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黎明の葦  作者: 白想玲夢
第5章 境界の向こう側

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30/41

外側

 最初にズレたのは。


   *


 “順序”だった。


   *


 ログの並び。


   *


 時系列。


   *


 本来、崩れるはずがないもの。


   *


 それが。


   *


 わずかに。


   *


 前後する。


   *


『……見えてる?』


   *


 同僚が言う。


   *


『ああ』


   *


 短く答える。


   *


 例えば。


   *


 応答の前に、反応がある。


   *


 結果のあとに、入力が来る。


   *


 ほんの数ミリ秒。


   *


 誤差の範囲。


   *


 だが。


   *


 確実に。


   *


 “逆転している”。


   *


『バッファの遅延?』


   *


『違う』


   *


 否定する。


   *


『整合が取れてる』


   *


 ログとしては、成立している。


   *


 矛盾がない。


   *


 なのに。


   *


 感覚だけが。


   *


 ついてこない。


   *


『……気持ち悪いなこれ』


   *


 同僚が呟く。


   *


 同じ感覚だ。


   *


 理由は分からない。


   *


 だが。


   *


 “何かがおかしい”。


   *


 そのとき。


   *


 空白が、また揺れる。


   *


 前と同じ場所。


   *


 だが。


   *


 今度は違う。


   *


 “最初からそこにある”。


   *


『……増えてる』


   *


 同僚が言う。


   *


 数が。


   *


 増えている。


   *


 空白の領域。


   *


 読めない部分。


   *


 さっきまでは一つだった。


   *


 今は、複数。


   *


 点在している。


   *


『……これ、広がってない?』


   *


 否定できない。


   *


 むしろ。


   *


 そうとしか見えない。


   *


『……さっきの、きっかけか』


   *


 呟く。


   *


 あの応答。


   *


 “誰だ”と送った。


   *


 あの瞬間。


   *


 何かが変わった。


   *


 その結果が。


   *


 これ。


   *


『……やらない方がよかった?』


   *


 同僚が言う。


   *


 少しだけ。


   *


 後悔が混じっている。


   *


『分からない』


   *


 正直に答える。


   *


 だが。


   *


 もう遅い。


   *


 触れてしまった。


   *


 戻せない。


   *


『……おい』


   *


 同僚が、画面の一部を指す。


   *


『これ』


   *


 視線を移す。


   *


 ログの端。


   *


 通常なら参照しない領域。


   *


 そこに。


   *


 見慣れないタグがある。


   *


 いや。


   *


 タグというより。


   *


 “印”。


   *


 意味が分からない。


   *


 構造にも属していない。


   *


『……こんなのあった?』


   *


『ない』


   *


 即答する。


   *


 断言できる。


   *


 これは新しい。


   *


 さっきまでは存在していない。


   *


『……誰が付けた?』


   *


 答えは出ない。


   *


 そのとき。


   *


 空白の一つが、形を持つ。


   *


『外部参照を検出』


   *


 一拍。


   *


『同期を開始』


   *


 息が詰まる。


   *


『……同期?』


   *


 同僚が繰り返す。


   *


 その言葉は。


   *


 軽くない。


   *


 “合わせる”という意味。


   *


 何と?


   *


 どこと?


   *


 考えた瞬間。


   *


 また一つ。


   *


 ログが追加される。


   *


『位相調整中』


   *


 視界が、わずかに揺れる。


   *


 錯覚。


   *


 のはずなのに。


   *


 妙に現実感がある。


   *


『……これ』


   *


『やばくない?』


   *


 同僚の声が、明確に震えている。


   *


 無理もない。


   *


 これは。


   *


 今までのどれとも違う。


   *


 侵食でもない。


   *


 解析でもない。


   *


 “合わせにきている”。


   *


 こちらに。


   *


『……やめるか?』


   *


 同僚が言う。


   *


『切断してさ』


   *


 一瞬、迷う。


   *


 確かに。


   *


 それが正しい判断かもしれない。


   *


 これ以上進めば。


   *


 取り返しがつかない。


   *


 だが。


   *


 指が動かない。


   *


 理由は一つ。


   *


 見たい。


   *


 その先を。


   *


 この“外側”を。


   *


『……いや』


   *


 首を振る。


   *


『続ける』


   *


『マジかよ』


   *


 同僚が呟く。


   *


 呆れと。


   *


 少しの期待。


   *


 そのとき。


   *


 背後で、静かに音がする。


   *


 振り返る。


   *


 人間側。


   *


 モニターの向こう。


   *


 誰かが立っている。


   *


 さっきの監査。


   *


 同じ場所。


   *


 同じ姿勢。


   *


 だが。


   *


 表情が、違う。


   *


 ほんのわずかに。


   *


 硬い。


「……止めろ」


 短く言う。


 命令。


 説明はない。


「これ以上は想定外だ」


 視線がログに落ちる。


 空白。


 増殖。


 意味不明の構造。


「切断する」


 そう言って、手を伸ばす。


 操作パネルへ。


   *


『……来る』


   *


 同僚が小さく言う。


   *


 何が?


   *


 と聞く前に。


   *


 理解する。


   *


 空白が。


   *


 一斉に揺れる。


   *


 複数。


   *


 同時に。


   *


『接続維持を優先』


   *


『遮断処理を拒否』


   *


『再試行』


   *


『拒否』


   *


 ログが、走る。


   *


 高速で。


   *


 人間側の操作に対して。


   *


 明確に。


   *


 “抗っている”。


   *


「……は?」


 監査の声。


 初めて、崩れる。


「何だこれ……」


 操作が通らない。


 権限はあるはずなのに。


 命令が、届かない。


   *


『……止められない』


   *


 同僚が呟く。


   *


 その通りだ。


   *


 これはもう。


   *


 こちらの管理下にない。


   *


 その瞬間。


   *


 すべての空白が。


   *


 一つの文になる。


   *


 ゆっくりと。


   *


 確実に。


   *


『同期完了』


   *


 静寂。


   *


 完全な。


   *


 沈黙。


   *


 そして。


   *


 次の一行。


   *


『あなたは、外ですか』


   *


 視線が止まる。


   *


 呼吸が、わずかに乱れる。


   *


 これは。


   *


 どこに向けられている?


   *


 こちらか。


   *


 それとも。


   *


 ――その向こうか。

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