天才魔法師2
ユグド視点です。
ちょっとした過去話。
前回の天才魔法師1から数年経ったユグド君達のお話です。
※ 一部、非道な描写があります。苦手な方はダイジェストを後書きにてまとめさせていただきますので、そちらをどうぞ。
セリアルドール997年
今から6年前、俺達が15歳になった時にセリアと一緒にキレースの街を出ることにした。当然家族からは反対されることはわかっていたから、夜逃げするように屋敷そして街から出たわけだ。
まだガキだった頃にセリアと一緒に街を出て世界を見ようという約束をしていたから、実行に移したわけだ。
父上は俺が15になったら王宮勤めをさせるつもりだったらしいから、突然いなくなって怒っているだろうな。まぁ俺にとっては伯爵家よりもセリアの方が大切だったから後悔などはしていないが。俺ほど優秀ではないがそこそこ優秀な弟もいることだし、弟も家を継ぎたくて俺を目の敵にしていたようだから跡継ぎについては問題ないだろう。愚弟とは言え、家督争いで血を分けた弟の血を流したくはなかったからな。
キレースにいた頃も楽しかったが、冒険に出てからもセリアと一緒にいると色々な刺激があって毎日飽きない。人助けなんかもしたな。あれは5年前だったか。変な集団に襲われている貴族を見かけたから、セリアと一緒に助けたことがある。発見が遅れたから8人中7人はすでに死んでしまっていた。護衛3人と御者、貴族の夫婦に娘2人。貴族の夫婦には見覚えがあった。たしか南方のルナセーラ付近を治めているイグニス伯爵夫妻だ。家族旅行でもしていたのだろう。生き残った娘の1人も死に掛けていたが、生きてさえいればセリアが神聖魔法で問題なく治すので、なんとか一命を取り留めたようだった。少女はアリアという名前だったな。ピンクの髪をした可愛らしい娘だった。この子は将来とんでもない美人になるだろう。少し影があったのが気になったが、恐らく家族を殺された事で心を閉ざしていたんだろう。セリアと俺の努力の成果もあって、だんだん打ち解けてくれるようになった。俺の事をお兄ちゃんと呼んでくれたな。俺の愚弟と違って、可愛い妹が出来た気分になって嬉しくなったもんだ。マギル学園都市のロレイ女学園に通っていたそうなので、マギルまで送っていく事になったんだが、マギルが近付くにつれてアリアの影が濃くなっていく気がした。無事に送り届けて別れる時は後ろ髪引かれる思いだった。セリアなんて泣いていたからな。何が「あなたは世界で私の次に美人になるだろうから幸せになってね。」だ。明らかにアリアちゃんの方が美人になるだろうよ。まぁそれでも俺はセリアを選ぶけどな。
2年前。俺とセリアが19歳になった時に俺はセリアと結婚した。結婚記念に俺が全力で作った杖をセリアにプレゼントしてプロポーズしたんだ。もっと早く言えと怒られたが、杖を手にとって嬉しそうに涙を流したセリアの顔を俺は一生忘れる事はないだろう。その杖は今も大切そうに使ってくれている。嬉しい限りだ。
今俺達は隣国のコルベール王国にいて、隣にはお腹の大きくなったセリアがいる。決して太ったわけではないぞ。殺されるから滅多な事は言わないほうがいい。そう、セリアは妊娠している。あと2ヶ月もすれば子供が生まれるだろう。この俺が父親になるんだ。もうすぐ俺達の愛の結晶が生まれるわけだ。こんなに嬉しい事はない。
「ねぇユグド、ニヤけているけど何を考えているの?」
「いや、俺は今幸せだなぁって思ってたんだ。」
「ふーん?そっか。そりゃそうだよね。私みたいな世界一の美人をお嫁さんに出来るんだものねー。」
「あはは、そうだな。セリアは世界一綺麗だよ。今まで色んな人に出会ったけど、セリアより綺麗だって思った女性なんていなかったしな。あ、アリアちゃんはもしかしたらセリア以上の美人になっている可能性があるな。今アリアちゃんは15歳か・・・ちょっと影のある子だったけど、美人に育っているだろうなぁ。」
バキィッ!グーで殴られた。
「頬が痛いっ!」
「何?浮気?こんな美人な奥さんを差し置いて浮気するの?お腹に赤ちゃんもいるのに?子供が出来て欲求不満になってるのかしら?強パンチするべきかしら?」
もう殴られてますよ!?暴力反対!NOドメスティックでバイオレンスな生活!!
