37話 お魚さん
翌日、みそ汁に納豆という朝食らしい朝食を食べてから出発した俺達は、時折襲撃してくるお猿さんやゴブリンを撃退しつつ歩いていた。1時間程歩いた頃だろうか、森の出口が見えてきたのは。
「やっと森を出たねー。街まで40ムールくらいって話だよね?」
「うん、それくらいだったと思うよ。」
ここから街は見えない。4kmくらい先なら見えるかと思ったんだけど、途中丘みたいになってるから見えないのかな。
「あの丘の上まで行けば見えるかな?」
「そうだね。見えると思うよ。」
「よーし、あと1~2時間だ。頑張って歩こー!」
「「おー!」」
丘の上まで上がると街が見えた。
「あれがガラダか。聞いてた通りブランダと同じくらい大きい町だね。」
「そうだねー。特産品は特になかったと思うから面白いものはないかも?」
「なんか作ればいいのに。・・・ん?なんだ?あれ。」
「え?・・・んー?荷馬車かしら?でも倒れてる?」
ガラダに向かう道の1kmくらい先に屋根無しの馬車の荷台みたいなものが倒れている。
アリアと顔を見合わせ疑問に思いながら歩みを進める。
馬車に近づいたところ、馬はいなかったが、荷物が散らばっていた。荒らされたというより馬車が倒れて散らかっているような感じなので盗賊に襲われたわけではないのだろう。
「荷車が壊れて放置したのかな?でも荷物も置いていってるように見えるしなぁ?」
「持てる分だけ馬に積んで後は放棄したのかな?」
「それにしちゃ量が多くない?なんか勿体無いな。これって貰ってもいいの?」
「どうだろう?街まで30ムールくらいだし、別の馬車を取りに行ってる可能性もあるよね。でも番を残さないのもおかしいよね。荷物を見る限り商人だと思うんだけど、1人で行動してたのかなぁ?」
「お兄ちゃん、あっちに何かいるみたいです。」
「え?『スカウト』」
森の外は魔物の反応が消えたのでスカウトを切ってしまっていた。えーっと、街道から200mくらい離れたところに5つ反応があるな。目まぐるしく動き回っている。戦闘中か?
反応がある方へ100mくらい進んでみると魔物を目視することができた。
「熊?熊って集団行動するんだ。」
「あれはグリーベアかな?狩り中みたいね。」
「何を狩ってるんだ?人じゃないよな?『ホークアイ』んー?さ・・かな?魚っぽいな。手足あるけど。さすが異世界だね、魚も陸上にあがるのかー。」
「魚は水の中にいるものよ?もしかしたら魚人族じゃないかな?」
「あ、食われた。」
「え!?」
見えると言っても100mは離れているのでアリアにはよく見えていないので実況してあげる。
魚の脇腹辺りに熊が噛み付きそのまま噛み千切ったのだ。
「おー・・・グロい・・・。助太刀できなかったか・・・え?なんだ?」
「どうしたの?」
「いや、食われたはずなんだよ。でも食われたところがなんともなってないんだ。見間違えたのかな?」
「え?」
「んー?あ、また食われた。・・・おー、治ってるのか!凄い再生能力だ!これなら助太刀が間に合うかもしれないな。」
状況がよくわからないが、グリーベアは魔物で魚の人は魚人族らしい。俺からしたらどっちも魔物に見えるのだが、魚は違うらしい。確かに魚からは魔物特有の魔素を探知できないからな。こっちに標的が移ったら適わないので、万一の事を考えてバリアを張りつつ熊と魚に近付いた。
「アリア、言葉通じるかな?」
「魚人なら通じると思うけど。」
「そか、あのー大丈夫ですかー?」
「うっ!助けが来てくれたか!?すまないが助太刀してはもらえないだろうか!?」
「わっかりましたー!アリアいくよ!」
「燃やすのはダメだからね!あの人もこんがり焼けちゃうからね。」
「りょーかい!あの人に突っ込んで行ってるみたいだからあの人にレーザープリズン使おうと思うんだ。アリアは俺達にレーザープリズンをかけて。タァマちゃんこれから光の線がいっぱい出るけど絶対に触っちゃダメだよ。」
「オッケー!」「わかりました!」
「そこの人!光の線が出ますけど触らないでくださいねー!!じゃあ行くよ!」
「「『レーザープリズン』」」
魚の周りと俺達を覆うように光の檻が取り囲む。
「グォォォオン!!!?」
魚の人に向かっていた熊3匹と俺達に気付いて標的を変えてこちらに来た1匹がところてん状態になった。これであと1匹か。
「おぉー!凄いな君達!助かったよ!!」
「あと1匹います!そちらで倒せますか?」
