48話 おばけなんてあるさ
必要そうな物を購入した俺達は今、害虫駆除を行う為に古屋敷の前にいる。依頼を受けた古屋敷は、とても古い建物のようで、非常に・・・なんというか赴きのある屋敷だった。
「ボロボロです!!」
はい、タァマちゃん。折角オブラートに包んだのに台無しだよ。
さて、もう一度屋敷に視線を戻そう。屋敷はレンガ造りの2階建てであり、窓ガラスは所々割れている。壁面には蔦が屋根まで伸びきっていて、屋根には首の落ちたガーゴイルの様なものが設置されており、少し不気味な雰囲気だ。庭を見ると、草が伸びきっており、その中でポツンと1本だけ生えている屋根に届くほどの大きさの木は、枯れているのか葉が付いていない。入口である扉はしっかりしているようだが、ちゃんと開くのだろうか?
俺はこういう雰囲気の建物を知っている。うん、ハッキリ言おう。これまんまオバケ屋敷だよね。
なんというか、ホーンテッドな感じがビンビンしやがるぜっ!
霊感とかないからオバケ、幽霊等のホラーな存在がいるのかどうか俺にはわからない。しかし、そういったモノを探知できる装置、そうだな、幽霊センサーといえる物を実は持っていたりする。この装置は幽霊を探知すると、色が青く変色して、その存在を知らせてくれる優れものだ。
幽霊いるのかなーと思いつつ、ちらりと幽霊センサーに目をやると。
ガクガクガクガクガクガクガクガクッ
凄い青くなっていて、バイブレーションまでしていた。
「ヨ、ヨヨヨヨ、ヨヨヨヨヨヨー、ヨヨヨヨヨヨヨッ!!」
ヨヨヨと警告音まで出しているな。幽霊センサーは真っ青になって古屋敷を指し示し、幽霊の存在を俺にアピールしているようだ。
「ヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨッッッ!!」
「まぁまぁアリア落ち着け。ほーらオバケなんてなーい「イヤーーーーーーッ!!!」」
「ヨヨヨ、ヨーヘー!!これ!?これなの!?この屋敷に入るの!?入らなくちゃいけないの!?私は絶っっっ対に嫌だからねっ!!!」
「ちょっと雰囲気出てるだけだって。リアール氏も害虫駆除だって言ってたじゃないか。」
「た、確かにそうだったけど・・・」
「お姉ちゃん!大丈夫です!タァマが虫全部やっつけるです!」
「あっはっはー、タァマちゃんは頼もしいなぁ。」
「にゃぁ!頑張るです!!」
「タァマちゃん!ダメよ!この中に入るときっと呪い殺されるんだわ!そうに決まってる!ねぇやめましょう?依頼キャンセルして戻りましょう!?」
なんて必死さだ・・・。どんだけオバケ駄目なんだ・・。
「一旦依頼を受けたわけだから、なんの努力もしないで放棄というのはちょっとなぁ・・・。」
「これ害虫もいるでしょうけど、いえ、いるってレベルじゃないじゃない!もう住処じゃない!改築した方がいいレベルよ!それ・・に・・・?」
アリアが屋敷の方を向いて口をパクパクさせて固まっている。俺も屋敷を見てみるが何もないぞ?
