79 脱出
「この若者は一体何者です」
ギブソン侯爵がレオのことを尋ねてくる。
「みんなも出会ったことがあるだろうが、ここには我々が元いた世界以外の人々が囚われているだろう。あの魔物は我々の世界だけでなく他の世界も襲っているんだ。レオのいた世界も、魔物に襲われていた」
レオはクリフォードの説明に合わせて、軽く会釈をして見せる。
そこへ、様子を見ていた小鈴がそっと近づいてきた。小鈴にはわからない言葉をしゃべるクリフォードが別の人間に見えた。
怖くなった小鈴はクリフォードの袖をついっと軽く引っ張る。
「どうしたの?」
優しく言葉を返されて、小鈴はほっとする。ごめんなさい、と小声で謝った。
「ごめんな、もうちょっと待ってて」
小鈴に断りを入れて、もう一度ガウェインの人達に向き合う。
「それで、なんとかここから脱出する方法を探りたいんだ」
クリフォードの言葉にガウェインの人々は自然と目を伏せる。それが見つかっていれば、彼らはここで苦難を強いられることもなかったのだ。
「まあ、コツがいるからちょっと難しいよな」
レオの言葉に、クリフォードは違和感を覚えて首をかしげる。
「レオは出方を知ってるのか?」
「そりゃそうよ。出れなきゃ食料も弾も尽きてしまう」
それを聞いてみんなが一様に驚く。
レオの銃の弾は中身の魔法を込め直せば再利用できるが、レオ自身にはそれができない。弾を使い切れば、戦う術がなくなってしまう。
「レオ、その方法を教えてくれ! 頼む!」
クリフォードがバッと頭を下げる。王子であるクリフォードが頭を下げることにガウェインの人々は悲鳴のような声をあげた。
「いいよ。それくらい」
「ありがとう!」
「うわー、顔がいい!」
満面の笑みで礼を言うクリフォードに眩しさを感じてレオは思わず顔をしかめる。失礼極まりない態度にガウェインの人々は眉を潜める。
だが、クリフォードが身分を明かしてなかったことなどを考慮して非難するのをぐっと堪える。
他の場所で待機していた人も集めて、元ガウェインの住人全員でレオの話を聞く。
「見つけやすいのは、自分が最初に来た場所だな」
それを聞いて、彼らが最初に来た地点に移動する。
「ガウェインの人は大体同じ場所に出てきたのか?」
「少しのズレはありますが……」
あちらの国の人も同じような場所に固まっていた。そういうものなんだろうか。
「思い入れの強い物、戻る場所にゆかりのある物を所持していると戻りやすいな。戻りたい場所にそれと対になるものがあると、より戻りやすい」
彼らの所持品を確認する。生き残っている人は武芸に長けた人が多いので剣や防具などを持っている。農民や平民の人は大体が着の身着のままのような有り様だ。
「私はこれだろうか」
ギブソン侯爵はロケットペンダントを持っていた。中には婦人と娘の姿絵が入っている。
「娘もこれと似たような物は持っている」
「いいっすねー」
ギブソン侯爵の身分を知らないレオの口調は軽い。
「で、戻りたい場所を念じながら、目を凝らす。なにか想像しやすい目印的なものがあるとやりやすいかも。とにかく、見えてくるまで集中集中」
手本を示すために、レオは目を凝らす。クリフォードは目を凝らすレオの様子を見ていると、なにか魔力の流れのようなものを感じた。魔法は使えないらしいが、才能の片鱗はあると思われる。
「あれは……あれに見えるは暁のクリフォード城!」
「え!?」
クリフォード城とはクリフォードの名前の由来になった人物が建てたとされる城である。
その城はクリフォードが産まれて名付けられたときに、名を呼ぶことを憚られるようになったため、今では暁城と呼ばれている。だが、年配の人などに馴染みがあるのはかつての名前である。
その城の姿を見たのは、ギブソン侯爵である。彼は恐らくここにいる人間の中で、クリフォードを除くと一番魔力が高い。さらに思い入れの強い所持品もある。
彼が活路を見出だすのは当然と思えた。
「見えたら、ひたすら攻撃攻撃」
レオが銃を構える。
「物理? 魔法?」
「どっちでもいいよ!」
どっちでもと言われても、銃や魔法の軌道に入ると危ない。クリフォードは魔法を出す。ギブソン侯爵も魔法を撃った。魔法を使えない人は石などを探してそれを投げる。
攻撃を出しながら、クリフォードはレオに問う。
「レオはこれをどうやって見つけたんだ?」
「ただの偶然!」
攻撃にかき消されないように声を張り上げる。
「最初、ここに来たときに混乱して! 見えない壁みたいなのをとにかく攻撃しまくったら! 穴が開いたんだ!」
なるほど、とうなずく。
「とにかく、撃てえええええ!」
攻撃を重ねて重ねて、ついに穴は開いた。
「帰れるぞ!」
力の弱い人を先に逃がす。ギブソン侯爵は促されたが、最後でいいと固辞した。
「クリフォード殿下、レオ殿、助けていただきありがとうございます」
「うん。みんな元気で」
「……クリフォード殿下?」
クリフォードは帰っていく人々の輪から外れていく。
「お待ちください! どちらへ行かれますか!」
「まだ向こうにも人がいるんだ。それに、帰りを待っててくれる人がいる。だから、まだそちらへは戻れない。みんな、また会おう!」
「クリフォード殿下!」
「侯爵、お早く! また閉じてしまいます!」
去っていくクリフォードを見送りながら、彼らは元の世界へと戻っていった。