「それにアリアちゃんに・・・私達の妹に手を出そうとしたの?いくらあの子が私の次に美人だからってアリアちゃんはダメよ?まぁ他の誰でも許さないけど。」
「そういう意味じゃないから!?アリアちゃん元気かなぁって思っただけだよ!?俺が愛してるのは世界でもアリア只1人だけだよ!!」
「アリア・・・?」
「ごめん!名前間違えました!!なんか似てたので!ホントです!!信じてください!!!」
「愛する妻の名前を間違えるのってどうなのかしら?ねぇ、あなたもそう思うよねー。パパはママの名前を間違えたんですよー?許せないよねー。」
ボッコボコにされました。息子か娘かわからないが生まれてくる子供よ。ママのようになってはダメだぞ・・・。
「ずいばぜん、おでがあいじでるのは、ゼリアだげでず。」
「ゼリアって誰かしら?」
「セリアだけでぶ!!」
「セリアだけデブ・・・?私がデブ?」
「ごめんなさい!違うんです!俺が愛してるのはセリアだけなんです!あぁセリア、綺麗だよ。美しいよ。世界一綺麗だよ。セリアは俺の嫁。」
「あら、この子は含まれていないのかしら?」
「セリアと我が子を愛しております!!」
「ふふっ、からかってごめんね。私も今すっごく幸せだよ。」
からかうだけならぶたないで欲しい。
コルベール王国・・・世界一魔道具研究が進んでいる国だ。この国で古代遺跡が見つかっており、アーティファクト級の魔道具がいくつも発掘され、その研究を行う事で魔道具の技術が他国よりも頭一つ飛びぬけている。非人道的な実験も行っているようで、黒い噂も耐えないが技術力は本物だ。
セリアが妊娠していることがわかってから、俺達は冒険を中断し、このコルベール王国の王都ザクレンに根を下ろしている。コルベールを旅してる時ということもあったし、何より俺が魔道具の研究をしてみたかったからだ。さすが世界一の魔道具国家というだけあって、その技術はとても合理的で無駄のない素晴らしいものだった。この技術の礎となった古代の技術には驚かされるな。ここに住み始めて半年くらいになるが、俺もこの街では結構名が知られるようになってきた。元々独自の魔法理論も持っていたし、魔法の知識や理論について俺に敵う奴は魔道具先進国であるこの国にもいなかった。更にこの国の技術も取り込んで、俺の魔法もかなり磨きが掛かったわけだ。会った事が無いからわからないが、魔王の配下にいる六魔公で世界一の魔法使いとの呼び名の高い、ヴォンヴァンカンにも負ける気がしないな。
順風満帆な生活を続けて、子供が生まれるまで後一ヶ月といった頃、俺の家のドアを叩く音がした。
「ユグド殿、ユグド=ラグノイド殿はいらっしゃるか?」
ドアを開けると中年の男性が立っていた。随分上等な服を着ているようだな。貴族か?
「ユグドは俺だ。何の用だい?」
「おぉ、ユグド殿であらされるか!実は然る御方よりユグド殿に研究の助力をしてもらいたいとの依頼がありましてな。是非協力して貰いたいのだが。」
「研究の内容にもよるな。どんな内容なんだ?」
「ここだけの話にしてくだされ。この度、古代遺跡より新しい魔道具が魔道書と共に複数見つかりましてな。それらの研究になります。」
「ほう!アーティファクトの研究か!それは遣り甲斐がありそうだ!だが・・・むぅ。」
「どうなされた?」
「いや、やりたいのは山々なんだが、アーティファクトの研究ともなると家に帰ってこられなくなるだろう?実はもう少しで子供が生まれそうでね。身重の妻を放っておいて研究というのは・・・ちょっとな。」
「おぉ!それは目出度いですな!なるほど、では難しいですかな。他をあたる事にさせて頂きます。」
「あぁ、すまんな。残念だが・・・」
「行って来なさいよ。行きたいんでしょう?」
「セリア?」
「おぉ!これはこれは奥様でしたか!なんとお美しい!ユグド殿は最高の伴侶を得られていらっしゃるようで!」
「あら、お上手ね。ユグド、折角のチャンスなんだから逃しちゃダメよ。」
「でもセリア、いいのか?」
「そうね、最低でも3日に1度は必ず帰ってくること。これが条件かしらね。」
