3 劇場建設計画!
『仲の良い三匹兄弟の子豚はいい年齢になったので独り立ちをすることになりました。
長女、もとい次男は外装と内装にこだわるタイプで、耐久性の面は考慮しないタイプでした。
「やっぱりインテリアとか、風水にこだわりたいわね。だから、資材はコスパのいい藁でいいわ」
次男の用意したおしゃれなメイク台ごと、狼が用意した巨大扇風機によって吹き飛ばされてしまいました。
「あ〜!私のこだわりのメイクセット〜!」
長男は男前にすでに用意してあった資材を兄弟に分け与え、自分で山に木をこりに行きました。
「DIYはやったことがないんだが、根性でどうにかなるだろ。…意外といい運動になるな」
そして、素人にしては立派にログハウスを組み立てた長男でしたが、狼が発注した作業員によって解体されてしまいました。
「行政を持ち込むのは反則じゃないか!?」
甘やかされ甘ったれ三男はそんな兄弟の姿を見てドヤ顔で指パッチンすると、スタッフさんが大豪邸を建築してくれました。
「これが虹野式一夜城です!」
虹野家に逆らうつもりのない狼は三男のペットになり、4人で楽しく暮らしましたとさ』
「面白いが内輪受けなのは確かだな」
『豪華なソファ』という紙が貼り付けてあるパイプ椅子で足を組んだ燿亮が苦笑いして言った。
その言葉を褒め言葉と受け取っていいのかどうか微妙だな、と考えつつも素直に嬉しいので中途半端に照れる透。
とりあえず稽古でも自分の憧れていたお芝居ができて満足そうな奏那。
そんな3人を見て真琴は新しい世界に来たことをじわじわと実感してきていた。
「…なぁ、奏那。何か目標を作らないか?」
神妙な耀亮の提案にこれからこの劇団にどんな未来が待ち受けるのかと期待して奏那がどう答えるのか見守る真琴、透。
奏那の返事は意外なものだった。
「そうですね。今、僕らのための劇場を建設中なので、その劇場が出来次第”柿落とし”を行います!」
こけら落とし(こけらおとし、杮落とし)は、新築または改築した劇場や映画館で初めて行われる興行のことである。(Wikipediaより)
「ただ、”杮落し”の意味としては一般のお客さんを入れるのが本来の意味ですが、最初は虹野グループの社員を呼んでの身内公演にしようと思っています!」
奏那が劇団の近い未来をちゃんと考えて動いていることに3人は感心を覚えた。
更に、透は専用劇場が建設中なことにも眼鏡がずれるほど驚いていたが、耀亮と真琴は”そこ”はスルーした。
「奏那。劇場の完成予定図とかはあるのか?最初から数万人規模の劇場を建てるつもりじゃないだろうな?」
耀亮の疑問に「ちょっと待っててください」と言い、レッスンルームの端っこに置いてある奏那のリュック(おそらく高級品)から紙らしくものを丁寧に取り出す奏那。
その紙をレッスンルームの机の上に丁寧に開く。
こういう細かい所作はいいところ坊ちゃんだな、と3人は感じるのだった。
開いた紙には大きな複合型施設の完成予想図が描かれていた。
「奏那、俺らにこんな立派な劇場は必要ないぞ。現実を見ろ」
苦虫を噛み潰すように、そして自分のプライドを傷つけるように耀亮が口にする。
「耀亮さん、先に説明を聞いてください。これは虹野グループによる行政も巻き込んだ町の再発展プロジェクトです。新しい駅を作り、そこにホテルや劇場を建てるというプロジェクトなのですが。僕ら虹野エンターテイメント名義の建物は劇場ですね。この劇場も一つの大きな劇場というわけではなく映画館のように大劇場、中劇場、小劇場が何個か入っている施設になります。このうちの小劇場の一つが僕らの専用劇場になります!」
矢継ぎ早の奏那の説明に耀亮も真琴も透も半分ほどしか理解できていないが気圧されて納得する。
「それで、その小劇場の最大収容人数は?」
絞るように耀亮が出した質問にも奏那は満面の笑みで答える
