17話 奴隷と獣人
朝になったわけだけど、ホントに朝なんだろうか。時計は8時を指しているけど、この時計に騙されているなんてことも考えられるわけだ。なぜなら魔法の袋(家)の中にいると外が見えない。したがって8時ではあるが実際に日が昇っているのかは一切不明なのだ。あの時計に騙されているかどうか外を見ればすぐにわかることだ。さぁ運命の時だ。
・・・うん、朝でした。しかもめっちゃ晴れてました。時計さん疑ってごめんなさい。
俺は昨日、アリアが寝てから文字の勉強を眠くなるまでやってから寝たわけだけど
「スゥスゥ・・・」
この子はよく寝ますね。俺があんまり寝ないだけなのか?いや、俺だって人並みの睡眠時間のはずだ。単純にアリアが寝坊助なだけだろう。それにしても・・・
「何が夜明け前に起きるだ。爆睡中じゃねーか。」
さっき時計を疑ったのはこれが原因なのだ。アリアは夜明け前には起きると言っていたから、俺の目が覚めたときに隣でスヤスヤ寝てるアリアを見て本当に朝なのか気になったというわけなんだ。
ふむ、先に起きてしまったようだし、一応は形だけでも普通に起こす姿は見せないといけないよな。
「アリアー!!朝でっすよーーー!!おっきろーーー!!」
「スゥスゥ・・・」
デジャヴというやつだろうか?毎朝同じ事を繰り返している気がする。
この娘さんは気持ち良さそうに寝息を立てていてまったく起きる気配がない。
「ふむ、あれは俺もダメージ喰らうからやりたくないんだけど苦しいのもビックリするのも痛いのもダメとなると、他に思いつかないしやるしかないか・・・」
そう言って俺はガラス板を取り出し、左手に持つ。
右手には鉄からクリエイトしたアイアンクロー。
アイアンクローをガラス板に付ける。
キ・・・
うぅ・・・やりたくないなぁ・・・でも仕方ない!
南無三!!
キキィィィイイイイイ!!
(うわ、うわ、うわ、ああああ、これやっぱきっつぅ)
アリアはというと耳を押さえつつも起きてはいないようだ。しかし顔は苦悶も表情を浮かべている。
「くっ・・・キミが起きるまで・・・鳴らすのをやめない!!」
「キキキキィィィィキィィィキィキィキィィィィイィ!!」
「ああああ、イヤ!やめてーーーー!!」
お、起きた。よかった!!
「ヨーヘー・・・」
「おはようアリア。」
「うぅ・・おはよう」
お?今日はお叱りなしか?
「ヨーヘー・・・その音嫌じゃないの?」
「すっごい嫌だけど、アリアを起こす為に我慢してます。」
「ヨーヘーが私を起こそうと努力してくれている事はわかったよ。だから今日の夜、対策会議しよっか・・・聞いてもらいたいこともあるし・・・」
「聞いてもらいたいこと?」
「うん、私の弱い部分だからあんまり言いたくないんだけどね。」
「無理しなくてもいいよ?」
「ううん、ヨーヘーは私の友達でしょ?友達には知っておいてほしいから。」
あれ?なんか重そうな雰囲気だぞ?なんで朝起こす事でこんな雰囲気に?どうしてこうなった?
