第二十七話「いっちゃん、長谷川一夫にハマる」
昭和の銀幕を彩った、不世出のスター・長谷川一夫。
工場の厳しい労働の日々の中で、いっちゃんが出会ったのは、現実を忘れさせてくれるほどの「眩い光」でした。
G社に勤めているとき、映画を見に行った。
長谷川一夫主演の「花の三度笠」というお正月映画だった。
私はスクリーンに映る長谷川一夫のカッコ良さに一目でファンになってしまった。映画が終わると、花の三度笠のパンフレットとブロマイドを買って帰った。
私は会社の寮に入っていた。二人で一部屋を使っており、2年前に入社した先輩と一緒に住んでいた。私は自分の机に長谷川一夫のブロマイドを飾って何度も見返していた。
それを見つけた先輩が、
「いっちゃん、長谷川一夫が好きなんだ」と言って、ちょくちょく彼のブロマイドをくれるようになった。
私はますます長谷川一夫が好きになり、後援会(今でいうファンクラブ)にも入った。でも自分の給料はわかっていたし、そこまで”貢ぐ”ことはなかった。
それでも、給料がなくても生きていける自信はあったので、他の人よりは、やや入れ込んでいたかもしれない。
気づけば、長谷川一夫のブロマイドが100枚を超えていた。
半年後、大阪で長谷川一夫誕生日パーティーがあると聞き、応募して出かけ、参加した。長谷川一夫とファンのみんなで写った写真は私の宝物となった。
今でも、私の部屋には長谷川一夫のブロマイドが写真立てに飾ってある。
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「ポートレート」(2番)
憧れることを
はじめて知った日から
日常の全てが
輝いて見えた
ターンテーブルに レコードを置いて
針をゆっくり 落とす
時代の音が 聞こえたら
始まる青春 新しい一秒
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と、かっこいいことを書いたが、実は、会社に黙って出てしまったため、「上山がいない」と大騒ぎになった。帰ってから、課長にこっぴどく叱られたが、それまで真面目に働いていたので、この時だけは許ししてもらえた。
私は平謝りに謝ったが、寮に帰ってから先輩に
「やっちゃった!」
と言って、舌を出した。
先輩は、
「いっちゃん、真面目だと思ってたのに呆れた。でも、もう二度としたらダメよ」
と優しく諭してくれた。
私は、この先輩のためにも、もう二度と無断で出かかることはやめようと思いつつも、
「先輩にだけ言って行くなら、いいでしょ?」
と言って、また怒られてしまった。
(つづく)
100枚を超えるブロマイドと、大阪での誕生会。
かつて宝物だった写真は、今も彼女の部屋で、あの頃の情熱を静かに語り続けています。
さて、仕事に趣味に充実してきた、いっちゃん。
次はどんな「新しい世界」へ誘われるのでしょうか。
明日もお楽しみに。




