2話 最初に出会ったのは
帰り道が見つからずに内心俺は凄く焦っている。ごめん、内心だけじゃなく体全体を使って焦っている。
「うぉぉぉぉぉ!!ここどこだよ!?住宅街どこ行ったんだよ!?草原ってなんだよ!?浮かれた代償がコレってあんまりじゃね!?そして四つ目の猪っぽいやつがこっちを見ているのはなんでっ!?」
・・・・・猪!!?
体長1.5m。
四つ目の猪らしき生き物がこっちを見ている。
猪にしては足が長いし、角っぽいのも生えているから正確には違うんだろうが、俺の知っている生物で一番違いのが猪だ。
奴はとても興奮しているようだ。
あ、後ろ足で地面蹴ってる。これってあれだよね?突進的なヤツの前触れだよね?
「へいブラザー。待て、話せばわかる。ここにさっきスーパーで買った食糧がある。これで取引しようじゃないか。これを全部お前に渡そう。だから俺を襲うのはやめるんだ。OK?」
そう言って両手に持っていたスーパー袋を地面に置き、少しずつ後ずさる。
これで見逃してくれるはずだ。俺達は友達。言葉が通じなくても魂で語り合える。ヤツはこう言っていた。
「ブジュルル・・・(お腹減った)」
よしよし腹が減ってるんだな。さぁこれをお食べ。
そうだ、キミの名前はなんて言うんだい?へぇ、イノッチって言うのかー、素敵な名前だNE☆。
「ブモォォォォォォォッ!!(ゴハンーーーーー)」
あっはっはっ、イノッチ慌てるなって。無くなりゃしないよ(微笑)。
そうしてご飯に向かって突進してくるイノッチ。
そう。餌認定された俺に向かって・・・
「のぉぉぉぉおおっ!!俺かよぉぉぉおお!!?へ、ヘルプ!ヘルプミー!!」
「ブヒヒーッ!(追っかけっこー)」
イノッチとの命を懸けた追いかけっこの始まりだ!
「待ってっ!待ってイノッチ!そっちの袋の中のほうが美味しいよ!?カレーとか入ってるよ!?カレー知ってる?すっごい美味いんだぜーー!?」
当然聞いてるわけもなく。
こういう時はあれだ!異世界定番のあれだな!通常なら俺が聞く側にまわる言葉のはずなんだが、このままだと俺は食われる。助かるならなんでも頼るぜ!!
「きゃーーーーっ!!誰か助けてーーーーーっ!!!」
よしっ、ここが異世界ならこれで勇者的な誰かが助けに来てくれるはずだ!
さぁ舞台は用意したよっ!!俺を助けて!出来るだけ早くっ!可及的速やかにっ!てか今すぐに!!ナウッ!!
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誰もきませんでした。
「ちくしょうっ!勇者の野郎!サボってるんじゃねーぞぉぉぉぉ!!!」
くそっ、こうなったら・・・戦うしかないのか。
イノッチは正確には猪じゃ無さそうだが、似てるからそれ程変らんだろう。つまり猪はまっすぐしか進めないはず・・・。猪突猛進って言葉があるくらいだからな!
華麗なフットワークを使って横に避け、通り過ぎたところに一撃お見舞いしてやる!
狙う場所はキャ○タマが理想だけど、走り迫ってくる猪の後方に回り込んでゴールデンアタックを掛けるのはまず不可能だろう。
それにもしイノッチが雌だったらセクハラ・・・を通り越して完璧な痴漢だ。お巡りさんに逮捕されてしまう。逮捕ならまだいい。もし責任を取れという話になったらどうしよう。花嫁は猪娘・・・嫌過ぎる。そこまで俺の守備範囲は広くない。
てかそんなこと考えている場合じゃない。なんとか攻撃を仕掛けて追い払わなければ。
狙うのはダメージは期待出来ないかもしれないけど一番当てやすそうな脇腹だな。
やれる!お前ならできるさ!洋平!!
イノッチを充分に引きつけてタイミングを計る。
10m・・・この距離ですげーこえぇ・・・
5m・・・命の危険を感じる!!あれヤバイ!イノッチヤバイ!!
3m・・・うぉぉぉぉ!!もう耐えられん!!
