143話 昔話
膝から崩れ落ちた俺は1人置いて行かれた事に少なくないショックを受けていた。
「・・・ちゃーん」
そんな時、タァマちゃんの声が聞こえた気がした。ショックのあまり幻聴でも聞こえているのだろうか?
「お兄ちゃーん、こっちですー!」
いや、これは幻聴じゃない!マイエンジェルの声だっ!
声のする方を見てみると、イノッチが小川で遊んでいる姿が目に入った。
うぅっ、信じてたっ、信じてたよイノッチ!俺の早とちりだったんだね!
皆と無事に合流し、街があったことを報告すると、向かってみようという話になったので、イノッチに進路を街に向けてもらうようにお願いした。
あれくらいの距離ならイノッチの足で1時間もあれば着くだろうが、それは木々を薙ぎ倒して進んだ場合だ。
なるべく環境破壊はしないように言い聞かせたので、イノッチのテンションが上がらない限りは障害物は迂回してくれると信じている。とは言ってもここは森の中で街道なんてありゃしない。
普通の馬なら馬車を引きながらだと3mも進むことはできないだろう。
いくらイノッチといっても、馬車を引いている限り環境破壊は避けて通れない。
ではどうしたのかというと、馬車をミニマムで小さくしました。そんでもってイノッチの背中にくっつけてあります。
物ぐさしないで歩けよと言いたいのはわかる。本来なら俺達もそうしただろう。しかーし!しかしな!度重なるテレポートのおかげでもう動きたくなかったんですよ。ちょっとくらい甘えてもいいじゃないですか。
そんな訳で、現在イノッチで移動中。このペースなら到着まで4~5時間ってところかな?迷わなければなっ!!
しかし、予想に反して日が沈みそうになっても街に着く事は出来なかった。街の位置を確認したところ、あと10kmくらいありそうだった。どうやらプチ迷ったらしい。
あと数分で日は沈み、辺りは真っ暗になるだろう。
無理してこのまま進んでもいいのだが、街に入れるかどうかわからないので、ここはこの場で夜を明かして、日が昇ったら街に行った方が良いと判断した。
「なっ!?これは・・・」
はい、現在マジカルハウスの中にいます。ネリルを中に入れてみた時の反応です。もっと驚くがいい。俺の自慢のマジカルハウスになっ!
「先程の馬車も驚いたが、この部屋もまた凄いな・・・。ガオウ様達に出会ってから妾は驚いてばかりだ・・・。」
「ネリルちゃん!この家のお風呂は凄いんだよ。一緒に入らない?」
「なんとっ、風呂まであるというのか・・・。王宮にいた時にしか入れなかったから風呂があるのならば嬉しいが、本当にあるのか?」
「ヨーヘーが作った自慢のお風呂なの!見た方が早いって、ほら行きましょ!」
アリアとトリスがネリルを風呂に連れて行ってしまった。タァマちゃんも一緒に行ったみたいだな。
しばらくすると風呂場から楽しげな声が聞こえてきた。ふむ、俺も汗流したくなっちゃったなぁ。風呂にでも入るかなー。
って行ける訳が無い。
アリアやトリスとならまぁいいとしても、今入っているのはお客さんであるネリルだ。しかも皇女様。
そんな人物が入浴している風呂に突撃していったら・・・。
いくら俺でもどうなるかくらい予想できるさ。痛い未来がウェルカムしてること間違いなしだ。
