29話 タァマちゃん
なだめ続けて30分くらい経っただろうか。タァマちゃんはまだ微妙にグズついている。
タァマちゃんは身長が小さい。9歳なのに幼女と間違えたくらいだ。俺はこの30分間ずっと彼女を抱きしめている為、彼女の身長に合わせる為に中腰だ。
つまり、腰に超ダメージがくる。
正直に言おう。もの凄く辛い。早く泣き止んで欲しいが男は我慢だ。
ちなみにアリアも俺の腰の異変には気付いているはずだ。
最初の頃は俺と同じく中腰になってタァマちゃんをあやしていたが、15分くらい経つと立ち上がって腰の運動をしていた。
今は俺の視界に入って頑張れ!ってジェスチャーしている。応援は嬉しいがどうせならヒールして欲しい。
「うぅ・・・うぇぇ、うぇぇぇん」
ラウンド2・・・ファイッ!!
更に30分が経過した。
「タァマちゃん頑張ったよ。うん頑張ってる(俺の腰が)。これからは幸せになるんだぁ。」
「うぇぇ・・お兄ちゃぁぁぁん」
よし!お兄ちゃんパワー充・電☆!!まだまだ行けるぜぇ!!
「ぐすっ、お兄ちゃんありがとうごじゃいましゅ。」
やっと・・・やっと落ち着いたみたいだな。
よく耐え切ったぞ俺の腰!
「もう大丈夫かな?」
そう言いながらタァマちゃんから離れようとすると。
するとタァマちゃんは「あ・・・!」と言いながら俺から離れまいと抱きついてきた。
「もうちょっとこのままでいさせて・・・くれませんか?」
「もちろんだよ。気の済むまで甘えていいからねー。」
ラウンド3・・・ファイッ!!(涙)
俺の腰の戦いはまだまだ終わらないらしい。
明日腰痛の為に次の街に向かって出発できない可能性が高くなってきた。
しばらくして腰が断末魔をあげようとしていた時、俺にある妙案が浮かんだのだ。もしかしたらこういうのが天啓というのかもしれない。
タァマちゃんは抱かれていたい。俺は立ちたい。つまり抱き上げればいいのではないか?
素晴らしい案である。が、その事に気付いた頃には俺の腰は深刻なダメージを負っていた。果たしてタァマちゃんを抱き上げる時に掛かる負荷に耐えられるだろうか?
それでもこのままの状態だと先に待っているのは確実な腰痛。腰が壊れるかどうかは一か八かに賭けるしかない。ピキってなりませんように・・・俺は思い切ってタァマちゃんを抱き上げ、そのまま立ち上がってみた。
「あ、立った!ヨーヘーが立った!!」
アリア、君はどこの山娘だ。
抱き上げられた状態でもタァマちゃんは満足らしい。
それにしても・・・ふぉぉぉおおお!これはキツいぜぇ・・・。立ち上がると一気にダメージくるな!今のところは腰が死ぬということはなさそうだ。しかしちゃんと労ってあげないといけないな。
そっとアリアに近づき耳打ちする。
「(アリア、お風呂入ったらでいいから腰のマッサージして・・・お願い)」
「(うん任せておいて!だから今は頑張ってね)」
さて、街に向かってゆっくりと歩きながらタァマちゃんの今後について決めないとな。
「タァマちゃん。タァマちゃんのご両親はどこにいるの?」
「にゃ・・・お父さんもお母さんも死んじゃった・・・タァマが7歳くらいの時に怖い人達に殺されちゃった・・・タァマは捕まって奴隷にされたの。」
はい地雷踏んだーーー!
どどどどど、どうしよどうしよ!?
目線でアリアに助けを求めるが、アリアも目を泳がせている。えぇい使えない娘めっ!
