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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
103/172

天才魔法師3

ユグドが正気じゃないので第三者視点で提供します。

※ ちょっと残忍な描写がありますので、苦手な方はお気をつけください。

「あ、あぁ・・・あぁぁぁ・・・あぁぁああああああああああああああああああああああああああああっっっ!」


「はぁーーーーーはは!!おいっ見ろよあの顔!!傑作じゃないか!!はぁーはは!良い顔するじゃないかユグドォォォォ!!はぁーーーーーーははっ!!・・・・あぁ!?くっそ!しまった!余としたことが!!ちゃんと千年前に行ったか解からんじゃないかっ!」


カランッ。


部屋に乾いた音が響く。それは効果時間の過ぎた魔法封じの首輪が俺の首から外れて床に落ちた音だった。


「はっ!?しまった!おいっ!そいつが呆けている内にこの首輪をもう一度嵌めろ!」


ユグドの近くにいた兵士にゲド王子が首輪を投げ渡す。

しかし、その首輪がユグドの首に再び着けられることはなかった。


「『バインド』」


その部屋にいた者全て、いや、ユグド以外の全ての人間の動きが拘束された。


「セリア・・・」 


ユグドはセリアが消えた虚空を見つめ続ける。

ゆらぁとフラフラしながら立ち上がり、ユグドに首輪を着けようとしている兵士を視界に入れた。


「何をそんなに怯えた顔をしているんだ?ちょっと手を貸してくれよ。この手でセリアの足を掴んでいたんだろう?まだ温もりが残ってるかもしれないよな?」


ユグドは兵士の手を握るがそこにセリアの温もりは感じられない。


「セリアの温もりはこんな物じゃない。セリアを感じられないお前は要らないな。そうだな。セリアはこの時代から消えてしまったのだからお前も同じ様に消してやろう。お前はセリアをあの球体に放り投げたが、2人で投げてたよな?ならば半身は残しておいてやるよ。『イレイズ』」


