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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
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44話 アリアとタァマちゃんの敵意

俺は腕を落とされて地面にのた打ち回って苦しむプレジャダスに対して、怒りの炎を目に宿して奴を見下ろす猫人の子供を見て、タァマちゃんの名前を呟いた。

その小さな手には俺が作ってあげた忍者刀モドキが握られており、その刃からは血が滴り落ちていた。


「お兄ちゃんを殺そうとする人はタァマが許しません!お兄ちゃんはタァマが守ります!」


タァマちゃんが忍者刀モドキを構えて俺とプレジャダスの間に俺を守るように立ちはだかっている。

フーフー言ってるしかなり興奮してるみたいだ。可愛い尻尾もボンってなってるしな。

俺はそんなタァマちゃんを後ろから抱き上げた。


「お兄ちゃん!まだ危にゃいです!降ろしてください!」


「俺を守ろうとしてくれたんだよね。ありがとうタァマちゃん。」


「にゃぁぁ・・・。」


「本来は俺がタァマちゃんを守らないといけない立場なのに今回は守って貰っちゃったね。ちょっと情けない反面結構嬉しかったりもする。ちょっと複雑な気分だよ。」


腕を落とされて血が噴き出していたプレジャダスだが、ロビンさんの応急手当のおかげでなんとか止血はされていた。暴れないように押さえつけているロビンさんの下で痛みにもがき暴れていたのだが、徐々に動作は鈍くなり、そのまま動かなくなってしまった。


「・・・死んだ?」


心配はしていないが、確認の為にロビンさんに状態を確認した。


「いや、気絶しただけだ。」


「えっと、謝らないからね?」


「謝る必要がどこにある?レジャスはヨーヘーを殺そうとした。殺されそうなのに抵抗してごめんなさいとかないだろう?」


「じゃあ、もう行っていいかな?ちょっと落ち着きたいんだ。」


俺がタァマちゃんを抱きかかえたまま踵を返そうとするとロビンさんが声を掛けてきた。


「すまなかった!レジャスはアリアさんに気があるとは感づいていたが、こんな問題を起こすとは思わなかったんだ。アリアさんもすまなかった。厚かましいお願いかもしれない、こんな事言えた口ではないのはわかっているのだが、レジャスの腕にヒールを掛けて貰えないだろうか?」


「なんでです?ヒールなんてするわけないじゃないですか。ヨーヘーを傷つけただけじゃ飽き足らず、殺そうとしまでしたんですよ?なんでそんな人を治療しないといけないんですか?タァマちゃんが切らなければ私が燃やしていましたよ?」


ひぃ!?アリアさん!?目がなんか怖いですよ!?タァマちゃんだけでなくアリアもかっ!?俺もムカついてはいたが、2人の様子を見て逆に冷静になれちゃったよ。周りが興奮して当事者が冷静になるってどうなんだろうね。


「ア、アアア、アリア!?俺は別に平気だから!ほら、やらなくちゃいけないことあるでしょ?ね?早く行こう?」


ごめんなさい。冷静になれていません。激昂している2人の様子に俺は軽くパニックを起こしている。


「そうだね、アレを駆除しないといけないよね。」


「そうじゃないよ!?」


「どうしてお兄ちゃんはあの人を庇うですか?」


俺に抱かれたままのタァマちゃんがプレジャダスから目線は外さずに質問していた。

え・・・?・・・そういえばなんでだろうな?別に俺が庇う必要はないはずだ。命の軽さに対する嫌悪感からか?いや、今更だよな。俺だって魔物や獣をたくさん狩ってきたしな。


「ヨーヘー君!考え込まないでなんとかその2人を止めてくれないか!?」


はっ!?そうだった。


「今アイツを殺したら俺を殺そうとしたアイツと同じになっちゃうじゃないか。」


どや?決まったんじゃないか?