「え、えっと。ごめんね?辛い事思い出させちゃったね?」
「・・・へーき」
「親戚とかもいないのかな?」
「わからないの。」
むむぅ、身寄りがないということか。
「アリア、こういう時ってどうするの?」
「えっとね、セリアル教会の孤児院とかに入れさせて貰うのが一般的かな・・・。」
孤児院か。身寄りが無いわけだしそうするしかないのかな。
「一番近い孤児院ってどこにあるの?」
「ブランダにも教会はあるけど孤児院はどうだろうなぁ?」
「そっか、とりあえず後で行ってみようか。タァマちゃんもそれでいい?」
「はい・・・」
会話を終えるとタァマちゃんが不安そうに俺の方を見つめていた。
ブランダに戻り今は冒険者ギルドに報告にきている。
「はい、お疲れ様でした。アイアンフロッグの討伐を確認致しました。こちらが報酬の2千レンスになります。」
「あと、フーダーとローラという冒険者なんですが、俺達の目の前でクロコスネークに殺されていました。クロコスネークは討伐しておきましたが、彼等は捕食されてたので遺品はありません。」
「!・・・そうですか。ご報告ありがとうございます。それと、先程ギルドカードを確認させていただきましたが、ヨーヘー様の討伐した魔物はクロコスネークではありません。クロコスネークの上位種でマーシュサーペントという魔物です。中級者向きの魔物なのですが、よく討伐できましたね。」
なるほど、星2つの依頼にしちゃ強いと思ったんだ。初心者の接近職なんて無理だろあれ。タフだったもんなー。
「パーティ:黄金の鎖のフーダー様とローラ様の死亡確認なのですが、黄金の鎖にはもう1人パーティメンバーがいたのですが、そちらの方はわかりますか?」
「もう1人のパーティメンバー?タァマちゃんのことかな?」
「いえ、タァマという名前ではありません。クソネコという名前の方です。」
「・・・・・」
「あの?」
受付のお姉さんから視線を外して未だに抱っこしているタァマちゃんに質問する。
「タァマちゃん。前の主人にはローラ以外に仲間いた?」
「タァマは知らにゃいです。」
「じゃあタァマちゃんこういうカード持ってる?」
タァマちゃんに俺のギルドカードを見せる。
「はい!持ってますよ!荷物袋の中ですけど。」
荷物袋、タァマちゃんが背負っていたやつか。あれなら回収して魔法の袋の中に入れてある。
「ちょっと失礼します。」
冒険者ギルドを出て人目に付かないところで魔法の袋から回収した荷物を取り出す。
「にゃ!?そんにゃに小っちゃにゃ袋から私の荷物がでたです!」
タァマちゃんは俺が渡した荷物袋からゴソゴソと中身をあさってギルドカードを取り出した。
「ありましたっ!」
両手で高々とギルドカードを掲げるタァマちゃん。
力一杯って感じがして微笑ましい。
えーと、なになに。
名前:クソネコ
種族:猫人
ランク:星3つ
パーティ:黄金の鎖
「・・・・」
俺は無言でタァマちゃんのギルドカードを取り上げてタァマちゃんを抱き上げ、荷物を肩にかける。
そして冒険者ギルドに再び入って受付カウンターに詰め寄った。
「名前の登録変更をお願いします!!!この子の名前はタァマです!!変更できますよね!?ていうかしろっ!!」
「ちょ、ちょっとお待ちください!登録変更は可能ですが、そちらのお嬢様がクソネコ様なのですか?」
「この子はタァマだ!クソネコなんて名前の子なんかいるわけねぇだろうが!!登録時に変だと思わなかったあんたらを疑うわ!!」
「ねぇお兄ちゃん、なんで怒ってるの?タァマよくクソネコって呼ばれてたよ?」
「タァマちゃん、クソネコのクソってねウ○コを汚い言葉で表わした言葉なんだ。つまりウンコ猫っていう意味になるんだよ。悪態をつく時にも使うけどね。まぁいい意味の言葉じゃないんだよ。」
「ウン!?それはダメです!臭いのは嫌にゃのです!お姉さん!変更を希望するのです!」
「お、落ち着いてください。登録変更できますから!変更手数料に200レンス頂く事になるのですが・・・」
「ほら!200レンス!クソネコ→タァマに登録変更を!!」
クソッあいつ死んでも迷惑掛ける奴だな!あ、俺もクソってよく使うかもしれない。今気付いたわ。
「2時間程で変更できますから、後でタァマ様のギルドカードを取りに来てください。」
「ヨーヘー1回ギルドを出よう?気持ちはわかるけど、ヨーヘーも少し落ち着いたほうがいいよ?このお姉さんにあたっても仕方のないことだし。」
そうだな。受付のお姉さんが登録したわけでもないだろうに悪い事をしてしまった。
「すいません。ちょっと取り乱しました。失礼をお詫びします。また後で来ますので、登録変更をお願いします。」
「は、はい。承りました。」
冒険者ギルドを出てギルドカードが更新されるまで時間をつぶす事にした。
「さて、何しようか?」
グゥーー・・・
タァマちゃんか?お腹を押さえて申し訳なさそうな顔をしている。
「ご飯にするか!そういえば昼食食べてなかったしな!」
「そうね。私ももうお腹ペコペコー」
アイアンフロッグは食ったには食ったが不味くて一口だけだ。
「一番近いレストランってどこだろ?」
「たぶん宿屋に戻るのが一番近いと思うよ。」
「じゃあ宿屋に戻ろうかー。」
宿屋に戻ってきて1階の食堂に入った。
「いらっしゃいませ、あらヨーヘーさんとアリアさん。今日はお早いのですね。」
「こんにちはミランダさん。仕事が終わったので遅いですけど昼食を食べに来ました。」
「そうでしたか。それでしたら空いてる席にどうぞ。」
4人掛けのテーブルが空いてたのでその席に向かった。
俺とアリアは対面に座ったが、タァマちゃんが床に座った。
「タァマちゃん。何やってるの?」
「タァマちゃん、椅子に座らないと汚れちゃうよ?」
「?タァマはここじゃにゃいのですか?」
「椅子に座ろうよ。椅子は苦手だった?」
「にゃ?ご主人様達がご飯を食べる時はタァマは床で待ってたです。」
またあいつ等か・・・しかも待ってたって、碌に食べ物貰えなかったんじゃないのか?