夕飯を作っていてもよかったのだが、一人で作るとアリアが不機嫌になるので、下準備だけしてガオーと神経衰弱をして遊んでいた。
しばらくすると脱衣所からネリルの声が聞こえてきた。
「んんっ!?何だこれはっ!!」
ふっ、ここで昔の俺ならば「何かあったのか!?」と言いながら脱衣所に飛び込んで行っただろう。
しかし俺は学習する男。
以前アリアに似たようなことをやらかした時は酷い目にあった。
これはあれだろう、アリアあたりがレクチャーした風呂上りの作法でフルーツ牛乳を飲んで驚いたとかそんなところだろう。
案の定、数秒待ってみると、「こんな物は初めて飲んだ。これはうまいなっ」って声が聞こえてきたので、俺の予想は正しかったわけだ。
そんなトラップに引っ掛かる俺じゃないんだよ。
「なぁヨーヘー、もう抑えている手を離しても大丈夫か?とにかく座れや。今風呂場に行っても後悔するだけだぜ。」
ば、馬鹿なっ!頭では理解しているつもりだったのに、体が脱衣所に向かおうとしていただとっ!?知らず知らずの内にトラップに嵌りかけていたというのかっ!!くっ、恐ろしい罠だぜ・・・。
「ヨーヘー!お主の作った風呂は見事の一言に尽きるな!我が城にも造って欲しいものだ!それにあの『こーひーぎゅーにゅー』というのは絶品だな!火照った身体に染み渡っていくのを感じたぞ!」
出て来るなり興奮気味のネリルに褒めちぎられる。
そしてコーヒー牛乳だった。フルーツ牛乳だと思ったんだけどなぁ。
それにしてもあの凛々しいネリルはどこに行ってしまったのだろうか?もしかしたらこっちが素のネリルなのかもしれない。
凛々しい姿もいいが、こういった感情を表してくれる姿の方が好感が持てる。
それにしても風呂で俺に対する苦手意識も洗い流してきてしまったのだろうか?かなり態度が柔らかくなった気がする。
まぁその方が気を使わなくて済むから助かるんだけどさ。
さて、皆も風呂から出たし、夕食を作るとしますか。
昼がハンバーグだったので、夕飯はタァマちゃんの希望通りカレーにしてあげた。
昼食の時にハンバーグカレーという単語をタァマちゃんに教えてしまったが為に、ハンバーグも作ることになりましたけどね。
カレーになると大体のメンバーは摂取量が1.5倍になるからちょっと多めに作ることにしている。
案の定カレーはすぐに空っぽになってしまった。ネリルって結構食べるんだね。
皇族だからもうちょっと少食なのかと思ってたよ。周りが皆お替りするから釣られたってものあるんだろうけど。
さて、後片付けも終わったし、俺も風呂に入ろうかね。
ガオーとマグロに一緒に入るか聞いてみたら、ガオーはネリルと話をするらしいので断られ、マグロは広くなった養殖場もとい、海の部屋で泳ぎまくったので風呂はいいとのこと。
ふっ、1人風呂か・・・。べ、別に寂しくなんてないんだからねっ!あのお風呂を独り占め出来るなんて超ラッキー!よーし、今日は泳いじゃうぞー!
脱衣所で服を脱ぐがなぜか視界が滲んでよく見えない。
目元を拭って風呂に向かおうとしたら、俺の横に白い気配を感じた。良く見てみるとそこには・・・
「お兄ちゃん!早く入るですっ!タァマが背中ゴシゴシするますっ! 」
お兄ちゃんの為にもう一回入ってくれるのかい?