「ヨーヘー、それは違うよ。気に入らないからっていうのもあるけど、重要なのは大切な仲間殺そうとしたから。だよ。」


じゃあ仕方ないですねー。俺だってアリアやタァマちゃんが殺されそうになったらそいつを殺すと思うしね・・・。


「ロビン、俺には無理かもしれない。」


「頼む!この状況ではヨーヘー君だけが頼りなんだ!こんな奴でも一応俺の仲間なんだよ・・・」


むぅ・・そこまでプレジャダスを助けたいと思わないんだよなぁ・・・。でもここはロビンに免じてやるか。


「アリア、タァマちゃん。もう行こう?時間が勿体ないよ。俺はこれ以上あいつの近くにいたくないんだ。」


「ヨーヘー・・・わかったよ・・・。でもロビンさんそれが起きたら伝えておいてください。次に私達の前に現れたら容赦しないって。」


あぁ、とうとうそれ扱いになってしまった。しかし可哀想とは思わないな。むしろザマァって気持ちの方が強い俺は心が腐ってしまっているのだろうか。


「すまない・・・ありがとう。」


俺達は空気が重くなったその場を離れた。


俺達は今集落だった場所から遠ざかるように森の中を歩いている。

タァマちゃんは俺に抱っこされているが尻尾がボンってなったままだし、アリアは俺の前をズンズン歩いている。こっちもまだ機嫌悪そうだなぁ。


「アリアさん?」


前を歩いているアリアが歩みを止めて振り返った。


「ヨーヘー・・・さっきはごめんなさい。また私のせいでヨーヘーに嫌な思いさせちゃったよね?」


「またそんなこと考えてたのか。アリアが気にすることじゃないって。プレジャダスが勝手に暴走しただけだろ?」


「本当っ!アレには困らせてもらったよ!!なんなのアレは!!」


アレ・・・ね。もう名前も呼んでもらえないんだな。ご愁傷様。アリアは怒りが収まっていないらしくプレジャダスの文句を言いながらプリプリ怒っている。


「これからは私がちゃんとヨーヘーを守るからね!任せておいてね!」


ふんすっ!っと意気込んだアリアが俺を見つめる目は頼もしくもあったがちょっと怖くもあった。


「タァマもお兄ちゃんを守ります!!」


「タァマちゃんもありがとうね。助かったよ。」


「にゃぁ」


「本当!タァマちゃん凄かった!アレの腕が落ちるまで気が付かなかったよー!ちゃんとヨーヘーを守ったんだね。偉いよタァマちゃん!私もタァマちゃんを見習わなくっちゃ!」


「にゃぁぁ♪にゃぁぁ♪」


アリアに褒められながら頭を撫でられてタァマちゃんは嬉しそうだ。それにしても俺だってプレジャダスの腕が落ちるまでタァマちゃんの存在に気付けなかった。マジでアサシンの素質があるんじゃないか?気が付いたら首が落ちてました。とかゾッとする。




