41話 魔法の威力
笑う去るマイツァさんを見送っているとアリアから声を掛けられた。
「あ、あの、ヨーヘー?」
呼ばれたことに反応し後ろを振り向くとアリアの目から涙が零れていた。
「えっ!?ええっ!?ど、どうしたの!?プレジャダスの奴になんかされたの!?ごめん!サブロー先輩に邪魔されて介入が遅れたんだ!」
「違うの!違うの・・・私が我侭言ったせいでヨーヘーが傷ついてるってわかっちゃって・・・何やってるんだろうね私・・・」
「アリア、だ、大丈夫だよ!傷ついたって言っても大した事ないしさ!俺はアリアに嫌われなければそれていいから!」
「ヨーヘー・・・ごめんね。私やっぱり留守番してたほうがいいのかな?」
「それはそうなんだけどさ。いや、でもやっぱり一緒に行こう?俺がアリアの立場だったらやっぱり付いていきたいしね。それにほら、ブランダでずっと一緒にって言ったじゃないか。」
「・・・うん。本当に一緒に行っていいの?またヨーヘーが嫌な思いするなら私我慢するよ?」
「マイツァさんがさっき説明してくれたし、もうあんな目で見られることはないと思うんだ。だから一緒に行こう。絶対にちゃんと守るから。」
「うん、ありがとう。でもこれは言わせて。私もヨーヘーをちゃんと守るからね。あと、私はヨーヘーを嫌いになんてならないよ。頼まれたって嫌いになってあげないんだから!」
「おーい、あんまり見せ付けるんじゃねーぞ。」
そんな声が聞こえた。一瞬忘れてしまっていた。ここはむさ苦しい野郎共がのさばる冒険者ギルド内であることを。
「ちくしょう!俺だって可愛い彼女見つけてやるからなぁ!!」
「あの野郎羨ましいぜぇぇぇ!!」
「クソッ!死ねばいいのに・・・」
「俺この討伐任務が終わったら、花屋の子に告白するんだ。」
おい誰だ!死ねばいいとか言ったのは!あと誰か知らんが死亡フラグが立ったぞ!?死ぬなよ?いいか?絶対に死ぬなよ?
「おい兄ちゃん!帰ってきたら一杯奢れよな!!ちっとは幸せ分けやがれ!!」
「「「そーだ!そーだ!」」」
「俺そんなに金持ってねーよ!!」
「うるせー!この野郎!!」
「なんだこら!やるかオラ!!魔法師の恐ろしさを教えてやらぁぁぁ!!!」
討伐に行く冒険者達でバカ騒ぎが始まった。最後にマイツァさんの雷が落ちて収まったが、生きて帰って皆で飲もうと話はまとまったのだった。そんなバカ騒ぎをしている間、プレジャダスがずっと俺を睨んでいたことには最後まで気がつかなかった。
オークゴブリン集落討伐の為に偵察グループが先行して出発し、それから30分程遅れて俺達後衛チームと前衛チームが出発した。
森に向かって歩いていると『アムテル』のリーダーのロビンが話しかけてきた。
「ヨーヘー。さっきはウチのレジャス・・・プレジャダスがすまなかった。許してやってくれないだろうか?あいつはちょっと思い込みが激しいところがあってな。悪い奴ではないんだよ。」
「本人が謝りに来てないのに、それで許すってのもどうかと思うんですけどね。」
「だよなぁ・・・。その通りなんだが・・・まいったな。」
「はぁ、もういいですよ。許しはしませんが、何もされない限り敵視することもしないですから。」
「すまない。あと俺からも謝らせてくれ。マイツァさんの説明があるまで俺もお前の事を酷い奴だと思っていた。申し訳なかった。」
言わなけりゃわからなかったろうに律儀なロビンは頭を下げてきた。
「気付いてなかったんだから黙っておけばいいものを。」
「いや、俺の気が済まなくてな。謝っておきたかった。」
「そうっスか。じゃあ謝罪を受け入れますよ。」
「あぁ、ありがとうよ。」
もう1度頭を下げた彼はそのまま自分のパーティのところに戻っていった。
ロビンが去ったのと入れ替わりで今度はサブロー先輩がやってきた。
「やぁやぁ、ヨーヘー君。調子はどうだい?君の魔法は・・・うんたらかんたら」
あぁ・・・この人超面倒臭い。
もうこの調子で1時間はしゃべっている。内容はいかにこの僕が優れているかというしょーもない内容だ。俺とアリアは苦笑いしながら聞き流すことにした。タァマちゃんは俺の背中で寝息を立てている。眠っているタァマちゃんをコウトンさんがジーっと見てるなぁ。可愛いのが好きなんだろうか?後でクリエイトで猫のぬいぐるみを作ってみるかな?反応が見てみたい。
