45話 治療
風呂場から追い出された俺はタァマちゃんと一緒に本を読んでいた。
さっきは軽く流したけど、タァマちゃん字読めたんだな。この世界の識字率は意外と高いのかもしれない。まぁ俺が数日で読めるようになるくらいだし、一般的な文字はそんなに難しいもんでもないみたいだが。ちなみにアルファベットみたいな文字のほかに記号みたいな文字も存在する。記号みたいな文字は1文字で意味を持つみたいだけど、一般的には使われていないが貴族とかが好んで使うようだ。この文字を扱えるのがエレガントだと考えられていて、ステータスにもなるらしい。これはエレガント文字と名付けよう。ちなみにこれは俺も習得していない。漢字みたいにすげー量があるから覚えるのに疲れるんだ。これに加えて魔法師は魔法文字というのも覚えなくてはいなけいんだ。魔法陣なんかに使われたりするからね。これに関してはミイ師匠に徹底的に仕込まれた。ミイ師匠は魔法文字は教えてくれたのに普通の文字は教えてくれないんだぜ・・・。
タァマちゃんと本を読み始めて1時間くらい経った頃にアリアから声を掛けられたので、もう1度風呂場に向かった。
汚れも落ちてすっかり綺麗になっている2人がいる。アリアはやりきったという顔をしている。
トリスさんの髪の毛って空色だったんだな。随分ハイカラな色合いだ。
「2人ともすごく綺麗になったね。」
「あ、ありがとうございます。」
マジマジ見ていたらアリアに抓られた。ごめんなさい。
「アリアもご苦労様。疲れたでしょ?これからは俺の出番だね。」
俺は2人に向き合って話をした。
「これから2人の体を1ヶ月前まで戻します。この魔法は抵抗されると効果が発揮されない事があるから、違和感を感じても抵抗しないで受け入れてほしい。あと、さっき治療した傷なんかも戻っちゃうからまた凄い痛みが2人を襲うと思う。これに関しては治療できないからなんとか3日間耐えてほしい。特にトリスさん。君は足が無くなる痛みを耐えないといけない。頑張ってとしか言えないのは歯がゆいんだけど乗り切ってほしい。・・・そういえば聞いてなかったけど、その足ってオーク達に切られたって事でいいんだよね?」
「はい、私が捕まったのが3週間前なんですけど、15日程前でしょうか。隙を見て逃げようとしたところ、捕まってしまって切り落とされてしまいました。」
「そっか、なら1日半くらいで足が生えると思うよ。とりあえず、この場所で3日間いるのも辛いだろうから、2階にベッドを用意してあるんでそこに寝てもらって治療を開始しよう。脱衣所に服を用意してあるからそれを着てね。」
アリアがコメルさんを連れて行き、俺がトリスさんをお姫様抱っこして脱衣所に連れて行った。膝から下の足が無いからお姫様抱っこし辛かったので尻を持ってしまった。トリスさんそんなにジーっと俺を見ないで!悪気はないんだ!
コメルさんも姉に似て美人だが、トリスさんもかなり美人だな。胸は・・・きっとまだ成長期なんだろう。まるで少年のようだ。
脱衣所でアリアが2人に服を着せて2階のベッドまで連れて行く。
「よし、じゃあさっそく始めるよ。『リバース』」
「なんだか魔力に流されそうな感覚です。」
「これ怖いです。」
「抵抗しないでそのまま魔力に身を委ねてね。」
10分くらい時間が経過した。そろそろかな?
「あぅ!・・・うぅぅ」
「うぐぅ!?あぁあ!?あ、はぁ・・」
さっき治療した傷が戻ったんだろう。
「うっくっ・・・ご、ごめんなさい。シーツに血が・・・」
「トリスさん気にしないで。今は痛みに耐えることだけを考えて。」
「はい・・・ハァハァハァ」
トリスさんはとても辛そうだな。後3日耐えられるだろうか・・・。痛みを紛らしてあげられればいいんだけど。
「トリスさん。頑張って!何かしてほしいことある?」
「はぁ、はぁ、ヨーヘーさん、手を・・・握って貰えませんか?」
「そんなことで良ければどうぞ。」
俺はトリスさんの手を握った。うぉ、結構な握力だな。俺の手の骨がギシギシいってるよ。かなりの激痛なんだろうな。手、骨折しないよね?