「タァマちゃぁぁぁぁぁん!愛してるぅぅぅぅっ!!」
「にゃぁっ!」
幸せ気分で風呂からあがると、オズオズといった感じでネリルが話しかけてきた。
「ヨーヘーに聞きたい事があるのだが・・・聖女様に会ったことがあるというのは本当か?」
「え?」
「ガオウ様から旅の話を聞いてな。ヨーヘーは千年前に飛ばされたらしいではないか。なんというか・・・災難だったな。」
災難だったとかそういうレベルじゃないと思うんだが・・・。俺だから無事に戻ってこれたわけで、他の人なら災難だったじゃ済まない話ですよ?にしてもあの野郎・・・何しゃべっちゃってくれてんだ。一応ネリルは国家機関に属してる人間なんだぞ。変に目を付けられたらどうするんだ。後で注意しておこう。
・・・まぁこの人千年生きてます。実はあの有名なヨウフェなんですって紹介されたとしても、頭おかしいとしか見られないだろうが。
ネリルも半信半疑だったから俺に確認してきたんだろうしな。
本来なら嘘だと一蹴してしまうところだが、ガオーという400年前の存在がいることで、ひょっとしたらと思ったのだろう。
それにしてもガオーはよく自分が天獣王だって信じて貰えたな。いったいどんな説明をしたんだろうか。
まぁ言っちゃったのは仕方ない。
「うん、会ったことあるよ。一緒に旅もしてたしね。」
「おぉっ、ということは、ヨウフェとはヨーヘーの事というのは本当の事なのだな!ひ、一つ聞いてもいいだろうか?聖女様はセリアル様はどんな御方だったのだろうか?」
「性悪」
「は?」
ブルッ
「い、いやっ!とても素敵な女性だったよ!優しくて美しくて誰からも好かれる女性の鏡のような人だったなぁ!」
なぜだろう?今背筋がゾクッとした。時を越えて俺を威圧するというのか・・・恐ろしい女め。
「なるほど、やはりそうであるか。さすが聖女と呼ばれる女性だな。仕えていた従者が言うのだから信憑性もあるというものだ。」
ごめんなさい、さっきの評価は不当なものです。信憑性もあったもんじゃありません。我が身可愛さに嘘を付きました。
まぁ今更バレるようなもんでもないし、信者には夢を見ていてもらったほうがいいだろう。
外面は良かったから俺やユリアちゃん等の子供達が暴露しない限り、奴の本性が漏れる事はないだろう。子供達が口を滑らせた可能性もあるだろうが、その事が記録に残っていたとしても教会では禁書として扱われているんだろうな。
そうだ、出来る事ならネリルには口止めをお願いしておこう。
信じる人は少ないかもしれないけど、率先して広めたい話でもないし、変なところから目を付けられたくないからな。
「あ、あのさ、俺がヨウフェだって事は出来れば伏せておいて欲しいかなーって。」
「ん?あぁ、他言はせぬよ。妾もガオウ様の話だから耳を傾けたのであって、普通なら鼻で笑う話であるしな。家臣に乱心されたと思われるのが目に見えている。」
「ありがとう!ネリルって話のわかるやつなんだな!」
「ふふっ、その代わりセリアル様の話やガオウ様・・・天獣王の話を色々聞かせて欲しい。」
そう来たか・・・ふっ、いいだろう。史実には記されていない裏話や、本当はどんな感じだったかを(セリアの本性には触れずに)細かく語ってやろうではないか!
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・
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「おぉっ!そんな事実がっ!実際に本には載っていない事もあり実に面白い!そしてあの話にそんな裏話があったとは・・・」
「物語になってる話なんてかなり美化されたものなんだよ。だってあのセリアが・・・いや、なんでもない。えっと、どうちょっと幻滅した?」
「いやいや、人間味があり、より身近にセリアル様や天獣王四天王を感じる事が出来た。とても楽しい話であったよ。」
「喜んで貰えたならなによりだ。」
「それにしてもあの山の頂上にルコー様が眠っておられるのは知らなかった。ヨーヘーの話を聞いてしまった後だと見る目が変わってしまうかもしれないが、機会があれば訪れてみたいものだな。」
「行ってもあんまり面白いもんじゃないと思うけどね。」
「何を言う、古代の英雄の姿がそのまま残っているのだろう?是非ともお目にかかりたいではないか。」
