第二十九話「いっちゃん、そろばん3級の資格を獲る」
「表事務所は、顔が綺麗じゃないと……」
その言葉に、いっちゃんは下を向く代わりに、自らの指先に全ての想いを込めました。
誰にも文句を言わせない「実力」という名の鎧をまとうために。
工務事務所での仕事が始まった。
計算に追われる日々だったが、そろばんの技術が私を助けてくれた。
「表事務所は顔が綺麗じゃないと」
その言葉は、ずっと私の頭に残っていた。でも、
「実力なら、誰にも負けん」
私はその思いをより強くしていた。この工場でそろばん3級の資格を持つ社員は、たった一人しかいない。
ならば私が取ろう。
そう決めた。
もらった給料から工面して、誰に頼るでもなく、そろばん教室に通った。畑で働いた日々も、伯母の厳しい叱責も、すべて「負けん気」を鍛えてくれたのだと思う。
そしてついに、私はそろばん3級の資格を取った。
「いっちゃん、頑張るね」
同僚からそう声をかけられた時、胸がじんわりと熱くなった。誰かに認められることが、こんなにも嬉しいものだっただろうか。
――容姿ではかなわんでも、努力なら負けん。そうやって私は、少しずつ自分の居場所をつくっていった。
(つづく)
パチパチと弾けるそろばんの音。
手にした「3級」の資格。
それは、どんな美貌よりも輝く、彼女だけの勲章でした。
少しずつ、けれど確実に自分の居場所を広げてゆくいっちゃん。
次はどんな「新しい一秒」が待っているのでしょうか。
明日もお楽しみに。




