21話 看病をしよう。
頬を膨らませたアリアに見送られ部屋を出て1階へと降りる。
「あら、ヨーヘーさんおはようございます。朝食になさいますか?」
「おはようございます。ミランダさん。いえ、実はアリアが風邪をひいてしまってこれから風邪薬を買いに行くところなんですよ。」
「まぁ。アリアさんは大丈夫なんですか?」
「元気に見せようとはしてましたけど、身体はダルそうでしたね。風邪薬って道具屋で売ってます?」
「ええ、道具屋で購入できますよ。では朝食は喉を通りやすい物をお作りしておきますね。」
「なんかすいません。お願いしてもいいですか?」
「はい、構いませんよ。道具屋からお戻りになられたら、お声をお掛けください。」
「ありがとうございます。あ、そうだ、アリアが体調崩してしまったので今日も泊まりたいんですが、大丈夫ですか?」
「はい♪部屋は空いてるので1ヶ月でも連泊できますよ?」
「いや、ははは、さすがに1ヶ月は。とりあえず2泊でお願いします。」
ミランダさんに宿泊費の1,000レンスを渡して道具屋に向かった。
「すいませーん、風邪薬ってありますかー?」
店番をしている50歳くらいの眼鏡のおじさんに話しかける。
「はいよ、風邪薬は5等級まであって1等級は10万レンス、2等級は3万レンス、3等級は5千レンス、4等級が500レンス、5等級が100レンスだよ。今ウチにあるのは・・・えーっと3等級までだ。」
1等級高ぇなおい。
「等級による効果の違いってどんなのですか?」
「等級が上がるに連れて効果のある病気の数が増えるんだ。1等級なら確認されてる病気にならほとんど対応できるな。特殊な病気や治療法が見つかってない病気、未知の病気はダメだけどな。まぁ風邪くらいなら5等級で充分だ。」
ふむふむなるほど、対応する病気の数が広がるのか。それなら等級の高い薬を買っておいた方がいいだろう。大丈夫、アリアからお金は預かっているし、エスウサギの売却金で今は懐が暖かい。
「じゃあ3等級のやつください。あと品質のいい紙ってあります?」
「結構重病なのか?まぁいい、あとは紙ね、高品質の紙なら1枚50レンスのものがあるぞ。」
おじさんが出したのはハガキのような紙だった。質感がとてもいい。チーズで撮ったものを転写するのに丁度いいな。
「じゃあそれも1枚。お願いします。あとこの本も。」
勉強用に本も一緒に買っておく。「家庭料理の作り方」、「爆笑!スベらない宴会芸」、「天獣王物語」
「全部で5,450レンスだよ。」
「じゃあこれで。」
お金を店主に渡して店を後にした。
「風邪薬ってポーションみたいな感じなんだな。青い液体とか飲むの躊躇うな・・・。」
風邪薬を眺めながら宿屋に戻り、ミランダさんに声をかける。
「あら、おかえりなさい。風邪薬ありましたか?」
「ありましたよー。」
ほらと購入した風邪薬をミランダさんに見せる。
「結構いい等級の物をお買いになられたのですね。」
「3等級だそうですよ。」
普通一般家庭等で使われるのは5等級の物らしい。ちょっと重そうに見えたら4等級の薬を使うんだそうな。
3等級は色々な種類の病気に効果があって効きもいいそうだ。
品質の良い物ならいいだろうと思って買ったわけだけど、多少高価でも治らないよりはいいだろうし、アリアには早く元気になってほしいからな。
それに1つでも入手してしまえばクローンで複製していくつで用意できる。ひっひっひっ、クローン最高。
ミランダさんからアリア用の朝食と俺用の朝食を受け取って部屋に戻る。
「おかえりー」
「あれ?寝てなかったのか?」
「うん。」
「ほら、ミランダさんから朝食貰ってきたぞ。」
「ありがとー」
一緒に朝食を食べたんだが、俺まで病人食じゃなくてもよかったんだけどなぁ。