「というわけなんだが、君達ちゃんと聞いているかい?」
「え!?あ、あぁはい。あれっスね。サブロー先輩マジすげーっスね!尊敬するっス!」
「サブローじゃないと言っているだろうが!君がそう呼ぶから他の馬鹿共もそう呼ぶようになってしまったではないか!」
皆名前覚えづらいと思ってたんだなぁ。こんなにも早くサブローのあだ名が受け入れられるとは予想外であったが。
「まぁいい、いや、良くは無いが、それは置いておこう。次に魔物が出たら、さっきの話の通り、僕の素晴らしい魔法で退治してみせようじゃないか!君達は星3つということはまだそれ程多くの魔法を覚えていないだろう?ここは僕のエクセレントな魔法を見せてあげようじゃないか。そしてそれを覚えるといい。使い方は僕くらいになれば見ただけで術式を理解して使えるようになるけれど、君達では無理だろうからね。あとでヒントを教えてあげるよ。お?丁度良い所にフォレストウルフがいるじゃないか。よし!見ていろよ?」
サブロー先輩は何やらブツブツと詠唱を始めた。20秒くらい詠唱してクワッっと目を見開いて手に持った杖をフォレストウルフに向ける。
「『フレイムランス』!!」
ボウッっと2mくらいの炎の槍がフォレストウルフに飛んで行き突き刺さった。
「キャンキャン!」
攻撃されたフォレストウルフは逃げていった。
「ふぅ、逃げられてしまったか、当った場所が悪かったかな?見たかい?今のがフレイムランスという魔法だよ。ファイアーアローの上位魔法だね。約30マールの大きさしかないファイアーアローよりも数倍の威力がある。まぁその分消費魔力も多いけどね!」
え?今のがフレイムランス?密度も少なくて中身スカスカだったけど・・・。あんだけ詠唱してたのにあれくらいなの?俺やアリアなら魔法名だけで3mのもっと凝縮されたフレイムランス撃てるぞ?・・・あ!もしかしてこれギャグなのか?笑わないといけないところなのか?ウィザードンジョークってやつか?
場の空気を大切にする俺は慌てて笑おうとしたら周りから「さすがだな。魔法ってのはおっかねぇぜ。」とか、「見たかよあの速度にあの威力。あんなの遠距離から撃たれたらと思うとゾッっとするぜ」とか聞こえてきた。え?あれはマジだったのか?
「はっはっはっ!驚いて声も出ないか!まぁ今のを初見で真似ろというのは酷だったな!よし!ヒントを教えてあげよう!フレイムランスは・・・・・・」
上機嫌に説明を続けるサブロー先輩をよそにアリアに感想を聞いてみた。
「ねぇアリア。今のってフレイムランスなの?」
サブロー先輩は詠唱までしてあの威力だった。詠唱は決められた文言はないが、集中を高めたり魔力を魔法に変換する工程に役立つし、詠唱の間に魔力を注ぎ込んで1発の威力を増すような効果もあるのだが、サブロー先輩のあれは色々無駄な物が入ったり、魔力が拡散されてしまっていて充分な威力が出せていないように見えた。
ちなみに詠唱が決まっていないのは下級魔法や中級魔法で、上級魔法には決められた文言があるので、それを含まない詠唱だと発動すらしない。
「うん、そうだと思うよ。ヨーヘーは知らないだろうけど、あれが一般的なフレイムランスなの。私達はミイ師匠に術式や理をみっちり叩き込まれたから最も威力を高めた魔法を効率よく発動させることができるけど、普通はあんなもんなんだよ。」
「マジか。もしかして俺達の魔法って凄いの?」
「少なくとも私やヨーヘーみたいなフレイムランスを出せる人なんてミイ師匠とユグドお兄ちゃん以外は見たことないかなー。ミイ師匠は最初胡散臭かったけど、自分のこと世界一の魔法使いだって言ってたのも案外的外れじゃないのかもね。」
「そうなのか。これがデフォルトだと思ってたよ。ミイ師匠って凄かったんだなー。」
自分の魔法の威力を見てきて魔法ってすげーなーとは思っていたが、それもミイ師匠の指導の賜物だったんだなぁ。
まぁサブロー先輩の放ったフレイムランスも当たり所が悪ければ死んでしまうだろう威力はあった。そんな攻撃を遠距離からされれば脅威ではあるだろう。そういう意味でも一般の魔法師でも恐れられるのかもしれない。