「なーっはっはっはっ!無理だ!!」
清々しい無理宣言。結構いい声なのがちょっとイラっときた。
熊は光の檻を見て動けないでいるが、逃げることはしないみたいだ。さて、どっちの檻を切って攻撃しますかね。レーザープリズンの弱点は出してる間は他の魔法が使えないことだな。うーん。
「そこの人!その光を消したらこっちまでこれますか!?」
「なーっはっはっはっ!余裕だよっ!!」
「アリア、俺がまずあの人に掛けてるプリズンを切るから、あの人がこっちに走ってきたらアリアも俺達のプリズンを切ってね。あの人がここまで来たら俺がもう1度プリズンかけるから、アリアは熊に攻撃してくれる?」
「わかったよー!」
「じゃあ行きますよー!3つ数えたらこっちに走ってきてください!」
「あぁ!任せてくれ!!」
「3、2、1、0!!」
俺はレーザープリズンを解除した。
魚の人がこっちに走ってくる。魚の二足歩行ってなんか気持ち悪いな。あっ!こけやがった!!おい!早く立てよ!!ビチビチしてるんじゃねーよっ!
倒れてビチビチしている魚に熊が襲い掛かる。
「ぬわーーーー!!」
くそっ!左肩の辺りをゴッソリ食われてる。しかし食われた拍子に抜け出して再びこちらに走ってきた。左肩は・・・治っている。なんなんだいったい。
その後は作戦通りに進んで今は魚の人にお礼を言われているところだ。
この魚の人。かなり美形だった。これがイケメンというやつか。口はたらこ唇だったがむしろそれがチャームポイントみたいな感じになっている。魚人というだけあって、首から下は鱗でびっしりでツヤツヤした黒色だ。しかし、魚とは違って人みたいな手足がある。指の間にはヒレが付いていた。・・・あとはなんというか身長も2m程ありでかいのだが、それ以上に態度がでかい。
「なーっはっはっはっ!いや助かったよ!!荷馬車の護衛をしていたんだが、もうちょっとでガラダに着くというところでグリーベアの集団に襲われてしまってね。一時はどうなることかと思ったよ!」
「はぁ・・・」
この人の言う話だと、この人はさっき転がっていた荷馬車の護衛をしていたらしい。その時に10匹のグリーベア、さっきの熊だな。こいつらに襲われてしまったとか。他にも3人護衛はいたらしいが、この人以外は依頼主の商人も含めてやられてしまったと。10匹いた熊の内5匹は護衛の3人と依頼主の1人と馬を咥えて森に帰っていったとか。残りの5匹はなかなか倒れないこの人の相手をしていたとのこと。話を聞いていて驚いたのは襲われたのは昨日の夕方ということ。よく今まで耐えたな。
「よく耐えられたと思っているな?その秘密はミーの持つ能力にある!ミーの魔力は回復能力にほとんど使われているからそれはもうヴァンパイア並みの回復能力を持っているのだ!!だから殴られようが斬られようが燃やされようがすぐに回復してしまうのだ!腕を切り落とされてもすぐに生えてくるのだよ!!なーっはっはっはっ!!」
そういうことなのか。てかヴァンパイアいるのか・・・。
「ミーは不死に近い!よって前衛として壁役をしていたのだが10匹もいると全部止めるのは無理であった!他の者は気の毒であった!!」
「ミーさんは冒険者なんですか?」
「ミーさんとはミーのことか?ミーの名前はトロという!トロ=オーマだ!ミーという名前ではないぞ。」
「おいしそ・・・失礼、素敵な名前ですね。」
「なーっはっはっはっ!そうだろうそうだろう!かっこいいだろう!?オーマのオーは王という意味なのではないかと思っている!」
俺は大間のマグロの大かと思ったよ。
「先程の質問に答えよう!いかにもミーは冒険者だ!星5つになるが、君達も冒険者なのか?」
「あ、はい、俺達は星3つです。2週間くらい前に冒険者になりました。」
「ほほぅ!まだ初心者であったのか!よし!そういうことならミーが先輩として導いてやろうじゃないか!!」
「いえ、間に合ってます。」
「なっ!?ユー・・名前はなんという?」
「ヨーヘー=イシカワですが。」
「ふむ。ヨーヘーよ。ユーは運がいいのだぞ?このミーが色々教えてあげようと言っているのだ。魅力的だろう?」
「今のところ困ってないので大丈夫ですよ。」
「いやいやいやいや!これから困ることになる!そんな時に必要なのは先輩からの助言だとミーは思うのだ!ほら、導いてほしくなってきただろう?」
「・・・・・・」
なんだ?面倒臭い人だぞ?
