99話 硬い馬車
イノッチにはその辺で遊んでてもらうように言付けて、俺達はマジカルハウスに入って馬車作りをすることにした。
「作業場が欲しいなぁ。」
マジカルハウスの使っていない3階4階で作業をしてもいいが、馬車を作るとなるとちょっと高さが低いかもしれない。今後魔道具を作る事になるだろうから、失敗による爆発の可能性も考えて、作業場は隔離出来たほうがいいよな。
よし、魔法の袋を1つ作業場用にしちゃうか。
魔力に余裕がある時にクローンで増やしておいた魔法の袋を1つ取り出した。
現在、魔法の袋を複製しても魔力に余裕ができるようになっているので、たぶん俺の魔力も増えているんだろう。やっぱステータスとかあると便利だよなー。数値化されてないからニュアンスでしか感じられないのが微妙に不便だけど、そういう世界なんだから仕方ない。
「さて、内装は・・・追々充実させるとして、とりあえず今は作業台だけあればいいかね。」
10㎥の空間に作業台だけがポツンとある空間・・・結構シュールだ。
ま、まぁ今は馬車が作れればいいからな!とりあえず作り始めるとするか!
アリアは昼食を作ってくれているし、タァマちゃんはイノッチと野性味溢れるワイルドな遊びをしているだろう。
マグロも自室に戻っていったから泳いでいるんだと思う。
ということで今回はトリスに助手として手伝って貰うことにした。前回馬車を作った時は見よう見まねで作ったのだが、所詮は素人の作った馬車に過ぎない。
俺よりは知識があるトリスに助言してもらいながら馬車を作るのだ。といっても、トリスだってそこまで詳しいわけではないので、足りない技術は素材でカバー。
なんといっても硬度最高クラスのオリハルコンを惜しむことなく使えるのだ。負荷を軽くする工夫が必要なところは、オリハルコンの部品で強引に壊れないようにしてしまう。どっかで硬すぎると逆に壊れるとか聞いた事があるが、よくわからないので気にしない事にする。壊れたら直せばいいじゃない。
揺れを減らすために、サスペンションがあると揺れが軽減されるというのは聞いたことはあるが、どういう物なのかはイマイチわからない。とりあえず車軸にバネを付けてみた。サスペンションってバネでいいんだよな?これはオリハルコンで作ると、硬すぎてバネの役割を果たさないだろうから、鉄で作成することにする。まぁ素人のなんちゃって知識によるものだから、ちゃんと機能するかわからないので乗り心地は保証しかねるな。とはいえ、どんなに揺れようが、たとえ馬車が大破しようとも、マジカルハウスの中に入っていれば揺れなんて関係ないから問題はないだろう。
それならイノッチにマジカルハウスを引っ掛けて移動すれば?って思うだろう。ほら、それだとロマンがないじゃない。異世界来たからには馬車とか乗りたいじゃない!俺は形から入りたいタイプなのだ。
そんなに拘るなら、マジカルハウスに退避なんてしないでちゃんと馬車に乗れという意見は聞かない。だって車酔いって辛いんだもの。俺はロマンの綺麗な部分だけ求めたいのだ。
メルヘンな例えだと、ペガサスに乗って空を駆けるという行為も、実際には風が凄かったり寒かったり虫が飛んできたりするわけだ。それにペガサスに鞍を付けるのはナンセンスだから、そのまま騎乗することになるだろう。バサバサ動くお馬さんから落ちないように必死にしがみ付くことになると思う。そんな現実なんて回避できるのなら回避してもいいじゃないか。
つまり何が言いたいかというと、馬車には乗りたい。でも酔うのは嫌だ。ということなのだ。
マジカルハウスの中なら揺れない。それならマジカルハウスの中に入るだろう?ほとんどの人はその選択をするはずだ。少なくとも俺はそうする。
なーんてことを言っている間に馬車がほとんど完成してしまいましたー。
襲撃に備えて硬いほうがいいだろうと作っていたら、ほとんどの部分にオリハルコンを使ってしまった。おかしい、負荷の強いところだけの予定だったのに・・・。
そのおかげで過剰ともいえる防御力を誇るようになったけどな。表面をミスリルコーティングしているから魔法攻撃にも強いぜ!
