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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
帰ってきたグロスティア編
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144話 皇女との別れ

翌朝、軽く朝食を食べた俺達は街に向かって出発していた。

森の中をしばらく進んでいると、街道に出る事が出来た。

おかしい、上空からは街道なんて見えなかったんだけどな?

不思議に思ったが、空を見てみるとその理由に納得できた。

この街道は木で覆われているのだ。これは空から見ても見つけ辛いわ。


さて、ここで問題が1つ発生してしまった。

そう、街道に出てしまったのだ。

馬車は小さくしてしまっているので目立たないだろう。

つまり何が言いたいのかというと、街道を歩いていた人達からしたら、いきなり森から災害級の魔物が現れたって状態なわけであり・・・


「ひ、ひぃぃぃぃっ!!」


こんな風に恐慌状態になっていらっしゃるわけで・・・


「ベ、ベヒモスだぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


なんか大事になってしまいそうである。


「イノッチバーーーーック!!」


慌てて森に隠れるようにイノッチに指示を出し、これ以上騒ぎが大きくなる前に森の中へ身を隠した。

街道から100m程離れたが、さっきの人達が追いかけてくる事はなかった。

まぁ、普通は追いかけてきませんよね。山道歩いてたらいきなりTレックスが出てきた。幸運にも襲われず、森に帰っていくTレックスを追いかけるかという話だ。普通ならまず追いかけないだろう。

この世界の人にとってヘヒモスのような災害級ってのは恐怖の象徴になるらしいから、追ってくるようなことはしないんだろうな。

イノッチはヤンチャで結構可愛い奴なんだけどなぁ。

つーか、こういう反応されると、イノッチを連れて街に入るのって諦めた方がいいのだろうか?でも好奇心旺盛なイノッチのことだ。その内街に入りたいって言うかもしれない。今後の為に何か対策考えないといけないな。

とりあえず今はイノッチを野に解き放ち、俺達は徒歩で街に向かうのがいいだろう。


何食わぬ顔で街道に出ると、さっきの騒ぎが嘘だったかのように街道は静まり返っていた。

ていうか誰もいない。

さっきもこんな状態なら騒ぎにならなかったのになーっと思いつつ街道を進むと、街の入り口が見えてきたところで、門番と思われる兵士がこちらに凄い勢いで走ってきた。

うん、あの服装は見覚えがある。ゴルスタの兵士だな。

ネリルを見ると少し安心した表情になっていた。やっぱり少しは不安もあったのだろう。


「皆、世話になったな。短い間であったが、充実した楽しい旅であった。」


「これでお別れじゃないよね?また会えるよね?」


「当然だ。妾達はもう友人であろう?しかし困ったな・・・これから連絡を取ろうにもお主達は旅の身。文を届けるにしてもどこに宛てて出せばいいのかわからぬ。こればかりは仕方ないか・・・。それとガオウ様・・・その、これを貰っては頂けませぬか?」


「ん?おう!何をくれるんだ?」


ネリルは自分の耳に付けたイヤリングを外すとガオーに手渡した。


「高そうだがいいんか?」


「はい、憧れの天獣王であらされるガオウ様との繋がりを残しておきたいのです。」


「がっはっはっ、なんか照れるな!よしっ、んじゃあ俺様からもこれをくれてやろう。」


ガオーは自分の鬣をムンズと掴むと、勢いよくその鬣をむしり取った。


「ぐおっ!かーっ痛ってー。ほらよ。」


い、いらねぇ・・・。そんなん貰って誰が喜ぶんだよ。兄貴やルコーもそうだったけど、獣人には自分の身体の一部を贈る習慣があるのか?


「よ、よろしいのですか!?嬉しいですっ!一生の宝物にします!」


あっるぇ・・・?心底喜んでいるように見える。いるか?アレ・・・。この子はよくわからんなぁ。


「そこの者ーっ!」


すると声を張り上げた兵士が近くまで来ていて俺達に呼びかけていた。


「迎えがきたようだ。ヨーヘー達は街に立ち寄るのか?」


「いや、一緒に行くと面倒がありそうだからこのまま行くよ。なんとか誤魔化しておいてくれる?」


「そうか・・・、名残惜しいがまたの再会を心より願う。」


「うんっ!ネリルちゃんも気を付けてね?立場的に戦場に行かないといけないだろうけど、無理はしないでね?」


「うむ、そう簡単には死なぬよ。世話になったな。」


各々が挨拶を終えたところで兵士がやってくる。


「はぁはぁっ!」


「出迎え大義であった。」


「はぁはぁっ、出迎えって・・・。あんたらここにいたら危ないぞっ!さっきベヒモスが目撃されたんだ!まだ子供のようであったという報告だが、それでも脅威には違いない。早く街に避難してくれっ!」