2m・・・左方向に華麗なステップで避けて攻撃態勢をとる。
1m・・・軌道修正して俺の方に突進してくるイノッチ(あるぇ・・・?)
0m・・・木の葉のように華麗に舞う俺
「くそぉぉぉぉ!!超痛ぇぇぇえ!!何が猪突猛進だ!!適当なこと言いやがって!!そういうウソが後々他人を傷つけるんだよ!!」
~ 10分後 ~
「体力の・・・限界っ!!」
壮絶な追いかけっこの末、俺は岩の上にいた。
イノッチはここを登れないようだ。
あ、食材の入ったスーパーの袋は回収しました。交渉決裂したかんな!
食べさせてなんてやるもんか!
この岩に登る時に卵が3つ割れちゃったよ!ちくしょう・・・
イノッチは俺が降りてくるのを待っているようだ。
もう帰ってくれてもいいのに・・・
仕方ない、こうなったらここからは持久戦だ!
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夜になりました。
「よぉ兄弟。お家に帰らなくてもいいのかい?」
「ブヒブヒ」
「あ、向こうに何か光るものが」
「ブヒュ(ツーン)」
「・・・あのー、そろそろ勘弁してもらえませんでしょうか?」
「ブヒヒ(ニヤッ)」
ちくしょう!!
さて、夜になってわかったことがある。
ここは地球ではないということが確定した。
イノッチの存在もあったことだし、薄々は感づいていたが、夜になって確信したのだ。
月が2つあった・・・というわけじゃない。月は1つだ。だがなんか模様が地球のお月様と違うのだ。うさぎさんがいないからな。
そしてなによりデカい。スーパームーンってだけじゃ納得出来ないデカさだ。
地球の月の5倍くらいあるんじゃないかアレ。ジャンプすればタッチできそうな気さえしてくる程の圧倒的な存在感だ。
結論、ここは絶対に地球じゃない。
それに異世界定番のモンスターに襲われるイベントも発生したしな。
ゴブリン、猪、狼辺りにいきなり襲われれば十中八九異世界だろう。
今回は猪っぽい奴だったというわけだ。
でもこういう最初の戦闘って俺に隠された力に目覚めるとか、凄腕冒険者やらに助けて貰ってすぐに終わるイベントのはずなんだけどな。
すでに5時間は経過しているが未だエンカウント中というのはどうなんだろう?
俺に凄い力が無いということはさっきイノッチの弾き飛ばされた事で確認済みだ。
攻撃力が凄い事になっているかもと思って岩を殴ってみたが普通に拳が痛かったし、岩も壊れる事もなかった。
ただイノッチに弾き飛ばされて痛いで済んでいるから、もしかしたら体は頑丈なのかもしれないが、だからといってこの状況が好転するとは思えない。
はぁ・・・、もう誰でもいいから助けてくんないかな。
「あー、月光浴超気持ちいいわー」
半ば現実逃避をしつつ大きめの月を眺めながらその美しさに感嘆する。狼男さんってこんな気分なのかな?
「イノッチそう思うだろ?気持ちいいよねー。」
話し相手がいなくて寂しくなった俺は、岩の下にいるイノッチに同意を求めてみると
「ブヒュルル・・・ブヒュルル・・・」
あらら、イノッチ寝ちゃったのね。
月光が心地良くもあるし、気候も気持ちいいもんなー
うーん、よし!俺も寝ちゃおう。
「おやすみー・・・」
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朝の日差しに目をこすり、軽く伸びをする。
岩の上で寝たせいか、体が痛い。
よし!脳もバッチリ起きてきた。
さて、まずやらなくてはいけないことがある。
俺は岩に頭を撃ちつけた。
ガンッガンッガンッ
「俺っ!馬鹿っ!イノッチ寝てたっ!」
逃げる絶好のチャンスを逃してしまった。
待て、慌てるな。もしかしたらイノッチまだ寝てるかもしれない。
寝ていることを期待してイノッチを見ると。
俺の期待を裏切ってイノッチと目が合った。
「ブヒヒ(ニヤッ)」
ちくしょう・・・!
長期戦だ・・・!イノッチが諦めるのが先か、俺の食料が尽きるのが先か!