まぁ、折角だしこの世界の病人食という物を学んでおくか。
それにしても
「味薄いね・・・」
「そうだな・・・」
めちゃくちゃ薄味だった。
「病人食だからしょうがないな。頑張って食べようか。風邪薬も買ってあるから、食後に飲もうな。」
アリアにはそう言ったが自分の分には塩を入れて味を整える。うん。まぁまぁだな。
アリアが羨ましそうに見ていたが、病人なので我慢しなさい。
朝食を食べ終わってアリアに風邪薬を飲ませて、食器をミランダさんに返しておいた。
「アリア、薬も飲んだ事だし眠っておくといいよ。」
「うん。ヨーヘーどこにも行かないでね?」
「行かないよ。今日は冒険者も休業だね。ずっと看病しててあげるから、ゆっくりおやすみ。」
そう言ってアリアの頭に濡れたタオルを置いた。
「気持ちいい。」
そのままアリアは目を瞑りしばらくすると寝息を立て始めた。
「さて、俺は本でも読んでいますかね。」
自分のベッドに移動しようとすると服を引っ張られる感覚がした。
その部分を見ると、アリアが服の袖を掴んでいた。
「・・・・・・」
動けねぇ・・・。
あれ?これ微妙に俺のベッドに届かないぞ?この部屋に椅子は無い。
え?このまま立ちっぱなし?それかこの固そうな床に座れと?
ちょっと待って欲しい。1~2時間くらいならまぁ大丈夫だろう。しかしアリアが起きなかったら?
・・・10時間は覚悟した方がいいだろうか?
なんてこった・・・とりあえず最初のミッションはアリアを起こさないようにアリアのベッドに座る。だ。
なんとかアリアを起こさずにベッドに座る事に成功。そして座ってから気付いた。魔法で椅子作れば良かったと。
このままだと立ち上がる時も気を使わないといけない。トイレ等の緊急を要する時に素早く動くことが出来ないのは問題だ。
いざとなったら服を脱げば脱出できるしな。
よし、椅子を作ろうじゃないか!
「『クリエイト』」
木材を利用して俺のイメージ通りの簡単な椅子を作り、そこに座って先程買ってきた本を読む事にした。
アリアが寝てから3時間後
アリアはよく寝ている。
椅子はオフィスチェアに変化していた。左右にクルクル回しながら本を読む。
アリアが寝てから6時間後
アリアはまだ起きない。
椅子はロッキングチェアに変化していた。前後に揺らしながら俺も仮眠を取る。
「ふぁ・・?」
目が覚めた。時間は・・・アリアが寝てから11時間後くらいか。
アリアはまだ寝ているな。ホントよく寝る子だ。
う、トイレ行きたいな。ちょっと服脱いでトイレ行ってくるかな。
そう思い服を脱ごうとすると
「あれ?」
アリアは俺の手首を掴んでいた。
おぅ・・・仕方ない。手首を外してトイレに行くか。
って外せるかーーーーー!!!え!?これ、え?ど、どどどどうすんの!?この歳になって粗相とか嫌なんですけど!?
これミイ師匠のとこで初めてデモンズ料理を食べた日みたいなピンチなんじゃ!?あの時はビッグだったが今回はスモールという違いはあるけどな。
まだあの時のような切羽詰った感じじゃないけど、このままアリアが起きないとヤバイ気がする。
なるべく起こしたくないから何か策を考えなければ!
・・・尿瓶・・・作るか?
いや!待て!なんかアレは惨めな気分になりそうだから別の方法を探そう!
・自分の膀胱にイレイズ・・・これは手元が狂ったらと思うとゾッとする。
・自分の膀胱にポーズ・・・一部分の時間を長時間止めると身体に影響出そうだから駄目だな。
・自分の膀胱内の水分をスイッチ・・・何と入れ替えるんだよ。入れ替え先が大惨事だわ。
・自分の膀胱にブースト・・・噴水ができるな。
・自分の膀胱内をクリーン・・・どうなるんだろう?真水になるんだろうか?でもなんかヤダ。
くそぅ・・・これといった物がない・・・
尿瓶しか・・・ないのか?
