第二十三話「いっちゃん、書道部に入る」
横山栄子と友達になった私は、放課後、二人でクラブ探しと称して、ブラブラと文化部の教室を見て回っていた。
どこにも入る気はなかったのだが、ある日、掲示板に飾られた「見事な書」が私の目に飛び込んできた。
横山栄子と友達になった私は、学校が楽しくなった。
ある日、
「いっちゃん、何かクラブ(部活)には入らんの?」
と栄子が聞いてきた。
「うん、私、運動苦手じゃし、家の手伝いもせんといけんけぇ、クラブには入れんわ。そろばんもあるし……」
「でも、文化系のクラブなら毎日じゃないし、何かできるんじゃないん?」
「ほうじゃねぇ……」
本当はどこかのクラブに入りたい気持ちもあった。クラブに入れば家に帰る時間も遅くなる。その分、手伝いの時間も少なくなる(もっともこなす量は変わらないので急いでやることになるだけなのだが)ので何かやりたい気持ちもあった。
栄子は栄子で、一人で何かやるタイプではなく、かといって、養女という身の上のため、私と同じように早く家に帰りたいとは思っていなかった。
そんな私たちは、放課後、クラブ探しと称して、ブラブラと文化部の教室を見て回っていた。
どこにも入る気はなかったので、二人でおしゃべりするための口実のようなものであった。
とはいえ、ずっとそんなことをしていれば、家で伯母に
「最近、遅いが、なんかクラブでもしとるんか?」
と言われるのは必然。
「うん、何か入ろうと思って見て回っている」
とその時は言い訳したが、流石にずっとは無理だろうと思い、何かに入ろうと思うようになった。
そんなある日、二年生の教室の外の掲示板に見事な書が飾られているのが目に入った。
私は、それを一目見て、
(うわぁ、これ、すごい。私もこんな字書きたい!)
と思ってしまった。
これまで、書を見たことは何回もあった。でも、書きたいと思ったことは一度もなかった。それが、この書を見た途端に私の中で何かが弾けたのだ。
「この書、好きなん?」
急に声をかけてきた子がいた。
「うん。これ、いいのう思うて。私もこんな字、書きたいのう」
「じゃ、書道部に入れば?」
「え?」
振り向くとそこに一人の女子が私を見てニコッと微笑んだ。
「私、畠中むつ美。この書はね、私のお父さんが書いたものなの」
「え、ほんま?」
「ほんまよ。私のお父さん、書道部の顧問しているの。よかったら、入らない?」
「え、私が入ってもいいん?」
「もちろんよ。そのために見て回りょったんじゃろ?」
「そうじゃけど……」
「いっちゃん、ええんじゃない? うちも一緒に入るけえ、一緒に習おう」
横にいた栄子がそう言った。
私は、
「よし、じゃ、入ろう。でも、書道部ってそれ用の道具がいるんよね?」
「ううん、学校の教材で使うやつでいいんよ。特別な筆とか使う時は、部で用意するけぇ、何にも持たんでええよ」
「じゃ、入る」
「よし、決まった。じゃあ、いっちゃん、栄子、よろしくね」
「え、なんで私らの名前知っとるん?」
と、むつ美と栄子は顔を見合わせて、
「実は、栄子とは同じ小学校じゃったけぇ、いっちゃんのことは聞いとったんよ」
「いっちゃん、ごめんね。うち、むつ美から書道部に誘われとったんじゃけど、一人じゃよう入らんし、いっちゃん、誘ってみよう思うて、連れてきたんよ」
「ほうじゃったん。なら、そう言ってくれたらええのに」
「ごめんね」
「ええんよ。私、この書の形、好きじゃわぁ。習ってみたい」
「よっしゃ、そしたら、うちがお父さんに頼んであげる。書道部は週に三回じゃけえね」
とむつ美が言った。
「うん、でも私、そろばんがあるけぇ、火曜と金曜は来れんよ」
「大丈夫、お父さんが来るのは、月曜と木曜じゃけえ。水曜もやっとるけど、国語の大川先生が代わりに見てくれとる」
「ああ、あの女の先生」
「そう。じゃけえ、ちょうどいい。明日から来てな」
私と栄子は顔を見合わせて、小さくお互いに頷くと、
「わかった。明日くる」
と二人で言った。
こうして、私の書道部生活が始まった。
(つづく)
運命の書との出会い。
墨の香りと、真っ白な紙に向かう静かな時間。
そろばんに続き、いっちゃんの中に新しい世界が広がりそうですね。
明日もお楽しみに。




