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諸々の短編集  作者: 沖元道
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水晶玉

 路上生活者となっている十年後の自分の惨めな姿が映しだされている水晶玉をじっと見つめている若者に、魔女が声をかけた。

「このままだらけた生活をしているとこうなるが、未来を変えることはできる。自分の努力次第でな」

 若者はじっと考え込んでいたが、突然魔女に飛びかかり首を強く絞め続けた。

「この水晶玉さえあれば、未来は思いのままだ」

 若者はそうつぶやくと、息をしていない魔女を置き去りにして水晶玉を持ち帰った。


 その日以降、若者は生まれ変わったかのようにこれまでにない努力を始めた。水晶玉に映しだされる将来の株価の変動を一日刻みに丹念に確認し、値上がりする前日に株を買い、値下がりする前日に株を売るということを繰り返した。

 そして、一年後にはとてつもない大金持ちになっていた。

 若者は連日遊び歩き、金を目当てに寄って来る美女たちに囲まれながら贅沢な食べ物と高級な酒に明け暮れる毎日を過ごしていた。

「あの魔女の言った通り、未来を変えることはできる。自分の努力次第で」

 若者はそうつぶやきながら金庫から水晶玉を取り出し、シルクの布で磨いた。


 美女たちと遊ぶのにも飽きた若者は、一人の女性を選んで結婚した。容姿が美しいのはもちろんだが、料理は上手く、家事も手抜きをせず、夜の営みも情熱的で、何もかもが最高の女性だ。

――豪勢な暮らしを何百年でも続けられるくらいの金は貯まったし、妻との生活に何の不満もない……。

 若者は、面倒くさくなった株取引をやめ、金庫の中にしまいこんだ水晶玉を見ることもなくなっていた。


 ある日、若者は久しぶりに金庫の奥から水晶玉を取り出し、自分の一年後の将来を映しだしてみた。

 水晶玉の中に映しだされたのは墓だった。

――どういうことだ! 何があったのだ?

 半年後を見ても一か月後を見ても映るのは同じ墓だ。

 緊張と恐怖で震え始めた若者は、三十日後、二十九日後と、一日ずつ前にずらしながら、近い将来の自分に何が起こるのか確かめようとしている。

――何かとんでもないことが起こったのだ……それを避けなければ……。

 一週間後の自分を映しだすと、そこでは葬儀が行われていた。

 若者は緊張で青ざめながら水晶玉を見つめている。

 二日後を見ると、港の海中から引き揚げられた車の中でぐったりとしている自分の姿があり、周囲には警察官が数名いる。

 急いで明日の自分を映しだすと――

 自分の乗った車が港の岸壁から海中に転落していった。

――何があったのだ……。

 その時、急に強い眠気に襲われた若者は、そのまま深い眠りに落ちた。


 一時間後、部屋に入ってきた妻は、夫が深い寝息を立てていることを確かめると、若い男を招き入れた。

「計画通り眠らせたわ。あとは頼むわよ」

「任せておけ。事故を装って片づける」

「この薄気味の悪い水晶玉も一緒に片づけて」

「分かった」

「これであなたと幸せに暮らせるわね」

 妻はそう言うと嬉しそうに微笑んで、若い男にギュッと抱きついた。



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