アリアが寝てから18時間後
アリアはまだ寝ている。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
椅子はマッサージチェアになっていた。
買ってきた本も全部読み終わった。何回か読み直したので、この世界の文字も割りとスラスラ読めるようになってきた。
え?尿意?それは秘密だ。惨めな思いをしたとだけ言っておこう。この時ほどアリアが起きないようにと思った事はないだろう。
今の俺が一番願う事。それは便意がきませんようにということだ。
そういえば夕飯食べられなかったな。まぁリンゴとバナナ食べたからいいけどね。
さてどうしよう。もう一回寝るかな・・・
「うぐ・・・身体痛ぇ・・・うーーーん・・・」
リクライニングシートで寝たといってもやっぱりベッドには適わないな。身体の所々が痛い。
時計を見るとアリアが寝てから26時間が経っていた。
アリアを見る。・・・マジかよ。
どんだけ寝るのこの子ーーーー!?
お腹空かないのだろうか?トイレは平気なんだろうか?安らかに眠っているから重い病気ではないのだろうが。
まぁ顔色は良くなったな。
とりあえず、お昼まではこのままでいいか。お昼になったら起こそう。宿も今日までしか取ってないしな。
まぁもう1泊だろうな。そうなると5日目は無料って言ってたからあと2泊の方がお得かな。
アリアが寝てから28時間後
「うにゅ・・・」
起きた!アリアが起きた!!この時を待っていましたーーー!!
「おはようアリア。」
「あ、うんおはよう。・・・ずっと傍にいてくれたの?」
「まぁ一応ね。」
アリアが手を離してくれなかったんだが。
「ヨーヘー、えっとね・・・ありがとう」
凄い柔らかい笑顔でお礼を言われた。ダメだよ!その顔されたら惚れちゃうよ!!
「えっとね、すっごい久しぶりに気持ちよく眠れたよ?」
「そう?それならよかった。」
寝苦しかったとか言われたらきっと俺は深い傷を負ったであろう。
「10年ぶりくらいかなぁ?」
「・・・さっそく役に立てたのかな?」
「うん♪おかげでスッキリだよー!・・・それにね、嬉しかったよ。」
心なしかいつもより肌がツヤツヤしているように見えなくもない。
「そっか。なら良かった。体調はもう平気?」
「あー、うん。たぶん大丈夫。(でももうちょっと風邪ひいておきたかったな。)」
後半何か言ったようだったがうまく聞き取れなかった。
「まぁ一応お風呂は今日は入らずに体拭くだけにしておくといいよ。」
「そういえば汗でベトベト・・・お風呂入りたい。」
「今日は我慢ね。それじゃ部屋出てるから拭いちゃいなよ。お湯を出すからちょっと待っててね。」
魔法の袋から桶を出して魔法でお湯を満たす。
「こぼさない様にねー。」
そう言ってアリアにタオルを渡し、部屋を出て1階に行く。
「あ、ヨーヘーさん。アリアさんのお体のお加減はいかがですか?昨晩様子を伺いに行ったのですがお返事がありませんでしたので・・・」
「あぁ、たぶん2人とも寝てたんだと思います。アリアは大分調子良くなったみたいです。それで、あと2泊お願いしたいんですけど、いいですか?」
「はい。それは大丈夫ですよ。食事付きでよろしいですか?」
「はい、食事付きでお願いします。」
「そうしましたら5泊になりますので、1泊分無料に致しますね。500レンスになります。」
「あれ?食事は無料にならないのでは?600レンスの間違いじゃないですか?」
「いえ、先日はお食事を取られなかったようなので、その分差し引かせて頂いております。」
「あ、こっちの都合で食べなかったわけですから、別によかったんですが。」
「私からのサービスだと思ってください♪」
「なんかすいません。それじゃお言葉に甘えさせてもらいます。」
お金の支払いをして部屋の前に戻り、ノックをする。
「アリア。戻ったよ。入ってよかったら声かけてね。」
「あ、ヨーヘー。ちょっと中入ってきてくれる?手伝って欲しいの。」
「了解ー。」
失礼しまーすと部屋の中に入ると、上半身裸のアリアがいた。後ろ向きであったが。
「ア、ア、アアアアアリア!?」
「あのね、背中拭いて欲しいの。・・・ダメ?」
ダメなわけあるかーーーい!!