・・・ところでアリアさん?なんでアリアさんも俺の腕を握ってるのかな?ちょっ、痛い!痛いよアリアさん!?
その後アリアが2人に痛覚軽減の魔法をかけていた。神聖魔法にそういった魔法があるらしい。完全な痛覚遮断はできないみたいだけど、コメルさんの表情は和らいでいるし、トリスさんはまだ少し苦しそうだが、先程に比べると楽になったようだ。
あれから3時間経った。コメルさんは疲れてしまったのか眠っている。トリスさんは足が痛むのか呼吸が少し荒いな。眠ってしまえば楽なんだろうけど、痛みで眠れないんだろう。そして3時間ずっと俺の左手を握ったままだ。
そして3時間ずっと俺の右腕を握りしめているピンク色のお姉さん。アリアの握力もとんでもない。たぶん血流が止まってるんだと思う。もう右腕の感覚がないんだ・・・。
タァマちゃんはというと俺の背中におぶさって眠っていたりする。
何なんだこの状況は・・・?
それから2時間経った頃、痛覚よりも疲労の方がが強まったのかトリスさんが寝息をたて始めた。そっと手を離して布団を掛けてあげてから額に浮かんだ汗を拭き取ってあげた。
「アリア、下に降りてご飯を作ろう。お腹空いちゃったよ。」
治療中の2人はリバース中なので食事を取る意味がないから食べさせていない。食べることはできるけど吸収しないのだ。リバースを解除してから吸収が始まるので一回食べると常に満腹状態になる。
眠っているタァマちゃんを背負ったままアリアと1階に下りてキッチンに向かう。
「アリア?腕の感覚がないんだ。アリアに握られるのは嬉しいから構わないんだけど、出来ればちょっと力を弱めてほしいなーなんて・・・」
「あ、ごめん!痛かった?『ヒール』」
おぉ、さすがヒールだ。腕の感覚が戻ったぞぉー!
「それで何作るの?」
「うーん、簡単に済ませようか?お風呂も入りたいし。」
「そうだね。そういえば最後にお風呂入ったのは一昨日だよね。私も入りたーい。」
「じゃあインスタントラーメンにするか。超手抜きで具は海苔だけで。」
「あ、それミイ師匠がよく食べてたやつだよね?実は気になってたんだぁ。」
タァマちゃんは眠っているのでソファで寝かして俺とアリアはインスタントラーメンを食べた。
「こんな味だったんだぁ。結構美味しいね!ミイ師匠がいつも食べてた理由がわかったよー。」
「大学時代、何度かこの味に救われたことがあったなぁ。忘れられない味だよ・・・。」
「へぇ~、そんなことあったんだ?何があったの?」
「え!?ひ、秘密!!」
「えー!いいじゃない教えてよーー。」
「だ、ダメだよ!これは墓場まで持っていくんだ!」
「ぶぅー。いつか話してもらうからね!」
「ちょっとやそっとの事じゃ崩れないくらい仲良くなったらねー。」
「うん♪頑張るよぉー!」
趣味の料理研究の為に色々手を出していたら生活費が無くなったなんてマヌケ過ぎて言いたくない。
ラーメンを食べ終わり、アリアと後片付けをしているとアリアが洗い物はしてくれると申し出てきた。
「ヨーヘー、お風呂入るでしょ?ここは任せて行っていいよー。」
「いいの?アリアも入りたいんじゃない?」
「私もこれ片付けたらすぐに行くから、先に行ってて。」
「わかった。それじゃ先に行ってるわ。」
・・・・・・んんっ!?
今ナチュラルにスルーしてしまったが、私も行くって言わなかった?
アリアを見るとフンフーンと鼻歌を歌いながら食器を洗っている。
聞き間違いか?今日は色々あったし俺も疲れているのかな。よし、風呂に入ってリフレッシュしよう。
風呂に入って頭を洗っていると「お待たせ」っと若干顔を赤らめたアリアが入ってきた。
聞き間違いじゃありませなんだ。タァマちゃんいないのに大丈夫なんだろうか?
「アリア!?ホントに来たの!?」
「え?うん。あ、背中流してあげるねー。」
アリアはタオルで俺の背中を洗ってくれている。幸せ状態なはずの俺は実は混乱中だ。なんだ?急にアリアの距離が近くなった気がする。え?何かやったっけ?
