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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
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100話 調理場とジェットコースター

まだ嬉しそうに走り回っているイノッチをそのままにして、俺達はマジカルハウスの中に移動した。


「とりあえずナンの生地を先に作っちゃおうか。発酵させないといけないからね。」


ブーストを使えばそんなに時間掛からずに発酵は済ませるから、急ぐ必要もないんだけど、タンドール窯を作ってる時間が勿体無いからな。

俺とアリアはもちろん、タァマちゃんやトリスも加わって、皆でナン生地をこねまくった。あとは寝かせて発酵させればいいだけだ。


さて、タンドール窯を造るか。ふむ・・・造るのはいいんだけど、キッチンに造ったら調理するスペースが狭くなって、ハッキリ言って邪魔だよな。

かといって邪魔にならない場所だと3階と4階しかない。

1階のキッチンとの距離を考えると微妙だな。うーん・・・。

・・・よし、作業場と同じ様に、調理場も新しい魔法の袋使っちゃおう。

どんどんマジカルハウスの中が拡張されていくなー。でもあんまり部屋を増やしすぎると迷子になる可能性があるよな。調子に乗り過ぎないようにしよう。

まぁ今回は使っちゃうが。


2時間後。


「ふぅ、出来たぜ。」


キッチンに設置した新しい魔法の袋を調理場に割り当てたから、かなり広い空間が調理用として使えることになった。そこに立派なタンドール窯が出来上がっている。更にその隣には、タンドール窯がうまく出来たことで調子に乗って造ったピザ窯がある。キッチンにも窯はあるが、こっちのは大型だ。

正直、俺の場合ピザを作るのにピザ専用のピザ窯とか必要ないんだよね。火力とか魔法で調節するわけだし、この窯じゃないと火力が足りないとかそういうことはないのだ。

でもさ、雰囲気って大切じゃん?こういう窯からピザが出てきたら美味しそうに見えるじゃん。だからこれは必要だったの!

オリハルコン製の広い台も作ったから、大掛かりな調理をする時も便利になったはずだ。アリアに怒られるからオリハルコン製だということは内緒だが。


魔法の袋(調理場)からマジカルハウス内に戻ると、カレーのいい匂いがしてきた。アリアが作ってくれたんだな。


「ごめんね。カレー作り任せちゃって。」


「ううん、料理は楽しいから全然苦じゃないよ。タァマちゃんが嬉しそうに私の料理を見ててくれるから、なんだか楽しくなっちゃった。」


「アリアはホントに料理好きになったよなぁ。」


「うふふ、ヨーヘーのおかげだよー。」


「アリア」


「ヨーヘー」



「はいそこまでですっ!2人だけで甘い空間を作ろうとしないでください。そういうことは2人きりの時にしてくださいね。」


「うぉわ!?トリス?いつからそこに?」


「最初からいましたが?」


なんと、アリアにばかり視線がいっていて気付かなかった。部屋の中を見回すと他にもカレーの匂いに耐えられなくなっているのか、ヨダレを垂らして鍋を見つめるタァマちゃんと、イノッチから解放されたのか、ソファーでグロッキー状態のマグロがいた。


「お2人が仲の良い事はわかりますが、今は夕飯を最優先にしませんか?タァマちゃんを見てください。マイスプーンを握り締めて、もうかれこれ2時間ひたすら待っているんですよ。」


「まじか・・・アリア、ちょっと味見させてあげればよかったのに。」


「タァマちゃんがお腹をいっぱい空かせて食べるカレーは最高ですっ!って言って待つ事を選んだんだよぉー。」


「そこまでカレーの美味しさを追い求めるとは・・・でもなんかもうそれも限界っぽいな。空腹時にこのカレーの匂いの中で待つのってかなりの苦行だよね。」


ジーっと鍋を見つめているタァマちゃんを見ていたら、ちょっと魔がさしてしまった。


「タァマちゃん、カレー失敗しちゃったみたいだから今日は別の料理でいい?」


チャリーン


タァマちゃんの持つマイスプーンが床にテーブルに落ちた。

落ちたスプーンに目がいったが、タァマちゃんに視線を戻すと、


「うわっ!」


この世の終わりみたいな表情のタァマちゃんがいた。

何かを言おうとするが、言葉が出てこないようでパクパク口を動かしている。絶句ってこういうことを言うんだろうな。なんか遠くの方を見つめだし・・・ってそれどこじゃない。


「嘘!嘘だよタァマちゃん!冗談だからね!?今日はカレーだから!だから戻っておいでーーー!」


「ふみぃぃ、お兄ちゃんは意地悪ですっ!意地悪なお兄ちゃんは嫌いですっ!」


にゃ、にゃんだってーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!?