腹も減ったがスーパー袋の食材を食べてしまうわけにはいかない。
これは大切な食料だ。
昨日我が身の可愛さとあまりの重さに手放しそうになったが、よく考えたらこれを手放すと飢え死にするまでの日数が減る。
昨日の帰り道では買い過ぎたと後悔しまくっていたけど、今の状況を考えるとグッジョブと言いたい。おかげで長期戦の準備はバッチリだ!!
まだ空腹を我慢できる状態だからこれらには手を出さないでおくべきだ。
それにここは異世界。帰る手段が見つからない今、これを消費してしまうと地球の食材であるこれらは二度と手に入らないと思う。大切にそして計画的に使って後悔のないようにしたい。
だが、しかし!明日になったら食べよう。すでにお腹空いているしな!今日はなんとか大丈夫はず。たぶん。
まぁ食べようにも調理する鍋も食べる為の食器もないけどな!!
イノッチもそのうち腹を空かせて俺じゃない食料を求めるだろう。
と思いながらイノッチを見ると
ムシャムシャ
草食べてました。
イノッチの長期戦準備も万端だ!!
てか、草いけるんなら俺狙わなくていいじゃん!草の方が健康にいいと思うよ!?俺に何の恨みがあるんだってばよ!?
こうなったらまた夜に奴が寝静まったら逃げるしかない。
次は・・・寝ない!
さて、そうなると夜になるまで暇だなー。
よし、お決まりのアレやってみるか!
異世界っぽいしな!
なんか出来る気がする。
「ステータス!!」
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ヒュ~~~・・・
・・・なんだろう、すっごい恥ずかしい!
両手で顔を覆う洋平。耳まで真っ赤である。
中学の時に出もしない必殺技の練習をしている現場を人に見られた時のような気持ちを思い出してしまった。咄嗟に劇の練習をしている振りをしたが、現場を目撃したのは知り合いだったので俺が演劇部じゃないことはバレバレだ。恥の上塗りをしてしまい、体力の続く限り全力疾走したのは良い・・・良くない思い出だ。
辛い過去を思い出していると、遠くから悲鳴のような声が聞こえた気がした。
「ん?なんだ?」
恥ずかしさから立ち直り周辺を見渡す。
「気のせいか・・・?イノッチなんか聞こえた?」
あれ?イノッチどこいった?
周りを見渡してもイノッチの姿が見えない。
もしかしてこれチャンスじゃね?
「キャーーーッ!!なんでこんなところにベヒモスがっ!?」
逃げる算段をしていたら女の子の声が聞こた。
今度はハッキリと聞こえたので幻聴ではないだろう。
うん、ベヒモスって聞こえたね。異世界初心者が序盤で会っちゃいけなそうな強そうな名前だね。
できることならエンカウントしたくないけど、無視するのもなぁ。女の子の声だったし。
恐る恐る声がした方を確認すると全力疾走で逃げ惑う桃色髪の女の子がいた。足、結構速いな。
そしてその後ろを追走している大ハシャギのイノッチ。
「イヤーーーッ!助けてセリアル様ー!!」
な、なんでこんな草原に女の子がいるんだろう?
ちなみにここで助けを求めても勇者的なヤツは来ない事はすでに確認済みだ。てかここで来たらソイツぶっ飛ばすけどな!!
おっとそれどころじゃない、とにかくあの子を助けないとな!!
「へいブラザー!こっちだぜっ!!」
岩から飛び降りて大きな動きでイノッチの気を引こうとする。
かかってこいよ!って感じでファイティングポーズを決めてやった。
「ブヒヒーブヒヒー!」
俺を無視して女の子を追いかけるイノッチ。・・・こいつ。
俺はそんなにメンタル強い方じゃないんだからね!!
