第三十二話「いっちゃん、上山バスケットへ手伝いに行く」
伯母さんのもとを離れ、いっちゃんが次に向かったのは……。
伯母さんの圧力に負け、高校を中退し、G社を辞めた私に、成羽の伯父さんから手紙が来た。
読んでみると、上山バスケットという会社を作ったが、人手が足りんから手伝いに来いということだった。それに伝姉も会いたがってるとも書いてあった。
(伝姉ちゃん……。そうじゃ、伝姉ちゃんに会いたい)
そう思った私は、伯父さんのもとへ行くことにした。
「行かんでええ。苦労するだけじゃ、ここにおれ」
と伯母さんは言ったが、私は、
「伝姉ちゃんも一人で大変みたいだし、私が行かないと」
と言って、伯母さんを説得した。伯母さんは渋々、了承してくれた。
私は伯母さんには悪いけど、ここにいたら何もできないと思っていたので
半分、渡りに船の気持ちもあった。私は少しして、一人、岡山行きの汽車に乗った。
そして、倉敷で伯備線に乗り換える。山本家を飛び出した時は、乗り間違えて門司まで行ってしまったが、今回は大丈夫。しかし、乗り換えの時は少し緊張した。成羽町には最寄の駅がなく隣の備中高梁の駅が一番近い駅だった。
高梁の駅に着くと伝姉が迎えにきてくれていた。
「いっちゃん、久しぶりじゃが」
「伝姉ちゃん!」
私は嬉しくなって伝姉に飛びついた。
「よう来たなぁ」
「うん」
私と伝姉は俊雄伯父さんのうちまで歩いて行った。
歩きながら、
「仕事はどうなん?」
と聞くと、
「忙しいでぇ。次から次にやることがあるんじゃもの。でも、いっちゃんが来てくれてよかった。計算はいっちゃんの方ができるから、任せるけぇよお」
「ええよ。ところでお給料とかはもらいよるん?」
「そんなものはなぁよ。ご飯はしっかり食べさせてもらえるけど」
「そうなんかぁ」
私はこれまで働いてお金をもらっていたので、少しがっかりしたが、
姉一人で働かせておくわけにはいかないと思い、
「ご飯、食べさせてくれるんならいいね」
と言った。
伝姉は少し苦笑いのような笑みを浮かべたが、それでも
「いっちゃんがおってくれりゃあ、うれしい」
と言ってくれた。
家に着くと、伯父さんの奥さんであるセツ子伯母さんが迎えてくれた。
「よう来てくれたね」
と言って中に入れてもらえた。この先、私はこの伯母さんに振り回されることになるのだが、この時はまだ、そんなことを知る由もなかった。
その日から私は伝姉と同じ部屋に住み込むことになった。
仕事はバスケットの折り目をつけたり、取っ手や本体の加工、組み立てといった内容で、その日の生産状況や休みの人の具合によっていろんなところをやった。
日曜日は休日だが、生産が追いつかないため、日曜日でも晩まで働いた。
伝姉がこれを一人でやっていたかと思うと涙が出た。
(つづく)
休みもなく、給料も出ない。
ただ「ご飯を食べさせてもらえる」というだけで、身を粉にして働く姉妹。
自らの実力で給料を手にしていた、いっちゃんにとって、それはどれほど切ない逆戻りだったことでしょう。
はてさて、運命は、この先、どこへと向かうのでしょうか?
明日もお楽しみに。