「それにミーは壁役としてかなり優秀だ!ミーが敵を引きつけている間にユーが倒す!素晴らしい連携になるとは思わないか!?」
「まぁ確かにウチに壁役はいませんが・・・」
「っっっ!!そうだろうっそうだろうっ!!パーティに壁役は必須だよなぁ?最重要と言ってもいいな!そう、例えば凶悪なドラゴンから仲間を守る為に強烈な一撃を止めて味方を守るミー!!あぁ・・・かっこいい・・・ミーかっこいい・・・。」
自分の世界に入ったぞ・・・ビチビチしてて気持ち悪い。イケメン顔なのに気持ち悪い。
「よし!ヨーヘーにミーの取っておきの必殺技を見せてあげよう!見たところヨーヘーは魔法に憧れているのだろう?魚人族が使う固有魔法なのだが、修行をすればこれが使えるようになるかもしれない。さぁミーの最強の魔法を見るがいい!!」
アリアはタァマちゃんと遊んでいる。俺もそっち行きたいなー。
「行くぞ!必殺『ウォーターショット』」
ピューーー
トロ氏の口からオモチャの水鉄砲みたいな水が噴出され俺の顔にビチャビチャとあたる。
・・・・イルァ。
「フハハハハ!どうだ凄いだろう!?ミーに師事してもいいよ!!」
「・・・おい。」
「うむ!なんだい!?」
「冒険者の先輩に教えて欲しいことがある。厄介なのに絡まれた時の対処法は?」
「なんだ!そんなことか!!絡まれるという事はナメられているということ!!というわけで、ナメられないようにこいつは危険だと思わせるのが一番だな!」
「そうか・・・あんた燃やされても死なないんだっけ?」
「うむ!ミーは燃やされるくらいなんともない!この前溶岩に落ちた時も死にはしなかったしな!非常に熱かったけどね!!なーっはっはっはっ!!」
「凍らされても、雷に打たれても?」
「余☆裕!ミーを殺せるのは寿命だけなのではないかと思っているよ!」
「・・・・・・・」
「どうしたヨーヘー?黙り込んで。・・・む?なんだ?大気中の魔力の様子がおかしいようだ。」
異変に気付いたアリアはタァマちゃんを連れて避難した。
「深淵に流れる嘆きの川よ、閉ざされた世界から此の地に流れろ、全てを凍て尽かせ『コキュートス』!!!」
辺り一帯の大気が凍った。巨大な氷壁は太陽に照らされても溶ける事を知らないだろう。その中に氷付けのマンモスよろしく、イケメンな魚が封印されている。やっぱりマグロは冷凍するに限るな。
「アリア!行くよ!!」
「う、うん。・・・面倒そうな人だったけど、上位魔法を使うほどだったの?ていうかあれ大丈夫なの?」
「魚は腐っちゃうといけないからちゃんと凍らせないとね♪」
まぁ街に着いたら解除してやるか。
「お魚・・・」
タァマちゃん、あんなもん食べれないからヨダレを拭きなさい。
商人まで死んでしまったという話だったので、荷車の荷物を回収しておいた。届かないと困る人もいるだろうから処分方法を冒険者ギルドで確認しておくか。
ガラダはもう目と鼻の先だ。