「・・・・・・」


ネリルの出迎えじゃありませんでした。そうだよね、ベヒモスをスルー出来るわけないもんね。イノッチどうしよう、結構大事になってるよ。




俺達は兵士に促されて街の中まで移動する。

別れの挨拶とかしてたのにまだ一緒に行動するとか気まずいったらありゃしない。ネリルなんて顔が紅潮させて俯いている。なんて声掛けたらいいかわからないよ。とりあえずなんかフォローしておくか。


「出迎え大義であった。」


「・・・っ!!意地悪だっ!ヨーヘーは意地悪だっ!!掘り返さなくてもいいではないかっ!」


ふむ、どうやらジョークを利かせたフォローは失敗に終わってしまったようだ。元々赤かった顔を更に赤くして抗議してくる。

いや、俺達もどうしよっかなーって思っているのだ。街に入るのはいいんだが、今ネリルの正体がバレるとなんで一緒にいるのだという話になってしまう。

皇女と一緒にいるには不釣り合いな俺達なので、色々と取り調べされてしまうだろう。

その内に皇女誘拐の話が伝わって、ネリルの弁護も空しく投獄されてしまう可能性だってかなりあるのだ。

というわけで、事が露見する前にとんずらかましたいところだな。幸いこの街の兵士はネリルが皇女だってことにまだ気付いていない。

今のうちにこの街の名前と周辺の地理について調べておいた方がいいだろう。

そうと決まれば、最近すっかりご無沙汰だった冒険者ギルドを利用することにしよう。

今回は情報を貰うだけだ。依頼は受けない。


ネリルと伴ったまま冒険者ギルドに立ち寄ると、中には冒険者が結構いた。

受付は2つあるが、美人な受付嬢の方が人気があり、行列が出来ており、いい笑顔をしながらハキハキと仕事をしていた。

もう一人の受付嬢はなんか影があり、暗い感じだ。

こちらには人が並んでいなかった。

俺は情報を貰うだけならどちらでもいいと考え、美人の受付嬢の列に並ぼうとしたところでアリアに肘鉄を頂いたので、暇そうにしていた暗い受付嬢の前に移動した。


「あ・・・冒険者ギルドへようこそ。・・・私なんて相手にしてないであっちの列に並べばいいと思います。」


受付嬢はとてもやさぐれていた。この状況を見れば気持ちはわからないでもないが仕事はしてほしい。

たしかに美人ではないが不細工でもない。しかし、暗い影を落としているのでかなり近付き難い雰囲気になってしまっている。

せめて笑顔を浮かべていれば半分とは行かなくても2割くらいはこっちに来てくれると思うんだけどな。

しかしこればっかりは俺達ではどうにもならないので、問題にならないうちにここのギルドが動いてくれる事を願おうか。


「いや、貴方に受付してほしいんですよ。といっても情報が欲しいだけなんですけどね。」


俺の言葉を聞くと、パァッと花が咲いたような笑顔を見せる普通の受付嬢。


「あっ!はいっ!えっと、ようこそ冒険者ギルド、カチュリア支部へっ!本日はどのようなご用件でしょうかっ!」


急に態度が明るくなったな。やれば出来るじゃないか。そうか、ここはカチュリアという街なのか。


「この辺りの周辺地域について聞きたいんですけど。」


「はいっ!周辺地域ですと、西に向かえばシャラーダ、北に向かうとゲイティブ、東に向かうとハルバーレ、ハルバーレより東は小国群となりますね。南はガルーダル山脈でして、この周辺は魔物の間引きが上手くいっていないので、魔物の数も多いですし、強い個体がいると報告されています。」


「ありがとう。ちょっと周辺の探索をしてみます。それと、カチュリアで美味しい料理を出すお店ってありますか?」


「美味しい料理ですか・・・、それでしたら【豚の餌】というお店で出すグラスピッグのバーニが評判でして、美味しいと思います。」


すげぇ名前の店が出てきたな。どんな考えで付けたのか店主に聞いてみたいわ。

グラスピッグということは豚だよな。豚の焼き肉ってことかな?

早めにこの街を出た方がいいかもしれないが、その前に腹ごしらえを目的に行ってみようかね。

朝食からあまり時間が経っている訳じゃないが、軽い朝食だったから皆も食べられるだろう。というよりどんな料理か食べてみたい。


「ありがとうございます。参考になりました。」


「こちらこそっ!あなたの旅に幸運が訪れる事をお祈りしますっ!」


俺がその場をさると、美人の受付嬢に並んでいた冒険者達が普通の受付嬢の前に数人移動したのが見えた。良かった良かった。笑顔を忘れずにね。

冒険者ギルドを後にした俺達は、受付嬢に教えてもらった食堂に足を運んだ。




「【豚の餌】・・・ここか。」


客の入りは結構席が埋まっている。昼食時から外れているというのになかなかの人気店のようだ。

店内に入ると給仕をしていた女の子が俺達に気付く。


「いらっしゃいませブヒッ!7名様で宜しいでブヒ?」


「・・・・・・」


ここは・・・なんの店なんだろうか?