俺はタァマちゃんを抱き上げて俺の膝の上に乗せる。
抱っこされてちょっと嬉しそうな顔をしたタァマちゃんだった。
「食事の時は椅子に座るようにしようね。」
「タァマご飯食べられるのですか?」
「もちろんだよ。何が食べたい?」
「ニャップの切れ端・・・あ、草でも大丈夫です!」
「・・・・・」
微妙な空気の流れた所でグッドタイミングでミランダさんが注文を聞きにやってきた。
「注文はお決まりですか?」
「えっと、これとこれ。あとこれにこれ。飲み物はパショのジュースを3つお願いします。」
恐らくタァマちゃんは決められないだろうと思い結構多めに頼んでやった。
15分後、目の前にずらーっと料理が並んだ。
豆料理や野菜料理、肉料理等様々だ。
「ジュル・・・」
タァマちゃんヨダレ出てるよ。あんまりお預けするのも可哀想だな。
「じゃあ、食べようか。」
そう言ったのだがタァマちゃんは動かない。
アリアも不思議そうにタァマちゃんを見ている。
タァマちゃんは料理に手をつけない俺達をキョロキョロと見ている。
「タァマちゃん?食べないの?」
「食べてもいいのですか?」
「その為に頼んだんだもん。早く食べないと冷めちゃうわよ?」
「ホントにこれを食べてもいいのですか?」
ちょっと悲しそうな顔をしたアリアはスッと席を立ち、俺の隣の席に移動してきた。
そしてスプーンで豆料理をすくい、タァマちゃんの口に持っていく。
「さぁ、食べて。あーん。」
「いいのですか?」
「あーん。」
尋ねるように俺の顔を見てきたので、コクリと頷いてあげる。
「あ、あーん」
パクッ
「ムグムグ・・・美味しいです・・・」
「もっともっと食べていいからね!ほら、あーん。」
「あーん」
・・・あーん、いいなぁ。
アリアに食べさせて貰いながら一生懸命口を動かしている。
「食べたいのがあったら好きに食べていいんだからね。」
「そうだぞ。一杯食べないと大きくなれないからなー」
そういうとタァマちゃんは目の前の料理に手を伸ばして食べ始めた。手掴みで。
あとでマナーも教えないといけないかな。
「おいひいです!おいひいです!!」
一心不乱に食べ続ける。
俺とアリアは顔を見合わせてニコリと微笑みあい、料理に手を付け始めた。
「おいひ・・・うぇぇ・・・おいひいで・・・うぇぇぇ・・おいひ・・おいひひ・・」
泣きながら食べるとは器用な。
俺はタァマちゃんの頭を撫でて、アリアは背中を撫でている。
こんなに嬉しそうに食べてくれてなんだかこっちまで嬉しくなってしまう。
そう、例えタァマちゃんが食べ零した物が全部俺のズボンに掛かっていたとしてもだ。あちっ!タァマちゃん!スープは熱いよ!?しかもこの子猫舌だな。口の中に入れて熱かったのか吐き出してしまう。俺のズボンに。
俺の下半身は結構カオスだぜぇ。
タァマちゃんの服も凄い事になっているけどね!
アリア、俺のズボンを見て笑わないで。
タァマちゃんは笑っているアリアを見て、更に嬉しそうにご飯に手をつける。
そして更に汚れる俺のズボン。
よし決めた。この後風呂に入ろう。