「どした?」
「い、今・・・あそこの窓に、窓に・・・人影が・・・」
「んー?何もいないけど?」
「いたの!さっきいたの!!」
「もし、あんた達・・・」
「キャァーーーー!!」
アリアうるさい・・・。
「ビックリしたのぅ。」
「はい、俺もビックリしました。連れがどうもすいません。」
古屋敷の前でギャーギャー騒いでいたら、通りすがりのお婆ちゃんに声を掛けられた。
「あんた達この屋敷に入るのかい?やめといたほうがえぇ。この屋敷はのぅ、今から20年前まで仲の良い家族が住んでいたんじゃが、ある日を境にフッと消えてしまったのじゃ。実はその前に住んでいた者も更にその前に住んでいた者も原因不明の失踪をしているんじゃよ。実はな、この屋敷には悪霊が住んでいるんじゃ。悪霊に見つかると黄泉の国に連れて行かれるらしいぞぃ。何度か調査が入ったのじゃが、帰ってこなかった者もいるし、戻ってきた者は大慌てで逃げ帰り、二度とこの場所には来なくなったのぅ。それ以来皆気味悪がってのぅ、この20年は誰も手をつけずにいたんじゃが、最近どこかの不動産屋が手に入れたとか言う話を聞いたのぅ。怖いもの知らずもいるもんじゃと噂になっておったのじゃよ。」
一方的にこの屋敷の情報を俺達に話して、満足したのか老婆は立ち去っていった。そんな事言われると
「ほ、ほほほほほほほらっ!!ほら!!ヨーヘー!これは契約違反よ!!害虫駆除じゃなくて悪霊退治じゃない!ね?やめましょう?帰りましょう?ね?ヨーヘー、ね?」
ほら、幽霊センサーが怖気づいちゃったじゃないか。幽霊もいるかもしれないが、害虫はあの様子だと確実にいるのだ。
「でもほら、このボロさだし、害虫もいると思うわけですよ。そう言われると一方的に依頼を放棄したって言われそうだよね。とりあえず、中を見るだけ見てみようよ。」
「はぁ!?ねぇ!?入るの!?さっきのお婆さんの話聞いてた!?悪霊がいるのよ!?」
「お兄ちゃん!早く行きましょう!!」
アリアは完全にビビっているがタァマちゃんはやる気満々だ。今にも突撃しそうな勢いである。
「ほら、アリアちょっと様子見るだけだから。」
「嫌っ!私は行かないからね!ここで待ってるからっ!!パオで引っ張られても動かないんだからね!!」
パオってなんだ?でもまぁ梃子でも動かないって意味かな?むぅ、仕方ない。人間苦手な物は誰にでもあるもんだし、嫌がる事を無理にさせるわけにもいかないか。アリアはここに置いてタァマちゃんと2人で行ってきますかね。
「じゃあちょっと行ってくるから、ここで待っててね。タァマちゃん行こうか。」
そうアリアに告げて、興奮気味のタァマちゃんに手を引かれて屋敷に向かって歩き始めた。
「ねぇ!ちょっと!本当に行っちゃうの!?ねぇ、ねぇってば!ねぇ!!・・・うぅ・・・うぇぇぇん・・・やぁだぁぁぁ・・・一人にしないでよぉぉぉ・・・ばかぁぁぁ・・・私もいくぅ・・・」
マジ泣き!?凄い勢いで走ってきたアリアが俺の腕にしがみついた。動かないんじゃなかったのか!?あぁ腕に柔らかい感触が・・・なんかいいなこれ。
「あの、アリア?腕にね胸当ってるんだけど?」
「やだ、絶対に離さないもん・・・離さないもん!!」
もんって・・・。怖いなら待ってればいいのに。離さないと宣言したアリアの力が強まって俺の腕で柔らかい物が形を変えるのがわかる。
両手に花状態で古屋敷の入り口である扉の前までやってきた。
「タァマちゃん、扉開けてもらっていい?」
「はいっ!開けるです!」
「タァマちゃん!静かに!静かにね!!幽霊に見つかっちゃったら大変なんだよ?いい?絶対に大きな音出しちゃ駄目だよ!?」
アリア必死だな。目に涙が溢れんばかりに溜まっているが、俺は手が塞がっているのでハンカチを渡せない。あ、コラ、俺の服で涙を拭くな。