くっ・・・タァマちゃんに嫌われてしまった・・・

この絶望感はなんだ?世界が真っ黒に染まっていく。

俺は立っている事が出来ずに膝から崩れ落ちてしまった。


「もうっ!馬鹿なことやってないのっ!今のはヨーヘーが悪いよっ!」


「見事にカウンターを喰らっちゃいましたね。」


「へへ・・・へへへ・・・タァマちゃんに嫌われたタァマちゃんに嫌われたタァマちゃんに嫌われたタァマちゃんに嫌わ・・・」


「怖っ!タァマちゃんヨーヘーを許してあげて?ちょっとした冗談のつもりだったのよ。ヨーヘーが復活しないと夕飯にならないよー。ほら!ヨーヘーも早く謝りなさい!!」


「にゃぁ・・・お兄ちゃん。タァマお兄ちゃんの事嫌いじゃにゃいです。だから早くカレーを食べたいです。」


「タァマちゃんに嫌われたタァマちゃんに嫌われたタァマちゃんに嫌われ・・・てない?・・・タァマちゃん、俺のこと嫌いじゃない?」


「大好きですっ!だから早くカレーを!」


「うぉぉぉお!!まっかせとけぇぇ!!タァマちゃんありがとう!そしてごめんなさい!それじゃ一緒にナンを焼きに行こう!!焼きあがればすぐに夕飯だぁぁぁあ!!」


「にゃぁ!焼きますっ!カレーがタァマを待ってますっ!」


「ちなみにタァマちゃん!俺とカレーどっちが好き!?」


「カレーを作ってくれるお兄ちゃんが大好きですっ!」


「そうきたかー!それならば今日はカレー祭りだぁぁぁぁ!!」


単純な兄妹がタンドール窯のある調理場に消えていく。それを見送ったアリアとトリスは深いため息つくのだった。


結果から言うと、ナンは上手に出来ました。

ナンはナン生地を伸ばしたものをタンドール窯の壁に貼り付けて焼くのだが、この作業がタァマちゃんにとって楽しいものだったらしく、タァマちゃんだけで20枚くらい焼いていた。

俺はというと、タァマちゃんが窯の中に落ちないように支えていたよ。

出来上がったナンは皆に好評だった。しかしアリアとタァマちゃんは、ナンよりもライスの方が好みのようだ。それでもタァマちゃんは自分で焼いたナンだったからか、凄い笑顔で4枚も食べていたな。トリスはナン派らしい。ナンのモチっとした食感が気に入ったみたいだ。トリスは元々米よりもパンの方がが好きみたいだから、この結果は予想できたけどな。マグロは終始グロッキーだったから好みがわからなかった。死んだ魚の目をしながら無表情で食べていた。あの状態でも食べる姿を見て感心したよ。ん?俺の好み?俺はその時の気分によって変わるんだ。今日はどちらかというとナンな気分だった。

今後カレーの時には、ライスとナンを両方用意しなくちゃいけなそうだなぁ。


夕飯の後に食べ過ぎからか、タァマちゃんが凄い眠そうにしていたから、お風呂に入って明日に備えて寝ようという話になったわけだが、その時にトリスが街の宿に泊まるより野営の方がいい生活が出来るというのはなんなんでしょうねとか言っていた。たしかにマジカルハウスを快適空間に改造していくうちに、なんだか自宅みたいな安心感が出てしまっているのは否めない。正直街に立ち寄ったらなるべくマジカルハウスを使わずにその街を楽しむために街の施設を利用する、というルールがなかったら態々宿を取るような事はしないだろう。だってマジカルハウスのベッドとか凄い寝心地良いしな。高級な素材というわけじゃないけど、自分用にカスタマイズされたベッドによる寝心地は高級素材にも勝ると思う。マグロなんて居心地が良すぎるからか、飯の時以外は養殖場からあまり出てこないしな。そのうちあいつ引き篭もりになるんじゃないだろうか。若干マグロの将来が不安になった。


風呂から上がり、タァマちゃんを寝かしつけてから、俺も寝ようと自分のベッドで寝る支度をしていたら、枕を持ったアリアが声を掛けてきた。


「ヨーヘー。・・・今日は一緒に寝たいな。ヨーヘーのベッドで寝てもいい?」


「ウェルカム。」


「やった♪」


ドンッ!