「いいの?」
ちゃんと確認はする。
「う、うん。」
アリアからタオルを受け取り背中を拭く。
「これ・・・結構恥ずかしいね。でも気持ちいい。」
俺も凄く気持ちいいです。髪を肩口から前に下ろして背中を出している姿がめちゃくちゃ色っぽいんですけど!ウエストもやっぱり細いな!そして何?この肌。傷一つなく白くてスベスベしててなんというか・・・
「凄く綺麗だ」
「え?」
Oh、つい声に出てしまったよ・・・。
アリアの耳が真っ赤だよ!俺も恥ずかしい!
「・・・えっと、ありがと。」
そうして長いような短いようなお手伝いタイムが終わった。今日まで生きてきて良かった。
はい、チーズは忘れていませんよ。バッチリ記録済みだ。
「もうお昼なわけだけど、何か食べる?」
「えっとね、みかんのかんづめ?食べたいなぁ」
ほう。あれが気に入ったのか。
「あれ凄くおいしかったんだぁ。だめ?」
「いいよ。今回はそれに桃の缶詰も付けてあげよう。」
「桃のかんづめ?みかんもかんづめ。かんづめって料理なの?」
「いや、みかんとか桃といったフルーツを長期保存する為の缶に詰めるものなんだよ。」
「あぁだから缶詰なのね。桃の缶詰っておいしいの?」
「うん美味しいよー。缶詰の中では王道中の王道だね。」
「うわぁ、楽しみー♪」
まぁその2つは後にして、お粥作ってくるよ。」
「えーっと、お粥って何?」
「お米を炊くときに水を多めにして柔らかくした食べ物。病気の時とかに食べる物かなー。」
「作るところ見ててもいい?」
「ダーメ。病み上がりなんだから休んでた方がいい。米炊くのと変わらないからさ。」
あぅ、そんな悲しそうな顔しないでよ。
「わかった。椅子用意するからそれに座ってること。あと毛布に包まっている事。」
「うん!ありがとう!」
この笑顔だ。現金な娘め。
アリアと一緒に魔法の袋(家)に入り、お粥用に米を炊く。
「これだけなんだけど・・・炊き上がったら10分くらい蒸らすだけだし。」
「え?それだけ?」
「うん・・・出来上がったら味付けにちょっと塩振っておしまい。」
「おいしいの?」
「食べやすさを重視しています。」
お粥が炊き上がるまでの時間は暇だったので、昨日買っておいたハガキみたいな紙をクローンで増やして半分に切った物にペーストでイメージを転写した。
作ったものはトランプだ。これでアリアと神経衰弱をして遊ぶ。一番ルール簡単だしな。
ババ抜きでも良かったが、なんとなくだけどアリアは弱そうだ。すぐ顔に出るし。
勝負は一進一退の攻防を繰り広げ結構盛り上がった。
遊んでいるうちにお粥が出来たのでテーブルに持って行き、ちょっと遅いお昼ご飯だ。
「「いただきます」」
「食べやすい。食べやすいけど、なんか物足りないなぁー。」
「お腹に優しいんだよ。病人だったわけだし、今日はこれね。みかんと桃の缶詰もあげるから。」
お粥を食べ終わったアリアに約束通り缶詰を出した。
お皿に分けて2人で食べる。
うーんやっぱり桃缶うまいなー。
「これが桃?これは・・・まさに王様の食べ物ね!!すっごくおいしいーーー♪」
「あまり食べ過ぎないようにね。」