「これでよしっと!じゃあ私も体洗ってくるねー。」
俺にお湯を掛けて石鹸を落としたアリアは壁に囲われたスペースに入っていった。
「風呂・・・入るか。」
考えてもわからないので湯船に浸かる事にした。今日はリラックスしたいからなんとなくひのき風呂だ。
「あー、落ち着くわー」
今日は色々あったなぁー。寝てないから2日分かぁ。濃密過ぎる2日間だった。嬉しい事も嫌な事もあった。タァマちゃんの行動にはビックリしたな。それにあんなに怒ったアリアも初めて見た。あんな目でアリアに睨まれたら・・・ブルゥ!やめよう、考えるのやめよう!
「ヨーヘーどうしたの?お湯に浸かってるのに寒いの?」
「な、なんでもないよ!?」
いつの間にか体を洗い終わったアリアが風呂の淵に立っていた。俺のすぐ横に入ろうと片足をお湯に入れてくる。アリアさん!淵に膝をついてから入らないとバスタオルワンピースが捲れて大事な所が見え・・・見え・・・見えませんでした。俺の視線に気付いたアリアがその手で俺の目を隠したからだ。
「エッチ」
「しょうがないじゃん!普通目が行っちゃうじゃん!興味あるもの!男の子だもの!!」
「だ、ダメだからね!」
顔を赤くしながらアリアが俺の横に腰を下ろした。アリアさん、近くないですか?肩触れてますよ?いや、俺は嬉しいからウェルカムなんですけどね?
「ふ~・・・やっぱりお風呂は落ち着くね~・・・」
いや、全然落ち着かねぇよ。もう動揺しまくりだよ。望んでいたシチュのはずなのに実際になってみると動揺の方が勝るということに気付かされたよ。
「お風呂を知らない人は不幸だって思うよー。私もヨーヘーに会うまでは不幸だったってことだねー。」
風呂の事なのか、人生の事なのかどっちなんだ?それとも二重の意味で言ってるのか?
「コメルさんとトリスさんの治療、うまくいくといいね。」
「うん、正直1ヶ月も戻すのなんて初めてだから心配だよ。ミイ師匠が年老いた犬を1年掛けて子犬に戻したって事があるって言ってたけど、それでも人で実践するのは不安を拭いきれないな。」
「大丈夫、ヨーヘーなら大丈夫だよ。あの子達の為にも成功させないとね。」
「そうだね。まぁもう賽は投げられた訳だから待つしかないんだけど。」
「成功を信じましょう。・・・そういえば私思ったんだけど、リバースってもしかして不老の術になったりしない?」
「あ~・・・なるかもねぇ。記憶はそのままに体の時間を戻すのってちょっと反則っぽいよね。」
「ヨーヘー、リバースの事は絶対に漏らさないようにしたほうがいいよ。色んな国の権力者に狙われちゃうと思うんだ。」
「もうコメルさんやトリスさんに漏れちゃってるけどねー。」
「それは口止めしないといけないね。言い方は悪いけど恩を売ったわけだからそれをネタにしゃべらないようにお願いしましょ。もし漏れたらどうせ貴族なんかが絡んできて碌な事にならないわ!」
「面倒そうな事になったら逃げることにするよ。幸い生きていくだけなら便利過ぎる魔法が使えるわけだしね。」
「その時は私もタァマちゃんも一緒だからね。置いて行ったら嫌だよ?」
「わかってるって。もちろん3人一緒だよ。」
アリアの距離に動揺しまくったので心のリラックスは出来なかったが、身体の疲れは取れたので俺達は風呂からあがった。着替えてから脱衣所を出るとタァマちゃんが起きていた。
「ふみぃ、お兄ちゃんお風呂いったですか?」
「うん、今入ってきたところだよ。」
「お姉ちゃんも?」
「うん、そうだよ。」
「ズルいです!タァマだけ入ってません!タァマも入りたいです・・・」
はい、俺はタァマちゃんを連れてもう一回お風呂に戻りましたとさ。今回は心のリラックスも出来ましたよ。タァマちゃんマジ天使。
その後、アリアと交代で2人をみることにしてアリアに先に休んでもらい、俺はコメルさんとトリスさんの看病をする。看病と言っても異変が無いか見てるだけなんだけどな。結構暇だったので、この時間を利用してアリアが欲しがっていた地球料理のレシピと食材・調味料の説明本でも作るとするかね。
俺のイメージしたものをペーストで紙に転写していけばいいから作成は楽チンだ。アリアの看病の番までに作ってあげよう。これで基礎を学んで貰ってガラダに戻ったら実践訓練だな。
リバースを掛けて36時間くらい経過したところである変化が見られた。トリスさんの両足が再生したのだ。
「ヨーヘーさん・・・!足が、私の足が!」
トリスさんは無くなってしまった自分の足が帰ってきた事に感極まって涙を流している。
「足が戻ってよかったね。でもまだ体に傷は残ってるみたいだからもうちょっと我慢してね。」
「はいっ!ありがとうございます!」
それから約7時間後、トリスさんに呼ばれたのでトリスさんの傍に行く。
「あの、ヨーヘーさん。私が捕まったのが18日前ですからもう体が戻ったと思うんです。そ、その下腹部の痛みも無くなりましたし、確認してもらえませんか?」
ほぅ、確認とな。つまり目視すればいいわけですな。では、お言葉に甘えて・・・。
「さぁ、広げてごら・・・」
スパコーン!!