あれか、メイド喫茶みたいなもんか?それにしたって豚をコンセプトにチョイスするなんて個性的過ぎるだろ。

ちなみに給仕の子は豚の獣人じゃない。人族の女の子が豚耳と尻尾を付けている。ここは所謂コスプレというやつなのだろうか?

ていうかここはどういう反応をするのが正解なんだ?「人間様の言葉をしゃべるなこのメス豚がぁぁぁ」とか罵ればいいんだろうか?いや待て、これが間違いだった場合、俺はとんでもない大火傷をすることになるだろう。

ここは慎重に事を進めるのが正解のはずだ。


「7匹でブヒィィィィッ!!この汚らわしい豚達に飼料を与えて欲しいピギィィィィッ!!」


はい、俺の類稀なる洞察力と思考力で導き出した応対方法で応じた結果、大火傷を負いました。

全員(客を含む:タァマちゃん以外)から冷めた目で見られました。

タァマちゃんだけは俺の真似をして「ブヒにゃあっ!ブヒにゃあっ!」と喜んでいた。

絶対零度の空気の中で唯一春の暖かな日ざしを感じられる存在だった。


「・・・こ、個性的なお客様ブヒ。あ、席はあっちブヒ。」


なんとか流してもらえた。というより不測の事態だったろうにキャラを維持する給仕さんのプロ意識の高さに感銘した。

給仕さんに案内されて俺達は空いてる席に移動する。俺はなぜか視界が滲んで前が見えなかったので、アリアに手を引いて連れてってもらった。


「もうっ、馬鹿なことしないでよね!変な人だって思われるじゃない。」


「ごめんなさいブヒ。」


「な、何?それ気に入ったの?」


「そういう訳ではないブヒ。ただ俺みたいな豚野郎には人間様の言葉をしゃべるのもおこがましいと考えたのでブヒ。」


「いいからそれはやめなさい。」


「はい。」


「プクククク・・・も、もう我慢できないっ!あーっはっはっはっ!ブヒって!ブヒって!!ヨーヘーは突拍子もない行動をするというのは本当だったのだな。あはははははっ!!」


俺がアリアに怒られていると肩を震わせていたネリルが突然笑い出した。


「ククククッ、妾もやってみるか。こんな感じブ・・・クハッ、ダメだっ!どうしても笑ってしまう。」


「ほらぁ!ネリルちゃんに変な影響与えちゃったじゃない!ネリルちゃん、ヨーヘーの真似はしないほうがいいよ!馬鹿が移っちゃうっ!」


酷い言われ様である。

そんなことをしている内に豚さん給仕が料理を持ってきた。「どうぞブヒー」とか言いながら俺以外の皆に配膳していく。

最後に俺の料理を渡す際に、給仕さんは俺の顔を見ると、何かを決意した表情を浮かべこう言い放った。


「この汚らしい豚野郎っ!お前なんかが使う食器はない!この皿に顔を突っ込んで家畜の様に貪るがいいっ!」


「・・・・・・」


賑わっていた店内がシンと静まり返る。なんとも言えない微妙な空気が店内に漂ってしまった。


「あ、あのー・・・私間違ってましたブヒ?」


俺達の反応や、店内の反応に戸惑いの色を浮かべた給仕さんが恐る恐る俺を覗き込むように訪ねてきた。

この子は俺がこういう性癖だと思って善意でやってくれたのだろう。ここでこの子に恥をかかせるのは男のすることだろうか?否!断じて否!どうせ俺はすぐにこの街をさる身だ。こういうのは俺のキャラではないが、旅の恥は掻き捨て、喜んで道化となろうじゃないかっ!


「ありがとうございまブヒィィィ!ハグッハグッ!美味ひぃ、美味ひぃでブヒィィィィ!」


グラスピッグのバーニは美味しかったが、ほのかに塩味が強い気がした。


これはあとで聞いた話なんだが、この店は一部の客が罵ら・・・特別対応を目的に足を運ぶようになったらしい。そしてあの給仕さんは、特別対応客が来ると普段より活き活きするという噂を聞いた。俺のせいじゃないと思いたい。


「いや、楽しい時間だった。笑い死ぬかと思ったぞ。・・・さて、名残惜しいがそろそろ戻らぬと騒ぎが大きくなりそうだな。」


「さっきのは忘れてほしい。絶対に忘れてほしい。あれは俺じゃない、俺じゃないんだ・・・。」


「無理だな。強烈過ぎるであろう。では今度こそここでお別れだ。お主達なら余程の事が無い限り大丈夫だと思うが、道中気を付けろよ。」


「またねー」


「元気でな!」


「お体にはお気をつけて。」


俺達の言葉に微笑んだネリルは兵士のいる詰所に向かって歩いて行った。

無事に詰所の中に入るのを確認した俺達は、街を出る為に歩み始めた。

今週は健康に過ごせました。


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