「ヨーヘーはいったい何と戦おうとしているのですか?こんな馬車どこの富豪・・・いえ、王族でも持っていませんよ。はぁ・・・私もヨーヘーのやる事に慣れてきたと思っていたのですけどね。ヨーヘーといると物の価値観が変わってしまいそうで怖いです。アリアの常識もこうやって壊していったのですよね。私は常識が壊されないように努力することにします。それでこの馬車ですが、見る人が見たらオリハルコンやミスリルだと気付きますので、無用なトラブルに巻き込まれない為にも鉄や木でコーティングしておいた方がいいですよ。」
「で、ですよねー、そうするよ。」
オリハルコンはゴルフボールだか野球ボールくらいのサイズで家が建つらしいからな。ミスリルだってオリハルコン程じゃないが、高価な品であることは間違いない。
これをアリアが見たらたぶん怒るだろうな。そしてブラックボックス行きは確実だろう。どんどんブラックボックスの魔法の袋は紛失できなくなっていくな。小さい国の国家予算くらいあるんじゃないか?大金貨だけでも約1兆円だしなぁ。まぁこれに関しては使うとアリアに怒られるし、ちょっと良心が痛むので、海賊ごっこをするしか使い道がないが・・・。
アリアはディスペルやリバースの魔法が公になるとまずいと言っていたけど、俺からしたらクローンの方がヤバイ気がする。
話がそれたな。とまぁ、そんな高価なものを使った馬車に乗っていて、そこから出てくるのが貴族でもなんでもない星4つの冒険者だったら、まず間違いなく柄の悪いお友達に遊んでもらうことになってしまうだろう。
怖い人は嫌だ。出来ればお近付きになりたくない。
俺はトリスに言われたとおり、馬車全体を木材や鉄で覆い隠し、一見は普通の馬車に見えるように作り上げた。トリスにはその間に馬車の内装や飾りつけをお願いしておいた。
途中からアリアも作業に加わり、細かい所を直しながら調整していたら、完成した頃には夕方になっていた。
時間を掛けて作った甲斐もあり、結構満足のいく馬車になったな。
半日足らずで作った馬車を時間を掛けてとか言うのはどうかとも思うが、クリエイトで作ればすぐ出来てしまうことを考えれば、俺にしては結構時間を掛けたほうだと思う。
耐久度や実際に動かした時の問題点を確認する為に、馬車を外に出してタァマちゃんと遊んでいたイノッチに声を掛けた。
「イノッチー、今度はこの馬車を引いて欲しいんだ。さっきの馬車より頑丈に作ってあるから壊れないとは思うんだけどー。」
タァマちゃんを背に乗せてやってきたイノッチは興味深そうに馬車を見つめている。そんなイノッチに苦笑しつつ、馬車を取り付けさせてもらった。
さて、これで壊れたらどうしよう。ほぼオリハルコン製の馬車だ。これで壊れたらもう浮かすしかないよね。
頑張って作ったという事もあって、さっきみたいにぶっ壊れたらショックを受けそうだ。
一緒に作ったアリアとトリスも心配そうに見ているしな。
乗り心地のデータも取りたかったので、またマグロに乗って貰おう。
「ヨ、ヨーヘー、じ、実はミーは乗り物に弱くてな。そ、それに今体調が優れないんだ。」
前回の実験が軽くトラウマになっているのだろうか?
「そうか、じゃあ御者台じゃなくて客室の方に乗っていいぞ。」
マグロは何かに驚いた表情を浮かべて俺を見ている。どうしたんだ?はよ乗れ。
「はいっ!お兄ちゃん、タァマも乗りたいですっ!」
「危ないから安全が確認出来たらねー。マグロが危なくないか確かめてくれるから、お兄ちゃんと一緒にここで見ていよう。」
「にゃぁ、わかりました。」
聞き分けよくいう事を聞いてくれたタァマちゃんは、俺と手を繋いで見る体制に入っている。
「ギョギョッ!?あ、危な・・・?え?ヨーヘー?・・え?」
一方冷や汗ダラダラのマグロは目を泳がせながら馬車と俺を交互に見ていた。
「絶対大丈夫だ。この馬車はほぼオリハルコン製だ。壊れる事はないって。・・・たぶん。」
「い、嫌だ!ミーは乗りたくないっ!一回走って貰って壊れなかったら乗るという事でいいじゃないか!今乗る必要ないじゃないかっ!」
言われてみればそうだな。乗せないほうがいいか?よく考えたらここでマグロみたいなキャラが乗ると壊れますフラグだしな。
「そうだな・・・たしかにマグロの言うとおりだ。それにこの馬車はさっきも言ったとおりオリハルコン製。価格的にいうと豪邸・・・いや城も立つかもしれない高級品だ。トリスの話だと王族だってこんな馬車は持っていないらしいし、そんな馬車に乗る第1号がマグロってのもないよな。」
「よし、入口はここだな?ミーが乗り心地をしっかりレポートしてやろうではないか!なーっはっはっはっ!」
高笑いをしながら馬車に乗り込んでいったマグロ。現金な奴だな。
「・・まぁいいか。それじゃあイノッチ。ちょっと軽く走ってみてよ。」
「ブヒーッ!」
ダッダッダッダッ
おー、いい感じじゃないか?頑丈に作っただけあって壊れる気配がまったくないな。重量も前回より重くなってるから車体が跳ねづらいのかもしれない。イノッチの負担は増えるけどな・・・。
「前回よりは安定してそうだね。」
「あれだけオリハルコンを使ったんです。これで壊れるようなら諦めることを視野に入れたほうがいいですね。」
耐久面ではたぶん問題ないと見ていいか。となると後は。
「おーいマグロー!乗り心地はどうだー?」
「うむ、これはなかなかいい馬車だね!以前乗った馬車に比べて揺れが少ないような気がするよっ!」
あのなんちゃってサスペンションの効果が出ているのだろうか?単純に重いから揺れないだけかもしれないが。
馬車は順調のようだし、最終試験に入りますか。
「イノッチーーー!マックススッピィィィィィドォォォォッッッ!!ゴォォォォッッッ!!」
「ブモォォーーーーーッ!!」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨!!!
