2 スタッフ募集開始です!
耀亮が座長に任命されてからの1週間、耀亮はジムで汗をかいて、レッスンルームで発生練習を行い、大浴場で汗を流す。
そんな生活を続けていた。
奏那は月・水・金の午後以外は耀亮と共に過ごしていたが、その3日だけは事務所で仕事をしていたらしい。
火曜日の朝、耀亮がレッスンルームの広さに慣れないなと思いつつストレッチをしていると、奏那がリクルートスーツで満面の笑みで入室してきた。
「耀亮さん!見てください!これ!チラシとポスターができました!」
奏那のキラキラとしたスーツに、また高級スーツなんだろうな、と苦虫を噛み潰しそうになったが、眉を顰めるだけで、奏那が持っているチラシに目を向けた。
そのチラシはここの事務員が優秀だと証明するには十分なデザインなチラシであった。
急募・劇団スタッフ募集
照明・音響・脚本家 その他もろもろ大募集
経験・未経験問いません
興味がある方は以下のご連絡先まで
耀亮はそのチラシをいい出来だと思ったので、素直に感想として
「まぁ、いいんじゃないか」
と言った。
この言葉が劇団代表者・座長紫雲耀亮の承認とされていることなど耀亮は知る由もないのであった。
そして、このチラシが近隣の大学に配られたことで劇団「虹の島ドリームス」の物語は加速していくのであった。
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常盤 真琴はオネエである。
いや、よくオネエに間違えられる男性である。
恋愛にあまり興味を見せず、趣味はメイク。
顔も中性的なイケメンである。
そして何より紫雲耀亮の大ファンである。
それはオネエに間違われても仕方がない。
メイク技術、耀亮のファンであるということ、そして何より男性であることが功を奏してか、耀亮が役者を辞めてモデルになってから、彼の専属メイクを務め上げていた。
大好きな耀亮の専属メイク。
真琴の人生は順調そのものであった。
耀亮がいきなりいなくなるまでは。
なんでも現在のオーナーの弟が新しい部署を立ち上げたためにそちらに異動させられたらしい。
それなら私も連れて行ってくれればよかったのに!
と、この数日生きた心地がしなかったが、昨日、ようやく耀亮から連絡が入ったのである!
そしてたどり着いたのがこのビルであるのだが、新規事業に対して用意するのがこのビルである。
相変わらずこの会社の人間はおかしなことをする、と心の中でぼやきつつビルに入る。
受付のスタッフさんに声をかけるとレッスンルームにいくように案内された。
レッスンルームは何処だよと、心の中でぼやいて振り返ってみればそこがレッスンルームであった。
入り口から中をのぞいてみれば、夢の中でも見るほどだった耀亮の姿があった。
「耀亮〜♡」
と抱きついてみたところ、華麗に避けられた。
これは二人きりでのお約束のじゃれ合いである。
ただ、今回は二人きりではなかったようだが。
「あれ?耀亮さんの彼女ですか?」
のほほんとした顔のイケメンおぼっちゃま。
これが噂のオーナーの弟か。
私が耀亮の彼女だと?見る目あるな。
と真琴が嬉しさのあまりニヤニヤしながら奏那を観察してると
「オネエって言われると怒る割に、俺の彼女って言われて喜ぶな。それから奏那、こいつは男だ」
ジト目になる真琴、フリーズする奏那。その様子を見てため息をつく耀亮であった。
落ち着きを取り戻した奏那と真琴にこれまでの経緯を説明すると、真琴は納得したようだった。
「つまり私にこの劇団のメイク担当をしろってことね?」
「あぁ、そうだ。奏那、こいつのメイクの腕は俺が保証する。入団させても問題ないだろ?」
木のヘラでバニラアイスを食べながら耀亮と真琴の話を聞いていた奏那。
コイツいつもいいもん食ってるな俺にもよこせコノヤロウの表情で奏那の返答を待つ耀亮。
「真琴さんキレーですね。役者もやりませんか?」
思わず二人とも「は?」と言ってしまったのは、当たり前のことであろう。
「真琴さんはメイクさんだけにするのは勿体無い気がするんですよね。表に出れば絶対輝けるはずです」
「根拠は?」
「勘です」
思わず突っ込んでしまった耀亮だが、奏那の提案に頭ごなしに反論する気にもなれず
「まぁ、俺は何も言わん。真琴がどうしたいかだな」
と、真琴に委ねることにした。考えるのを放棄したとかではない。
この後に真琴が提案を突っぱねても奏那が無理やり役者をやらせるつもりであるならば抗議をするつもりではいるのだ。
耀亮と奏那の視線が真琴に向くと、今更照れ出した。なんだこいつ。