ん?なんの音だ?


「あの・・・2人共、この部屋は仕切りが無いんですから・・・その、こ、行為をするのは控えてくださいね?タァマちゃんも隣で寝てますし。」


「し、しないよ!?」


トリスからの牽制球!さっきの音はトリスが床を叩いた音か?

俺だってさすがにここで始めちゃうほど周りが見えてないなんてことはないぞ。TPOをわきまえるくらいのことはできるさ。

それにしてもアリア良い匂いだなぁ。同じ石鹸やシャンプーを使ってるはずなのに、なんでアリアの匂いだと心地良いんだろう?

加えてアリアの体はとても柔らかくて抱き心地がいい。少し赤くなっているアリアがとても可愛らしく映るな。

俺はチュッとアリアのおでこにキスをすると、幸せそうな笑顔を向けてきてくれる。凄く可愛い。

もっとアリアを感じていたくなってきたから、彼女の体に手を這わせると、敏感なところに触れてしまったのかアリアから声が漏れた。


ドンッ!


ごめんなさい。


翌朝、いつの間にか俺とアリアの間に潜りこんで寝ていたタァマちゃんに苦笑しつつ、皆を起こして朝食の準備を始めた。




朝食を取りおえた俺達は、外で寝てたイノッチを起こして馬車を取り付けている。


「なぁヨーヘー、壊れないよな?この馬車は壊れないよな?」


「昨日ちゃんと実験しただろ。大丈夫だよ、たぶん。」


「たぶん!?そこは嘘でもいいから断言してくれないか!?」


「きっと絶対大丈夫だ!」


「なんか言葉おかしくないか!?」


俺は喚くマグロを宥めながら取り付け作業を進める。てかこいつはまだ恐怖が抜けきってないのか。冒険者ともあろうものが情けない。どうせ死なないんだからそんなに怖がる事もないだろうに。


「死ななくても怖いものは怖いのだー!」


取り付け作業を終えて、イノッチによろしくと伝えて皆で馬車に乗り込んだ。

さて、御者だけど、このメンバーの中で馬車の操縦が出来る人はトリスとマグロだけだ。

かといって、この2人が経験のあるのは馬が引く馬車であり、ベヒモスが引く馬車の動かし方なんてわかるはずもない。だが、馬ですらやったことのない俺やアリアに比べればマシだとは思う。


「というわけだからマグロ。御者をお願いしたいんだけど。」


「断るっ!ミーにはベヒモスを操れない!ヨーヘーにはあの恐怖はわからないんだ!」


「ちっ、使えないやつめ。あと俺の服を掴むな。どんだけビビってるんだよ。」


怖がる女の子に掴まれるのはウェルカムだが、マグロにそれをやられても嬉しくない。


「あの、私もベヒモスを操る自信はないですよ?」


「んー、どうしよっかなぁ。・・・あれ?この馬車って御者必要なんかな?イノッチって人語理解してるわけだから、指示すれば聞いてくれるんじゃないの?」


「そうかもしれません。」


それなら直接イノッチにお願いすればいいわけだな。俺は車内から御者席に移動してイノッチに話しかけた。


「イノッチ。このままザクレンまで走ってくれる?」


「ブヒ?」


こちらに顔を向けたイノッチがコテンと首を傾げた。なんか可愛い。


「ザクレンって言ってもわかんないか。どう説明したものか・・・。」


まぁ俺もわからないから説明もなにもあったもんじゃないんだけどね。

どうしたものかと思いながら、イノッチと一緒に変顔勝負をして遊んでいたら、なかなか動かない馬車に疑問を感じたのか、アリアが御者席にやってきた。


「・・・何やってるの?」


「え?」


「ぷっ!」


変顔のまま振り向いてしまい、俺の顔を見たアリアが噴き出してしまった。

わざとらしい咳をして誤魔化そうとしている姿が微笑ましい。


「もうっ!何やってるのよ。」


「いやぁ、イノッチにザクレンまで走って貰おうかと思ったんだけど、よく考えたら俺も場所知らなかったことに気付いたんだよね。フライで飛んで視認するのもいいかなーと思ったんだけど、結構距離もあるし見えないだろうと考え直して今に至る。」


