりしません?」
「空間が固定されているからいくら袋を振り回しても中はなんの変化もない。」
おぅ・・・なんてワンダフルなアイテム袋だ!!
「いいんですか!?こんな凄い物貰っちゃっても!!」
「かまわん。まだいくつもあるしな。」
何個もあるのかよ。
「あ、それなら厚かましいお願いなんですけど、あと2個貰えませんか?」
「本当に厚かましいな。まぁいいだろう。ほら」
「あざーっす!」
ふっふっふっ、1個はアイテム袋、1個は冷蔵庫代わりに使うとして、もう1個は・・・うん、細工しておかないとな!!ワクワクしてきたーー!
さっそくスーパー袋を魔法の袋に収納する。これで賞味期限を気にせずに保存できるな!
「さて、ヨーヘーは修行するとして、アリアちゃ・・アリアはどうするのだ?」
ミイ師匠今アリアをちゃん付けで呼ぼうとしたな。威厳を保つためか呼び捨てにし直した感じだ。
「えっと、もしよろしければここを拠点にさせて貰ってもいいですか?実は探し物をしていて、この辺りにあるはずなんです。」
「別に構わんよ。ではヨーヘーはここで魔法の修行。アリアはここを拠点にしてこの近辺を探索ということだな。しかしアリア、見たところアリアもヨーヘー程ではないが、人族にしてはかなりの魔力を持っているようだな。魔法の系統は何が使える?」
「私の魔力ってそんなに多いですか?えっと系統ですよね、自然魔法と神聖魔法が使えます。精霊魔法は資質はあるみたいなんですけど、精霊に会ったことがないので使えません。」
「ふむ、俺は神聖魔法は使えないから教える事は出来んが、自然魔法なら教える事が出来る。ついでだからヨーヘーに教える時に一緒に教えよう。色々覚えておいた方が今後役に立つだろう。」
「いいんですか?ありがとうございます!ぜひお願いします!」
「うむ、ではこの場所に居住スペースを作るか。寝る場所と台所とトイレがあればいいだろう。・・・・・『クリエイト』」
おおおおおおお???
ベッドが3つに台所にトイレが洞窟内に出現した!
「師匠!マジで凄いです!!この魔法教えてくれるんですよね!?」
「お前に特殊魔法の才能があったらな。」
「うおおぉぉぉお!絶対覚える!!なんかかっこいい!!」
「うむ、やる気があって何よりだ。」
「師匠、ついでと言ってはなんですが、お風呂も作ってください!あと、アリアもここに住むんですからトイレに壁は必要だと思うんです。」
「む?そうか、そうだったな。・・・『ロックウォール』」
トイレの周りに壁が出現し、外からは見えなくなった。ちゃんとドアもついているようだ。
「あの。師匠、風呂は・・・?」
「何だそれは?よくわからんから自分で作れ。目標があった方が修行に身が入るだろう。」
「そ、そんなぁ・・・」
この世界に風呂の文化は無いのだろうか?気持ちいいんだけどなぁ・・・。
余談だが、洞窟内で汚物処理はどうするんだろうと思っていたら、このトイレはイレイズ式トイレだと師匠が言っていた。
なんでもトイレの中に全てを消し去るイレイズという特殊魔法が掛けられているらしい。注意しなくてはならないことは『落ちるな』だそうだ。怖ぇ・・・。
さぁ待ちに待った魔法の修行ですよ。
どこで修行するのかと思っていたら、なんか奥に通路ができている。
いつの間にと思っていたらさっきベッドとか作った時に一緒に作ったらしい。
奥の空間は東京ドーム1つ分の広さがある。この地下にそんな広い空間があったのかと驚いていたら魔法の袋と同じ空間圧縮の魔法で作ったので、実際使っている広さは6畳の部屋くらいなんだとか。
アリアも感心して見ているからこれは普通じゃないんだろうな。
「師匠。この空間なんですけど、真っ白にできます?」
「ん?できんことはないが何の意味があるんだ?」
「修行で異空間と言えば白い部屋って決まってるんですよ。」
「別に異空間ではないんだが・・・まぁそういう決まりなら白くするが・・・」
おー!真っ白になった!
「師匠師匠!ここの重力を10倍にして外の一日がこの空間では1年になるようにできますか!?」
「魔法の修行なのに重力を上げて何の意味がある?言っておくが重力が10倍になったら全身の骨ボッキボキだからな?ついでに言うと時間操作は疲れるから嫌だ。」
チィ・・・あの部屋が再現できると思ったのに、師匠は浪漫がわかってない。
「ほら、アホな事言ってないで始めるぞ!今日は基礎的なことだけに留めるからアリアはわかってるようだし参加しなくてもいいぞ。探し物があるんだろう?」
「はい、それじゃあ私は探し物してきますね。日が沈む頃には戻ってきます。」
「うむ。気をつけるんだぞ。」
そう言ってアリアは部屋から出て行った。
「さて、まずは魔力操作から始めるか。魔力の操作だが・・・」
「師匠。先に報告しなくてはいけない事があります。」
「ん?なんだ?」
「さっき魔力を大放出してしまってあんまり残ってる気がしません!」
「・・・・・・」
こうして魔法の修行1日目が終わったのだった。