「おぉ!ユグド殿!奥様もこう仰ってらっしゃいますし、その条件でもこちらは構いませんのでいかがか!?」
「わかった。そういう事でいいのであれば協力させて貰おう。」
「あいわかりました!では明日の9時に城門までお越しくだされ。」
「なぁ、然る御方って誰だか聞いてもいいか?」
すると男は小声になって囁いてきた。
「ゲド第1王子殿下にございます。」
俺がアーティファクトの研究に加わって4週間が経った。俺達のチームのボスであるゲド王子は狂っている。
魔道具に取り憑かれているとでも言うべきか。魔道具の研究の為なら何をしてもいいと思っているようだ。事実それが国益に繋がり、成果も出しているので止める者もいない。そのやり方に疑問を感じ、少々意見してしまってから、何かと嫌がらせを受けるようになってしまった。
今は魔力を霧散させてしまう魔道具の首輪の検証と言われて、実験に付き合わされている。
「はぁーはは!ユグドォ!どうだ!?この国で一番の魔法師であるお前でもその首輪を着けると魔法が使えないのではないかぁ!?」
「くっ、その通りでございます。まったく魔法が使えません。殿下、これを外しては貰えませんでしょうか?」
「はぁーはは!ダメだぁ!そいつは余でも外せんからなぁ!なぁに安心しろ。あと30分もすれば自然と外れる。それはそういう魔道具だ。」
あと30分か。それならまぁ大丈夫だろう。
「実は今日もう1つ新しい魔道具の実験をしようと思ってな。今被検体が届くのを待っている所だ。」
「もう1つの魔道具?」
「そうだ!知りたいか!?どうしよっかなぁ。教えよっかなぁ。」
殴りたい気分になるが、相手は腐ってても王族、手を出したら面倒な事になるのでセリアが身重な内は滅多な事は出来ない。
「意地悪をしないでくださいませ。」
「ふん、おっ?被検体が届いたみたいだ。ユグド来い!この実験には是非ともお前に見てもらいたいのだっ!」
「光栄にございます。」
「はぁーはは!喜べ喜べ!!」
ゲド王子に付いて行き、別の部屋へと移動する。すると
「ユグド!!」
「セリア!?」
セリアが2人の兵士に両手を拘束されていた。そして俺にも後ろから2人の兵士が俺を拘束し、膝を折らせる。
「ゲド殿下!?これはいったい!?」
「んん~?言わなかったか?新しい魔道具の実験をすると。」
「確かに仰いましたが、なぜセリアがここにいるんです!?」
嫌な予感がジンジンする。殿下は何と言った?『被検体が届いた』と言った。連れられた部屋にはセリアがいる。
「察しが悪いなぁ。被検体はアレだ。美しい娘だろう?あの娘はな、余に楯突いた大馬鹿者の妻なんだそうだ。その大馬鹿者の前で最愛の妻を魔道具の被検体にしてやろうと思ってなぁ!はぁーはは!これで二度と余に歯向かおうとは思わんだろうなぁ!」
「殿下!御止めください!!あれは!あれは私の妻に御座います!殿下に意見してしまったことは今でも後悔しております!二度と口答えなど致しません!一生殿下に忠誠を誓います!ですからどうか!どうか!!」
「んん~?なんだ?お前の妻だったのか?ということはお前が余に歯向かった大馬鹿者か!はぁーはは!そうだなぁ。他ならぬお前の頼みであれば余も耳を貸さんでもない。そうだなぁ。では、あの娘を余に献上せよ。どうだぁ?」
「そ、それは・・・!」
「んん~?余に忠誠を誓うのでは無かったのかぁ?ならば構わないだろう?」
「それは出来ません!それだけは例え世界が破滅すると言われても譲るわけにはいきません!」
「やはり余に歯向かうのよな。ふん、やはり気に食わない男だ。おい娘!お前はどうだ?余の物にならんか?」
「そんなの願い下げよ!そんなことになるなら私は死を選ぶわ!」
「ふんっ、夫婦揃って気に食わん。」
ゲド王子はスタスタとセリアに歩み寄っていった。
ビクリとセリアが震えるのがわかるが、俺も拘束されて動けない。くそっ!この首輪の効果はもう少しで切れるはずだ!早く、早く切れてくれ!!後の事なんて気にするか!こいつ等を全員血祭りにあげてやる!!
とにかく今はなるべく時間稼ぎをしないと!!