「はぁ、それなら私がザクレンに行った事あるんだから聞いてくれればよかったのに。そもそもヨーヘーは・・・」


等とブツブツ小言を言いながら、イノッチにザクレンのある方角を教えていた。

だが俺はその方角に疑問を感じていた。だってこの娘はミイ師匠の岩場からスーラに向かう時に盛大に道に迷っているのだ。


「大丈夫だよっ、ザクレンの場所はわかりやすいもの!遠くの方に山が見えるでしょう。あの山を越えた後は太陽に向かって進めば着くのよ。」


俺の視線に気付いたアリアが、以前ザクレンに行った時の道順を説明してくる。

なるほどね。あの山を越えたら太陽に向かって進めばいいわけか。うん、それなら間違えないな。あんなに目立つ目印はそうそう無いから間違う事もないだろう。だがそれは、その目印が動かなければの話だがな!!

このちょっと抜けたアフォ娘にどう説明してやろうかと考えていると、今度はトリスが御者席に顔を見せる。

今の状況をトリスに説明するとトリスはため息をつき、


「アリア、太陽は東から昇り西に沈みます。」


「?そんなの知ってるけど?それがどうし・・・はっ!?」


アホだ。アホがいる。気付いただけマシなんだろうが、発言する前に気付いて欲しかった。


「ち、違うの!そうじゃないの!!うっ・・・ど、どうして2人共そんな目で私を見るの?ねぇ、やめてよ。ちょっと抜けちゃっただけでしょう?そんな可哀想なものを見る目で私を見ないでっ!」


アリア超必死だ。まぁこの娘は馬鹿じゃないからな。ちょっと抜けたとこがあるだけだ。本人もそれはわかっているんだろう。だからアホの烙印を押させない為に必死なのかもしれない。ここはちゃんとフォローしておかないと後々面倒になるかもしれないな。


「大丈夫だ。アリアがアホでも嫌いになったりはしないから。そんなアリアも大好きだよ。」


「うわーーーーんっ。ヨーヘーにアホって言われたぁー。ヨーヘーの方がアホなのにぃーー。」


「おい」


聞き捨てならない台詞を叫びながら、彼女は馬車の中に引っ込んで行ってしまった。どういう意味だこらぁぁぁぁ!!

結局しっかり者のトリスがイノッチにザクレンまでも道順を説明してくれた。

イノッチはフンフン頷いているが、本当にわかっているのだろうか?

説明が終わったのか、トリスは俺の座る御者席の隣に腰を下ろし、イノッチはブヒーーッ(行っくぞー!)と高らかに声を上げて動き始める。

ザクレンに向かって進み始める俺達の馬車。

どんどんスピードが上がって・・・上がっ・・・上・・・ちょっ!?速やくないですかブラザー!!まだまだ速度は上がっていく。このジェットコースター的な感覚!御者席には勿論シートベルト等無い。サスペンションもどきが搭載されているとはいえ、そんなの無かったんやと言うくらい馬車は揺れまくる。振り落とされないように慌ててバインドで自分とトリスの身体を御者席に縛り付ける。馬車の中からオェェェっと言う声が聞こえる気がするが聞こえなかったことにしよう。俺の隣に座っているトリスもキャーキャー言いながら俺の腕にしがみついてきている。腕に感じるはずの柔らかみが実感できないなぁと考えていたら腕に爪を立てられた。とても痛いです。トリスを見ると、さっきまでキャーキャー言っていたとは思えないほどの笑顔がこちらに向けられていた。俺の腕を更に抱きこんで胸を押し当ててくるが、あばら骨がある分、二の腕の方が柔らか・・・なんでもないです。

イノッチの爆速ジェットコースターと、トリスのプレッシャーという二重の恐怖に耐えながら、俺達はザクレンに向かってとんでもねぇスピードで走り抜けるのだった。


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