そういうもんかね。それならばルコーよりも兄貴の方がいいと思うんだけど。
「ていうか、ネリルってそんなに天獣王関係の話が好きなのに魔族領に戦争吹っかけてるのか?あそこには四天王のヴァンく・・・ヴォンヴァンカンがいるはずなんだけど、彼に剣向けちゃう事に抵抗はないの?」
「むっ、嫌な事を聞くな・・・。戦争は帝国の為になると信じてやっている。しかし本音を言えば魔族とは戦いたくはない。ヨーヘーの言った通り、彼の領域にはヴォンヴァンカン様を始め、英雄の方々が多く在籍しているのでな。でもこれは陛下の意思でもあるのだ。兄上も賛成しておられるし、妾如きが異を唱えるなど出来るはずもない。そこは割り切らんとな・・・。」
「そっか、変な事聞いてごめんな。」
「気にするな。ヴォンヴァンカン様に剣は向けたくないというのは妾の本音だが、手合わせしてみたいというのも妾の本心でもあるのだ。強そうな者と手合わせしたくなるのは妾の悪い癖だな。ヨーヘーにもその癖を出してしまったな。障壁は破れぬし、攻撃はどんどん手に負えなくなるし、かなり後悔したものだ。」
「その節は申し訳ありませんでした。でもさ、ネリルの攻撃がどんどん洗練されていって、その内バリアが破られそうな気がして結構ヒヤヒヤしてたんだぞ。破られる前に攻勢に打って出ただけなんだよね。」
「そうかっ!実は何度も攻撃している内に何か掴めそうな気はしていたのだ。あの感覚を忘れぬうちに修練しておきたいものだ。」
向上心があって眩しいです。しかしネリルって戦闘狂なんだろうか?脳筋ってわけではないのだろうが、自分の力を試したくてウズウズしちゃうタイプなのかもしれないな。
「・・・はっ、そうか!妾はあのヨウフェと手合わせしたということになるのか!これは自慢になるな。しかしこれは誰かに言える話ではないな・・・むぅ。」
そんなこと自慢になんてならないので、下手な事言わないでねー。聖女物語ではヨウフェなんてオマケなんですよ、オマケ。
「ところで、ヨーヘーが今まで戦った中で一番怖いと思ったのは誰なのだ?」
え・・・、一番怖い相手?んー、誰だろう?
戦って厄介だったって意味だよな。アリアやセリアは怖いのベクトルが違うから除外するとして・・・
ヴァンパイアのウラドも厄介だったけど・・・やっぱ1番はあいつかな?
「ローリー・・・四天王のデスフィストだね・・・。あいつさ、俺のバリアをワンパンでぶっ壊すんだよ。それも何層にも張った奴を紙同然にだよ?最初の頃はこっちの障壁が効かなくても攻撃魔法や妨害魔法で迎撃出来てたからまだよかったんだけど、成長するにつれて魔法耐性が高くなって、魔法の効果も薄くなっていったんだよな。接近戦は分が悪いから、よく空に逃げたんだけど、投石がスゲー正確に飛んできて休まる事ができないのよ。まぁ身内だったから殺し合いにはならなかったけど、あいつ止めるのは骨が折れるかなぁ。」
「ほぉ、デスフィスト様か!それ程の武人であったのだな!」
「そうさ、ガオーだって何度あいつにぶちのめされたか数え切れないからな。相性悪すぎて勝った事ないんじゃないかな?」
「ガオウ様まで・・・というか王に手を出しても許されるのか?」
「側近は皆ガオーに対して容赦なかったよ?それにあいつは敬うってタイプの王様じゃなかったしな。話してみてちょっとはわかったっしょ?」
「たしかに・・・あんなに気さくな御方だとは思わなかった。」
「そんな奴だから皆が付いていったっていうのもあるんだろうけどね。」
「ふむ!やはりガオウ様は素晴らしい御方であるのだな。」
その後もネリルと他愛の無い会話を楽しみながら夜が更けていくのであった。
作者今週は蕁麻疹に苦しみました。
夜は眠れないくらい痒くかったからコンビニで氷を買ってきて、氷を抱いて寝てみました。冷やすと痒みが弱まるんですね。血行が良くなると悪化すると聞いたので間違っていない処方だったのだと考えています。
起きた時に心音がスゲー遅かったのにビビりましたけど・・・。
蕁麻疹の原因って色々あるんですね。
食物摂取によるアレルギーが主な原因だと思ってたんですけど、医者に行ったら疲労やストレス、気温や環境の変化でも蕁麻疹は出るという話でした。
心当たりは・・・あります。
3連休3ライブに行った事による気温の変化と疲労によるものじゃないかと自己診断しております。
あまり無理はしないようにしよう・・・




