101話 ザクレン
「ここがザクレンか・・・」
さすが元王都だけあって規模がでかい。
街に入って一番最初に目に入るのはあのでかい城だろう。街の建物は大体が3~4階建ての物が多い。しかしあの城はそれらの3倍くらいある。6つの尖塔に囲まれた城だ。シ○デレラ城よりも大きい城なんて初めて見たよ。あの城みたいに煌びやかなものじゃないけどね。華やかさよりも威圧感を感じるデザインだな。要塞とかの雰囲気とも違うし、なんというか威厳を感じる。
街の入り口に広場があるのは街に入った者にまずあの城を見せつけるという意味もあるのかもしれない。街並みはブランダに似ていて石造りの建物が多いな。地面もしっかり石畳で舗装されているが、手入れをする人がいないのか所々に草が生えていたりしてかなり荒れている。なんというか凄く静かだ。人が住んでいるという気配は感じない。町並みから想像するに滅びる前はさぞや賑やかだったんだろうなぁ。
こんな立派な街でも滅びるんだな。
そんなわけで、ザクレンに着いちゃいました。
あの後暴走馬車はノンストップで5時間走り続けた。
時間的には順調な旅だった。ザクレンに着いた後、ほんのちょっと休憩(2時間)して、皆を馬車の外に降ろしてから馬車は魔法の袋に収納した。
馬車を外したイノッチは、その辺を走り回ってそのまま遊びに行ってしまった。なんてタフな子なんだ。その体力が羨ましいぜ。
迷うこと無くザクレンに着いたというのに膝がガクガクしててうまく立てない。皆も大分疲れているようだ。動けるのは俺だけみたいだしな。マグロに至っては動きすらしない。
それはそうだろう。考えても見て欲しい。5時間ジェットコースターに乗り続けるという苦しさを・・・
最初のうちは最高速で一直線に走っていたが、しばらくするとそれに飽きたのか、右に左にと必要ない旋回を始めたのだ。次第にドリフト走行をマスターしてしまい、それはもう酷い目にあった。馬車がオリハルコン製じゃなかったら一瞬で大破していただろうな。途中強度が心配になって何度か車輪や車軸等にリバースを掛けたから壊れずに済んだのだろう。
しかし馬車に乗っている俺達はたまったもんじゃない。揺れに耐えられなくなってフライで馬車を浮かせてみたところ、軽くなった馬車に何を思ったのかイノッチが飛んだ。
横揺れに加え、アップダウンまで加わった馬車に俺達の絶叫は鳴り止まなかった。タァマちゃんだって最初は笑っていたけど、急に大人しくなって怖いくらいに静かだった。そんなわけで皆グロッキーなのだ。
皆が動けるようになったのは、それから更に1時間経ってからの事だった。
「討伐隊ってどこにいるんだろ?」
「聞いた話ですと討伐隊の陣地は城の正面広場にあるはずですよ。」
背伸びをして討伐隊を探そうと遠くの方を見ていたら、トリスが討伐隊の居場所を教えてくれた。
「そんなことよりどうですした?さっき馬車で移動中に私に抱きついてましたけど、柔らかかったですか?」
「うん、柔らかかったよー(二の腕が)。そもそも討伐隊ってどんな人達なの?」
「む、まぁいいです。憤怒の魔法師の討伐隊とは、旧コルベールに隣接していたロイト王国とグレイグ王国の国軍がメインとなります。その下に傭兵や冒険者や魔法師から志願した者の集まりが編成された傭兵隊がいるんです。現在の総司令官はロイト王国の貴族だったはずですね。王国軍至上主義で傭兵隊の扱いが悪いとの噂ですが、突撃ばかりを繰り返す前司令官よりはマシだとは聞きますね。」
兵隊はまぁいいとして、それでよく傭兵からの不満が出ないものだ。いや、トリスが噂で聞くくらいなのだから不満はかなり出ているんだろう。それでもやっているということは、もしかしたら結構実入りがいいのかもしれない。
俺達が討伐隊に参加するとしたら、傭兵として組み込まれることになるのだろう。