「・・・・ということなのだ。理解したかい?そして詠唱についてだが、これは魔力を練ってイメージ通りに魔力を変換しを固定化させる補助になるのは知っているね。フレイムランスの場合はイメージするのは灼熱の槍だ。それは全てを燃やし貫くという強固なイメージが重要になってくる。思い描いたイメージに魔力を巡らせて変換し、具現化する。あとは魔法名と共に発動させればいいのさ!・・・聴いているかい?」
「はい!もちろん聞いているっスよ!さすがはサブロー先輩っス!マジすげーっスね!尊敬するっス!」
「む?はっはっはっ!そうかそうか!なぜかさっきも同じ様なことを言われた気がするが、僕を尊敬しているのであればまぁいいだろう!あと、サブローって言うな!!」
その後も止まらないサブロートークに悩まされながら森の奥へと進むのであった。
日付が変わる頃、集落まであと2kmというところまでやってきた。偵察部隊の話だとまだ寝静まっていないらしいが、眠りだす個体も増えてきたようなので、このまま寝静まるのを待って予定通り襲撃は明け方に行う事になったので、これから4時間休憩を取ることになった。
サブロー先輩の大切なお話、略してSTO(Saburo Taisetsu Ohanashi)から解放された俺達はなんか色々疲れたので休憩の準備をしていると、こちらにやってきたマイツァさんに話し掛けられた。
「ヨーヘー、今ちょっといいか?」
「はい?なんですか?」
「実はこれをカナから預かっていたのだが、渡すのを忘れていてな。思い出したので届けに来たわけだ。」
「カナ?・・えっと誰ですか?」
「うん?カナからお主に頼まれた物だと聞いたぞ?受付をやっている職員なんだが。」
「あぁ!すいません。頼んでいました。カナさんって名前なんですね。知りませんでした。」
「なんだ?あやつは自己紹介もしてなかったのか?まぁいい。確かに渡したからな。襲撃まではゆっくり休んでおけよ。何かあったら連絡する。ではな。」
俺に小袋を渡すとスタスタと去っていってしまった。
「ヨーヘー、それは?」
「受付のお姉さん、カナさんって言うらしいんだけど、妹のコメルさんの髪の毛があったらくださいって言っておいたからたぶんそれじゃないかと。」
「あぁ、言ってたね。ふふっ、なんか変態だと思われかけててちょっと可笑しかった。」
「あれはちょっと焦ったなー。よし、早速使ってみるか。『サーチ。捜索対象:コメル。探知対象:コメルの魔力。探知サンプル:コメルの髪の毛。』」
「どう?わかる?」
「うん。あっちの方角に反応があるよ。」
「・・・あっちって集落の方角よね・・・。他の3人もそうなのかしら・・・」
アリアが辛そうな顔をしている。
「んー、ちょっと気になるし見に行ってくるよ。」
「!?危ないわよ!何を言ってるの!?」
「いや、だって捕まってたりしたら明日の朝には戦闘になるんだよ?巻き添えで死んじゃう可能性だってある。居場所だけでもわかってるなら助かる可能性上がるじゃないか。」
「でもヨーヘーが危ないでしょう!?最優先で守らないといけないのは私達『フリーター』の身の安全だってことは忘れないで。」
「わかってるって。たぶんインビジブルとファブリーとミュートを使えば安全に偵察できると思うんだよね。無理そうなら戻ってくるよ。いざとなったら超疲れるけどテレポートもあるし。」
「うん、それなら・・・いい?絶対に無理はしないでね?」
「オッケー。じゃあ、アリアはタァマちゃんと一緒に魔法の袋(家)に入ってて貰える?お風呂とか入ってていいよ。」
「ちゃんと帰ってきてね?あとお風呂はやめておくわ。ヨーヘーがいないとこの鉄の下着脱げないもの。」
「あ、そうだった。じゃあ我慢してねー。ご飯先に食べててもいいから。それじゃ行ってきます。」
アリアとタァマちゃんに魔法の袋(家)に入ってもらい、インビジブルとバリアを掛ける。このまま持っていってもいいんだけど、落としたりしたら大変だからな。
魔法の袋(家)の安全を確保して、今度は自分にインビジブルを掛けて姿を見えなくし、ファブリーで匂いを消し、ミュートで音が出ないようにした。あとはサーチの指し示す方向に向かってフライで空を駆けて向かうのだった。