「何をやってるのかしら?」
「あい!アリアが良く見えるように準備していたであります!」
「本当?嘘はついてない?」
「ウソついてます!ごめんなさい!」
「あなたは下に行ってお風呂の準備してなさい!」
「アイマム!!」ビシィッ!!
「トリスさんもちょっと無防備過ぎるよ。もっと自分を大切にしないとダメだよ。」
「私、ヨーヘーさんになら構わな「ダメ!!」」
「もう、とりあえず確認するね。・・・うん。綺麗に戻ってる。それじゃ体内を洗浄するからこっちに来てくれる?」
「はい、わかりました。」
「コメルさんはもうちょっと頑張ってね。」
「はい、頑張ります・・・トリスさんを見て希望が持てました。」
「うん、じゃあトリスさん。こっちへ。」
風呂の準備をしているとアリアとトリスさんが風呂場に入ってきた。
「お風呂場の準備完了であります!!」
「もうその口調じゃなくていいよ。」
「・・・ぶたない?」
「・・・・・・」
「ごめんなさい!」
「それじゃあまず水魔法で洗い流して、その後にヨーヘーに洗浄してもらうから。とりあえずヨーヘーは呼ぶまで脱衣所で待っててくれる?」
風呂場から追い出されて脱衣所で待つこと5分。アリアから呼ばれたので再び風呂場に戻った。
「それで俺は何をすればいいの?」
「トリスさんの体の中に種が残ってないか調べて欲しいの。もし見つけたら排除してくれる?」
え・・・?それってなんの魔法使えばいいんだ?種状態ならサーチも効果ないだろうし、アナライズでわかるのかな?てか、残ってるとわかったとして排除ってどうするんだ?イレイズは危なすぎるし、スイッチだと異物が体内に入ってしまう。クリーンで綺麗にできるかな?やってみるしかないな。
俺はトリスさんの下腹部に手を置いた。もちろんタオル越しだよ?
「ん・・・」
そういう声出さないで・・・意識しないようにしてるんだから!
「『アナライズ』」
えーっと・・・あ、あった。やっぱり残ってるんだなー。じゃあこの辺りを対象にして
「『クリーン』」
からのー
「『アナライズ』」
んー・・・お?無くなってる。異物として認識されたみたいだな。とりあえずこれで安心か。よかったよかった。
「除去できたよ。」
「本当ですか!?あぁ、ヨーヘーさん・・・ありがとうございます!」
「元通りになってよかったよ。よく頑張ったね。」
「・・・はい。襲われたという事実は無くなりませんけど、体だけでも綺麗に戻れてよかったと思っています。ヨーヘーさんを信じてよかったです・・・。ありがとうございました。」
「どう致しまして。とりあえずリバースの魔法は解くね。アリア、後はお願いしていい?俺は戻るよ。」
「うん、ご苦労様でした。そうそう、トリスさんの服も作っておいてくれる?」
「あぁ、うん。任せてよ。トリスさんに似合うミニスカート作っておくから。」
「なんでミニスカート限定なの?」
「・・・・・、よーし頑張って作るぞーーー」
「こらっ!質問に答えなさいよ!」