金の為に来てるわけではないし、戦闘を楽しみたいというわけでもない。
さらに傭兵の扱いが悪いという話を聞いて、参加するメリットとかないよな。
そもそもユグドさんを討伐に来たわけじゃないしなぁ。
「ねぇ、俺達もそれに加わった方がいいのかな?」
「そうですね・・・。実際に見たわけではないですけど、傭兵の状況を聞いた限りでは参加したくありませんね。しかし、討伐隊に入らなければ、城を覆う障壁を中和して城内に入る手段がありません。大勢の魔法師で障壁を中和させないといけないらしいですからね。」
「ちょっとトリスの説明に補足すると、討伐隊に加わるには参加の意思を伝えれば討伐隊に組み込んで貰えたんだけど、あまりにも犠牲が出過ぎているから、冒険者の場合は星7つ以上の者じゃないと入れて貰えないんだよ。」
ダメじゃねーか。
最低でも上級冒険者じゃないと討伐隊には参加できないのか。
「そうするともう単独で城内に入る手段を考えるしかないなぁ。」
「障壁を壊す、または中和する方法かぁ。」
試す価値のある手段はいくつか考えられる。
・最大火力で魔法をぶち当てて力ずくで障壁を破壊する。
・ディスペルで障壁を破壊する。
・テレポートで障壁を飛び越える。
・インビジブルで姿を消して討伐隊について行く。
ぱっと思いつくのは大体これくらいか?
まず最大火力で障壁を攻撃だが、魔法使いでもトップクラスの精鋭が集まっている討伐隊の人達が中和くらいしかできないような強力な障壁を壊せるとは思えないから没だろう。
ディスペルで障壁を破壊することだけど、ディスペルは魔力で構成される現象を無効化する魔法だから、たぶん可能だと思う。
次はテレポートだ。テレポートって障壁越えられるのか?見えるところに転移という魔法なんだよな。ということは理論上はいけるはず・・・。ただ転移先が安全かどうかが問題だ。テレポートを使うと距離に関係なくかなり体力を持っていかれる。その状態で戦闘になるのは避けたいところだ。ユグドさんは1人で城内に篭っているという話だからいらない心配かもしれないけど。
最後に姿を消して討伐隊について行く案だけど、これは討伐隊がいつ攻略に向かうかにもよるな。その辺の情報収集をしないといけないから、ちょっと面倒臭いのが難点だ。
以上のこと(ディスペルの効果はボカして)を俺の案として皆に伝え、他の案があるか聞いてみた。
「ヨーヘーやアリアは障壁を中和させることは出来ないのですか?」
「どんな障壁かにもよるけど、自然魔法を使った障壁なら反属性をぶつければ中和できると思う。特殊魔法の場合は力ずくで破壊するしかないかなぁ。まぁ討伐隊が中和できてるってことは前者の障壁だろうから、調べればいけそうな気はするけど、エリート魔法師が何人も集まって中和するような障壁なんだろ?俺とアリアだけじゃ無理なんじゃないかな?」
「いえ、私の知る限り、ヨーヘーとアリアの魔法は今まで見てきた魔法師の魔法が、お遊戯に見えるくらいレベルが違いますよ?いくらエリート魔法師といっても、そんな彼らよりちょっと優れたというくらいの違いしかないと思うのですが。」
「そうなの?さすがにそれはないんじゃない?だってエリートだよ?」
「ではヨーヘーは今まで魔法を使う人を見て凄いと感じたことはありますか?もちろん師匠やアリアを除いてです。」
「うーん・・・ない・・・かなぁ?」
確かにあんまり見たこと無い。ていうか魔法士にそんなに会わないということもあるが。
「あるはずありませんよね?あんな魔法を使えるんですから。」
ふむ・・・障壁の中和か。一応案の中に入れておくか。トリスのいう事を信じると、意外と他の魔法師のレベルってそんなに高くないのか?そんなことを思っていると知らない男から声を掛けられた。
「おい、お前達。」
男は歴戦の戦士といった雰囲気を持つ、40代くらいの剣士だった。一目見て手練だとわかる。