ユグドが呪文を唱えると首輪を着けようとしていた兵士のヘソから下が消失した。ドバッと内臓が床に落ち、その上に兵士が崩れ落ちた。


「あぁぁぁぁぁ・・・・」


狂乱に陥った兵士だったが、やがて声を出せなくなりそのまま絶命する。


「お前は腕を掴んでいた奴だよな?ちょっと触らせてくれよ。・・・うん、お前からもセリアの温もりを感じられない。お前も要らない。『イレイズ』」


その兵士は上半身が消失して崩れ落ちる。

その様子を見ていたゲド王子は大声を上げた。


「おいっ!謀反だっ!!衛兵っ!!」


ドサドサドサ


ゲド王子が部屋の出口から何かが崩れ落ちるような音に気付き、音の発生源を確認すると、頭を失った研究員だった者達の体が床に伏していた。


「ヒ、ヒィイイッ!お、おいユグド落ち着け。話をしようじゃないか。な?何か欲しい物があるか?」


「おい、もう一度さっきの魔道具を使え。」


「は?いや、それは無理だ。さっきも言っただろう?魔水晶を魔力収集陣の中に置いたとしても500年掛かるんだ。」


「予備は?」


「そんな物は無い。いや、待てっ!さ、探せば古代遺跡の中にあるかもしれない。だから待て!」


ゲド王子は色々と言い訳を言っているが、ユグドの耳に入ってこない。ユグドは今はある一点を見つめていた。それは水溜り。先程セリアが破水した場所だ。


「あぁ・・・セリア・・・ここにいた。セリア・・・セリア・・・セリア。」


ユグドは魔法で床を濡らしているセリアの羊水を集めて瓶に収納し、その瓶を頬擦りをし始めた。

そうしている内にゲド王子の声を聞きつけた衛兵が部屋に駆けつけてくる。


「ゲド王子何事ですか!?うっ!これは・・・!!」


「遅いぞっ!何をやっていた!?ノロマの為に給料を払っているわけじゃないんだぞ!!さっさとあいつを殺せっ!!反逆者だ!!奴は魔法師だ!全員に知らせろ!!」


それを聞いた衛兵は槍を構えて笛を吹く。

ピィィィィっという甲高い音が城中に響き渡る。するとすぐに城の至る所から笛の音が響き渡った。


「は、はぁーはは!ユグドォ!これでお前も終わりだ!この城中の兵士がすぐにここに駆けつけてくるぞ!」


しかしそんな言葉を無視してユグドは瓶に頬擦りをし続ける。その狂ったかのようなユグドの姿に兵士は狂気を感じた。

続々と集まってくる兵士達。部屋の中には15人程の兵士が槍を構えており、部屋の外の通路にも数百名の衛兵や騎士達が臨戦態勢で待ち構えている。

部屋の中にいる兵士は瓶に頬擦りをしているユグドを気味悪そうに見ていた。


「おいっ!何を見ている!!さっさと殺さないか!!」


その声に反応した兵士が動こうとした時、頬擦りをしていたユグドが動きを止めた。

それを見て動こうとした兵士も動きを止める。


「は、はは、ははははは、はは、ははははは、はははははははははは、ははははははははははははは、ははは、はは、はははははははははははははははは」


急に笑い出したユグドを訝しんだ兵士達だったが、ユグドの発した次の言葉に戦慄した。


「セリアが消えた。何が悪い?球体にセリアを放り込んだ兵士か?だが奴等は消してしまった。ならばゲドか?そうだ。あいつが指示した。それは何故だ?俺がゲドに異論を唱えたからか?そうだ。俺が悪い。本当に俺が悪いのか?違う。ゲドが悪い。ゲドが悪い。ゲドが悪い。ゲドの他には?この世にゲドを産み落とした奴がいる。それは誰だ?この国の王と王妃だ。王と王妃はこの国だ。つまりこの国が悪い。悪いものはどうする?消してしまおう。邪魔するものは?消してしまおう。・・・・・・この国を消してしまおう。」


言い終えて振り向いたユグドの表情は憤怒に染まっていた。そしてこの日、コルベール王国王都ザクレンにあるコルベール城は血に染まった。




世界屈指の魔道具技術力を持った国コルベール。

その中枢がある王都ザクレンにあるコルベール城には今2人の生存者しか残っていない。皆殺されたか逃げたかだ。城に勤めていた侍従やコック達は全員逃げ出していた。ユグドも彼等を殺す事はしなかった。逃げ出す兵士も同様だ。立ち向かってくる兵士は容赦なく殺したが。城勤めをしていた貴族や大臣、文官、研究者等は全員殺された。政治に携わっている者、魔道具に携わっている者で逃げられた者はいない。たまたま外に出掛けていた者だけが生き延びる事になったが、野心のある者は新しい王になろうと後日城に攻め入ってくるのだが、全て返り討ちに合う事になる。

今、2人の生存者は対峙している。1人は怒りの表情でもう1人を見据えていて、もう1人は怯えた表情で2つの生首を見つめている。


「ち、父上・・・母上・・・。なんてことを・・・」


「・・・・・・」


「頼むッ!見逃してくれ!!そうだ!お前を大臣にしてやろう!俺達2人で新しい国をつくちゃぶっ!?」


ユグドが魔法を使うとゲド王子の顎が消失する。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


ゲド王子の右腕、左腕、右足、左足、右目、左耳、鼻、内臓。次々と消失していくが、不思議な事にゲド王子はまだ死んでいない。意識もハッキリしている。

すると次々に消えていったゲド王子の体の消失が止まった。

ユグドが何かを呟いたのが聞こえるが、ゲド王子は良く聞き取れなかった。次の瞬間、自分の腹部に違和感を感じる。内臓は先程消えてしまったが、何かがゲド王子の腹の中で増え続けている。これは・・・水だ。

ゲド王子の腹はどんどん膨れ上がっていく。それはまるで妊婦のようだった。魔法で押さえつけられているのか体から水は溢れてこない。しかし、行き場を失った水は気管に流れ込み、肺までを水で満たしていく。呼吸が出来なくなったゲド王子はもがき苦しむ。肺に水が入り込んだ激痛と呼吸できない息苦しさ、そして今にも張り裂けそうな自分の腹。すでに声は出せないが、もし出せるなら絶叫していたことだろう。手足を失った身体でもがいていると、いつの間にかユグドが隣に立っていた。表情は相変わらず憤怒に染まっている。