しばらく歩いているとテニスコートくらいの大きさの池があった。


「この辺で治療しよっか。たぶんだけど、治療に1週間は掛かると思うんだ。」


「心のケアも考えてあげないとね。」


「とりあえず、魔法の袋(家)に入ろうか。」


いつもの様にバリアとインビジブルを掛けて魔法の袋(家)の中に入った。



「治療なんだけど最初はお風呂場でやった方がいいと思う。綺麗にしてあげたいしね。」


「そうだね。治すだけなら私だけでも大丈夫だけど、ヨーヘー何かするんでしょう?」


「うん、ちょっと試したいことがあるんだよ。タァマちゃん、俺達がお風呂場にいる間ご本読んでてくれる?」


「タァマも一緒じゃダメですか?」


「うん。ちょっと怖いかもしれないからね。」


「わかりました・・・。」


シュンとなってしまったが、子供が見るにはちょっと刺激が強いだろう。


「ご本なんだけど、『家庭料理の作り方』、『爆笑!スベらない宴会芸』、『天獣王物語』があるけどどれがいい?」


「『天獣王物語』がいいです!タァマそれ大好きです!」


この話は獣人に絶大な人気を誇っているらしい。


「じゃあ、何かあったらお風呂場に声かけてね。入ってきちゃダメだからね。」


「はい!わかりました!!」


タァマちゃんに本を預けてアリアと脱衣所に向かった。




「あ、ヨーヘー。この鉄の下着外してもらえない?もう必要ないと思うし。」


「あぁそうだね。『トランスフォーム』」


鉄の下着を変形させてアリアの体から外してあげた。外す際に妙にドキドキする布が見えたが平常心で切り抜けた。


風呂場に入ってコメルさんとトリスさんが収納されている魔法の袋を取り出して口を広げる。


「大丈夫?」


声を掛けながら中を覗くと不安そうな表情をした2人が見つめてきた。


「あ、ヨーヘーさん・・・やっぱり脱出は難しそうですか?」


「は?あ、あぁ、いやもうオークとゴブリンは全滅したよ。だから安心して。」


「え?ここに来るまでに集落を壊滅させてたのですか?」


「いや、この袋って蓋を閉じると中の時間が止まるんだよ。実はあれから半日は経ってるんだ。」


「え?え?からかってる・・・んじゃないですよね?」


2人は混乱している。まぁ無理もないよな。


「今は俺の家にいるんだ。これから2人を治療するね。この子は治療を手伝ってくれる俺の仲間でアリアって言うんだ。」


「よろし・・・っひ、ひどい・・・。」


挨拶しながら魔法の袋に入ってきたアリアは2人の姿を確認すると手を口で覆って震えてしまった。


「・・・こんな姿でごめんなさい。」


「あ、違うんです!そんなつもりじゃなかったんです!・・・お辛いでしょう?すぐに治しますから!」


俺とアリアはコメルさんとトリスさんを魔法の袋の外に出して洗い場の床にバスタオルを敷いてそこに横たえた。

2人俺が渡した布の下は全裸だ。胸と下腹部にフェイスタオルを掛けて大切なところを隠す。もちろんこの作業はアリアにやってもらった。


「ここは・・・本当にあの洞窟から出れたんですね。」


「私、あの場所から一生出れないと思ってました・・・」


2人は影はあるが口元だけは笑顔を見せてくれる。よし、治療を開始するか。


「ヨーヘー・・・私は傷を治すことは出来ても無くなった足の再生とお腹の中の存在はどうすることもできないよ・・・。」


「この前リバースって魔法の説明したでしょ。あれを使おうと思うんだ。」


「あぁ!あれなら足は戻るわけね!・・・でもお腹の中のはどうしよう・・・」


「やってみないとわからないけど俺の予想ではリバースを掛ければ種に戻っていくんじゃないかなと思うんだよね。だからまずは2人の体を綺麗にしよう。ベトベトで気持ち悪いだろうから。そしたらお腹の中の存在にリバースを掛ける。これでお腹がへこんでいけば成功だね。囚われたのが1ヶ月前だっけ?だからその時点に戻るまでリバースを掛けて、種に戻った存在を洗い流そう。これはアリアにお願いするね。お腹の中の存在が片付いたら今度は2人にリバースを掛けて1ヶ月前の状態に戻す。これでトリスさんの足も元に戻るだろうし、体も捕まる前状態に戻るはずだよ。ただ、記憶は消せないから辛い記憶は残っちゃうけど、それはごめんね。」


「そ、そんなことができるんですか!?私、綺麗な体に戻れるんですか!?」


絶望の色に染まっていたコメルさんの表情が希望の光が宿ったかのように生気を取り戻したような感じがする。


「人体に掛けたことないから実験的な意味合いになっちゃうけど、アナウサギで実験した時はうまくいったんだよ。もしそれで良ければ試させてもらえないかな?」


「そ、それでもかまいません!綺麗な体に戻れるならお願いしたいです!」


「私も出来るなら綺麗な体に戻りたいです・・・」


「わかったよ。でもこの魔法は10倍速が限界なんだ。1ヶ月前ということになると最初の処置で3日、その後体の治療に3日。だから治療に1週間は掛かっちゃうと思うんだ。」


「ねぇヨーヘー。そのリバースってお腹の中の存在と体の復元を分ける必要ってあるの?」


「え?だって分けないと・・・・ん?分ける必要ないか?」


「ないよね?最後の方に洗い流せばいいと思うのだけど。」


良く考えたら無かった。


「ごめん。3日で済みそうだよ。」


「あと、ヨーヘー。トリスさんの足の治療ってしても平気?凄く痛々しいから傷口は塞いでとりあえず痛みを無くしてあげたいのだけど。」


「リバース掛けると傷口も戻っちゃうけど、そうだね体を洗う前にヒールしてあげてくれる?」


「そうだよね!『ヒール』」


コメルさんとトリスさんの体にあった無数の傷や痣等が消えていく。これなら体を洗っても痛みはないだろう。


「じゃあ早速体を洗って綺麗にしようか。アリア、申し訳ないけどお願いできる?俺が洗うわけにもいかないからね。俺が洗ってもいいなら喜んで隅々まで綺麗にしますが!」


「まったく、バカ言ってないで一回お風呂場を出ていなさい!2人を綺麗にしたらまた呼ぶから!!」


「あ、あの・・・わ、私はヨーヘーさんでしたら洗ってもらっても構わないですよ?」


「マジで!?」


「トリスさん!?・・・はっ!?ダメよ!絶対ダメ!!ヨーヘーは早く出ていけーーー!!」


凄い勢いでアリアに風呂場から追い出されてしまいました。


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