しかしその表情から疲労が濃く出ていて覇気を感じられない。
俺達が男を訝しんで見ていると、疲れきった男が次の言葉を発してきた。
「何か食い物を持ってないか?分けてくれると助かるんだが。」
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「だっはっはっはっはっ!いやー助かった助かった!腹が減って死にそうだったんだわ!それにしてもこれうめぇな!こんなん初めて食ったぜ!なんだこりゃ?まぁいっか!おかわり頼んでも大丈夫か?」
俺達は腹ペコさんと近くの空き家に入って、昨日の残りのカレーを振舞ってあげた。
余程空腹だったのか、男はわき目も振らずガツガツをカレーを平らげていた。
タァマちゃんも自分のカレーを奪われると錯覚したのか、威嚇をしながら張り合うようにカレーを食べていた。
「うっはぁぁっ食った食ったー!もう食えねぇー・・・うっぷ・・・ごちそうさん、俺はハングーリってんだ。うまい飯をありがとよっ!」
男の名前を聞いて思わず噴き出してしまった。この男ほど名を体で表すやつはいないだろう。
いきなり噴き出した俺にどうしたんだ?と聞いてきたので飯が気管に入りそうになったと誤魔化すと、ニカッと笑いバンバンと俺の背中を叩く。
「いやー、兄ちゃんの飯はうめぇなぁっ!こんなうまい飯はお袋の飯以来だぜっ!」
「痛ってっ!痛ってっ!ちょっ!加減しろっての!」
「ん?あぁすまんすまん、久しぶりに腹いっぱい食えたから、気分が高ぶっちまってな!」
空腹から解放されたからか、先程のような疲労がほとんど消えていた。現金な体質だ。
「ハングリーさんでしたっけ?ハングリーさんは傭兵かなんかですか?」
「おうっ!傭兵隊に所属している冒険者で、憤怒の魔法師をぶっ殺すのが俺の仕事だ!それとハングーリな。」
ハングーリの言葉を聞いて、彼の後ろにいたアリアが抗議しようとするが、俺が目線で制するとなんとか抑えてくれたようだ。ほら、そんな悔しそうな顔しないの。
「なんであんなに疲弊していたんです?」
「んぁ?それが聞いてくれよ。国軍のやつらがよぉ、物資をよこさねぇんだよ。」
ハングーリの話によると討伐隊には定期的に補給部隊がやってきて食料や武器等の物資を届けてくるらしいが、なかなか成果を出せない討伐隊に対して、補給の数が減らされたらしい。それで王国軍至上主義の司令官様は、限られた物資を傭兵にはまわさないようにしたらしい。さらに悪いことに行商隊が賊に襲われたらしく、本格的に食料の入手が難しくなったとのこと。動物を捕まえて食べることで、なんとか食を繋いでいたらしいが、傭兵達はそろそろ限界だとのことだ。
撤退すればいいのにと思うのだが、司令官様から逃げれば敵前逃亡者として関係各国内で指名手配にすると言われているらしく、おいそれと逃げられないとのこと。
先程街の入り口でハングーリがふらついていたのは、食い物になるものを探しにきていたんだとか。
「まったくよぉ、金はあるのに飯が無いっ!やるせねぇよなぁ。」
その後1時間ハングーリの愚痴は止まらなかった。
国軍に対する鬱憤がかなり溜まっているみたいだな。
「そんで?お前らはここに何しに来たんだ?まぁここに来る理由なんて1つしかないだろうけどな。見たところお前ら冒険者かなんかだろ?現状を聞いてわかってると思うが、討伐隊に参加しようなんて思わねぇほうがいいぞ。金にはなるが飯がねぇからかなり辛いぜ。」
「えぇ、討伐隊に参加するつもりはないですよ。そもそも俺達星4つとかの中級ですからね。参加したくても出来ないです。」
「はぁ?じゃあなんでこんなとこに来たんだ?」
「実は観光なんですよ。」