「500人です!」
めちゃくちゃ妥当な数字に、奏那に感心をするとともに、本当に奏那の考えたことなのか?という疑問も湧くのであった。
「ね!」
奏那が呼びかけた相手はこのビルにいるスタッフさんや事務員さんだった。
そうか、奏那の参謀はこの人たちか。と納得する耀亮であった。
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「それで?透くんはこのビルに住むことになったわけね?」
耀亮と奏那が劇場の詳しい内容について改めて事務員さんから説明を聞きにいってしまったので、現在レッスンルームでは真琴と透の二人きりである。
透は家賃滞納などの少なくはない借金があったので、それを虹野エンターテイメントが全て肩代わりしたらしい。
そして透はこのビルの住居スペースに引っ越すことになった。
このビルの住居スペースは一部屋2LDKであり、透の今まで住んでたアパートなどより広く、透は持て余し気味である。
怖いことにはその部屋の家賃は給料天引きらしい。
などなど、透は真琴に説明するが
「その件で一つ謎なことがあって…」
昨日引っ越しが終わり事務員さんから説明されたことは、借金その他諸々と、今月分の生活費を先払いする代わりにその金額を数ヶ月先分まで分割して天引きされるというものだった。
無論、天引き後の給料も生活に必要な金額を残す必要があるため、数ヶ月後先どころか、数年先までを覚悟していたのだが…
「半年分で終わりらしいんですよねぇ…今月末の給料明細が怖いです」
この場合の怖いというのは生活できないくらい低い金額という意味ではない。
心臓が飛び出るほどの見たことない金額が振り込まれているのではないか、という恐怖だ。
「あれ?募集チラシにはこの地域の最低賃金しか書いてなかったわよね?」
真琴が至極当然の疑問を投げかけると
「真琴サン。募集の際の金額は実際に払う金額よりも多く書くと違法になりますが、実際に払う金額より少なく書いても違法にならないのですよ。あと、ここを見てください」
透が自分の鞄からくしゃくしゃになった募集のチラシを取り出し、引き伸ばしながら見せる
「ほらここ。『ついてもらった役職によっては、この金額より高くなる可能性があります』とちっちゃく記載されています」
真琴は「なるほどねぇ」としか言わなかった。
実は耀亮と真琴も給料については事務員さんたちと面談済みである。
二人とも給料は据え置き。
耀亮は一流芸能人として過ごしていた生活のレベルを落とすことなく、贅沢はできずに生活には困らないレベルで貰っていたし、真琴はそもそも浪費家ではなかったので、趣味に湯水のように使えるほどの額である。
お金の話が自分にも回ってくると困るな、と思った真琴は話題を変えようとする。
なんとなく透を見ると真琴はとあることに気がついた。
「そういえば透くん、あなた綺麗な顔をしてるわね。まぁ、あの奏那くんが役者に選んでるくらいだから当然なのだけど。ちょっとメイクをさせてくれないかしら?」
真琴の急な申し出に透はあたふたしながら
「ぼ、僕がですか?真琴サン、大丈夫ですか?今までかっこいいとか言われたことないデスよ?」
感情が昂ると変にカタコトになる透であった。
「ほら、ちょっとだけだから」
と、レッスンルームの机を鏡ばりの面にくっつけるとメイク台として使えるようになった。
透の前髪をピンでとめ、さささと手際の良さでメイクをすると別人のように仕上がった。
いや、今まで血色が悪く、手入れもされていなかっただけで透の本来の顔を取り戻しただけなのだが。
「こんな感じね。どう?自信ついた?」
「あ、ありがとうございます。へへ。カッコよくなりました」
実はメイクが始まったくらいから二人の様子を眺めていた耀亮と奏那も二人が仲良しになったのを見てほっこりするのでした。