タァマちゃんはアリアの言い付けを守って、ソーっと扉を開けた。中を覗くと薄暗い。割れた窓から若干日の光が指す程度だ。俺は一回息を呑んで屋敷内に1歩入る。
「お邪魔しまーーーっす!!」
「っ!?ばかっ!!ヨーヘーばかっ!!」
「あ、ごめん、つい・・・」
「お邪魔しみゃーーーす!!」
タァマちゃんも俺の真似をして元気にご挨拶する。うんうん、ちゃんと礼儀正しい子に育つんだよ。
「あぁ、タァマちゃんまで・・・絶対気付かれた・・・おわた・・・」
「アリア、大丈夫だって。何もいないでしょ?ね?俺が付いてるから。」
「・・・随分と礼儀正しい侵入者だの。」
すると何も無い虚空から声が響いた。声のした場所がほんのり青く光って半透明の人型を形成する。なんというか老紳士といった感じかな?初めて見るけど、これが幽霊って奴なんだろうか。
「ちゃんと挨拶をして入ってきたのはここ100年誰もいなかったの。歓迎しよう。入りなさい。」
なんか歓迎されてしまった。
幽霊さんに促されて進もうとするが俺の左腕が動かない。左腕それはアリアが掴まっている腕である。
アリアは固まっていた。タァマちゃんの手を離し、目の前で手を振っても反応がない。鼻を摘まんでも全然反応がない。胸を・・・これはやめておこう。つまりアリアは立ったまま気絶していたのだ。
「そうかそうか、害虫駆除に来なさったか。見てもらってわかるようにこの屋敷は虫の住処じゃ。少々骨が折れるかもしれんぞ。」
「そうっスよねー。全部駆除したとしても壊れた窓からまた侵入してくるでしょうしねー。マジ大変っすわー」
俺は幽霊さんと談笑していた。この幽霊さんはガイスさんという名前らしい。100年前までこの屋敷の主だったが、信じていた友人に裏切られて無実の罪で処刑されたが、強い恨みからゴーストとなってこの世に留まったとか。裏切った友人は憑り殺したらしいが、その後やることがなくなって、生前住んでいたこの屋敷に今に至るまで住んでいると。
この家を購入して住み始めた人だが、最初の人はガイスさんを除霊しようとしたので、あっちの世界に送り、2番目はガイスさんに驚いてそのまま夜逃げ。3番目4番目と死んでしまったり夜逃げしたりと続き、最後の住人は20年前の家族だったが、彼等は家族を装った他国の間諜だったらしく、3日程でいなくなったとのこと。。その後も調査などで来た人達はいたが、ガイスさんを排除しようとするものはあっちの世界にご招待し、そうでない者は逃げてそれ以来来なくなったと。
その話を聞いてガイスさんに危害を加えなければ問題ないと判断したので、今ゆっくりと茶を飲んでいるわけだ。
ちなみにタァマちゃんは「虫やっつけるです!」と言って屋敷内を駆け回っている。時折「にゃあぁぁぁ!」という気合いの篭った声が聞こえるので結構楽しんでいるようだ。
アリアはというと、俺の膝枕で寝ている。
「う、うーん・・・」
「あ、気が付いた?」
「ヨー・・ヘー?私寝てた?・・・あのね、悪い夢を見ていたの。依頼を受けた先が幽霊屋敷でね。幽霊が出てきて・・・。」
「む、お嬢さん気が付いたかの?」
俺じゃない声が掛かり、その声の主であるガイスさんを視界に納めたアリアが再び止まってしまっている。
「アリア?」
もしかしてまた気絶したか?
「ヨヨヨヨ、ヨーーーヘーーー!!やだっ!助けてっ!!うゎぁぁぁぁん!!」
気絶はしなかった、もしくは気絶はしたが復活が早かっただけかもしれないが、いきなり動き出したアリアが俺の腰に抱きついてきて、力の限り絞めてくる。
「ちょっ!?アリア!?い、痛ぇ!?アリアさん!?アリアさーーん!!苦しいんですけど!絞まってます!絞まってまーーっす!!くっ!魔法使いの癖になぜこんな馬鹿力が!!」
「いやっ!離さない!絶対に離さないからーーー!!」
「ほっほっほっ、ここまで怖がられるとショックを通り越してちょっと気持ちいいのぅ。」
ガイスさんに変な趣味が芽生え始めている!?