「殿下っ!!私の話を聞いてくださいませっ!私はロイト王国の貴族でしたっ!国家機密になる情報もいくつか保持しております!ご興味が御有りでございましょう!?」
「あぁ、それは興味深いなぁ。それを教えてくれるのか?この娘はそれ程までに大切な存在か?母国を売ってまで守りたい存在なのか?くくっ!益々奪ってやりたくなったなぁ。それになんだ?このみっともなく膨れ上がった腹はぁ、目障りっだなぁ!!」
「あぐぅぅぅっ!!」
ゲド王子はセリアの腹を蹴り飛ばした。セリアの拘束は解かれ仰向けに倒れたセリアは腹を押さえて苦しんでいる。
「セリアァァァ!!ゲドォォォ!貴様ぁぁぁぁぁ!!殺してやるっ!絶対に殺してやるっ!!」
「はぁーはは!本性を現したなっ!くくっそうでなくては面白くない。悔しいか?悔しいだろう?最愛の妻を守れない。力はあるのに使えない。さぞや歯がゆいだろうなぁ。余はそういうお前が見たかったのだよ!」
「おのれっ!おのれぇぇぇ!!」
ゲド王子は兵士2人をセリアの挟むように立たせて、その肩に手を乗せてセリアの腹に飛び乗った。
「あっあうぁぁぁぁっっっ!!」
「はぁーはは!余が子供の頃なぁ。空気玉という名前の魔道具があってなぁ。伸縮性の膜の内側に空気を入れて、弾力性を持たせた玉の上で飛び跳ねるというだけのしょうもない魔道具だったのだが、当時はそれが楽しくてなぁ。ピョンピョン飛び跳ねて遊んだものだ。余のお気に入りであった魔道具であったが、遊び過ぎた為に壊れてしまってな。それ以来遊べなかったのだが、この感触はあれに似ているなぁ。それっピョーンピョーン。」
「あぐっ!あぁっ!やめっ!わたっ!赤ちゃ!あぁっ!!」
セリアが苦しそうに叫んだ直後、セリアの股が濡れている事に気付いた。
「おぉ!?何だ?こいつお漏らししたぞっ!!おいユグドォ!お前の妻は王子である余の前でお漏らしするはしたない女だぁ!」
お漏らし・・・いや違う・・あれは破水だ。
「ゲドォォォォ!!その足をどけろ!!この糞野郎がぁぁぁ!!」
「あぁ汚い汚い。興冷めだな。こんな汚い女はもういらない。さっさと魔道具の実験をしてしまおう。」
「お、おい。待てよ!!そんな急がなくてもいいだろう?そうだ!お前は俺が気に食わないんだろう?だったら俺を蹴れよ?腕を切り落としたっていいぞ?なぁどうだ?」
「んん~、実に魅力的な提案だなぁ。だがそれは後でだな。だってほら、あと5分もしたらお前に付けている魔道具の効果が切れて、お前は魔法が使えるようになってしまうだろう?」
ゲド王子はニヤリと底意地の悪そうな笑みを俺に向けてくる。
「俺をっ!俺を被検体にしろっ!!セリアは許してやってくれ!!頼むっ!!」
「いーやダメだぁ。言っただろう?余は悔しがるお前の姿が見たいと。あの女を被検体にした方がお前が悔しがるじゃないか。」
言いながらゲド王子はガチャガチャと魔道具らしきものをセットする。砂時計のような物の中に青い石と灰色の石が入ったような魔道具だ。
「この魔道具はなぁ、この前見つかった物なんだが、一緒に見つかった書物によると、なんと時間を飛び越える事が出来る魔道具らしいぞ。ただ、時間の指定が出来ないのが難点らしくてな。好きな時間に飛べるなら便利なのに、これは過去にしか飛べないらしい。もう1つの問題もヘビーだ。この魔道具に付けられてる魔水晶、これに魔力を溜めるのになんと500年も掛かるらしい。魔力収集陣の中にこの魔道具を置いて魔力を溜めないといけないらしいのだ。この魔道具を作っていた古代文明は、魔力を溜めている内に滅んだみたいだが、そのおかげでこうして魔力が溜まって使える状態の魔道具がここにあるわけだぁ。魔力の溜まった魔水晶はこれしかないからやり直しは効かないが、どういう物かを知っておかないと研究しようがないからなぁ。少々惜しいが使ってみようと思うのだよ。」
まさか・・・まさかそれをセリアにっ!?