「ギョッ!?はやっ・・・ちょっ・・待っ・・ギョギョォォォォォオオォォーーーーー・・・・!!」
おー・・・スゲー速ぇぇ・・・もうあんな所まで行っちゃったよ。
「イノッチって凄い速いんだねー。あ、戻ってくる。」
・・・゛ドドドドドド┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨!!!
「・・・ぁぁぁぁああああっ!!たぁぁぁぁぁぁぁぁすけてくれぇぇぇぇぇlぇぇぇ!!」
マグロの願いもイノッチには届かず、俺達もあの暴走馬車に対応するのは嫌だったので、仕方無しにマグロの声はスルーした。まぁマグロだし、どうせ大丈夫だろう。乗ってるのが他の人ならなんとか助けようと試みるとは思うけどね。
イノッチは壊れない馬車にテンションが上がってるのか止まる気配がまったく無い。夕日で赤く染まった世界にマグロの悲鳴が虚しく響き渡り、それは太陽が沈み、暗くなっても止まる事はなかった。
マグロのことはまぁいいとして、馬車は問題なさそうだし、明日からの移動はこれで楽になるな。
「よし!あれなら大丈夫そうだね。もう暗いし、今日はここで休んでザクレンには明日になったら向かおうか。」
「賛成ー!皆馬車作りに夢中になってたから、お昼ご飯は軽く摘まんだ程度だったでしょう?だから私お腹空いちゃったよー。」
「だなー。俺も馬車がうまく出来て安心したからか急にお腹空いてきたよ。タァマちゃん、今日はカレーにしよっか。」
「にゃあっ!!カレー大好きですっ!わーい♪わーい♪」
「早速作るかー。アリア、お米炊いてくれる?あ、それとも今日はナンで食べてみる?」
「ナンって私食べた事ないなー。パンみたいなやつなんだっけ?」
「うん、カリって食感と、モチって食感が味わえるよ。」
「ん?カリっとしててモチっともしてるの?どんなのだろう?」
「うーん、食べればわかるよ。というわけで今日はナンを作ってみようと思う。一回タンドール窯を使ってナンを焼いてみたかったんだよねー。」
そうなると、キッチンにタンドール窯を造らないといけないな。
ナンの作り方に関しては、教えて貰ったことがあるから大丈夫だ。大学の頃によく通っていたインド料理専門店が、調理場を硝子越しに公開している店がだったので、硝子の向こう側で働くインド人っぽい人が、ナンやタンドリーチキンを作る様子を、彼が照れるくらい見させてもらった。なので作り方はバッチリだ。その事がきっかけで彼と仲良くなって、たまに一緒に遊んだりしたんだよなぁ。ワンサ君元気にしてるかなぁ?
ちなみに仲良くなってから教えて貰ったことだけど、彼はインド人じゃなくてスリランカ人だった。どうでもいいですね。はい。
そのワンサ君からナン生地の作り方も教えて貰ったからタンドール窯があれば完全再現できるだろう。
「あの、ヨーヘー?トロさんはあのままでいいんですか?」
「ん?あぁ、イノッチも満足したら止まるだろうから、あのままでいいんじゃないかな。殺しても死なない奴だし、心配いらないと思うけど。」
「いえ、折角綺麗にした馬車の中で吐かれたら嫌だなぁと思いまして。」
マグロの心配かと思いきや馬車の心配でした。トリスは心配そうに馬車の見つめるが、あれを止めるのは骨が折れる。物理的な意味で。
マグロの忍耐力に期待するしかない。頑張れよ。
俺は馬車に向かってグッドラックと呟き、サムズアップしてからマジカルハウス内に移動した。