あの音に嫌な思い出でもあるのか?いい思い出になる音じゃないが・・・。
その後は起きたアリアと一緒に朝食を作って食べた。今日はスクランブルエッグとハムだ。
今日は移動しながらパン生地の二次発酵を済ませておこう。
移動中スーラからここまでずっと草原が広がっていたのだけど、前方に森が見えてきた。
アリアによると、あの森はリンゼル樹海と呼ばれる森でこの国の国土の約3分の1の広さを持つ広大な森らしい。この国の国土がどれくらいか知らないが、でかい森なんだなと認識しておこう。
その森に隣接している街がブランダらしい。
森が見えてきたので、その付近を捜してみたらおぼろげながら街っぽいのを見つけられた。
遠方に見える街に向かって街道を進み、だんだん街が大きく見えてくる。街が近いためか魔物に出くわす事もなく、お昼ちょっと過ぎにブランダの街に到着した。
スーラとの行き来が少ないからか、こちら側の門は順番待ちがなかったので、門番さんに身分証明書として冒険者のギルドカードを提示してスムーズに街中に入る事が出来た。
この街はスーラより10倍くらい規模だ。アリアがブランダは大きい街だと言っていたのもわかる。人口も5万人くらいいるらしい。
「ほー、ここがブランダかぁ。うん、思ってたより結構田舎だなっ!」
俺の隣でアリアがコケっとリアクションをして信じられないといった顔で俺を見てくる。
「い、田舎!?これが田舎!?」
いやぁ、スーラよりは大きい街だけど、日本の街と比べるとねぇ。俺が住んでたところは地方都市ではあったけど、それでも40万人弱は人口いたし、たまに遊びに行ってた東京の街を知ってるとこれくらいの街には驚かないと思う。
「ヨーヘーが住んでた所ってどんなところだったのよ・・・。」
「えっと、高さ100m・・じゃないや、1ムールの建物が建っていたり、馬車よりも早い鉄の箱が走り回っているようなとこ?首都に行けば6ムールの塔とか建ってたし、でかい鉄の塊が人を乗せて空を飛んでた。」
「はぁ!?えっ!?」
想像がつきませんといった感じのアリアに道中倒した魔物から採取しておいた魔結晶をクリエイトで水晶球に変形させて、ペーストで俺の記憶にある日本の町並みを転写したものを見せてあげる。ちなみに動画だ。すると食い入るように水晶球を見始めてしまい、俺の声が届いていないっぽい。仕方ないのでアリアは放置して改めて街中を見回してみると町並みではあまり上がらなかったテンションが、道行く人達を見て急上昇してしまった。
スーラには人族以外がドワーフのおっさんしかいなかったが、この街には人族以外の住人がウヨウヨいるのですよ。
猫耳の人やクマ耳の人、あ!うさ耳だ!!うわーっ!抱きつきてぇーー!しっぽ握りてぇーー!!獣人も色々いるんだな。同じ猫人でも人族に耳としっぽが生えたようなソフトな人から獣がそのまま2足歩行をしてるようなハードなのまでいる。なんか会話してるなぁ。あたりまえだけどしゃべれるんだなぁ。うあー、すっげーもふもふしたい!!抱きついたら逮捕されるだろうか?あっ!あれはエルフかな!!なんか耳尖ってるし!耳に触ってみたい!!どんな感触なんだろう?お願いしたら触らせてくれるかな!?
うぉっ!?あの人はなんだ!?さ、魚!?魚が2足歩行しとる!半漁人か!?陸にいるということは肺呼吸なんだろうか?これは人魚なんかもいるんだろうか!?
「アリア!ねぇアリア!!」
「・・・やっぱりこんな馬鹿みたいなとこに住んでたからヨーヘーは馬鹿なのかしら?いやでも・・・えっ?なに?呼んだ?」
なんて失礼な事を考えているんだ。日本の皆様に謝れ。まぁいい、そんなことよりもこの熱いパッションをアリアに伝えたい。
「ほら!猫耳!犬耳!ウサ耳!狐耳!熊耳!あんなにも獣耳の皆さんが!!そしてエルフが!!」
「なんでそんなに嬉しそうなの?地球って獣人とかいないんだっけ?」
「コスプレイヤーくらいしかいないな!あぁいいなぁ、1人欲しいなー。」
「欲しいって・・・奴隷でも買うつもり?」
ん?いるのか奴隷。異世界の定番とはいえこの世界も例から漏れなかったわけだ。
「いや、そういうわけじゃないけど。やっぱり獣人って奴隷なの?」