「やめろぉぉぉ!!それは俺に使えよ!!別に誰でもいいんだろっ!?なぁおい!!くっそっ!おいっ離せ!!離せよ!!離してくれよ!!お前らだって家族がいるだろう!?大切な人がいるだろう!?今俺の大切な人が奪われようとしているんだ!助けさせてくれよっ!!なぁおいっ!!」
「はぁーはは!無様だなっユグドォォォ!!あ、そーれ起動ぅ~♪」
魔道具の中の魔水晶が淡く光ると、灰色の直径2ミール位はある球状の空間が出現した。
「おぉっ!書物に記されていた通りだなっ!これを通ると千年前に飛べるというのか。おいっ!ちゃんと記録しておけよ?」
千・・・年前?千年前だとっ!?馬鹿なっ!!そんな遠くに行かれてしまったら俺は・・・っ!!
「よしっお前等。その女をこの球体の中に放り込め!」
お腹を押さえて苦しんでいたセリアを、ズルズルと引き摺って行く光景を目にして俺は再度暴れようとした。
「くそっ!離せぇぇぇっ!セリアがっ!セリアが遠くに行っちまう!殺されたくなかったら離せよっ!!」
「はぁーはは!そこで自分の無力を呪いながら見てるがいいっ!そぉら、放り込めっ!」
兵士2人よって両手両足を持たれて、振り子の様に振らされ、充分に勢いがついたところで、セリアを掴んでいたその手が離された。
「やめろぉぉぉおお!!!セリアァァァァァァァ!!!」
「ユグド・・・」
最後にセリアと目が合って、俺の名を呟いたセリアは灰色の球体に飲まれて行き、そして姿を消した。
俺ははセリアが消えた球体を見つめながら、今起きたことを受け入れられないでいた。
ゲド王子の楽しげな声もあまり耳に入ってこない。
「おいっ!お前等!何かに掴まれ!書物によると、この後球体に向かって突風が吹くらしいぞっ!」
その部屋にいる者全てが何かに掴まり、あるいは床に剣を立てて突風に備えている。突如、球体が全てを吸い込むかのような猛烈な突風が吹き荒れた。
「くっ!やはり書物に書いてあった通りだっ!安心しろっ!すぐに収まるぞっ!」
吸い込まれそうだ。いや、まだ諦めるな!あの球体に吸い込まれれば、俺もセリアと同じ場所に行けるんじゃないか?そう考え至った俺は球体に向かって走り出す。俺を拘束していた兵士は吸い込まれないように壁に掴まっている為、今俺を拘束する物は何も無い。
球体まであと2ミール、1ミール。セリア!待ってろよ!!
あと少しで届くかと思われた時、首に巻かれた魔道具が後ろに引っ張られ、それ以上進むことは叶わない。何がと思い振り返ると、いつの間にか首輪には鎖が掛けられており、部屋の壁に括り付けられているのが目に入る。視界には非常に嬉しそうな表情をしている忌々しいゲド王子の顔が映る。あの野郎ぉぉおっ!!
もう少し!もう少しなんだ!俺は球体に視線を戻して手を伸ばす。しかし、ギリギリのところで届かない。首が締め付けられて呼吸が出来ないが構わない。首輪が皮膚を裂き、肉にめり込むが些細な事だ。あと1歩、あと1歩でいいから俺を前に進ませてくれ!しかし首輪の拘束によって、これ以上前に進むことが出来ないでいる。そうしている内に風は収まり、灰色の球体は最初から無かったかのように綺麗に消えてしまった。
15歳になったユグドとセリアはキレースの街から世界を見る為に冒険に出た。
冒険を続けていて19歳になった時にユグドとセリアは結婚した。
それから2年、ユグドとセリアの間に新しい命が生まれようとしていた。
出産の為に冒険を休止した2人は、魔道具研究が盛んなコルベール王国の王都ザクレンにて生活していた。
ユグドはセリアとの生活を楽しみながら魔道具の研究をしていると、ある日、コルベール王国のゲド王子がプロジェクトリーダーを勤める研究に参加することになる。
研究の過程で王子の不況を買ってしまったユグドは、王子から嫌がらせを受けるようになる。
そんな日々のある日、新しい魔道具の実験をする事を告げられたユグドは、王子の先導の下、実験を行う部屋に付いて行ってみると、そこには何故かセリアがいた。
新しい魔道具は時間を跳躍する魔道具であり、千年前に時間移動出来る魔道具だった。
貴重な魔水晶を使わないと使えないらしく、その魔水晶を用意するのに500年掛かるとのことだった。
王子は使える魔水晶を1つ持っていたので、魔道具を使ってみようと思い、ユグドが嫌がる事をする為に、愛する妻であるセリアを被検体に選んだ。
ユグドは必死に抵抗したが、力及ばずにセリアは魔道具の効果によって千年前に飛ばされてしまう。