何をするんだとユグドに視線を固定すると、ユグドはパンパンに膨れ上がったゲド王子の腹に足を置いた。今少しでも圧力を加えられたらゲド王子の身体は破裂してしまうだろう。

やめろぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!と叫びたいが声が出ない。そしてユグドがゲド王子の腹に全体重を乗せた時、パァンという音と共にゲド王子は破裂した。

300年続いたコルベールという国が滅亡した瞬間だった。


ここは旧コルベール王国王都ザクレン。あの悲劇から5日が経った。この街に今住人はいない。皆周辺の町に逃げたようだ。昨日野心に燃えた貴族軍が全滅し、しぶとく残っていた住人も去ることを決意したようだ。今は空き家になっている民家の1つに1人の男が佇んでいた。

生気のない表情でボーっとしていると、家をノックする音が聞こえてきた。無視していたが、中々ノックが鳴り止まないので、想い人が帰ってきたのかと淡い期待を抱いて玄関先に出る。


「あぁ、いらっしゃっいましたね。中々出てきてくれないからどうしようかと思ったんですよ。まぁこの街の人全員いなくなってるから、もしかしたらいないかもしれないなぁとは思ってたんですけど。一応仕事ですからね。えっと、ユグド=ラグノイドさんで合ってますでしょうか?


「・・・・あぁ。」


セリアが帰ってきたわけじゃないとわかったユグドは一気に生気のない表情に戻る。


「あの?大丈夫ですか?まず謝らせて貰います。本来であれば5日前に届ける予定だったんですけど、貴族の方に止められて今日まで街に入ることができなかったんです。というわけであなた様に郵便です。」


「郵便?」


「はい、こちらに受け取りのサインをお願いします。こんな長時間お預かりした手紙は初めてですよ。」


ユグドはサインを書きながら配達員の言葉に耳を傾ける。配達員は少々興奮しているようで、この手紙は凄いものなんだと力説している。


「ちゃんと魔法保存していたから状態は良いはずですよ。それにしても千年前からの手紙だなんてロマンチックですよねぇ。1500年続いている弊社でもそれだけ長い期間保管された手紙は無いんですよ。まぁ正確には997年前なんですけどね。差出人はセリア=ラグノイドというお方からです。ご先祖様ですか?」


その言葉を聞いたユグドは踵を返し、配達員を置いて家の中に引っ込んだ。


「あっ!ちょっと!」


後ろで配達員が何かを言っているが、構っている場合ではない。他ならぬセリアからの手紙なのである。ユグドは何よりも優先して読まなければと行動したのだ。

リビングにあるペーパーナイフを使い丁寧に手紙を開封する。恐る恐る手紙を開くと、そこには見覚えのある字で文章が綴られていた。


『私の愛する旦那様 ユグドへ

やっほー!元気?私は今元気にしてるよ。なんかね、千年後でも届けてやるっていう郵便屋さんがあってね。駄目元で手紙を書いてみました。届いているといいなぁ。というわけで、届いてる前提で話するね。なんとなくだけど、絶対ユグドがこれを読んでくれる気がするから!まずはユグド、落ち込んでない?私の身を案じてくれてるなら心配しないで。どこも悪いところなんて無いから。でも離れ離れになっちゃって寂しいよね・・・。ユグドは意外と泣き虫だから泣いてないか心配です。

それじゃあ、あの時の事から話すね。えっとね、どうやらあの時の魔道具で私は千年前に飛ばされちゃったみたいなの。今はあれから3年経ってるんだけど、今私はルドール王国って所にいます。地形を見る限り、コルベール王国の前にあった場所っぽいんだけどね。そう、ルドールだよルドール。古代文明のルドール王国!ユグドが来たら興奮するだろうなーって場所なんだー。