しかし女の子の方は俺の声に気付いたようで、方向転換して俺に向かって逃げてきているようだ。
当然、後を追い駆けてイノッチも俺に向かってくる。
突進してくる女の子とイノッチ。
・・・あ、やべ。その場の勢いで介入しちゃったけど、俺何もできねぇじゃん。
どうしようかなぁ、とりあえず岩の上に戻ろうかなぁ。
「そこの人!助けてください!!」
避難しようか考えていたら女の子に助けを求められてしまった。ていうかなぜか言葉がわかるんだろう?異世界なのにね?あの子明らかに日本人じゃないのに使っているのは日本語のように聞こえる。
おかげで意思の疎通が出来る訳だし、細かい事は気にしないで置こう。ハードモードじゃなくて良かったと思うことにする。
しかし、どうしよう。俺の実力じゃイノッチを倒せない。
あの子も逃げてるくらいだから倒せないのだろう。
そうなるともう逃げるしかないわけだ。足の速さは昨日追いかけっこしてわかったことだが、俺の方が若干速い。しかしスタミナに差がありすぎる。イノッチってば疲れ知らずなんだよ。大切な事だから覚えておいた方がいいと思うんだ。
イノッチから逃げ切るには体力のあるうちにイノッチが来れない場所に退避すること。見渡す限りの草原なこの場所では唯一と言っていいセーフティエリアである岩の上に退避するしかないわけだ。
女の子を助けるプランとしてはこうだ。
まず女の子にここまで来てもらって岩の上に上げる。
イノッチが到達するまでに俺も岩に上がる。
2人で助かる。ハッピー☆
うん、これがベストな選択だ。
しかし問題がある。それは女の子とイノッチの距離が2秒差くらいなのだ。
つまり2秒であの子を上に上げて、俺も上がらないといけない。
・・・無理じゃね?
俺はまた木の葉のように舞うことになるんじゃないだろうか?そんな未来しか見えないよ・・・。
岩から飛び降りずに女の子を引き上げる作戦にすればよかったと今更ながら後悔している。
とりあえずあの子だけでも岩の上に乗せないとな・・・!
あの子は知らないかもしれないが、イノッチに撥ねられると非常に痛い。
女の子にそんな思いはさせたくないもんな!
俺は・・・なんとか我慢する!
「キミ!岩の上に乗るんだ!そこならヤツは来れない!」
「うわーん、助けてーーー!!」
聞いちゃいねぇ・・・。
そして女の子は俺に飛び込んできた。
「ねぇぇぇっ!話聞いてたぁぁぁ!!?」
なんとか女の子を抱き止めたが、勢いが止まらずそのまま岩に向かって転がる俺達。
あ、イノッチ近い。
木の葉を覚悟しつつ身構えると下に落ちる感覚に襲われる。
「あああああぁぁぁぁぁ・・・・ぐふぉ!!」
地面と女の子のサンドイッチだー。
すっげー痛い。つか息が・・・!
上を見ると5m程落ちたようだ。
あの穴から落ちたのか・・・地面が微妙に柔らかくて助かった。
一緒に落ちた女の子が気になったので、状態を確認すると彼女は気絶していた。
てかなにこの女の子。凄い可愛い。少し幼さを残した顔立ちに色白美肌。髪は桃色。地球では桃色の髪なんて見た事なかったけど、サラサラしていてとても綺麗だ。スタイルもいいし、身長は160cmくらいだろうか?こんな綺麗な子いるんだなー。ていうかめちゃくちゃ好みのタイプだ。どストライクも良いとこだ。匂い嗅いでもいいだろうか?
女の子の容姿に目を奪われていたが、俺はイノッチに追いかけられていたことを思い出した。落ちたであろう穴から射す光が遮られた事に気付いた俺は慌てて落ちた穴を見ると
「ブヒヒ(ニヤッ)」
イノッチが顔を覗かせていた。
マジか・・・
イノッチが俺達を確認すると、こちらに降りてこようと穴に潜りこんで来る。
うぉぉぉぉおお!!くんなーーーっ!!俺になんの恨みがあるってんだーー!
そしてそのまま穴を通ってこっちに落ちて・・・こない。
どうやらお腹が穴につかえているようだ。
「・・・」
「・・・」
必至に戻ろうとするが、前足は宙をかくばかりで全然後退しない。どうなっているのかわからないが後ろ足も踏ん張れない状態なんだと思う。しばらくするとブラーンと前足を浮かせてグッタリしてしまったイノッチ。悲しそうに目をウルウルさせてこちらを見てくる。
やめろ、そんな目で見ないでくれ。
何も見なかったことにして、俺は女の子を背負って奥に続く穴を進むことにした。
「ブ、ブヒーーー!!ピギーーーーー!!!」
何も聞こえない・・・何も聞こえない!




