第三十八話「いっちゃん、上山バスケットを辞める」
旅館の部屋に響く怒声。
窮地に立たされたセツ子伯母さんが口にしたのは……。
「伯父さん……」
振り向いた私は呆然とした。
そこに立っていたのは、俊雄伯父さんだった。
「あなた、どうしてここへ?」
セツ子伯母さんがそういうと、
「お前が衣津子とコソコソやってるからおかしいと思って、社員に聞いたら、お前から、あの運転手の居所を聞かれたっていうんで、追いかけてきたんじゃ。そうか、お前、ワシと別れたいんか」
伯母さんは一瞬、目を逸らしてから言った。
「いや、あの、私は別れたいんじゃないのよ。ここに連れてきてくれたのはいっちゃんなの。全部、いっちゃんが仕組んだ事なんよ」
「衣津子、それはほんまのことか?」
「え? いや、それは伯母さんに……」
と、伯父さんの後ろでおばさんが、「しー!」というポーズと両手を合わせて「ごめん」ポーズをした。
「こがぁなことをするんなら、もう上山には置いとけん。馨の娘じゃ思うて、置いとるのに、恩を仇で返すとはこの事じゃ。衣津子、お前は出てゆけ。まぁ、そういうても荷物もあるから、一回、成羽に帰って荷物をまとめてから出てけ。わかったな!」
伯父さんの迫力に圧倒され、私は何も言えなかった。
それから、私と伯母さんは伯父さんに連れられて、成羽に帰った。
何も知らない伝姉が
「いっちゃん、おかえり。大阪はどうじゃったな?」
と聞くので、
「伝姉ちゃん、ごめん。私、ここから出てく」
と言った。
伝姉は、一瞬、呆気に取られた顔して、
「どして? 何があったん?」
と聞いてきた。
私は大阪でのいきさつをかいつまんで話した。
「じゃから出てくの」
「……わかったけど、でも、どこに行くんじゃ、コノブ伯母さんのとこか?」
「ううん、アテがあるので大阪に出てみよう、思うとる」
「大阪? なんでアテがあるん?」
「いとこの善昭ちゃんに大阪で会うたんじゃ。それで、仕事したいなら紹介するって言ってくれたんよ」
「それ、信用してええん?」
「大丈夫じゃ思う。善昭ちゃんは、三男のリョウちゃんみたいな意地悪は言わんし、仕事には誠実じゃと思うから」
「いっちゃんがそういうんなら、まちげえねえじゃろ。わかった。ほんなら行ってき」
「でも、伝姉ちゃん、一人になるよ」
「心配せんでええが。前も一人じゃったんじゃけ。うちはなんとでもするがな」
「……伝姉ちゃん」
私は伝姉に抱きついて泣いた。
こうして私は、成羽を後に大阪に出ることになった。
(つづく)
「うちはなんとでもするがな」
悲しみを堪え、いっちゃんの背中を押した伝姉の言葉。
理不尽な汚名を着せられ、住む場所も仕事も失ったいっちゃん。
ーーしかしその瞳は、 次なる舞台を見つめていました。
明日もお楽しみに。