「欲しいとかいうから奴隷が欲しいのかなって思ったの。ペットじゃないんだから手に入れようとしたら奴隷しかないじゃない。それとね、これは注意しないといけないことね。あんまり獣人の前で奴隷とか言わない方がいいよ。獣人って昔は全員奴隷として扱われていた時代があったの。獣人って力は強いから言う事を聞かせられれば良い労働力として使われていたし、当時の法では人族が最上位で獣人には人権がなかったから好き勝手できる存在として使われていたのよ。でもそんな獣人にとっての暗黒時代と呼ばれてた400年くらい前かな?獣人にとっての救世主が現れたの。その人は獣人の軍団を結成して瞬く間に大陸を統一した天獣王って呼ばれた人なんだけど、今でも獣人達から絶大な人気を誇ってるのよ。大陸を統一した天獣王は、何者であっても理由無く奴隷に落とす事とは禁ずるって政令を出したの。その天獣王が大陸を統治していた時に獣人=奴隷って認識を改めさせるように尽力して、その結果獣人の地位も人族と同等になったと言われてるわ。天獣王の統一した大陸は彼が王位を退いてからいくつかの国家に分裂していって、今の国々になってるわけだけど、天獣王が頑張った甲斐もあって獣人は今でも統一された時と同じ地位を約束されているの。でも一般の人はともかく、奴隷を扱っていた人達や人族至上主義の人には獣人=奴隷という認識が今でも根強く残ってて、影で詐欺にはめたり、誘拐してきた獣人を奴隷に落として売られることがまだまだ無くならないの。人族や他の亜人の奴隷もいるけど、相対的に見て獣人の奴隷がやっぱり目立つのよ。」
「なるほど・・・そんな過去があったんだね。わかった気をつけるよ。えっと、因みに正規の奴隷ってどうやってなるもんなの?」
「正規のルートだと借金による奴隷と、犯罪奴隷かな?」
「誘拐された人が奴隷になるっていうのはどういうこと?」
「私も詳しくは知らないよ。無理矢理奴隷紋を刻まれちゃうとかじゃないのかな?」
なんということでしょう・・・・怖い世界が身近にあることに驚き、そしてビビってしまった。
その時、後ろから何かが俺にぶつかる感触がした。
「にゃっ!」
「うわっと」
バサバサバサバサ
振り返ると10歳くらいだろうか。灰色の汚れた感じの髪の少女が荷物を散らばらせて転んでいた。
簡単な作りのワンピースを着ているが所々破れていたりしてボロボロだ。
「ご、ごめんにゃさい!ごめんにゃさい!」
散らばった荷物を慌てて拾いながら謝り続ける少女。
この少女・・・ちっこいなぁ。5歳くらいだろうか?頭には猫耳が生えていてワンピースからは長い尻尾が伸びている。目の色は茶色なんだな。つまり猫人の幼女だ。ソフトなほうのな!・・・よし、抱きしめよう。
「えっと大丈夫か?」
さりげなく抱きしめようとしたらアリアに阻止されたので、諦めて散らばった荷物を拾うのを手伝いながら怪我がないか尋ねた。
「ごめんにゃさいごめんにゃさい。怒らにゃいでください。」
すっごい涙目謝ってくる。少女を泣かせてるようでなんか俺が悪い事をしているみたいだ。
「別に怒らないよ?キミこそどこか痛いとこはない?」
「怒らにゃい・・・の?あぅ・・・」
よく見ると膝から血が出ていた。
「アリア、ヒールかけてあげてくれない?」
「うん、任せて。『ヒール』」
ヒールでみるみる傷が塞がっていく。
「他に痛いところはない?」
そう聞くと傷が癒えていくのをぱちくりと見つめていた猫耳幼女は慌てて自分の身体を確認して「にゃ、大丈夫・・・です!」と答えた。
「はい、これで全部かな?」
散らばった荷物の最後の一つを猫耳幼女に渡して尋ねる。
「あ、ありがとうごじゃいましゅ。私もう行かにゃいと・・・。」
「今度は気をつけてなー。」
そう言って頭を撫でる。さりげなく猫耳に触れる事も忘れない。
「ふぁ・・・あ、ありがとうごじゃいました。お兄ちゃん。お姉ちゃん。」
ペコリペコリと何度もお辞儀をしながら少女は去っていった。
「ヨーヘー、あの子奴隷だったね。首のとこに奴隷紋が浮かんでた。」
「・・・・・・」
「ヨーヘー?」
「・・・ゃん」
「え?」
「お兄ちゃん・・・って呼ばれた」
「ヨーヘー・・・?」
「お兄ちゃんって!お兄ちゃんって!!それに「にゃ」って言ってた。猫耳に触っちゃった!!俺は今感動している!!はぁ・・・お兄ちゃん・・・かぁ」
「・・・・・・」
アリアが呆れた目でこちらを見ているが、そんなことはどうでもいい。妹欲しかったんだよなー。お兄ちゃんって呼んでもらえるの夢だったんだよなー。今それが叶ったわけだ!!ムハーーーッ!!
「ほらヨーヘー、早く荷物届けに行くよ」
興奮冷め切らぬ俺をアリアが引っ張って連れて行くのだった。