異様な雰囲気から真琴が出した結論は
「とりあえず保留かな。やりたいもやりたくないもないし、役者について興味を持たせてちょうだい」
というものだった。
奏那はその返答で納得したらしく、耀亮も変な揉め事が起きなきくてよかったな、と胸を撫で下ろした。
次の日から真琴は耀亮と共にジムやレッスンルームで汗を流したり、2階の空いている部屋をメイク部屋として提供してもらい内装をこだわっていた。
役者をやることは確定していないのに役者としてのレッスンを課されても真琴は疑問に思っていないようだった。
むしろ、新しい楽しみが増えたとばかりにワクワクすらしているようだった。
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大空 透はコンビニの前で自分のすっからかんの財布を眺めてため息をついていた。
透は才能のある物書きであったが、不運が重なり小説家としてデビューできないでいた。
一回目の不運は彼の書いた小説が書籍化の最終選考まで残ったが、その最終選考の担当者との面接の前日に食べた牡蠣が大当たりしてしまい、その最終選考ごと面接がお流れがなってしまったのである。
二回目は最終選考1枠のライバルが見目麗しい女性で、男性担当者にそちらを”顔採用”されてしまったのである。
ぐぅ〜、となるお腹をさすっているととある人物の顔を思い出した。
虹野奏那。大学の2個下の後輩である彼に大学時代はよく昼食を奢ってもらっていた。
母子家庭で大学まで行かせてくれた母に甘えることができず苦学生だった彼に奏那は何処までも優しかった。
ずいぶんお世話になった奏那の顔を思い浮かべながら、透はハローワークまで辿り着き、入り口の求人情報を眺めるのであった。
そこで見つけた『急募・劇団スタッフ募集』の文字。
見事なデザインなそのチラシに惹きつけられてしまった透は最後の1行まで隅々読むと、驚くべきことが書いてあった。
”虹野エンターテイメント代表 虹野奏那”
例の後輩の名前である。
透はそのチラシを握りしめ、会社の住所に向かうのだった。
「奏那!真琴!スタッフさ〜ん!!!人が!ビルの前で人が倒れてます〜!!」
お昼休憩から帰ってきた耀亮がビルの前で大騒ぎしていた。
奏那と真琴とスタッフ数名がビルから飛び出して、スタッフ数名が倒れている男性を持ち上げ1階スタッフ控え室に寝かせると、男性は生き返った。
「お、お腹すいた…」
奏那の指示でスタッフがご飯を用意すると、その男性は出されたものを平らげた。
「もしかしてトール先輩ですか?」
トールと呼ばれた男性。大空透が奏那の顔を確認すると、眼鏡を外して大号泣しながら抱きついた。
透を宥め落ち着かせると、透は大学を卒業してから今日までの話をし始めた。
小説を書くのに集中したがためにバイトをクビになることが数回あったのは自業自得であったが、全体的に同情に値するものではあった。
「それで、先輩はなぜここに?」
と、思ったことが口に出る奏那であったが、ここにいる全員がそれを気になっていたのは事実であった。
「あ、すいません。これですよこれ!」
透が取り出したのはくしゃくしゃになった劇団スタッフ募集のチラシであった。
特に透は”脚本家”の部分を指さしているようだった。
奏那は何かを思い出したかのように手を叩く。
「そういえばトール先輩はミュージカルの中でもシナリオに興味を持たれてましたね!なるほど!」
と、納得すれば、透は自分のリュックからノートパソコンを取り出し、脚本を書いて見せようとする。
しかし、パソコンの画面は真っ暗であった。
まぁ、自分がガス欠であればパソコンの方もガス欠であろうことは明白ではあった。
スタッフさんがレッスンルームの机までコードを伸ばしてくれたため、そこで透は執筆を始めた。
ものの数分で耀亮、真琴、奏那がモデルの『三匹の子豚』モチーフの作品を書き上げたのだ。
ドヤ顔で満足する透からパソコンを取り上げて耀亮、真琴、奏那が内容を確認する。
「これは、練習用台本としてなら申し分ないな」
という、耀亮の感想に真琴と奏那も同意するのであった。
「スタッフさん、これの印刷お願いします」
と、稽古モードに入った耀亮に安堵する透だったが
「スタッフさん、透先輩の分のレッスン着の用意お願いします」
と言い出した奏那の一言に驚愕するのであった。
「だって『三匹の子豚』の登場人物は4人じゃないですか。狼役、お願いしますね?」
後輩の発言に抵抗できず、連行される透であった。