あ、そうそう。お腹にいた赤ちゃんだけどね。こっちに転移した後に、お腹蹴られたりした事で苦しんでいたら陣痛が始まって、なんとか無事出産することができました。凄く苦しかったんだよ?死ぬかと思ったんだから。そんな苦しい時に傍にいてくれないなんて、駄目な旦那様だよねユグドは。一生言い続けてやるんだから!・・・ふふ、冗談だよ。赤ちゃんはね、私に似て可愛い女の子でした。鼻と口がユグドに似たみたいだけど、目と輪郭や眉毛の形は私の勝利だね!この子は将来美人になるよー。名前はユリア。ユグドのユと私のリアを混ぜてみたんだぁ。良い名前でしょ?ユリちゃんって私は呼んでます。一緒に写真を入れておいたから後で見てね。あ、写真っていうのはなんていえばいいのかな?時間を切り取って紙に写したものと言えばいいのかな?凄く精巧な絵みたいなものだよ。ルドールの技術って凄いよねー。

これだけ技術や魔法が発達してるのに、この世界って神聖魔法が無いみたいなの。怪我や病気は薬とかシュジュツ?って言うので治してるんだって。だから私の神聖魔法で色んな人の怪我や病気を治してたらね、なんか昨日、この国の王様から『ルドールの聖女』って称号を貰っちゃったの。ねぇ、これどういう意味かわかる?私セリアル様になっちゃったんだよ!ねぇ、どうしよう?歴史変えちゃうかもしれないよ。本物のセリアル様はどこに行ったんだろう?早く出てきてくれないかなぁ・・・。

ねぇユグド。私はセリアル様じゃないからね。セリア=ローレンス、いえセリア=ラグノイドだからね。私が言いたい事わかる?ほら、セリアル様ってこの後旅に出るでしょう?従者2人を連れて・・・。そしてその従者の1人と結婚しちゃうじゃない?でもでも、私はそんな事しないからね!私の旦那様はユグドだけなんだから!

でも、でもね。ユグド。私寂しいよ。ユグドに会いたいよ・・・。もし私が寂しさに負けて違う男の人に抱かれてしまうとしたらユグド許してくれる?・・・いやっ!そんなこと考えるのは止め止めっ!!ありえないわっ!!私の旦那様はユグドだけ!うん!今バッチリ決めました!!ユグド知ってるでしょう?私は1度決めた事は絶対にやり遂げるの!!もし本当のセリアル様が現れなくて、私がセリアル様として旅に出るとしても、従者なんて連れて行かないわ!ユリちゃんと2人で旅に出るんだから!歴史が変わろうが知った事ですか!

私もう決めたんだからね!仮に!仮によ!!私がずっとセリアル様を演じる事になるとしたら、伝記を書く人に従者は2人連れてました。その内の1人は旦那様ですって書いて貰うようにお願いする!それなら歴史変わらないもんね!

あんまり勉強してなかったから、どこで誰に襲われるかとか覚えてないんだけど、なんとかするわ!だから心配しないでね。それじゃあ、今日はこの辺りで筆を置きます。また手紙書いてみるからね。ずっとずぅーっと千年経っても愛してるよ。


ルドール暦1192年1月2日 (たぶんだけどセリアルドール暦0年1月2日)


あなたの愛する世界一の美人妻 セリア=ラグノイドより』


最後に写真を手に取り、写された画像を見る。そこには優しい微笑を向けた少々大人になったセリアと3歳くらいの可愛らしい女の子が映っていた。


「何が私に似て美人・・・だよ。俺に似て美人・・・だろ?・・・うぅっ・・・くっ、セリアァ・・・セリアァ・・・・あぁぁぁぁぁぁ・・・・あぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」


涙が溢れて止まらない。


「決めたよ。セリア。俺は絶対にお前とユリアをこの時代に取り戻してみせる。この国にある技術を全て研究して何年掛かってでも何十年掛かってでもお前達を取り戻して見せるからな!俺はこんな結末は認めないからな!!」


こうして憤怒の魔法師と呼ばれた男、ユグド=ラグノイドはコルベール城に篭り、日夜研究を続けるのだった。

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