散々騒いだ挙句に再び気絶したアリアを寝かせてガイスさんとの話を再開させる。
「いや、面白い娘さんじゃの。元気そうで結構結構。」
「いてて・・・、ちょっとシャレになんなかったっす・・・。それでですね、この屋敷にいる害虫を駆除させてもらいたいんですけど、いいですかね?もうすでにタァマちゃんが始めちゃってるんですが・・・」
「屋敷を壊すとかワシに危害を加えるとかでなければかまわんよ。」
「あと、また虫が入ってこないように蔦の除去と窓の修理してもいいですか?」
「あぁ、蔦はそのままにしておいてくれないかの。この雰囲気の方が馬鹿者が寄り付かんでな。」
「わかりました。じゃあ窓の修理だけにしますね。雰囲気出す為に一応割れてるようなデザインにしておきます。あと壁にも穴が開いてたら内側は埋めちゃいますよ。外から見たら穴が空いてるように見えると思うんで、雰囲気が損なわれる事はないかと。」
「うむ。任せるぞぃ。」
俺はアリアを背負って各部屋の窓の修理や壁の修復、クリーンによる掃除を行った。20年分の汚れだったから結構凄い事になっていたな。一応外観はガイスさんの要望通りそのまま不気味な感じのままにしている。全ての部屋の掃除と害虫駆除が終わった頃には外はすっかり暗くなっていた。
「ご苦労じゃったの。随分綺麗になったもんだ。」
我ながら良い仕事をしたと思っている。タァマちゃんも捕まえた虫の死骸の山の前で万歳のポーズでやり切った顔をしている。・・・すげぇ数だな。色んな種類がいたもんだ。ネズミとかも混ざってるし・・・これはかなりキモい。ガイスさんも死骸の山を見て若干引いている。視覚的にも衛生的にもよろしくないのでイレイズで消しておいた。
「にゃぁ・・・」
タァマちゃんが残念そうな顔をしていたけど、あれは持って帰れません。
アリアは目覚めてはいるが俺にしがみついてて離れない。ガイスさんは危害加えてくるわけじゃないんだからいい加減慣れなさいな。アリアは今回まったく戦力にならなかったな。
「お主ら、もう外は暗くなっているが、宿は決まっておるのか?」
あ、そういえば宿取ってなかったな。
「宿取ってなかったです。どこかオススメの宿ってありますか?」
「ワシは100年この館を出ていないからわからんのぅ。泊まるところがないのだったら今日はここに泊まっていきなされ。」
「いいんですか?」
「部屋は余っておるでの。しかし、ベッドなんかはボロボロじゃから床に寝ることになるがの。」
「助かります。布団はこちらで用意できるので、1部屋お借りしますね。」
1日分の宿代が浮いたな。おっと、これはいかん、アリアの瞳から光が消えている。
アリアを介抱する為に、ガイスさんに挨拶をして、1階の空き部屋に移動した。
「アリアー、大丈夫?」
「大丈夫じゃない大丈夫じゃない大丈夫じゃない・・・」
「一応泊めてもらえることになったんだけど、ルールに従ってこの部屋に布団敷いて寝る?それとも魔法の袋(家)で「魔法の袋(家)!!」・・そうですか。」
なんて素早いお返事なんだ。というか、今まで使ってきたが、魔法の袋(家)って言い辛いよな。なんか愛称を決めたい。
「アリア、魔法の袋(家)って言い辛いよね。なんか愛称決めようよ。」
「そんなことより早く魔法の袋出してよぅ・・・」
アリアは限界みたいだったので、魔法の袋(家)を出してあげると凄い速さで中に入ってしまった。
「俺達も入ろうか。」
「はい!お兄ちゃん!今日の夕飯はカレーですか!?」
あー、そうだなぁ。アリアのあの様子じゃ外に食べに行くのは無理そうだし、今日は夕飯作るかー。
「タァマちゃんはカレーがいいの?」
「タァマはカレーがいいです!!」
「今日はタァマちゃん頑張ったから、ご褒美として今日はカレーにしてあげよう」
「にゃぁぁぁ♪やったーーーです!カレーです♪カツカレーですーー♪」
さりげなくカツ付けたな。まぁいいだろう。
「よーし、それじゃあタァマちゃん手伝ってくれるかなー?」
「にゃぁぁぁ!」
俺はテンションMAXのタァマちゃんを連れて、テンションMINのアリアの後を追って魔法の袋(家)に入った。