「・・・まぁいいや、詮索するつもりはねぇよ。俺も2日後に城内突入だから、力をつける為に飯を探してただけだからな。兄ちゃんのおかげで力が付いたぜ。まぁ今回の突入だってなんの成果もあげずに戻ってくる事になるんだろうがな。」
「え?戻ってこれるんですか?中に入って戻ってきた者はいないって聞いたんですけど。」
「あぁ?あー、そういやそう言われてんなぁ。正確には対峙して戻ってきた者はいないってのが正しいな。俺は対峙したことねぇから戻ってこれるわけよ。」
「どういうことです?」
「城内に入るとよ、なんの魔法なのか知らねぇけど、真っ黒い人型の奴、俺達は影人って呼んでる。まぁその影人が侵入者を襲ってくるんだよ。こいつらは1匹ではそんなに強くないんだが、厄介な事に数が多くてな・・・次から次へと沸いてきやがる。最初の頃は未熟な傭兵達はその物量に圧倒されて結構な犠牲がでたんだ。その事を重く見た冒険者ギルドは上級以上、傭兵団はベテラン以上みたいな決まりが出来たのさ。おっと、話が逸れたな。そこでまぁベテランばかりになった傭兵団隊はあまり犠牲もでなくなったから、傭兵隊で影人を食い止めて、栄えある王国軍様の為のの道を開くわけよ。王国軍様はその間に憤怒の魔法師がいる部屋に突入って訳さ。まぁその王国軍の奴らは皆憤怒の魔法師に殺されちまって、誰も戻ってきやしねぇ。俺達までそれに付き合う必要はねぇから、憤怒の魔法師のいる部屋が静かになったら撤退して戻ってきてるってわけだ。くくくっ、いい金にはなるんだぜ?討伐隊に所属してさえいりゃぁギルドから1日5千レンス貰えるんだよ。これで飯あって女がいれば文句ねぇぜ!」
「影人ってのがあの城の兵隊なんです?」
「あいつ等は人みてぇに動くが、生物には見えねぇから魔法かなんか思うんだがよ。連携とかはしてこないから倒すのはそんなに難しくねぇけど、うじゃうじゃと沸いてきやがる。しかも回を重ねる毎に数が増えてるんだよ。ダルいったらねぇぜ。」
闇属性の魔法か召喚魔法か何かだろうか?自立して動いてるっぽいから自然魔法じゃないよなぁ。そうなるとやっぱり召喚魔法か精霊魔法になるだろう。魔法で呼び出されているのだとしたらという仮説だけどね。
「まぁそれも今回と次回かその次くらいで終わりだろうけどな。」
どういうことだろう?
「補給の数が減らされたって言っただろ?補給されるものの中には兵士も含まれてるんだよ。増援が期待できない中で、命令だかなんだか知らねぇが、退く事が許されない兵士ってのは皆殺される。つまり今回の突入で兵士が皆殺しにされれば、留守番組を残して兵士がいなくなるってことだ。現状で攻略できないのに、それより低い戦力で憤怒を倒せるわけがねぇ。つーわけで王国軍の敗北って形で終わるわけさ。いくらコルベール城に滅亡前の財宝が大量に残されている可能性が高いって言っても、手に入らないんじゃ意味がねぇからな。いい加減本国の連中も諦めたんだろう。さて、腹も膨れたことだし、俺は戻るとするかね。飯うまかったぜ。あんがとよ。」
立ち去ろうとするハングーリを見送ろうとすると、彼は俺に握手を求めてきたのでそれに応じる。
すると彼は俺にだけ聞こえるような声量で言葉を投げかけてきた。
「ピンクの姉ちゃんの反応から察するに、お前等は憤怒の魔法師の関係者かなんかだろ?飯の恩もあるから黙っておくが、王国軍の奴等にはバレないように気をつけな。」
言い終わると彼は踵を返して立ち去っていった。
さすが上級クラスの傭兵だ。アリアの反応に気付いてたんだな。
それで俺達の事情を推測して突入する情報なんかをそれとなく教えてくれたのか。さりげないかっこよさだな。俺もあんなかっこよさを身につけてみたい。
「あの人、私の反応に気付いてたんだね。」
「ん?」
「最後に小声でヨーヘーに注意してたでしょ。」
ハングーリの進言はアリアにも聞こえていたらしい。折角小声で伝えてきてくれたのに台無しだった。




